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「そういうことは気にしなくていいよ。俺が勝手にキミをここへ連れて来たんだから」
「でも……」
「キミは想像以上に真面目なんだね」
一般的な人であれば、多少後ろめたい気持ちがあったとしても、それ以上に得をした気分になるのだと思う。
律は元来の生真面目さから、中々そう割り切ることができずにいた。
そんな律を、紫藤は珍しいものでも見るような目で見ている。
「でも、キミのその身体じゃアルバイトなんてできないんじゃないかい?」
「そ、れは……そうなんですけど」
いつ発情期を引き起こすかわからない、不安定なオメガの身体。紫藤の言う通り、理解のある職場でなければ真っ当に働くことすら難しいかもしれない。
紫藤の的を得た指摘に、律はぐうの音も出なくなってしまう。
「それでもまだ納得してないっていう顔だね」
「できるわけ、ないじゃないですか」
どうすれば良いのか、ああでもないこうでもないと思考をフル回転させる。恐らく顔に出ていたのだろう、またしても紫藤に笑われてしまった。
「そんなに気にするなら……この家の家事でもしてくれたらそれで良いよ」
いつものように揶揄ったりするような笑みではなく、珍しくふわっとした笑みを浮かべた紫藤。
たった一瞬ではあったが、それはしっかりと律の目に焼きついた。
(そんな笑い方もできるんじゃないか)
「どうかしたかい?」
「いえ、別に……」
「そうかい? じゃあ――」
淡々と話を進めていく紫藤。光熱費や家賃などの金銭の件は、律がこの家の家事を引き受けることで丸め込まれてしまった。
「他に気になることはあるかい?」
「そうですね……」
気になること、と改めて聞かれると、紫藤に聞いてみたいことは多々思い浮かんではくる。
なぜ大学の医務員なんてやっているのか? 兄弟はいるんだろうか? どうしてオメガが嫌いなのか?
それでも、今本当に聞きたいのはそれらではない。寧ろ、これは病院で黒川から言われたことを聞くチャンスじゃないか。
「今までお話する機会もなかったので、正直聞いてみたいことはあります」
「いいよ。キミが聞きたいこと答えられる範囲で答えてあげるよ」
再びイスに座り直した紫藤は、机に頬杖を付きながら律を見ている。
その表情は変わらず笑みを湛えていた。このやりとりも、恐らく紫藤の気まぐれなのかもしれない。
「……えっと、じゃあ……」
「ん?」
口にするのは簡単なことなのに、ここに置く理由を尋ねたときより緊張するのはなぜなのだろう。彼の気まぐれに乗じて、流れのままに聞いてしまえれば楽なのに。
オメガを好いていない人間に聞いても、返ってくる答えてなんて火を見るよりも明らかだ。それでも、紫藤がどう思っているのか知りたいと思ってしまうのは、どこかに期待をしているからなのだろうか?
「あの、紫藤さんは……運命の番って、どう思いますか?」
「運命の、番ね」
律の質問に対し、紫藤は不快になるわけでもなく、ただ少し考えた後に口を開く。
「所詮は都市伝説レベルの話だろう」
「でも……」
「キミは想像以上に真面目なんだね」
一般的な人であれば、多少後ろめたい気持ちがあったとしても、それ以上に得をした気分になるのだと思う。
律は元来の生真面目さから、中々そう割り切ることができずにいた。
そんな律を、紫藤は珍しいものでも見るような目で見ている。
「でも、キミのその身体じゃアルバイトなんてできないんじゃないかい?」
「そ、れは……そうなんですけど」
いつ発情期を引き起こすかわからない、不安定なオメガの身体。紫藤の言う通り、理解のある職場でなければ真っ当に働くことすら難しいかもしれない。
紫藤の的を得た指摘に、律はぐうの音も出なくなってしまう。
「それでもまだ納得してないっていう顔だね」
「できるわけ、ないじゃないですか」
どうすれば良いのか、ああでもないこうでもないと思考をフル回転させる。恐らく顔に出ていたのだろう、またしても紫藤に笑われてしまった。
「そんなに気にするなら……この家の家事でもしてくれたらそれで良いよ」
いつものように揶揄ったりするような笑みではなく、珍しくふわっとした笑みを浮かべた紫藤。
たった一瞬ではあったが、それはしっかりと律の目に焼きついた。
(そんな笑い方もできるんじゃないか)
「どうかしたかい?」
「いえ、別に……」
「そうかい? じゃあ――」
淡々と話を進めていく紫藤。光熱費や家賃などの金銭の件は、律がこの家の家事を引き受けることで丸め込まれてしまった。
「他に気になることはあるかい?」
「そうですね……」
気になること、と改めて聞かれると、紫藤に聞いてみたいことは多々思い浮かんではくる。
なぜ大学の医務員なんてやっているのか? 兄弟はいるんだろうか? どうしてオメガが嫌いなのか?
それでも、今本当に聞きたいのはそれらではない。寧ろ、これは病院で黒川から言われたことを聞くチャンスじゃないか。
「今までお話する機会もなかったので、正直聞いてみたいことはあります」
「いいよ。キミが聞きたいこと答えられる範囲で答えてあげるよ」
再びイスに座り直した紫藤は、机に頬杖を付きながら律を見ている。
その表情は変わらず笑みを湛えていた。このやりとりも、恐らく紫藤の気まぐれなのかもしれない。
「……えっと、じゃあ……」
「ん?」
口にするのは簡単なことなのに、ここに置く理由を尋ねたときより緊張するのはなぜなのだろう。彼の気まぐれに乗じて、流れのままに聞いてしまえれば楽なのに。
オメガを好いていない人間に聞いても、返ってくる答えてなんて火を見るよりも明らかだ。それでも、紫藤がどう思っているのか知りたいと思ってしまうのは、どこかに期待をしているからなのだろうか?
「あの、紫藤さんは……運命の番って、どう思いますか?」
「運命の、番ね」
律の質問に対し、紫藤は不快になるわけでもなく、ただ少し考えた後に口を開く。
「所詮は都市伝説レベルの話だろう」
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