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二章 学園生活

最弱冒険者

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「…………落ち着いた?」
「はい。落ち着きました…………なんて言えるはずがないでしょ!」
「…………お、おぅ」

 鋭いツッコミに俺は少したじろいでしまいそうになる。
 まぁ二日前に流れ着いてきた人間がエルフの長になっていたら驚くのも無理はない。
 俺だったら気を失っていてもおかしくないだろう。

「エルフの長ってどういうことですか?」

 あくまでプライベートを厳守してくれるのが受付嬢だ。
 エリーナは先ほどに比べてとても小さな声で聞いてきた。

「族長の座をかけて決闘したんだ。エルフリアと」
「負けちゃいましてね~。なんかレイ様急にビュンって動くんですもん。必死に二年間努力して再開したときにぎゃふんと言わせてやろうと思ってたのに一瞬でやられちゃいましたよ」

 負けたはずなのにエルフリアは嬉しそうに話す。
 その答えに更にエリーナは頭を抱える。

「こんなの前代未聞ですよ…………」
「あれ? エルフリアさん?」
「…………ひゅ~ひゅ~」

 俺がじろっとエルフリアのほうを見ると、エルフリアは俺から視線をそらして出来もしない口笛をしている。
 本当に誰が問題がないから大丈夫だ、なんて言ったのだろうか。
 一日前に戻りたいものだ。

「ま、それは一応置いておきましょう。それよりお二人はこれから冒険者をするんですか?」

 まるで現実逃避をするようにエリーナは話を変える。
 
 魔族にとっての冒険者の役割は魔獣や魔物の撲滅のようだ。
 この世界では弱肉強食。生き残れる者だけが魔族に這い上がれる。
 そのため知能が低い魔物、そして本能しかない魔獣は魔族にかられるのだ。
 
 まぁ魔族が増えすぎるのを抑制しているというのもある。もちろん魔族から生まれる子供は魔族なのだから。

 そして、どうやらダンジョンは魔界にはないようだ。
 魔物は国の外で普通に繁殖しているらしい。その魔物や害悪な魔獣を倒すのが冒険者の役目というわけだ。

「いいや、冒険者登録はしておけば楽かなと思って。俺たちはこれから魔法学院に通うんだ」
「魔法学院ですか……………………最近はあまりいい噂は聞きませんね。あっ。出来ましたよ」

 エリーナは少し表情を暗くしながらも俺とエルフリアに冒険者カードを渡してくる。
 話している最中にもずっと手続きをしていたようだ。要領がよすぎないか?

 ちなみに俺の冒険者カードにはしっかり人族と刻まれていた。
 まぁ不正したところで後々面倒になるだけである。どうせ、学園内では冒険者カードを提示するつもりもないため大丈夫であろう。

 また、ステータスには勇者の加護はなくなっていた。
 ということは俺は現在勇者ではないことを示している。 
 となるとあの強大な力。それに覇気の説明がつかない。

 俺の予想の線がどんどん太くなってきている気がする。

 すると、隣にいたエルフリアがエリーナに聞く。

「噂ですか?」
「ええ。実力のカースト制度が激しくなっているらしく、生徒たちが勝手に決めたカーストがあるらしいのです」
「それの何がいけ……………………いや、なんでもないです」

 エルフリアの問いにエリーナは何か口にしようとしたが、すぐに自分で口を閉ざした。
 まぁ俺がいい影響を与えれていることを願おう。

 俺は地面に向かって愚痴を吐くように言う。

「…………人間も魔族もすることは変わらないな。カーストなんてクソみたいな制度。誰が考えたんだか」

 別に国王や魔王が必要でないと言っているわけではない。
 もちろん国民の象徴となる人は必要だと思う。
 だが、それ以下の人間がカーストを明確につけなくてもいいのでは、という話だ。

「ありがとう。エリーナ。また時間があれば寄るよ」

 外を見るともう日は完全に沈んでおり、魔石で光る街灯が目立つ程度だ。
 エルフリアも眠そうな表情をしている。そろそろ帰ったほうがいいだろう。

「えぇ。またのご利用お待ちしております」

 エリーナはにっこりと笑みを浮かべて丁寧に頭を下げた。
 俺とエルフリアも軽く頭を下げてから背を向け、冒険者ギルドをあとにした。
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