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嫉妬
しおりを挟む二人で手を繋いで帰っている途中で、カールに会った。
「あれ?ブライアン副団長は今日休みだったのでは?それにシシリーは家に帰ったんじゃないの?」
「一旦帰って団長に用事があって戻ってきたの。カール、留守ありがとうね。」
「いいけど…相変わらず仲良いね、手なんか繋いで。でも、副団長、少し顔色悪くないですか?」
「少し昨日飲み過ぎただけだ。」
「そうですか、シシリーがいない間定食屋からの差し入れはなかったんですか?」
ブライアンと思わず顔を見合わせた。
「カール、どうしてそんな事言うの?」
「いや、副団長一人では食事大変だろうからシシリーが定食屋に頼んでたんじゃないかなと思って。」
「私は頼んでないわ」
「そう、じゃあ俺はこれで。」
「あ、カール、私休み明けからイーグルだから。詳しい事は団長に聞いて。じゃあ。」
「え?シシリー、どういう事?」
「今日は疲れてるの。団長に聞いて。休み明けに一度顔出すから。」
二人で歩き出した後ろでカールが、
「シシリー・・・」
と呟いた声が聞こえた。
「シシリー、カール、怪しくないか?」
「明日、もう一度団長に話してみよう。今日は帰ろう。」
「そうだな、近くの宿屋に入ろう。着替えは買うか。」
「うん、買い物してから行こう!」
手を繋いで歩く後ろ姿にカールが、
「絶対シシリーは渡さない。」と呟いた声は二人には聞こえなかった。
カールが一番隊の執務室に入ると、団長とミッシェルが待っていた。
「団長、どうしました?ミッシェルも何?」
「カール、定食屋のベルを知ってるな。」
カールの目が一瞬揺れた。
「はい、たまに食べに行きますので。」
「話した事は?」
「何度かは。」
「最近はいつ行った?」
「一昨日行きましたよ、夕食を食べに。」
カールは淡々と答えている。
「地下の監獄にベルがいる理由は知っているか?」
「ベルが?どうして?」
「ベルが媚薬を盛った」
「媚薬?どうして?誰にですか?」
「誰ですか?」
「ベルの好きな人にだ」
「じゃあブライアンにですか?さっきシシリーと手を繋いで帰るところでしたが、その報告で来てたんですね。その割には仲良く帰ってましたけど、大丈夫なんですか?」
「俺はブライアンとは言ってない。」
「だってベルの好きな人なんて皆んな知ってますよ、ブライアンだって。」
「ベルはお前の好きな人の事も言ってたぞ、シシリーが好きなんだってな」
「な、違いますよ!シシリーは俺の上官で仲間ですから!」
「ベルはいつもシシリーを見ていたと言っていた。お前はブライアンとシシリーを別れさせようとしたのか?」
「私がそんな事する訳ないじゃないですか?」
「数日前、証拠保管庫に行ったな」
「確認したい事があったので。」
「なんの確認だ?」
「それは…」
「以前の媚薬事件で回収した媚薬が一つ無くなっていた」
「お前が行った後だ」
「・・・・・」
「こんなすぐバレる事をどうしてやったんだ、カール!」
「・・・・・」
「カール、私達ずっと一緒に頑張ってきたよね?あんたがシシリーを好きなのは知ってたけど、ブライアンと付き合おうか悩んでた時、シシリーに付き合ってみたらって言ったのあんただよね?
あたし言ったよね、告白しなくていいのって、そしたらあんたは俺にシシリーは勿体無いって引いたよね?
なのに今になってシシリーの邪魔するのはなんでなの?ちゃんと説明しなさいよ!」
「ブライアンと付き合い始めてシシリーは周りの令嬢達から嫌がらせされ続けてたんだ!
ブライアンには言わないでくれって、心配させるからって!
ブライアンは何も知らずに、シシリーを守りもせず呑気にシシリーといる姿にたまらなく腹が立ったんだ!
知ってるか?シシリーが何回制服をだめにしたか?水をかけられ、ハサミでズタズタにされ、挙句にアイツらシシリーに媚薬を盛りやがった!
匂いですぐ吐き出したが、少し飲み込んでしまって、それでも一人で耐えたんだ!
ブライアンを呼ぼうかって言っても呼ぶなって…。そんな姿も知らない男にシシリーを渡せないって思ったんだ!俺が守ろうと思って何が悪い!」
「団長に相談すれば良かったじゃない!ブライアンに言わなくても、私に言えば良かったじゃない!私だってそんな事知らなかった。私だったらシシリー一人で悩ませない!
あんたは何をしてたの?可哀想にって思ってただけ?その令嬢達を捕まえたの?ねえ、カールは何をしてたの?」
「俺は…」
「カール、お前はすぐに俺に報告するべきだった。お前の気持ちが分かるなんて俺は言わんぞ、俺だってシシリーが好きだからな。
でも好きな女が幸せに笑ってるなら俺はその幸せを守る為ならどんな事でもするぞ。
お前はブライアンと別れればいいと思ったから何もしなかったんだろ?
そして我慢出来ずに今回の計画を実行したんだろ?
シシリーは本当にお前を信頼していた。
今でもお前を疑うなんてこれっぽっちも思っていないだろう。
こんな事をしなければシシリーはいつまでもお前に笑顔を向けてくれたのに、もう近くにもいれない。二度と会えない。
そしてお前は逮捕される。」
「はい…」
団長が近付こうとした時、カールが太ももの短剣を素早く取り出し、自分の首にあてて一気に引いた。
「「カーーーール!」」
大量の血を吹き出し、カールはバタンと倒れた。
団長が傷を抑え、私は医務室へ走った。
すれ違う仲間にカールが首を切った事を伝え、とにかく一番隊に行けと伝えながら走った。
バタバタと皆が走り出した。
医務室の先生にカールが短剣で首を切った事を伝え、必要なものを持ち一番隊まで走った。
団長が圧迫止血をし、心臓マッサージを次の副リーダーのヤコブがしていた。
先生が医務室まで運ぶよう指示し、カールが運ばれて行った。
ヤコブが、
「リーダーに連絡しますか?」と聞くので、
「シシリーは体調を崩して帰ったから、明日私が連絡するわ。カールの事を聞いたら無理して来ようとするから」
「分かりました、リーダーへの連絡、お願いします。」
今日はいろんな事があり過ぎて疲れた…。
そういえば、どさくさに紛れて団長、シシリーの事好きって言ってたな。
ま、知ってたけど。
シシリーは綺麗な金髪をしている。背中の中ほどまで伸ばした髪をポニーテールにしている。身長も高くスタイルも良い。
紫の瞳が綺麗だし、とにかく美形だ。
ブライアンと並ぶととにかく絵になる二人なのだ。
二人が付き合い出した時、ファルコンとイーグルに激震が走った。
そして皆がヤケ酒をし、次の日はほとんどが死人のようだった。
そんな二人を応援する者は多かったが、妬みや嫉妬で面白く思っていない者も多かった。
シシリーがそんなに嫌がらせを受けていたなんて…。
明日、早めに連絡した方がいいかもしれない。
でも今日は二人にゆっくり休んでもらいたい。
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