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婚約はしたが愛してやれないと言う彼の愛は、自身の可愛い妹に注がれて居ました…。

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「家同士の約束だから婚約はしたが、君は屋敷の離れで暮らして貰う事になる。」

 そんな婚約者からの発言に、私は驚きを隠せなかった。



「一体、どういう事ですか?」

「最近妹の体調が優れず、家に籠りがちでな…他人に会いたくないと言っているんだ。」



 妹さんが…?

 最近社交の場に出てらっしゃらなかったのは、そう言う事だったのか─。



「それから…婚約はしたが、俺は君の事は愛してやれない。」

「そんな!私を大切にすると父の前でおっしゃって下さいましたよね。あれは嘘だったんですか?」

 更なる驚きの発言に、私は信じられないと言った顔で彼を見た。



「あの場では仕方なかったんだ。そんなに言うなら婚約破棄しても良いが…君が恥をかくだけじゃないのか?病気の妹が居るのが嫌で、婚約者を捨てた冷たい女だと周りに思われるだけだ。お父上も心配するだろうし…どうだ、できないだろう?」

「こ、婚約破棄など、私はそんな事は…。」



 これって脅しじゃないの?
 
 それに後からそんな事を言うなど、私を騙し婚約したとしか…。

 でも私は昔から彼が好きだったから、これ以上彼の事を悪く思いたくないと言う気持ちもあるし…。



 きっと…きっと彼は今、妹さんの事が心配で私に構う余裕が無いのよ…。

 彼女が元気になれば、その時は私の事を愛してくれるはずだ─。



 そう思い直してから、半年が経った。

 彼は始めこそ私の住む離れに顔を出していたが、最近はその訪れも少なくなった。



「…もう少し私の所に顔を出して?忙しいとおしゃってましたけど、これではあまりに寂しいです。それとも私がそちらに伺って─」

「それは駄目だと言っただろう?…妹の体調が思わしくなくて、お前に移ると大変だからな。」


 そ、そんなに重い病気なの…?

 彼はああ言うけど、私はいずれは彼女の義理の姉になるわけだし…お見舞いくらい行きたいわ。

 もし今度お見かけしたら声をかけてみよう─。



(婚約者視点)



「お前、部屋に居ないと駄目だろう?」

「…少しだけじゃない。」

「だが、それを万一あいつに見られたら─。」

「大丈夫よ、その為にあの離れに閉じ込めてあるんでしょ?出かけるのもお兄様が許可した時だけ、その時は私は部屋に隠れてるから。でもたまには私もこうして自由に外に出たいのよ…。ホント、あの女のせいで窮屈な生活だわ!」

「仕方ないさ、あいつとの婚約は昔からの家同士の約束だし恩がある…あいつの家からの資金援助が無ければこの家は破産するところだった。」

「あの女が居る価値はお金だけね。…これからますますお金が必要になるし、せいぜいあそこで大人しくしてて貰いましょう。」

 そう言うと、妹は自身の腹を撫でた。



 だいぶ目立ってきたな…ここまできたらもう少しか。

 腹から出てしまえば、上手く誤魔化し養子にでも─。



 だがそれから幾日が過ぎたころ、俺はあの女に呼ばれた。


「大事な話と言うのは何だ?俺は忙しい、手短に済ませろ。」

「最近、妹さんがお庭に居るのをお見かけしたんです、出先で忘れ物に気付き取りに帰った際に。彼女、元気そうな…幸せそうな顔をしてらっしゃいました。とでも病気とは思えないくらい。」



 ま、まさか、あれを見たのか!?



「体調が優れず家に籠りがち…そんな方が妊娠などされます?あの方には婚約してる相手も、お付き合いしてる方も居ないのに。」

「…お前が気づかないところで、そういう相手が居たんだろう。」

「その相手は、あなたですよね?」

「馬鹿な、俺たちは兄妹だぞ!」

「でも血の繋がりは無いでしょ?彼女は亡くなったあなたのお父様が拾ってきた捨て子で、あなたの妹として育てられた。あの子のお腹を見た時、もしやと思い調べたんです。お金を渡した使用人がすぐに全てを話してくれましたよ。」

「か、金で買収とは卑劣な!」

「そのお金が目的で私と婚約したくせに。この家が破産しかけたのは彼女の金遣いが荒かったから…そして生まれてくる子を育てるのにお金が必要だから。私はあなたたちに利用される為だけに婚約させられた。あなたの愛が私に注がれる事は永遠に無い、だからもう婚約破棄しましょう。」

「そんな事、お前が勝手に決めて…。」

「お父様にはとっくに報告済みよ。それはもう大変なお怒りで今後この家にお金は一切援助しない、それどころか慰謝料を請求すると。」

「う、生まれてくる子はどうなる…子供まで巻き込む事に─」

「あの子の妊娠は嘘よ。あなたはまんまと騙されてたみたいね、彼女をこちらに!」

「離して、私に触らないでよ!」

「お前…どうして腹が凹んでるんだ!?」

「彼女、お腹に水の入った袋を詰めてたの。そうまでしてあなたを自分のものにしたかったのね…でもあなたの大好きなお兄様は返してあげる。もうこんな男は要らないから。」

「ま、待ってくれ!このままじゃ俺の家は…俺は破滅だ!」

「私だって貧乏は嫌、もう嘘はつかないから許して!」

「そんなの知らないわ、私を騙し利用した罪はちゃんと償って下さいね─?」




 私があの家を出て暫くし…財産も地位も何もかも失った二人は、身一つで故郷を去る事に─。

 これまでの事が世間に知れ渡り非難と嫌悪の目に二人は晒され、とてもこの地に居られなくなってしまったのだ。



 半ば追放となった二人は今は、現在田舎でひっそりと暮らしてるみたいだけど…慣れない貧乏暮らしで、妹の方は今度こそ本当に病気になってしまったと言う。

 だからどうか自分達を助けて欲しい、薬を買うお金だけでも恵んでくれ…そう元婚約者である彼から手紙が来たけど、それはすぐに捨てたわ。



 だって私は今、ある殿方と婚約し幸せに暮らしているから…。

 そんな彼と私は当たり前のように同じ屋敷で暮らし、彼の心は私だけに注がれて居る。



 だから、私に二度と手紙を送るな…これ以上関わるなら追放では済まないと愛する彼が守ってくれ事になったし…こんな迷惑な物が届く事は、もう二度と無いでしょう─。
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