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一人目 つよつよ幼馴染

本物になる

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「【テレポート】!」

 キールは私と部屋を出た後すぐに転移魔法を行使した。
 詠唱は何処に行ったのだろうか。まさか詠唱なしで魔法が使えるなんて言わないことを願おう。
 キールの魔法が完了した瞬間、私の視界は真っ暗に染められた。




 視界が取り戻された時にはまた先程の花畑に戻っていた。

「ど、どうしたの? そこまで焦っちゃったりして」

 私は心配そうにキールに聞く。
 いつも冷静沈着のキールがここまで動揺していた姿なんて見たことがなかった。

「それは僕のセリフですよ! なんで十キロ以上離れた距離を一瞬で移動できるんですか!?」

 キールは理解できないと言うように私に聞いてくる。
 まぁそれは私がキールと同じ立場なら思うことだ。

「私ね…………冒険者なの」
「…………は? な、何言ってるんですか?」

 だから私は正直に言うことにした。
 できるだけ、隠し事は止めよう。

 もっと仲を深めたい。だけど自分は隠し事をする。
 それこそ傲慢であり、怠惰ではないだろうか。

「ぼ、冒険者ってなんの冗談ですか? あ、あんな危険なことエリス様がしてると言うんですか?」

 キールは嘘だと言ってくれ。とでも言いたげな表情で聞いてくる。
 私も嘘であって欲しい。
 一人のか弱い公爵令嬢が湖や屋根上を疾走するなんて。

「【殺戮の鉄鍋デスフライパン】!」

 私はスキルを行使して右手に漆黒の鉄鍋を出現させた。
 その様子にキールは目を見開く。

「先ほどの鉄鍋? ってどこから出したんですか!?」
「私のはスキルだけれど、それはキールも同じでしょ? さっきの【インベントリ】? あれって魔法なの?」
「は、はい。空間魔法系統の究極魔法です」
 
 私の問いにキールは渋々頷いた。

 どうやらキールは空間魔導士のようだ。
 先ほどの転移といい、インベントリといい、それも国家権力レベルの。
 キールは魔法操作は得意の方だと聞いていた。
 しかし、それも所詮力を抜いていたのだろう。

「それよりエリス様が冒険者ってどういうことですか?」
「…………なら戦わない?」

 説明より見せた方が早くね? みたいな考えを持つ私はついそんな言葉を口にしていた。
 当たり前であるが、そんな提案にキールは口を大きく開けて立ち尽くしている。

「…………え? い、意味が分からないんですけど?」
「そのままの意味よ。私とキールで戦うの。そしたら私が冒険者って分かるでしょう?」
「い、いやいや! 公爵令嬢であるエリス様が戦うなど…………そもそも僕がエリス様に刃を向けるなんてこと――」
「やるって言ったらやるの! 私が勝ったら全て本当のこと話してもらうから!」

 私は【殺戮の鉄鍋デスフライパン】を両手で中段に構える。
 まるで剣術のような構え方にキールは吹き出した。

「あっはっは! 流石に冗談が過ぎま――」
「…………私が負けたらキールと付き合うわ」

 私はキールの笑いを遮り、にんまりと笑って言った。
 すると先ほどまで盛大に笑っていたはずのキールの表情は一瞬で真剣になる。
 そして、キールは今までになく真剣な表情で聞いてくる。

「それ…………本気で言ってます? 僕が空間魔導士と知ってですか?」
「ええ。私が負けた何でもキールの言うことを聞くわ」

 私は余裕の笑みを浮かべた。

 今までの私なら何を言っているんだという話になる。
 所詮、私は冒険者だとしてもキールは魔術師の極みともいえる立場にいるはずなのだから。
 それこそ、この国で一番魔法が使えるなんてこともあるかもしれない。

 だが、今の私には勝てる自信があった。
 何故なら、私はかの最強冒険者と謳われるアレン・グラトニーからお墨付きをもらっている。
 そして、私はあの人アレンの隣に立たなければならないのだから。

「分かりました。その提案お受けしましょう」

 キールも私と同様、余裕の笑みを浮かべている。

 まぁぬくぬくと貴族社会で育ってきた私が図りきれない苦労してきたキールに勝てるはずがない。そうキールは思っているはずだ。
 だが、違う。キールには及ばないかもしれないが私だって死の感触も何度も味わった。

「では、始めましょうか。僕も鬼ではありません。一撃、、で終わらせます」

 キールは【インベントリ】から一本の長剣を取り出した。
 その剣は刃がついていない。どうやら摸造刀のようだ。

 キールも流石に刃がついているのは危ないと思ったのだろう。
 私の【殺戮の鉄鍋デスフライパン】にも刃はついていないのでお互い様でいいよね?

「「…………」」

 私とキールは少し距離を開けて互いに視線を交差させる。
 そして、私は片手に持っていた石を上に高く放り投げた。

 それはゆっくりと最高打点に到達すると、加速して落ちていき…………

 ボトッ!

 私とキールはそれを合図に戦闘を開始した。
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