憧れのお嬢さまがうちにエロゲーしに来てますが、あくまで僕らは友達です

子狐モフる

文字の大きさ
12 / 22

12 僕と天道さんの戦い 1

しおりを挟む


「天道さん、今日は来ないねー」

 外を見ながら、妹の二葉はそう呟いた。
 ここ最近はいつも家まで迎えに来てくれていたのに、今日は天道さんが来る気配がない。

「お兄ちゃん、けんかでもしたの?」
「そういうわけじゃないけど……」
「じゃあそんなソワソワしなくてもいいじゃない。なんか用事でもあったんでしょきっと」

 ――嫌な予感がした。いてもたってもいられなくて、早足で学校に向かった。
 そして道中、天道さんの後ろ姿を見つけた。

「天道さん!」
「……遠野くん?」

 天道さんの姿を見られてホッとした。
 だけど……振り返った天道さんの頬にはガーゼが貼られていた。

「それ……」
「ああ、大丈夫ですよ。少し腫れちゃっただけなので」
「そうじゃなくて! ……何かあったの?」
「……嘘ついてたのバレて、お母様に怒られちゃいました」

 天道さんは冗談っぽく言ったけど、それなりの時間一緒にいた僕には天道さんが辛そうにしてるのが感じ取れた。。

 厳しい人なのは知っていたけど、こんな風に娘に手を上げるなんて……!

「私が悪いんです。ずっとお母様に嘘ついて勉強もサボってたんですから」
「だけどこんな……!」
「本当に大丈夫ですから!」

 天道さんが大きな声を上げたので思わず黙ってしまった。

「……すいません」
「……うん。だけど、本当に大丈夫?」

 僕の質問にくすりと笑って「珍しいことじゃありませんから」と答えた天道さんの笑顔にズキンと胸が痛んだ。

「お母様も必死なんだと思います。私が幼い頃にお父様が亡くなって、女の身で会社を守り抜いて、私をここまで育てて……。前にも言いましたが、私はそんなお母様をかっこいいと思ってますし、尊敬してます。嫌いなお勉強を頑張るのも、そんなお母様の期待に応えたいからです。だから、これくらいへっちゃらです」

 そう言って天道さんは切なげに目を細めた。

「……遠野くんとの関係も、ほんとはちょっとだけの息抜きのつもりだったんですけどね。遠野くんと一緒にいるのが楽しくて……」
「天道さん……」
「だ、大丈夫です! 流石にしばらく遊びには行けませんけど、すぐに点数戻しますから! そしたら……ええ、そしたらまた一緒に遊びましょ?」
「……うん」

 ――たぶん、嘘は言ってないんだと思う。

 お母さんのことを尊敬しているというのも、期待に応えたいというのも本当だろう。
 ただ『大丈夫』とは言っても『平気』とは言わなかった。

 天道さんの声は本の少し震えていた。それに、僕といる時はいつも笑ってくれていたのに今は泣き出しそうな子供みたいな表情で……。

 学校に到着した。

 天道さんが顔に怪我したということで一時クラスは騒然としたけれど、天道さんは転んだだけとごまかしていた。

 きっとひっぱたいたっていうお母さんを庇ってのことだろう。
 ……嫌な予感は、終わっていない。まだ何か起きそうな胸騒ぎがした。

 そのまま放課後になった。
 ……天道さんはなんとなく、家に帰るのを怖がっているようだった。

「送っていこうか」
「え? でも……」
「いいよ。いつも迎えに来てもらってるんだし」

 そうして途中まで一緒に帰ることになった。
 いつもなら楽しそうな笑顔で僕に話しかけてくれるのに今日はほとんどしゃべらない。

 僕から話しかけても逆に天道さんに無理させてしまいそうなので、お互い無言のまま帰り道を歩いて行く。

 ……僕が天道さんのためにできること、何かないだろうか?

 ――ある。

 家は裕福じゃないし運動もいまいちで顔も普通。おまけにエロゲーオタクな僕が唯一天道さんに勝るもの。抵抗はあるけれど、それが少しでも天道さんの助けになるなら……。

 そんな時だった。

「っ!」

 天道さんが突然、何かにひるんだように立ち止まった。

「天道さん?」

 怯えた様子だった。何事かと思って、天道さんの視線の先に目をやる。

 そこには黒塗りの高級車と、その前に立つ黒い着物を着た女の人がいた。
 その人はお付きの黒服の……たぶんボディーガードか何かを従え、鷹のような目でこちらを睨んでいる。目が合っただけで身体が竦むのを感じた。

「お母……様……?」

 天道さんが掠れた声を上げる。

 ――そうだ。テレビで見たことがある。世界有数の大企業、天道グループを支える女社長。

 いくつもの修羅場をくぐってきた者の威圧感というやつだろうか? ただ睨み付けられているだけで呼吸が苦しい。

「あなたが、遠野一真さんで間違いないでしょうか?」
「は……はい」

 僕がそう答えると、天道さんのお母さんは丁寧に頭を下げた。

「お初にお目にかかります。天道ひとみと申します。すでにお察しのようですが、そちらの天道ことみの母でございます」

 天道さんのお母さん――ひとみさんはそう言うと、僕を再び睨み付ける。

「忙しい身ですので本題から入りますが、金輪際ことみには近づかないようお願いいたします。また、明日からことみは別の高校に転校させますので」


「なっ!?」
「お母様!?」

 天道さんが悲鳴のような声を上げた。

「待ってくださいお母様! 成績を落としたことであれば謝ります! あの時は体調が悪かっただけで次こそは必ず……」
「この期に及んでそんな言い訳をするのですね」

 ひとみさんは氷のように冷えた声でそう言った。
 隣にいた黒服の人とアイコンタクトを取る。すると黒服の人が車から紙袋を取り出した。

「それは……っ」

 ひとみさんは紙袋の中身を道路にぶちまけた。
 それは先日、天道さんと一緒に買った同人誌だ。

「母は失望しました。社会経験だと思って自由にさせていましたが、まさかこんな低俗なものにうつつを抜かすなんて」

 ひとみさんは同人誌を踏みつけた。……頭がカッとして思わず叫びそうになった。

「やめてください!」

 僕より先に声を上げたのは天道さんだった。見たこともない怒りの形相を浮かべ、ひとみさんを睨んでいる。

 天道さんはそのままひとみさんに詰め寄る。一触即発の雰囲気に息が詰まるのを感じた。

「お母様。まずはその足をどけてください。それは、私の大切なお友達と買ったかけがえのないものなんです!」
「だまらっしゃい!」

 ひとみさんは天道さんの頬をひっぱたいた。
 だけど天道さんは一歩も引かない。キッとひとみさんをにらみ返す。

「いいえ黙りません! お母様の命令であっても譲れません! ……何度だって言います。その足をどけてください! それは、私の大切なお友達と買ったかけがえのないものなんです!」
「……なんですかその目は」

 ひとみさんはは歯ぎしりする。

「少し前まではあんなに素直ないい子だったのに。どうやら悪い友達を持ってしまったようですね」

 ひとみさんは汚らわしい物を見るような目で一瞬こちらを見た。

「やはり自由になんてさせるんじゃありませんでした。あなたは私の言うとおりに生き、私の選んだ人と交際しなさい。それがあなたの幸せなのです」
「お母様の人生を私に押しつけないで!」

 天道さんは叫ぶように言った。

「私が人より恵まれてるのはわかっているつもりです……! けど……けどそれだけじゃずっと空っぽで……息苦しくて……。だけど遠野くんと出会って、毎日楽しくて……それでやっと本気で好きなものを……やりたいことを見つけられたんです! だから私はもう……お母様のいいなりになんてなりたくない!」

 天道さんは詰まりながら、絞り出すように叫んだ。ボロボロと涙を流してはいるけれど、一歩も退かずにひとみさんに立ち向かっている。
 ひとみさんは忌々しげにまた手を振り上げた。その時僕は――。

 ――これは、よその家庭の問題だ。

 あくまでも自分は部外者だ。ましてや相手は世界有数の大企業の女社長とその娘。自分とは住む世界が違う。

 ひとみさんの言っていることだって少々傲慢ではあるがちゃんと天道さんの将来を考えてのことなのだろうし、実際天道さんは成績を落としている。

 だから、自分はここで口出しするべきじゃない。……ついさっきまで、そんなことを考えていた。

 ――馬鹿だった。

「っ!」

 ――僕は天道さんを庇って、代わりにひっぱたかれた。

「遠野くん!?」

 ――僕は、後悔していた。

 こうやって天道さんを庇ったこと……ではなく、さっき天道さんがひっぱたかれた時に庇えなかったこと。

 天道さんは、僕を大切な友達だと言ってくれた。一緒に買った同人誌を踏みつけられて怒ってくれた。『大切な友達と買ったかけがえのないもの』と言ってくれた。

 他人なんかじゃない。僕にとっても天道さんは大切な大切な友達だ。

 ――そんな友達が泣いている。泣きながらでも必死に戦っている。

 それを黙ってみているような腰抜けになるつもりはない!
「あなたは、間違っている」

 それはありきたりな言葉だ。ひとみさんも鼻で笑った。

 ――考えろ。

「あなたでは、ことみさんを幸せにできない」
「部外者は黙っていなさい」
「部外者じゃありません。僕は、ことみさんの友達です」

 ひとみさんは忌々しげに僕を睨み付けた。
 心臓がわしづかみににされるような威圧感だった。流石は世界を舞台に戦う女社長と言うべきか、自分なんかとは格が違うと感じた。

 逃げ出したいのを堪えて、拳を握りしめて視線を受け止める。

「確かに勉強は大切だし、ことみさんも少し自重すべきだとは思います。でも人によって幸せというものはまったく違いますし、どうかことみさんを信じてあげてほしいんです」
「子供では自分の人生を判断できません。このまま間違えた道を進み、後戻りできないような状態になればどうするつもりですか。そうならないよう管理し、しつけるのが親の仕事です」
「だからと言って、今ことみさんが大切にしているものを踏みにじって泣かせるのは正しいことなんですか……!」
「ええ。娘にどう思われようと、これが親の務めであり娘の将来のためです」

 ダメだ。欠片も動じる気配がない。

 ――考えろ。考えろ。考えろ。考えろ。

 こうやって口出ししたけれど、それでもやはり自分が家庭外の人間であることは変わりない。

 そもそも、ひとみさんが強引に転校の手続きを取ったりしてしまえば僕にはもう打つ手がないんだ。

 だから、なんとしてでもここで説得しなければいけない。世界を相手に戦うこの女社長が強攻策に出るのを思いとどまらせなければいけない。

「そもそも、あなたが娘を誑かさなければこんな問題にはならなかったのですよ?」
「誑かされてなんていません! 私が自分から遠野くんに……」
「天道さん」

 天道さんを抑えつつ、その間にもひとみさんの表情を読む。
 娘の涙ながらの言葉にも微塵も揺らがない。この人はきっと情では動かない、まさに難攻不落といった感じだ。

 おそらく『ことみさんが可哀想』とか、そういった感情論では説得できない。……なら、どうする?

 ――こんな時ではあるのだけれど、僕の頭の中では今までにプレイしてきた無数のエロゲーのことが走馬灯のように次々に浮かんできていた。

『エロゲー』というといかがわしいものというイメージがあるかもしれないけれど、実際はストーリーが非常に優れているものもたくさんある。

 元々エロゲーだったのが一般化され、世界的な大ヒット作品となったものや、エロゲーのシナリオライターだった人が作った映画が記録的な興行記録を飛ばしたのは記憶に新しい。

 ――そして、過去にやったゲームの一つに、今と似たようなシチュエーションがあったことを思い出した。

 自分と行くのがヒロインのためだと強引にヒロインを連れて行こうとするライバルキャラと、それを止めようとする主人公の戦い。

 そのゲームでは、主人公は本来魔法の方が得意なのだけれど、ライバルが得意とする剣のみで戦って勝つことでライバルを納得させた。

 要するに、相手の土俵で勝つことで相手を納得させたのだ。

「あなたは、間違っている。だって……」

 もう一度さっきの言葉を繰り返す。

 ――感情論で戦ってもひとみさんは納得させられない。

 戦うなら、納得させるなら、相手の土俵でだ。

「あなたのやり方は、あまりにも勉強の効率が悪すぎる」

 その言葉で、僕は反撃の狼煙を上げた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...