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二三話 災難続きの初日

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「では、アレン様。またいつか」

 軽く頭を下げたラークは紫電鳥の群れと共にこの訓練場から去っていた。
 そして、後ろを振り返ると元の姿に戻っていたグレーとサテラ、ミーナが怯えるように俺を見ている。

「私…………人より何千倍も才能あったから自惚れてたかも」
「俺もだ。化け物の上にも化け物っているんだ」
「やっぱり…………私は最初から規格外なのが来たって気づいてたの」

 少し何かこそばゆい気持ちになる。
 そんなことを考えていると、

「…………何事だ!」

 大声を上げながら俺たちの前に大柄な男が転移してきた。
 特徴的な金髪に少し強面でこの身長。
 一度だけしか会ったことはないが記憶に残っている。
 この男は魔王城の護衛長。『カルロス・サーデン』だ。

 ちなみに俺が人間であるということを知っているが、人間だからといって態度を変えない、まぁ魔王の息子というのもあるかもしれないが俺を魔族として認識してくれている方だ。

 カルロスは転移した後、俺に気づかず、先輩たちの方を確認した。
 そして顔を押さえながらため息を漏らす。

「はぁ。またお前らか。何度魔力を押さえろと言ったら分かるんだ。しかも今日は今までで一番危なかったぞ」

 どうも、カルロスと先輩たちは顔見知りのようだ。
 カルロスはそう怒り交じりに言い捨てた。
 グレーたちは頭をかきながら弁解する。

「今回はマジで俺じゃないっす」
「私があれほどの魔力を出す馬鹿だとでも?」
「私は一度、注意されれば二度としないの」

 しかし、カルロスはその言葉に聞く耳を一切持たない。

「お前らの言い訳は聞き飽きた。正直なことを言ったらげんこつ百発で済ませやろう」
「百発とか普通に多いわ!」」

 ボケだと思ったのだろう。
 グレーが笑いながらカルロスにツッコミをいれたが、カルロスの方は不機嫌そうな表情を浮かべ、口を開ける。

「私は本気で言ったつもりなのだが? それと今の発言。大人をなめているな? 普通ならげんこつ千発でもおかしくない状況だが、私はとても優しい。九九九発にしておいてやろう」

「「「…………」」」

 先輩たちは俺のあの状況を見た時よりも怯えながら後ろに後ずさっている。
 三人はカルロスではなく俺に助けを求めるような視線を送ってきた。
 なので、俺は恐る恐るカルロスに声をかける。

「あの…………多分、俺が原因かと」

 すると反射的にカルロスが後ろを振り返った。
 そして俺を認識した途端、急に膝を折り頭をつけて口にした。

「まさか王子がXクラスにいるとは…………気づかず申し訳ございませんでした! 王子!」
「「「……………………王子?」」」

 その様子を見てまた先輩たちは唖然とする。
 
「はぁ。カルロスさん。外で王子はないんじゃないですか?」

 俺はため息交じりにそう言葉を返した。
 すると身を縮めたカルロスがまた深々と頭を下げる。
 こうなれば話が進まなくなるので俺から話を提示する。

「一応聞きますけど、なんでカルロスさんが学校に?」
「巨大な魔力反応を感知したためです。いつもなら部下を送る程度でいいのですが、今回はあまりにも巨大だったため異常事態かと思い私が参りました」

 俺はこめかみを押さえながら考える。

 もう、この魔力は魔王も感知しているだろう。
 別にラークたちのことは帰ってから話せばいい。

 しかし、俺が王子であるということはだめだ。
 流石にその話題が広まればビルべニアまですぐに到達する。
 そうなれば戦争が悪化しかねない。そう、ゴブくんが言っていた。

「ここは大丈夫だから、もう帰ってください」
「分かりました。学校生活、楽しんでくださいね。【テレポート】!」

(お前のせいで、もう俺の青春は終わりそうだよ!)

 俺はそんなことを心の中で毒づく。
 カルロスは笑顔のまま少し頭を下げ、その場から姿を消した。

「あの……王子って…………」

 俺の想定通り、グレーは恐る恐る聞いてくる。
 それはそうだろう。
 もし、俺が直系の王子なのであれば、戦闘訓練とはいえ、何度も殺しているのだ。通常なら罪になってもおかしくない。

「お腹すきましたね。少し昼食にしませんか?」

 俺が無理矢理、話を逸らすように腹のあたりを押さえながら言う。

「…………ああ」
「分かりました」
「分かったの」

 三人はゆっくりと首を縦に振ったのだった。

 さて、この深い深い溝をどうやって埋めろというのだろうか。
 初日から本当に災難続きだ。
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