離れていても君を守りたい

jun

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プロローグ

ベルガー子爵夫妻

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フローラと強制的に離婚させられた俺は、ルミアと入籍させられた。
挙句にガイエ侯爵家は弟のマイクが継ぎ、弟が継ぐはずだった子爵家を継ぐ事になった。

ルミアは侯爵家の養女にはしていなかった。
男性恐怖症だったこともあり、結婚もできないだろうと貴族としての教育も殆どしていなかった。
学園でも最低限のマナーと知識しか学んでいない、平民そのものだった。
結婚出来たとしても、裕福な平民に嫁がせようと思っていたと後で父に聞いた。
なのでルミアは元男爵令嬢の平民なのに子爵家の妻となった。

ルミアは俺に抱かれてからは、俺以外の男にも以前のように怖がる事は無くなっていた。
だから俺とフローラが結婚した後は、近くで暮らすべきではなかった。
バレていないのなら大丈夫だろうと思ったし、ルミアを気に入っていたフローラに、別邸に移らなくても良いんじゃないかと言われ、ルミアは本邸と別邸を行き来していた。
それが間違いだった…。



「アル・・・ごめんなさい・・私…」

ルミアはあれからずっと泣いている。

こんな事になるなんて思わなかった、
フローラから俺を奪うつもりなんてなかった、
子供を死なせてしまうなんて思わなかった、
社交なんて出来ない、
どんな顔で皆んなの前に出ていいのか分からないと泣いている。

俺はあの時から男としての機能を果たせなくなった。
何をしても勃起しなかった。
ルミアは色々してくれたが、全く反応しなくなった。

あんな事があったのにやろうとも思わなかったが、ルミアは何度も俺を誘った。
男性恐怖症だった事など忘れてしまったのか、必死に俺のモノを咥える姿は、以前のような清楚さも庇護欲もなくなっていた。
そして勃ちあがらないモノを見ては泣きながら怒っていた。

「どうして⁉︎アルは私の事が嫌いになったの?
私達、夫婦になったのよ、あんなに愛していたフローラ様を裏切ってまで私を抱いてくれたのに、今更私を捨てるの?」

毎日毎晩、喧嘩を繰り返した。

夜会は王家主催の夜会のみ参加した。

俺とルミアの周りには誰も近寄っては来ない。

学園での姿を見ていた同年代の人達、話しを聞いていた保護者達、エルベール公爵家の娘を捨て、身籠もの妻を裏切っていた恥知らず。
それが今の俺とルミアだ。

だからと言って引きこもる訳にもいかないので、挨拶すべき人達と上辺だけの挨拶をして回る。

実家のガイエ侯爵家当主となった弟のマイクにも挨拶に行く。

「お久しぶりです、ガイエ侯爵。」

俺とルミアで挨拶すると、

「兄上…ベルガー子爵、子爵夫人、お久しぶりです…。」

久しぶりに会った兄弟の挨拶とは思えないほど、ぎこちない挨拶を交わした。

何を話していいのかも分からず、俺とルミアは黙り込んでしまった。
ルミアは弟とは殆ど会った事はない。
弟のマイクは隣国に留学していたから。
急遽決まった次期侯爵家当主教育の為に、こちらの学園に編入して戻ってきたのだ。

「今は弟として話させて頂きます。
兄上…父上と義母上は離婚されました。
離婚した義母上は…修道院に入りました…。
死んでしまったフローラ姉様のお子の冥福を祈る為だそうです…。
父上は…私への引き継ぎと心労で体調を崩すようになりました。」

「「え⁉︎」」

俺とルミアはそんな話し、聞いていなかった。

「お母様が修道院⁉︎どうして⁉︎
私に何も言わずに修道院に入ってしまったのですか⁉︎
どうして?どうしてお母様が・・・」

泣き崩れそうなルミアを支えたが、周りが俺達の様子に気付き始めたので休憩室に行く事にした。

休憩室に入るとマイクは余程腹に据えかねていたのか、泣き出したルミアに淡々と今の状況を話し出した。

「子爵夫人、私はあなたと交流がなかったので貴方のことをよく知りませんが、貴方、フローラ姉様に一度でも謝罪しようとは思わなかったのですか?
手紙の一つも出そうとは思わなかったのですか?
父や貴方の母君に謝罪しようとは思わなかったのですか?

あなた方のせいでガイエ侯爵家が今どんな状況にあるか知っていますか?
“ガイエ侯爵家は幼い頃からの婚約者に隠れて浮気する息子を諌める事もしない、同じ屋敷に愛人を住まわす、血も涙もない下衆な家”なのだそうですよ。
もちろん私の婚約も破談になりました。
公爵家を敵に回したんですからそうなりますよね?

なのに貴方は母親が何故修道院に入ったんだと言いましたね。
そんな事も分からないんですか、子爵夫人!
貴方のせいですよ!
貴方と兄上のせいで、父も、貴方の母君も、フローラ姉様も、俺も、我が侯爵家も、不幸のどん底に落としたんですよ!

なのにただ泣くだけで反省もしない!
兄上もそれを諌めもしない!
二人で謝罪にも行かない!
エルベール公爵家への膨大な慰謝料を払ったのは父上、侯爵家です。
兄上は、その慰謝料を私に払わなくてはならないのですよ!
二人は被害者ではなく加害者なんです!
何を打ちひしがれているのですか⁉︎
貴方達には落ち込む資格もないんです!
とっとと働いて、我が侯爵家に金を返せ!
兄上にはほとほと幻滅しました。
そんなマナーも礼儀も知らない女に現を抜かし、フローラ姉様を傷付け、子供を殺し、謝罪すらせず、よくも俺達の前に出て来れたものだと感心していました。
俺の後ろにエルベール公爵家の皆さんが居たことにも気付かないとは…。


俺は、フローラ姉様を傷付けたあんた達を絶対許さない!」


マイクがこんなに怒っている姿を初めてみた事に衝撃をうけつつ、マイクに言われるまで俺達は謝罪すらしていない事に気付かなかった。

あの夜会から帰ったあの夜から、謹慎が明けるまでに全てが終わっていた。

父は怒りで話しにならないし、誰も何も俺とルミアには話しかけてこなくなったから、気付けばここに連れてこられ、僅かな使用人と俺達しかいない小さな屋敷に閉じ込められた。

説明されたのかもしれないが、突然崩壊した日常に頭が付いていかず、物事を考える余裕すらなかった。

我が家がどうなってるのか、父が、弟が、フローラが、義母が、どうなっているのかを考える事もしていなかった。

「すまない…今更だが、マイクにも父上にも義母上にも、もちろんフローラにも今からでも謝罪する。
金もきちんと払っていく。
本当にすまなかった・・・。」

頭を下げる俺にマイクが言った。

「一人足りなくない?」

「え?」

「兄上は忘れちゃったの?」

呆れた様子のマイクが、

「忘れちゃうかぁ~悪阻で苦しむ妻が寝ている隣りの部屋で愛人と致しちゃうくらいだものね。我が家の次代の跡取りとなるはずだった子供の事なんて忘れちゃうよね。
父上は毎日教会に行ってるよ。
義母上は修道院に入った。
俺もフローラ姉様の部屋に毎日花を飾っている。形だけだけど、甥っ子か姪っ子のためにね。
兄上は毎日何をしてるの?
その事も今まで忘れてた?」

何も言えなかった。

フローラから妊娠したと聞いた時は嬉しかった。
二人で抱き合って喜んだ。
名前を二人で考えるのは幸せだった。

フローラの悪阻は酷く、しばらく一人寝になって、人肌恋しくなった頃にルミアをパートナーに夜会に出席した。

まだ安定期には入っていなかったが、友人達にフローラが妊娠した事を伝えた。
祝福されて、つい酒を飲みすぎた俺は父よりも早く帰ろうとルミアと会場を後にした。

ルミアも華やかな夜会に浮かれたのか、シャンパンを少し飲んでいたので、頬を赤くし瞳は潤んでいた。
そんなルミアを見ていたら以前抱いた時の事を思い出し、中心に熱が集まった。

馬車を降り、ルミアが俺を部屋まで送ると使用人達に伝えていたが、その後俺とルミアがどうなるのかは口に出さなくてもお互い伝わったようだった。

酔った俺は、ルミアを夫婦のベッドに押し倒して事に及んだ。

何も考えていなかった。
隣りにフローラがいる事も、このベッドが夫婦で使う大切な場所だという事も、あの時は何も考えていなかった。

ルミアは気付いていたのかもしれないが、俺に抱かれる事に喜んでいたから、何も言わなかったのだろう。
ひょっとしたらフローラに聞かせる為に、あの夜あんなに嬌声をあげていたのかもしれない。


どうしてあの時、あんなに酒を飲んでしまったんだろう。
どうしてルミアをパートナーにしてしまったんだろう。
どうして…あの部屋でルミアを抱いてしまったんだろう…。
どうして・・・フローラを裏切ってしまったんだろう・・・。


愛してたのに。


子供の時から可愛かったフローラ。
大人になっても可愛らしさはなくならず、上品な淑女になったフローラは、俺の自慢の婚約者で、妻だった。

そのフローラをボロボロに傷付けたのは俺だ。

今はあの愛らしい声すら聞くことも出来ない。
俺の声も届かない。

一人黙ったまま考え込んだ俺は、ハッと顔を上げた時にはマイクはいなくなっていた。

隣りのルミアも俯いたまま黙りこんでいた。

「帰ろう…」

俺とルミアは会場に戻ることなく帰った。


そして、帰ってすぐ離婚してから初めて、エルベール公爵とフローラ、父上に手紙を書いた。

読んでもらえなくても書かずにはいられなかった。

何度も書き直し、気付けば朝になっていた。


本邸からこの屋敷について来てくれた執事のフィリップに手紙を出しておくよう頼み、仮眠を取った。

二時間ほど寝た後、フィリップに今までの事を謝罪した。
領地の事も領民の事もフィリップに任せっきりだった。
その事も謝罪し、フィリップを連れて視察に出た。

領主なのに今まで一度も見てこなかった領地を見て周り、この領地の特産物が何かも知らず、隣りの領地が何処の家なのかも知らなかった事にようやく気付いた俺は、やるべき事が山積みだと自覚した。

それからはただひたすら仕事をした。
ルミアには教師をつけた。
何も知らないルミアにマナーや知識を叩き込ませた。
マクスに責められ、やっと反省したルミアは黙って教師に従った。

夫婦としては破綻していた。
夜は別々に寝ていたし、お互い自分達がしでかした事の重大さに数ヶ月経ってようやく気付いたのだから。

たまの夜会は辛いものだった。

友人は誰も話しかけてはこないし、近寄りもしない。

必要最低限の挨拶が終わると逃げるように帰った。

それでも逃げ出す事は出来ないので、必死に迷惑をかけた全ての人達の為に頑張った。

ルミアは毎日教会に通った。

孤児院に行き、子供達の為にと自分で刺繍したハンカチをバザーで売ったり、古いデザインのドレスを売り寄付したりと、自分で出来ることをしていた。

少しずつお茶会にも招待されるようになり、夜会も前ほど苦痛ではなくなったが、挨拶を済ませるとすぐに帰った。

フローラが結婚したと聞いていたから。

耳も聞こえるようになり、ずっと支えてくれた第二王子と結婚していた。

公爵となった第二王子のニコラス様とフローラは、遠くから見てもお似合いだった。


フローラの隣りには俺がいたはずだった。
あの可愛らしい笑顔は、俺に向けられるはずだった。

それからの俺達夫婦は子供なんか出来るはずもなく、結婚したマイクの子供が将来子爵家を継ぐ事になるだろう。

結婚して二十年目にルミアが病気で亡くなった。

その五年後に俺も病気になった。

そして父上よりも早く俺は死んだ。

死ぬ直前まで後悔し続けた。

戻れるものなら戻りたい。

フローラを裏切る事なんてしない。

次があるなら例え、フローラの側にいなくても二度と傷つける事なんかしない。

側にいれるなら二度とフローラを離さない。

俺の最後の言葉は、

「フローラに会いたい・・・」だった。

















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