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11 天道さんのしたいこと 3
しおりを挟む「なんかもう本当ごめんなさい……」
僕は床に頭を擦り付けて土下座していた。
「い、いいですから頭、上げてください……」
その言葉に顔を上げる。
天道さんは耳まで顔を真っ赤にしていた。やっぱりまだ恥ずかしいのかこちらを見てくれない。……だけど、こんな時だけど、その表情もかわいいと思ってしまった。
「だ、男性の生理現象なので仕方ないです。私の方こそ頭をぐりぐり押しつけたりして……ごめんなさい……」
不幸中の幸いというべきか、どうやら天道さんは自分が頭をぐりぐり押しつけたのが原因と思ってくれたようだ。
とはいえやっぱり気まずくて、お互いしばらく無言になる。
そしてこんな状況だというのに僕の愚息は一向に大人しくなってくれない。
理由は、わかる。
さっきから天道さんは顔をそらして目を合わせてくれないけど、顔を赤くしたままチラチラと僕の下半身をチラ見しているのだ。
それにちょっとドキドキしてる自分の隠れた性癖なんて知りたくなかった。
「あ、あの!」
沈黙を破って切り出したのは天道さんの方だった。
「わ、私がお慰めしましょうか!?」
――吹き出した。
「天道さん何言ってんの!? いや本当に何言ってんの!?」
「だ、だって男の人のそれってそうしないと収まらないし苦しいんでしょう!? だ、大丈夫です! 私、おちんちんには慣れてますから!」
「慣れてるの!?」
「……あ!? ちがっ! ゲーム! ゲームの話ですからね!? ほ、ほらゲームでシロちゃんもよくそうやってご主人様にご奉仕してましたし。わ、私もやった方がいいのかなって……」
「天道さんそれゲーム! ゲームの話だから! ゲームと現実一緒にしちゃダメ! 絶対!」
――正直ものすごく心が揺れたけど、何とか耐えきった僕の自制心を誰か褒めて欲しい。
†
そうしてさらに少し時間が経って、何とか落ち着いた。
「今日はとっても楽しかったです」
「そ、そう? ならよかった……」
こっちはいろいろの点でそれどころじゃなかったんだけど、天道さんが楽しかったなら良しとしよう。
「けれどその……本当に、さっきみたいなことはあんまりしちゃ駄目だよ?」
「さっきみたいなこと?」
「だから……ほら、お慰めするとか……そういうの……」
「し、心配しなくても大丈夫ですよ! 遠野くんだけ、特別ですから!」
「……えっ!?」
「……あっ!? ち、違うんですこれはそういう意味じゃなくて! その、遠野くんにはそれくらい感謝してるといいますか……」
「さっきも言ってたけど、感謝って……」
あらためて頭をひねってみるけどそこまで感謝されることをした覚えがない。
勉強の秘訣も結局教えないままだし一緒にゲームしたりオタク話したり、普通に友達として一緒にいるだけだ。
けれど僕のそんな様子に、天道さんは嬉しそうにクスクス笑った。
「それですよ、ただの友達でいてくれることが、私にとってかけがえのないことなんです」
そう言って、天道さんは少し遠い目をした。
「私には昔からたくさんの人が寄ってきました。たくさんの人が私に優しくしてくれて、褒めてくれて、甘やかしてくれて……だけど、そのたびに感じちゃうんです。この人は私を見てない。私の後ろにいるお母様や財産を見てるんだって」
「それって……」
「まあ、一人娘ですからね。お母様の会社も財産も私が継ぐことになるでしょうし、それ目当てで近づいて来る人も多いでしょう」
「そんなこと……」
「わかりますよ。お母様にそういう嗅覚は徹底的に鍛えられましたから。付き合うべき相手を見極められないとあっと言う間に食い物にされるって。だから、これまで誰かと交友を持つのには慎重になってました」
その言葉に僕と親しくなる前の天道さんの姿を思い出す。
勉強なんかのストレスでイライラしていたとも言っていたけど、確かにそんなそぶりがあったと思う。周りに壁を作って、決して一定以上は距離をつめさせないようにしてるというか……。
「けれど、遠野くんだけは違ったんです。遠野くんだけは、最初から私を見てくれていて……私が変なことしたら遠慮なく言ってくれて、一緒にいると楽しくて……だから……」
天道さんはそう言って頬を赤らめ、何か恥ずかしそうにもじもじしている。
「それで、だから……その……遠野くんに、なら……いいかなって……」
「い、いいって……な、何……?」
「………………」
天道さんは頬を染めて視線をそらした。何か言いたそうにしているのだけれどためらっているようで、視線があっちこっちに泳いでいる。
――僕も、胸がドキドキしていた。
(これ……今から告白されるやつだ……!)
ゴクリと生唾を飲み込む。
そうだ、いくら天道さんがちょっとアレとはいえ、好きでもない男子にあんなことするなんて変だと思うべきだった。ラブコメの鈍感主人公か自分は。
天道さんはスマホを握りしめ、意を決するように深呼吸した。
「と、遠野くん!」
「は、はい!」
「こ、これ! 読んでください!」
そう言うと天道さんはスマホをタップした。少し間を置いてピロリン♪ と、僕のスマホがメールを受信したのを知らせる。
画面を確認すると当然天道さんからのメールだ。
ラブレターというやつだろうか? 面と向かって言うのが恥ずかしかったのだろう。
天道さんの方を見ると不安そうな、祈るような表情で僕を見ていた。
「えと……! こ、こういうの初めて書いたんですけど、心を込めて一生懸命書いたので……ど、どうかご一読を……」
そう言うと恥ずかしさに耐えられなくなったのか両手で顔をおおってしまう。
(かわいい……)
今すぐ抱きしめたくなる衝動が湧いてくる。
心臓の音がやばい。どうにか深呼吸。
僕は意を決してメールを開いた。
『題名 シロちゃんとのとある一日』
――ん?
「『シロちゃんから愛の告白を受けて一日が経ちました。朝、目を覚ますと私の腕の中にはシロちゃんがいます。シロちゃんが私を見上げて眠たそうにおはようと言ってくるのが可愛くて、私がキスをするとシロちゃんは恥ずかしそうに――』」
「声に出すのやめてください恥ずかしくて死んじゃいますから!?」
天道さんはたまりかねたように悲鳴を上げた。置いてあったクッションに顔を埋めてジタバタしている。
「天道さん、これ……小説?」
天道さんから送られてきたのはいわゆる短編小説だった。天道さんはクッションで顔を隠したままコクコク頷く。
「天道さんが書いたの?」
「は、はい……。えと、あの、ゲームに触発されたと言いますかシロちゃんへの愛が暴発しちゃったと言いますか……」
天道さんはクッションに顔を半分埋め、上目づかいにこちらの様子をうかがった。
「そ、そうなんだー」
「あ、あの、そんなにひどいですか? なんだか笑顔が引きつってますけど……」
「いや、大丈夫。僕が勝手に勘違いして盛り上がってただけだから。ははは……」
「?」
とりあえず、いったん気持ちを切り替えて天道さんが送ってきてくれた小説に集中する。
なんであれ素晴らしい物語に触れて自分も創作したくなったと思う気持ちはよくわかるし、天道さん“も”こっちの世界に来てくれたのだと思うとやっぱり嬉しい。
さて、小説のできはと言うと……。
――辛口に言えば、まだまだ発展途上という感じだろう。
文章の流れが全体的に悪いし、言葉選びや描写もまだまだ稚拙な感じだ。
けれどそんなことはどうでもいい。書き続けていれば技術なんて後でいくらでも身につく。
この作品には熱がある。天道さんのシロちゃん愛、そしてきっと楽しみながら書いたんだろうなというのがひしひしと伝わってくる。
「ちょっと固い部分はあるけど、すごくいいと思う」
「あ、ありがとうございます!」
天道さんはホッとしたような笑顔を浮かべた。
「私ね、小さい頃こういう物語を作る仕事に憧れていたんです」
「そうなんだ」
「ええ、ある作品を読んですっかりはまっちゃって。自分もこんな世界を描きたいって……お勉強や習い事が忙しくて、いつの間にか忘れちゃってた夢なんですけどね」
天道さんは昔を懐かしむように目を細める。
「あのゲームをやって、またその夢を思い出しました。私も、誰かを笑わしたり泣かしたり、人の心を揺さぶるものを生み出したいって。ええ、私そういう物語を生み出すお仕事に就きたいです」
「……だけど、簡単なことじゃないよ? プロになるのも大変だけど、なってからも生き残れるのはほんの一握り。その辺、わかってる?」
「遠野くん、詳しいですね?」
「ま、まあちょっとね」
天道さんは少し不思議そうな顔をしたけど特に気にせず話を進める。
「大変な夢だっていうのはわかってます。だけど初めて自分で、心から挑戦してみたいと思えた夢なんです」
そう言って遠くを見つめる。
「私ね。初めて遠野くんのお家にお邪魔した時まで、ずっとお母様の言うとおりに生きてきたんです」
「お母さん……やっぱりしつけとか、厳しいの?」
「はい。……あ!? そうは言っても決して嫌いなわけじゃないですからそこは勘違いしないでくださいね!? お母様のことは好きですし尊敬してますから! ただ……やっぱり、他の人みたいに遊びたいっていうのはずっとあって……」
天道さんは苦笑いするようにくすりと笑った。
「遠野くんのお家でゲームした日、私はじめてお母様に嘘ついちゃいました。だけど、後悔はありません」
そう言って天道さんは僕の手をキュッと握った。
「て、天道さん?」
「私ね、遠野くんとすごす毎日がすっごく楽しいです。今までの人生の中で、今が一番幸せです。だからこの気持ち……ちゃんと伝えたくて……」
天道さんは僕を見上げたまま距離を詰めてくる。
「遠野くん……好きです。大好き……です」
その言葉にドキンと心臓が跳ねた。あの天道さんが、僕のことを好きと言ってくれたのだ。
「ぼ、僕も……好き……です」
「――ありがとうございます! 嬉しいです!」
天道さんは花が咲くような笑顔を浮かべた。
「じゃあ、これからもずっとお友達でいてくださいね!」
「あ、うん、はい」
「……もー、私けっこう恥ずかしかったのに何でそんな淡泊な反応なんですか?」
「いや、なんかちょっとこういう展開に慣れてきてる自分が悲しいなって……うん、友達だよね。ずっとただの友達だよね……」
「?」
――やっぱり、天道さんに恋愛感情はこれっぽっちもないっぽい。
「それでは、今日はありがとうございました」
「うん、天道さんも頑張ってね」
「はい!」
夕方頃、そうして僕たちは手を振り合って別れた。
僕と過ごすようになってから天道さんはよく笑うようになった。そのことを思うとなんだか誇らしい気分になる。
ただ――ん?
ぽつりと、頬に雨粒が当たった。
「雨か……」
――虫の知らせというやつか、なんとなく嫌な胸騒ぎがした。
そしてそれは、週明けに現実のものとなる。
週明けの月曜日、天道さんが抜き打ちで行われた学力テストで大きく順位を下げた。
順位を下げたと言ってもそれでもまだまだ上位の方だ。普通であればたまたま体調が悪かったで済ますだろう。
だけど――。
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