憧れのお嬢さまがうちにエロゲーしに来てますが、あくまで僕らは友達です

子狐モフる

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17 僕と天道さんの××× 1

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 ――テストの答案が返された日。とある喫茶店。

 僕と天道さんは、ひとみさんに結果の報告に来ていた。

 ひとみさんはしかめっ面で、テーブルの上に広げられた答案用紙を見下ろしている。……その全てに百点マークがついていた

「あの、お母様! け、結果はご覧の通りです」
「…………」
「もちろん私にも反省すべき点は多々ありました。これからは成績を落とさないように勉強もしっかりやります。だから、どうか……」
「……………………」

 ひとみさんは反応しない。天道さんがめっちゃ不安そうな顔をしてる。
 正直言って逃げ出したいくらい空気が重い。けど……。

 ――ぎゅっと、テーブルの下ですがるように天道さんが僕の手を握ってきた。

 緊張してるのか凄く冷たいし、少し震えている。その手を優しく握り返すと震えが収まった。視界の端で天道さんの表情が少し穏やかになるのを感じる。

 ――こうやって頼ってくれるのが嬉しい。

 天道さんに僕に対する恋愛感情とかそういうのがないのは百も承知だけど、それでもこうして信頼してくれる相手になれたのは誇らしいし、勇気が湧いてくる。

「こほん。えっと、お母さん」
「あなたにお母さんと呼ばれる筋合いはありません」

 速攻で釘を刺された。じろりと僕を睨んでくる。めっちゃ怖い。
 けど、ひとみさんが一度大きなため息をつくと、その表情が少しだけ穏やかになった。

「約束は約束です。あなた達は私に挑み、見事に勝利した。多くの部下の人生を預かる者としてその事実を曲げるつもりはありません。今後私はことみの趣味や交友関係に口出しするのを控えますし、夢を追うのもいいでしょう」

 その言葉にホッと胸をなで下ろす。けれどひとみさんは「ただし」と付け加えた。

「親として、最低限の条件はつけさせてもらいます」
「条件?」

 僕たちがその言葉に戦々恐々としていると、ひとみさんはほんの少し口元を緩めた。

「別にそれほど理不尽なことを言うつもりはありませんよ。……まず、今の成績を維持すること。加えてちゃんとした大学に入ること。ここまではいいですね?」
「それは……はい」

 天道さんがうなずく。まあ、確かにこれは親としては釘を刺して当然のことだし理不尽なものでもないだろう。

「また、大学卒業までに何かしらの結果を出せなければ作家の夢は諦めること」
「……はい」

 ……これも、妥当な要求だ。
 作家というのはなりたいと思ってなれるものじゃない。必死に努力しても一生なれない人だっていくらでもいる。

 それを考えるとどこかで区切りを設けるのは必要なことだろう。天道さんも覚悟を決めるように深くうなずいた。

「そして……ここからは遠野さん。あなたに」
「え? ぼ、僕ですか?」
「娘の人生を変えたのです。当然、あなたにもそれなりの責任を取っていただきます」

 ……確かに、僕は曲がりなりにも天道さんの将来を左右するようなことをしたのだ。責任を取れと言われても仕方ないだろう。

「とはいえ、あなたにも決して悪い話ではないでしょう。……まず、あなたには高校卒業後、ことみと同じ大学に行ってもらいます。学費はこちらで払いますので金銭面での心配はいりません」
「……へ?」
「どこか志望する大学でもありましたか?」
「い、いえそうじゃなくて……天道さんと同じ大学で、しかも学費を払うって……」

 天道さんの行く大学となると……まず間違いなく超一流の大学だろう。
 そこに一緒に、しかも学費を払うなんて……いや、うちってそんなに裕福じゃないんで破格の条件なんだけど、相当な大金のはずだ。それは流石に……。

「学費のことならどうかお気になさらず。娘の将来のための投資のようなものなので」
「い、いやだけど、いくらなんでも……」
「遠野一真さん。私はあなたのことが嫌いです」

 ひとみさんはスパッとそう言い切った。

「ですが一方で、私はあなたのことを高く評価しています」
「え?」

 僕が驚くと、ひとみさんはほんの一瞬だけ口元に笑みを浮かべた。

「私個人の好き嫌いとその人物の能力評価はまったく別物です。遠野一真さん、あなたの存在は娘の幸せに対して有益なものだと、私はそう評価し直しました。あなたに娘の隣にいてもらうためならば私は出資を惜しみません」
「け、けど、だからって……」
「娘の幸せを一番に考えない親がどこにいますか」

 ひとみさんはまた、一切迷いなくそう言い切る。

「もちろんそちらにも都合があるでしょう。きちんとご家族と相談した上で返答いただければけっこうです。ただしその際、こちらの負担などは一切考慮にいれなくて構いません。娘の幸せのためならば安いものです」
「ま、前向きに検討させていただきます……」

 ――あまりのことに少し面食らったけど、かっこいいなと思った。

 合理性を追求しつつ娘の幸せが最優先。流石は世界を相手に戦ってきた女社長というか、この人もある種の『完璧』の体現者なのだろう。

「さて、最後に一番重要な条件がありますが、よろしいですか?」
「あ、はい」
「あなた達二人には、高校卒業と同時に結婚してもらいます」


 ……………………………………はい?


「え、えーと……え?」
「お、お母様? あ、あの……?」

 あまりの発言に日本語が飲み込めない。天道さんも隣で目を白黒させている。

「どの道結婚するのですから早いほうが良いでしょう。子供も早めの方がいいですね、ことみが作家の道に行った場合は跡取りの問題が発生しますし。もちろん子育てに関しては私が全力で協力を……」
「いや待ってくださいなんでそんな話になってるんですか!?」

 たまりかねて声を上げるとひとみさんの方が顔をしかめた。

「娘の純潔を散らしたのですから、そこは是が非でも責任を取っていただきませんと。……それともまさか、その覚悟も無しに娘に手を出したと?」

 一瞬向けられた殺気に悲鳴を上げそうになったけどどうにか耐える。

「そ、そもそも! 僕はことみさんに何もしてません! っていうかお付き合いすらしてません!」
「別に隠さなくてもかまいません。年頃の男女が何日も同じ部屋に寝泊まりして、しかもあのようないかがわしい作品を二人でやっていて何もないわけがないでしょう」
「け、けど実際何もありませんでしたから! ああいうゲームをやっていたのは……その……ことみさんがエロゲーのキャラに一目惚れしまして……」
「嘘をつくにしてももう少しまともな嘘をついてください。どこの世界にああいういかがわしい作品の登場人物に一目惚れしてのこのこ異性の家まで行ってあのようなゲームに二人で興じる女子高生がいるのですか。普通に考えてありえません」

 ――あなたの娘さん、あんまり普通じゃないです。

 助けを求めて天道さんを見たけど目をそらされた。

「……この機会に弁解しておきますが、あなたと初対面の時に私が辛辣な態度を取っていたのはそのことがあったからです。大切に育ててきた愛娘がどこの馬の骨とも知らない男に手を出されていたと知ったときの私の胸中、お察しください」

 そうしているとピロリン、と音が聞こえた。携帯のメール受信音だろうか? ひとみさんはポケットから携帯を取り出して画面を見ると苦い顔をする。

「失礼、急用が入りました。ここで失礼させてもらいます」
「あ!? ちょっ、まだ話が……」
「申し訳ありませんが忙しい身なので、失礼します」

 そうしてひとみさんは店を出て行く――直前、ポンと天道さんの肩に手を置いた。

「お膳立てはしました。あなたも天道家の女なら、欲しいものは是が非でも手に入れなさい」
「え? お母様、それはどういう……」
「……まさか本当に無自覚だったのですか? まったく、確かに過保護なのも考え物かもしれませんね」

 ひとみさんは呆れたようにそう言うとそのまま店を出て行ってしまった。

「最後の、どういう意味?」
「さあ……? お母様って時々よくわからないことを言うので……」

 天道さんも不思議そうな顔をしている。けどすぐにくすりと笑って、柔らかな笑顔を僕に向けた。

「けれど何はともあれ、お母様のお許しも出ましたし、これからもずっと一緒ですね♪」

 無邪気にそんなことを言ってくる。

 ……心から喜んでくれてるのが伝わってきて僕も嬉しいんだけど、そういうのが男心をドキドキさせるものだということにいい加減気づいて欲しい。

 どうも天道さんは経験不足というか天然の魔性の女というか、そういうのがよくわかっていないのだ。

「け、けどお母さんには僕達のこと、ちゃんと説明しといてよ? このままだと本当に結婚させられちゃうよ?」

 ――僕としてはむしろ大歓迎だけど……なんてことは流石に言えない。
 天道さんはクスクス笑った。

「そうですねー。遠野くんのこと大好きですけど、流石に結婚なんて……」

 天道さんは少し視線を上げて、何かを想像するようなそぶりをした。

 ――と。

「あ、あれ……?」

 天道さんが戸惑ったような声を上げた。目が泳いで、ほんのり頬が赤くなっている。

「……天道さん?」
「……え? ま、待って? あれ? う、うそ……」

 僕の声が聞こえていないのか、天道さんは何かブツブツ言いつつ考え込んでしまった。何故か顔が真っ赤になっていてオロオロしている。

「……くんと……結婚……いちゃいちゃ……新婚生活……シロちゃんみたいに甘えたり……それから……あ、あれ? なんで私こんなドキドキして……」
「天道さんどうしたの? 天道さーん?」
「ふひゃいっ!?」

 声をかけると、天道さんは変な声を上げて僕を見た。顔は耳まで真っ赤になっていて視線がウロウロしている。「あう……あう……」と言葉になってない声を上げながら何やらオロオロしている。

「て、天道さんどうしたの? 大丈夫?」
「は……はい! だ、大丈夫でひゅっ!?」

 ……思い切り噛んだな。

「ホントに大丈夫? もしかして風邪がぶり返してきたとか?」
「ふみゃあっ!?」

 ……熱を計ろうとおでこに手を当てたらめっちゃ逃げられた。

「…………天道さん?」
「あ、あの! 違くて! だって今までそんな風に考えてみたことなくて! えと、あの、きゅ……急用ができたので失礼します!」
「ちょっ!? 天道さん!? 天道さーん!?」

 天道さんはそのまま、逃げるように店を出て行ってしまった。



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