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二章 学園生活

優雅な朝

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「起きてください。もう朝ですよ」
「……ん…………朝か」

 俺はゆっくりと右に首を傾けた。

 俺がどれだけこのようなシチュエーションに憧れたことだろうか。
 隣にいる人生の相棒とも呼べる女性に起こしてもらい、優雅な朝を迎える。
 コーヒーなんてあれば最高ではないだろうか。二人でのんびり朝食を澄まして何の騒音もない土地で自然を感じる。

 だから俺は思う。

「お前じゃないんだよなぁ…………」
「なっ! なんてこと言うんですか⁉ 我も泣くときは泣きますよ⁉」

 隣で俺の抱き枕にされていたハデスは目に涙を浮かべながら言ってくる。
 俺の最高なシチュエーションには犬が朝起こしてくれる。なんてことは絶対にないのだ。

 俺はハデスとは反対の左側を向くように寝返りをうつ。

「なら私ですかぁ?」

 すると一人の女性としっかり視線を交差させてしまった。
 俺はもう一度ゆっくりとハデスのほう寝返りをうちながら言う。

「……………………うん。やっぱりしっくりこないんだよなぁ」
「その今の間。私にも全然可能性があるってことですねぇ?」

 パジャマ姿のエルフリアが俺の背中に何か柔らかいものを押し付けながら聞いてきた。
 いつの間にいたのだろうか。まさかハデス同様一緒に寝ていたなんてことあれば死んでしまいそうになる。

「…………さ、さぁね」

 ここできっぱり断れないところが俺の弱いとことなのかもしれない。

 しかし男性なら誰でも分かるだろう。
 たとえ関わりを持って一日の女性だとしても、パジャマで息のかかる距離に美人がいたとすれば動揺しないほうがおかしいというものだ。
 ここで理性が保てた俺をほめてほしいぐらいだ。

 俺は真っ赤になっているはずの顔を見られまいとベッドから飛び起きる。


 昨日は俺が族長に仕方なくなると言った時にはもう日が暮れかけていた。
 そのため、詳細は明日にしようといって寝ることにしたのだ。

 俺とハデスが確かエルフリアの家の一階にある来客用のベッドに、エルフリアが二階にあるいつも使っているベッドで寝たはずなのだが…………

「…………エルフリア。お前わざと降りてきたな?」
「な、何のことでしょうかね? レイ様が私の寝込みを襲ったのでは?」
「そんなこと俺がすると君は思うのかね?」

 俺がベッドから立ち上がってあたりを見回すと確かに一階であった。
 そのため二階にいるはずのエルフリアがここにいることはおかしいのだ。

「そ、そんなことより朝食にしましょう! 今日は私が作りますよぉ!!」

 エルフリアは話をそらすようにキッチンへと向かっていた。
 そんな俺とエルフリアのやり取りをみてハデスは一人呟く。

「青春してますね~」

 どこか一人だけ優位に立っているようにハデスが言ったので俺は思った通りに言った。

「なんか腹立つ」
「我の扱い雑すぎません⁉」

 まるで俺の答えを想像していたかのようにハデスは即座にツッコミを入れてくる。
 こんな鋭いツッコミをする者は初めて見た。もしかしたら俺とハデスなら漫才界のトップを狙えるかもしれない。

「それにしても大ごとになりましたね…………」
「そうだよなぁ。俺のスローライフはどこにいったのやら」

 ハデスは窓の外を眺めながら言った。
 俺も同じように窓の外に視線を向ける。

 すると、何百人ものエルフがいた。

「レイ様を見たくて朝から並んでるんですよ。朝食を済ませたら顔ぐらい出してあげてくださいね」

 エルフリアは魔法で調理をしながら俺に行ってくる。
 こんな囲まれた状態で朝食をするなどハードモードすぎやしないだろうか。
 視線を感じすぎて食事どころではない気がするのだが。

 しかし、そんなこと余裕とでも言いたげなハデスはゆっくりと人間用の椅子に腰かける。

「今日の朝食で~す」
「おお! エルフリアって料理上手なのか⁉」
「ふふっ。それほどでもないですよ」

 俺も席に座って待っているとエルフリアが朝食を机に並べてくれる。
 その鼻腔をくすぐるような美味しそうな料理に俺はよだれが出そうになってしまう。
 魔族の料理と聞いていたため少し不安があったが大丈夫そうだ。人間が作る料理より断然美味しいかもしれない。

「…………あれ?」

 ハデスは急に変な声を上げて首をかしげた。

「ん? どうしたのハデス?」
「何か食べれないものでもありました?」

 俺とエルフリアがハデスに視線を同時に向ける。
 するとハデスは自分の目の前にある皿を見て聞いてきた。

「なんで我の朝食これなんですか?」
「嬉しいですか⁉ 昨日配下に買わせたきた甲斐がありました!」

 エルフリアはよかったぁと言いながらうれしそうな表情をしている。
 しかし、ハデスとはその表情とは真逆だった。

 溜めに溜めまくったハデスの感情が爆発する。

「な、なんで我の朝食だけドックフードなんですかあああああああぁぁぁぁぁ⁉」

 そんな犬の絶叫が部屋に響き渡ったのだった。
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