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1章 少年編
11話 Xクラス②
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「なんと! 私はフィル君の『契約者』なんです!」
リリアは誇るように胸を張って、高らかに宣言をした。
最初、僕はリリアのテイムを維持することにかなり不安を抱いていた。
身分など関係なしに、リリアもテイムされることを嫌がっているのではないかと気がかりだったのだ。
しかし、こうして目じりを下げて笑うリリアを見れば、そんな不安は一瞬で消し飛ぶ。
まぁ今、こうして直面している危険な状況には不安を隠せないが。
「ロマンチックねぇ。私もそういうのに憧れてたわぁ」
「二人は仲が良いと思ってたけどそこまでとは。最近の子は恐るべしなの」
あれ? 案外驚いてない?
「アリス先輩も憧れてたんですか!? ならフィル君に契約してもらったらどうです?」
「ふふっ、何言ってるのよ。人の男を取るほど私は性悪じゃないわ」
「私、最近それを劇で見たの。なんとか破棄みたいなやつ。スカッとしたの」
ここで僕の脳裏に一つ考えがよぎった。
彼女たちはリリアの言う契約を’婚約’と間違えているのではないだろうかと。
それもそうだ。
誰が契約者と言う単語を聞いて、一番最初にテイムが出てくるのだろうか。
一般人なら人間をテイムするなどという発想にすら至らない。
「すみません、僕とリリアはそんな関係では――」
僕は急いで二人の誤解を解こうと声を上げた。
あとで真実に気付いて最も苦しむのはリリアだ。
なら早めに教えてあげた方が良いに決まっている。
なのにリリアは頬を精いっぱい膨らませて、わざとらしく怒ったように言う。
「私の初めてだって奪ったくせに誤魔化すんですか~? フィル君だって初めてだったんでしょ?」
「わ、わぉ、見た目によらず貴方たちは大胆なのねぇ」
「おー!」
お願いしますリリアさん、これ以上話をややこしくしないでください。
僕はリリアの暴走に頭を抱えてしまう。
リリアも故意ではないのだろうが、彼女が話す度にさらに誤解を招いていた。
先ほどの彼女の爆弾発言でアリスのにやにやは止まらない。
レイラは両手で顔を隠しているものの、指の隙間からは真っ赤に染まった表情が垣間見えている。
確実に初めてのテイムを別の初めてと勘違いしているのだろう。
説明不足のリリアも悪いが、これに関しては脳内がピンク色の二人にも非はあるだろう。
アリスに関してはリリアの話について興味が尽きないようで、表情を紅潮させながらも小さな声で尋ねてみた。
「ち、ちなみに初めての時ってどんな感じなのかしら?」
「えっとですね……額が重なるので少し熱くて」
そこからはまさに地獄だった。
頬を赤らめながら色々質問するアリスとレイラ。
その話を聞いて嬉しそうに語るリリア。
双方が想像しているものは全く異なるはずなのに噛み合う会話。
説明不足から始まった勘違いは徐々にエスカレートしていった。
本当に授業中なのかと疑問に思うほど、この教室内は混沌と化していく。
そんな時だった。
「ったく、お前ら。俺はいつまでこんな茶番を見せられなきゃならないんだ?」
混沌の状態にあった空気を切り裂くように、シルヴァの気だるげな声が響く。
この場にいる全員の視線が彼に集まった。
「リリア。要するにお前はフィルにテイムされてるんだな?」
「はい! 先ほどからそう言ってるじゃないですか~!」
「「――っ!?」」」
何当たり前のこと聞いてるんですか? と首を傾げるリリア。
そんな彼女を前に先輩二人は目を大きく見開いた。
信じられないとでも言いたげな表情だ。
「こいつらは契約のことを婚約のことだと勘違いしてたんだよ」
「てっきり二人はそういう関係なのかと思ってたわ」
「仲良しそうだったし、婚約関係でもおかしくないと思ったの」
「こ、婚約って……!!」
リリアは婚約と言う単語を聞いて火照った顔を、両手で覆うように隠す。
そこで話が終わればよかった。リリアが恥ずかしがってくれるだけで終われたら。
しかしリリアはどうしても気になってしまったのか、
「じゃあさっきの初めてってどういう意味だったんですか?」
首を傾げてアリスとレイラに尋ねる。
彼女に何か思惑があるわけでも、考えがあるわけでもない。ただ分からないから聞いてみただけ。
対して、一瞬にして石のように固まってしまう先輩二人。
けれど純粋無垢なリリアの視線には耐えられなかったようで、二人は渋々口を開いた。
「だ、だからその……リリアとフィルがヤっちゃってるのかなって」
「……よ、夜の営みってやつをしてるのかと思ったの」
「~~~っ!?」
二人のたどたどしい説明を聞いてやっと勘違いを理解したのだろう。
リリアは沸騰するかのように一気に頬を紅潮させた。
彼女は俯いたままプルプルと身体を震わせる。
彼女の反応を待っていた。すると、
「そ、そんなのまだ私たちには早いですよ!」
「ぐはっ!」
リリアは顔を上げるのと同時に、隣で座っていた僕を突き飛ばした。
本来ならなんてこともない一撃だが、今、彼女はテイムされている状態。
軽く押したとしてもそれは洒落にならないほどの威力を持つ。
というかなんで僕は飛ばされたんだ?
「あっ、フィル君!? 大丈夫!?」
「だ、大丈夫」
見事に椅子から吹き飛ばされた僕のもとへ、リリアは急いで駆けつけてくれた。
リリアもここまで僕が飛ぶとは思っていなかったのか、焦りが顔に出ている。
テイムしたことで得た力を彼女自身が理解するには、まだ時間がかかるだろう。
僕が席に座り直すと、アリスが心配そうにリリアに問う。
「リリアは大丈夫なの? フィルに嫌がることを命令されてない?」
「嫌がること?」
「そうね……例えばエロいこととかかしら?」
またもや脳内ピンク色のアリスはデリカシーのない発言をぶち込んでくる。
この手の話題はリリアの拳が飛びかねない。
咄嗟に僕はリリアを警戒して防御態勢を取る。
しかし隣から飛んできたものは拳ではなく、暖かな信頼の言葉だった。
「されてませんよ。フィル君はそんなことしません」
「フィルには悪いけど、テイムなんて奴隷契約みたいなものでしょう? どうして受け入れられるの?」
「だって――私は誰よりもフィル君を信じてるから」
その後、少し恥ずかしいですね、とリリアは頬を緩めてはにかんだ。
そんな彼女の前では、二人の心配や不安も全て杞憂へと変わる。
「……そう。リリアが信頼してるなら私がどうこう言う権利はないわね」
「うん。二人なら大丈夫そうに見えるの」
リリアの気持ちが伝わったのか、二人も腑に落ちたような表情を浮かべていた。
「それにしても人間をテイム出来るなんてね。考えにすら至らなかったわ」
「そもそも実行に移そうとする人なんていないの。いたらもっと話題になってるの」
「はい、人間をテイムしているなどと広まれば色々な意見が飛び交いますし、問題にもなるかもしれません。なので僕たちとしては、このことは口外しないでもらえると助かります」
「分かったわ」
「了解なの」
僕のお願いに二人は快く頷いてくれる。
教卓で見守っているシルヴァも軽い相槌を打った。
「じゃあフィルたちにはいろいろ喋ってもらったし、今度は私たちが話そうかしら」
そう言ってアリスは席に座り直す。
その表情からは先ほどまでの笑みは消えており、重要な話をするのだとすぐに分かった。
アリスの隣に座るレイラも何か察したのか、彼女の言動をじっと見守っている。
真剣な眼差しを送るアリスは、ようやく重い口を切った。
「何故ベータがあそこまで他クラスの生徒を嫌ってるか。そしてXクラスの現状を」
リリアは誇るように胸を張って、高らかに宣言をした。
最初、僕はリリアのテイムを維持することにかなり不安を抱いていた。
身分など関係なしに、リリアもテイムされることを嫌がっているのではないかと気がかりだったのだ。
しかし、こうして目じりを下げて笑うリリアを見れば、そんな不安は一瞬で消し飛ぶ。
まぁ今、こうして直面している危険な状況には不安を隠せないが。
「ロマンチックねぇ。私もそういうのに憧れてたわぁ」
「二人は仲が良いと思ってたけどそこまでとは。最近の子は恐るべしなの」
あれ? 案外驚いてない?
「アリス先輩も憧れてたんですか!? ならフィル君に契約してもらったらどうです?」
「ふふっ、何言ってるのよ。人の男を取るほど私は性悪じゃないわ」
「私、最近それを劇で見たの。なんとか破棄みたいなやつ。スカッとしたの」
ここで僕の脳裏に一つ考えがよぎった。
彼女たちはリリアの言う契約を’婚約’と間違えているのではないだろうかと。
それもそうだ。
誰が契約者と言う単語を聞いて、一番最初にテイムが出てくるのだろうか。
一般人なら人間をテイムするなどという発想にすら至らない。
「すみません、僕とリリアはそんな関係では――」
僕は急いで二人の誤解を解こうと声を上げた。
あとで真実に気付いて最も苦しむのはリリアだ。
なら早めに教えてあげた方が良いに決まっている。
なのにリリアは頬を精いっぱい膨らませて、わざとらしく怒ったように言う。
「私の初めてだって奪ったくせに誤魔化すんですか~? フィル君だって初めてだったんでしょ?」
「わ、わぉ、見た目によらず貴方たちは大胆なのねぇ」
「おー!」
お願いしますリリアさん、これ以上話をややこしくしないでください。
僕はリリアの暴走に頭を抱えてしまう。
リリアも故意ではないのだろうが、彼女が話す度にさらに誤解を招いていた。
先ほどの彼女の爆弾発言でアリスのにやにやは止まらない。
レイラは両手で顔を隠しているものの、指の隙間からは真っ赤に染まった表情が垣間見えている。
確実に初めてのテイムを別の初めてと勘違いしているのだろう。
説明不足のリリアも悪いが、これに関しては脳内がピンク色の二人にも非はあるだろう。
アリスに関してはリリアの話について興味が尽きないようで、表情を紅潮させながらも小さな声で尋ねてみた。
「ち、ちなみに初めての時ってどんな感じなのかしら?」
「えっとですね……額が重なるので少し熱くて」
そこからはまさに地獄だった。
頬を赤らめながら色々質問するアリスとレイラ。
その話を聞いて嬉しそうに語るリリア。
双方が想像しているものは全く異なるはずなのに噛み合う会話。
説明不足から始まった勘違いは徐々にエスカレートしていった。
本当に授業中なのかと疑問に思うほど、この教室内は混沌と化していく。
そんな時だった。
「ったく、お前ら。俺はいつまでこんな茶番を見せられなきゃならないんだ?」
混沌の状態にあった空気を切り裂くように、シルヴァの気だるげな声が響く。
この場にいる全員の視線が彼に集まった。
「リリア。要するにお前はフィルにテイムされてるんだな?」
「はい! 先ほどからそう言ってるじゃないですか~!」
「「――っ!?」」」
何当たり前のこと聞いてるんですか? と首を傾げるリリア。
そんな彼女を前に先輩二人は目を大きく見開いた。
信じられないとでも言いたげな表情だ。
「こいつらは契約のことを婚約のことだと勘違いしてたんだよ」
「てっきり二人はそういう関係なのかと思ってたわ」
「仲良しそうだったし、婚約関係でもおかしくないと思ったの」
「こ、婚約って……!!」
リリアは婚約と言う単語を聞いて火照った顔を、両手で覆うように隠す。
そこで話が終わればよかった。リリアが恥ずかしがってくれるだけで終われたら。
しかしリリアはどうしても気になってしまったのか、
「じゃあさっきの初めてってどういう意味だったんですか?」
首を傾げてアリスとレイラに尋ねる。
彼女に何か思惑があるわけでも、考えがあるわけでもない。ただ分からないから聞いてみただけ。
対して、一瞬にして石のように固まってしまう先輩二人。
けれど純粋無垢なリリアの視線には耐えられなかったようで、二人は渋々口を開いた。
「だ、だからその……リリアとフィルがヤっちゃってるのかなって」
「……よ、夜の営みってやつをしてるのかと思ったの」
「~~~っ!?」
二人のたどたどしい説明を聞いてやっと勘違いを理解したのだろう。
リリアは沸騰するかのように一気に頬を紅潮させた。
彼女は俯いたままプルプルと身体を震わせる。
彼女の反応を待っていた。すると、
「そ、そんなのまだ私たちには早いですよ!」
「ぐはっ!」
リリアは顔を上げるのと同時に、隣で座っていた僕を突き飛ばした。
本来ならなんてこともない一撃だが、今、彼女はテイムされている状態。
軽く押したとしてもそれは洒落にならないほどの威力を持つ。
というかなんで僕は飛ばされたんだ?
「あっ、フィル君!? 大丈夫!?」
「だ、大丈夫」
見事に椅子から吹き飛ばされた僕のもとへ、リリアは急いで駆けつけてくれた。
リリアもここまで僕が飛ぶとは思っていなかったのか、焦りが顔に出ている。
テイムしたことで得た力を彼女自身が理解するには、まだ時間がかかるだろう。
僕が席に座り直すと、アリスが心配そうにリリアに問う。
「リリアは大丈夫なの? フィルに嫌がることを命令されてない?」
「嫌がること?」
「そうね……例えばエロいこととかかしら?」
またもや脳内ピンク色のアリスはデリカシーのない発言をぶち込んでくる。
この手の話題はリリアの拳が飛びかねない。
咄嗟に僕はリリアを警戒して防御態勢を取る。
しかし隣から飛んできたものは拳ではなく、暖かな信頼の言葉だった。
「されてませんよ。フィル君はそんなことしません」
「フィルには悪いけど、テイムなんて奴隷契約みたいなものでしょう? どうして受け入れられるの?」
「だって――私は誰よりもフィル君を信じてるから」
その後、少し恥ずかしいですね、とリリアは頬を緩めてはにかんだ。
そんな彼女の前では、二人の心配や不安も全て杞憂へと変わる。
「……そう。リリアが信頼してるなら私がどうこう言う権利はないわね」
「うん。二人なら大丈夫そうに見えるの」
リリアの気持ちが伝わったのか、二人も腑に落ちたような表情を浮かべていた。
「それにしても人間をテイム出来るなんてね。考えにすら至らなかったわ」
「そもそも実行に移そうとする人なんていないの。いたらもっと話題になってるの」
「はい、人間をテイムしているなどと広まれば色々な意見が飛び交いますし、問題にもなるかもしれません。なので僕たちとしては、このことは口外しないでもらえると助かります」
「分かったわ」
「了解なの」
僕のお願いに二人は快く頷いてくれる。
教卓で見守っているシルヴァも軽い相槌を打った。
「じゃあフィルたちにはいろいろ喋ってもらったし、今度は私たちが話そうかしら」
そう言ってアリスは席に座り直す。
その表情からは先ほどまでの笑みは消えており、重要な話をするのだとすぐに分かった。
アリスの隣に座るレイラも何か察したのか、彼女の言動をじっと見守っている。
真剣な眼差しを送るアリスは、ようやく重い口を切った。
「何故ベータがあそこまで他クラスの生徒を嫌ってるか。そしてXクラスの現状を」
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