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51/心の隙間
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「何か困ってるように見えたからさあ、王子様が助けてやった、みたいな?」
「……ありがとう」
「やけに素直だな? つーか、痩せた? 顔色も悪いし」
エレベーターが混んでいたので、仕方なく中央階段を並んで降りて行く。核村と二人きりで並んで歩くなんて新人研修ぶりかもしれない。
「……顔色、悪いかな」
「血色が悪いっつーか。なんだろな、疲れてる?」
「さっき、ちょっと疲れたかな……」
「あー、あの子?」
榎木さんのことを思い出すだけで寒気がする。恥ずかしげもなく社内であんなことを聞いてくるだなんて。
「何なのさっきの子? どんな会話したら口内射精なんてワードが飛び出すんだよ?」
「ん……ちょっとね」
「経験アリアリって顔だな」
「……別に、そんな」
「羨ましいなあ、真戸乃の口に出せるなんて」
どうして核村なんかとこんな会話をしなければならないのだろう、不愉快極まりない。顔に出ているとは思うのだけれど、如何せん少しばかり早足になったわたしの表情を彼は見ることができない。
「真戸乃の彼氏、羨ましいなあ~」
「いい加減止めてよ。セクハラじゃん」
「社内で射精って言ったらセクハラか?」
「いい気はしないわよ……」
「ふうん。っ! ……うわっ! なんだよ!」
「きゃっ!」
階段の踊り場の窓がこんな時間だというのに珍しく解放されていた。強い風が舞い上がり、わたしのスカートの裾を拐う。太股を晒し、慌てて手前を抑えるが不思議とお尻がスースーするのだ。
「うっわぁ……! こんなエロいパンツ初めて見た……」
「は……ちょ、馬鹿! なにやってんの!?」
風で拐われたスカートの裾をちょん、と摘み上げ、大胆にもわたしの下着を観察する核村。呆気に取られ開いた口が塞がらない。
「何これ何これ?! 全部レースなん? スケスケじゃん! 前とかどーなってんの? しかもこれで紐パンってやべえ!」
「いつまで見てるのよ馬鹿! 手、離してよ!」
黒のショーツはクロッチ部分以外は総レースの凝ったデザインのものだった。紐はフェイクなので解けたところでショーツが下がる心配はないのだけれど、見た目にはかなりセクシーな下着だとは思う。おまけにブラジャーも同じようなデザインであるし。
「やべ、ちょっと俺……」
「は? なに?」
「この距離でパンツは流石にやべえよ。もっと見せてくれる?」
「は?」
スカートの裾を持ったままの核村は、その手を全く離す様子がない。屈み込み「うむ」と唸るので、上半身を捻り頭頂部に拳骨を振り下ろしてやった。
「あんたがここまでクズだとは思わなかった」
「いってぇ……なんだよ、思ったより元気じゃねえか」
「……まさか、元気付けようとしてこれなの?」
「そのまさか」
「はぁ……」
スカートが開放されるのでその場に座り込んでしまう。呆れて言葉が全く出てこなかった。
「悪ぃ、他に思い付かなくて」
「気持ちはありがたいけど、方法を考えなさいよね」
「どこ行くんだよ」
「帰るのよ」
腹立たしくて仕方がないけれど、核村の気持ちを少しは汲まなければ悪い気もした。もっと文句を言ってやりたい気持ちを堪え、階段を駆け下りて行く。
「待てよ!」
「なに、離して」
肩を掴まれ、不意に髪に触れられた。彼氏以外の男性に髪に触られるのは想像よりずっと不快だった。
「髪、伸びたよな」
「だからなに?」
「長いのも可愛いなって」
こいつは、本当にどうしようもない男だ。恋人同士でもないし、核村はわたしに彼氏がいると思い込んだままだ。それなのにどうしてこうも口説くような台詞がすらすらと出てくるのだろう。核村が彼氏だったら大切にしてくれるかも、だなんて一瞬考えたけれどやはり完全にそれは無しだ。デリカシーが無さすぎて、あっという間に関係が破綻しそうだ。
「俺、見かけによらず優しいし、好きな子には相当尽くすんだよね。おまけに今フリー」
「だからって人の下着観察するような男は願い下げよ」
階段を途中で抜け、エレベーターまで駆ける。「すみません」と頭を下げながらエレベーターホールで待機していた数人の間に紛れ込み、核村が寄ってこないよう自衛をした。到着したエレベーターはやはり混んでいたが、これ以上核村と一緒にいるよりはマシだった。
扉が閉まり、遠くで立ち尽くす核村の姿が視界から消える。彼のことは後日また瑞河さんに相談するのが懸命だろう。あり得ないとは思うけれど、核村なんかに──とうやとのあれこれで弱った心に付け入られるのが怖かったのだ。
「……ありがとう」
「やけに素直だな? つーか、痩せた? 顔色も悪いし」
エレベーターが混んでいたので、仕方なく中央階段を並んで降りて行く。核村と二人きりで並んで歩くなんて新人研修ぶりかもしれない。
「……顔色、悪いかな」
「血色が悪いっつーか。なんだろな、疲れてる?」
「さっき、ちょっと疲れたかな……」
「あー、あの子?」
榎木さんのことを思い出すだけで寒気がする。恥ずかしげもなく社内であんなことを聞いてくるだなんて。
「何なのさっきの子? どんな会話したら口内射精なんてワードが飛び出すんだよ?」
「ん……ちょっとね」
「経験アリアリって顔だな」
「……別に、そんな」
「羨ましいなあ、真戸乃の口に出せるなんて」
どうして核村なんかとこんな会話をしなければならないのだろう、不愉快極まりない。顔に出ているとは思うのだけれど、如何せん少しばかり早足になったわたしの表情を彼は見ることができない。
「真戸乃の彼氏、羨ましいなあ~」
「いい加減止めてよ。セクハラじゃん」
「社内で射精って言ったらセクハラか?」
「いい気はしないわよ……」
「ふうん。っ! ……うわっ! なんだよ!」
「きゃっ!」
階段の踊り場の窓がこんな時間だというのに珍しく解放されていた。強い風が舞い上がり、わたしのスカートの裾を拐う。太股を晒し、慌てて手前を抑えるが不思議とお尻がスースーするのだ。
「うっわぁ……! こんなエロいパンツ初めて見た……」
「は……ちょ、馬鹿! なにやってんの!?」
風で拐われたスカートの裾をちょん、と摘み上げ、大胆にもわたしの下着を観察する核村。呆気に取られ開いた口が塞がらない。
「何これ何これ?! 全部レースなん? スケスケじゃん! 前とかどーなってんの? しかもこれで紐パンってやべえ!」
「いつまで見てるのよ馬鹿! 手、離してよ!」
黒のショーツはクロッチ部分以外は総レースの凝ったデザインのものだった。紐はフェイクなので解けたところでショーツが下がる心配はないのだけれど、見た目にはかなりセクシーな下着だとは思う。おまけにブラジャーも同じようなデザインであるし。
「やべ、ちょっと俺……」
「は? なに?」
「この距離でパンツは流石にやべえよ。もっと見せてくれる?」
「は?」
スカートの裾を持ったままの核村は、その手を全く離す様子がない。屈み込み「うむ」と唸るので、上半身を捻り頭頂部に拳骨を振り下ろしてやった。
「あんたがここまでクズだとは思わなかった」
「いってぇ……なんだよ、思ったより元気じゃねえか」
「……まさか、元気付けようとしてこれなの?」
「そのまさか」
「はぁ……」
スカートが開放されるのでその場に座り込んでしまう。呆れて言葉が全く出てこなかった。
「悪ぃ、他に思い付かなくて」
「気持ちはありがたいけど、方法を考えなさいよね」
「どこ行くんだよ」
「帰るのよ」
腹立たしくて仕方がないけれど、核村の気持ちを少しは汲まなければ悪い気もした。もっと文句を言ってやりたい気持ちを堪え、階段を駆け下りて行く。
「待てよ!」
「なに、離して」
肩を掴まれ、不意に髪に触れられた。彼氏以外の男性に髪に触られるのは想像よりずっと不快だった。
「髪、伸びたよな」
「だからなに?」
「長いのも可愛いなって」
こいつは、本当にどうしようもない男だ。恋人同士でもないし、核村はわたしに彼氏がいると思い込んだままだ。それなのにどうしてこうも口説くような台詞がすらすらと出てくるのだろう。核村が彼氏だったら大切にしてくれるかも、だなんて一瞬考えたけれどやはり完全にそれは無しだ。デリカシーが無さすぎて、あっという間に関係が破綻しそうだ。
「俺、見かけによらず優しいし、好きな子には相当尽くすんだよね。おまけに今フリー」
「だからって人の下着観察するような男は願い下げよ」
階段を途中で抜け、エレベーターまで駆ける。「すみません」と頭を下げながらエレベーターホールで待機していた数人の間に紛れ込み、核村が寄ってこないよう自衛をした。到着したエレベーターはやはり混んでいたが、これ以上核村と一緒にいるよりはマシだった。
扉が閉まり、遠くで立ち尽くす核村の姿が視界から消える。彼のことは後日また瑞河さんに相談するのが懸命だろう。あり得ないとは思うけれど、核村なんかに──とうやとのあれこれで弱った心に付け入られるのが怖かったのだ。
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