愛 need you ーあなたに愛されなければ呼吸すらできないー

橋本しら子

文字の大きさ
17 / 41

16

しおりを挟む
「そういうことは気にしなくていいよ。俺が勝手にキミをここへ連れて来たんだから」
「でも……」
「キミは想像以上に真面目なんだね」

 一般的な人であれば、多少後ろめたい気持ちがあったとしても、それ以上に得をした気分になるのだと思う。
 律は元来の生真面目さから、中々そう割り切ることができずにいた。
 そんな律を、紫藤は珍しいものでも見るような目で見ている。

「でも、キミのその身体じゃアルバイトなんてできないんじゃないかい?」
「そ、れは……そうなんですけど」

 いつ発情期を引き起こすかわからない、不安定なオメガの身体。紫藤の言う通り、理解のある職場でなければ真っ当に働くことすら難しいかもしれない。
 紫藤の的を得た指摘に、律はぐうの音も出なくなってしまう。

「それでもまだ納得してないっていう顔だね」
「できるわけ、ないじゃないですか」

 どうすれば良いのか、ああでもないこうでもないと思考をフル回転させる。恐らく顔に出ていたのだろう、またしても紫藤に笑われてしまった。

「そんなに気にするなら……この家の家事でもしてくれたらそれで良いよ」

 いつものように揶揄ったりするような笑みではなく、珍しくふわっとした笑みを浮かべた紫藤。
 たった一瞬ではあったが、それはしっかりと律の目に焼きついた。

(そんな笑い方もできるんじゃないか)

「どうかしたかい?」
「いえ、別に……」
「そうかい? じゃあ――」

 淡々と話を進めていく紫藤。光熱費や家賃などの金銭の件は、律がこの家の家事を引き受けることで丸め込まれてしまった。

「他に気になることはあるかい?」
「そうですね……」

 気になること、と改めて聞かれると、紫藤に聞いてみたいことは多々思い浮かんではくる。
 なぜ大学の医務員なんてやっているのか? 兄弟はいるんだろうか? どうしてオメガが嫌いなのか?
 それでも、今本当に聞きたいのはそれらではない。寧ろ、これは病院で黒川から言われたことを聞くチャンスじゃないか。

「今までお話する機会もなかったので、正直聞いてみたいことはあります」
「いいよ。キミが聞きたいこと答えられる範囲で答えてあげるよ」

 再びイスに座り直した紫藤は、机に頬杖を付きながら律を見ている。
 その表情は変わらず笑みを湛えていた。このやりとりも、恐らく紫藤の気まぐれなのかもしれない。

「……えっと、じゃあ……」
「ん?」

 口にするのは簡単なことなのに、ここに置く理由を尋ねたときより緊張するのはなぜなのだろう。彼の気まぐれに乗じて、流れのままに聞いてしまえれば楽なのに。
 オメガを好いていない人間に聞いても、返ってくる答えてなんて火を見るよりも明らかだ。それでも、紫藤がどう思っているのか知りたいと思ってしまうのは、どこかに期待をしているからなのだろうか?

「あの、紫藤さんは……運命の番って、どう思いますか?」
「運命の、番ね」

 律の質問に対し、紫藤は不快になるわけでもなく、ただ少し考えた後に口を開く。

「所詮は都市伝説レベルの話だろう」

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

番に囲われ逃げられない

ネコフク
BL
高校の入学と同時に入寮した部屋へ一歩踏み出したら目の前に笑顔の綺麗な同室人がいてあれよあれよという間にベッドへ押し倒され即挿入!俺Ωなのに同室人で学校の理事長の息子である颯人と一緒にα寮で生活する事に。「ヒートが来たら噛むから」と宣言され有言実行され番に。そんなヤベェ奴に捕まったΩとヤベェαのちょっとしたお話。 結局現状を受け入れている受けとどこまでも囲い込もうとする攻めです。オメガバース。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

αが離してくれない

雪兎
BL
運命の番じゃないのに、αの彼は僕を離さない――。 Ωとして生まれた僕は、発情期を抑える薬を使いながら、普通の生活を目指していた。 でもある日、隣の席の無口なαが、僕の香りに気づいてしまって……。 これは、番じゃないふたりの、近すぎる距離で始まる、運命から少しはずれた恋の話。

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

Ωの不幸は蜜の味

grotta
BL
俺はΩだけどαとつがいになることが出来ない。うなじに火傷を負ってフェロモン受容機能が損なわれたから噛まれてもつがいになれないのだ――。 Ωの川西望はこれまで不幸な恋ばかりしてきた。 そんな自分でも良いと言ってくれた相手と結婚することになるも、直前で婚約は破棄される。 何もかも諦めかけた時、望に同居を持ちかけてきたのはマンションのオーナーである北条雪哉だった。 6千文字程度のショートショート。 思いついてダダっと書いたので設定ゆるいです。

処理中です...