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上書き
しおりを挟む騎士団から近く少し高級な宿屋に泊まる事にした。
一度部屋に入り、私の荷物を置き、買い物に出かけた。
着替えを買い、何も食べていなかった私達は人気のカフェに入り、軽く何か食べようと店に入った。
ブライアンを見た女性客達は頬を染め、私を睨む。
いつもの事だけど、やっぱり気が滅入る。
「シシー、どうした?大丈夫?」
「大丈夫、早く食べよう、お腹ペコペコ。」
「うん、俺もだ。」
私はシーフードパスタと白ワイン、ブライアンはビーフシチューとパンのセットと赤ワインを頼んだ。
二人で食べている所に、
「あら、ブライアン様ではありませんか。」
と綺麗に着飾った私の天敵、フランシス・イザリス公爵令嬢が声をかけてきた。
「イザリス公爵令嬢、お久しぶりです。」
とブライアンが無表情で答える。
「最近ちっともお会いできなくて寂しかったのですよ、ブライアン様。」
「団長がおりませんでしたから、何かと忙しくしておりました。」
「まあ、それは大変でございましたわね。
私と結婚すればそんな苦労もしませんのに。」
「私はもうすぐ結婚する身です。それに婚約者の前でそのような事を仰るのは控えて頂きたい。」
「あら、気付きませんでしたわ、ごめんなさいね、シシリーさん。」
「いえ、気にしておりませんから。」
「貴方、もう少し見た目を気にした方がよろしくてよ、ブライアン様が恥ずかしい思いをするのよ!」
「イザリス公爵令嬢、私の婚約者を貶めるような発言はやめていただきたい!
もう私達は出ますので、それでは失礼!」
私達は食事も途中にし、その場を離れた。
「ごめん、シシーに嫌な思いをさせてしまった。」
「いいのいいの、いつもの事だもの。」
「もう結婚するというのに、アイツはいつまでもしつこい!ウンザリだ!」
「まあまあ、何か買って部屋で食べましょう。」
「うん、二人きりでゆっくりしよう」
途中の屋台で肉串や、ホットドッグなどを買って部屋でワインを飲みながら他愛のない話しをしながら、ゆっくりした。
遅い昼食だったので、夕食は食べずに二人でお風呂に入り、もう寝る事にした。
「シシー、一緒に入って身体を洗ってくれないか?」
「お風呂?良いけどまだ冷静に見れないかもしれない…それでもいい?」
「構わない。一人で洗うとまた吐き気が止まらなくなりそうなんだ…」
「分かった。一緒に洗おう。」
仮眠室のシャワー室の時のように二人で脱衣所で服を脱いでいく。
ブライアンの背中が見えた時、最初見た時ほどの衝撃はなかったが、やはり悲しくなった。
「シシー、大丈夫か?ごめんな…」
「さっきよりは大丈夫だよ、後で私も付けたらもう気にならないよ。」
「フッ、後で付けてくれるのか、楽しみだ。」
ブライアンが笑ってくれたので、少し安心した。
二人で身体を綺麗に洗っていく。
泣きながら洗ったさっきとは違い、いつものようにクスクス笑い合いながら身体を洗い、泡を流した後、ブライアンの足の間に座り、後ろからブライアンがお腹に手を回して私を抱きしめた。
「シシー…俺に抱かれるの嫌じゃない?」
と小さな声で聞いてきた。
「嫌なわけない!」
勢いよく後ろを振り返り、ブライアンの綺麗なブルーの瞳を見つめた。
「ライ、昨日ライは私だと思って抱いたんでしょ?だったらライは私を抱いたの。別の人を抱いたわけじゃない。私はそう思うことにしたの。」
「うん、シシーだと思ってた…」
「ライ、今何が心配?何が気になる?」
「俺はシシー以外を…抱いた・・・事実が…何より・・・辛い…」
「ライは私を裏切ってなんかいないよ。
ライ、私はライが大好き。」
「シシー以外の人間とは二度と食事はしたくない…」
「うん、私が毒味するし、お弁当作ってあげるよ。愛してるよ。」
「シシーがいなくなると思って怖かった…」
「ごめん、ごめんね、逃げてごめん…。でもこれからはずっと一緒にいる、愛してるから。」
向かい合わせになり、ブライアンを抱きしめた。
ブライアンは泣いていた。
私も最初は傷付いてパニックになったが、ブライアンは私以上に傷付いている。
騎士団に入って、性被害にあった女性を保護した事が何度かあった。
その時の女性と今のブライアンは似ている。
自分は何も悪くないのに、パートナーを裏切ったと罪悪感でいっぱいになっていた。
嫌われてしまう、捨てられてしまう、不安で不安で堪らなくなってしまっていた。
家族や恋人、ご主人が寄り添ってくれたら、時間はかかっても立ち直れる。
でも別れてしまうことの方が多い。
そんな人達を見てきた。
きっとブライアンもそうなのだろう…。
何一つ悪い事などしていないのに、私に嫌われる、捨てられるとの思いから逃れられないのだろう。
これから嫌な噂も流れるだろう。
ブライアンは、今回の事を思い出しては不安になるだろう。
私といるのが辛くなる時があるかもしれない。
私はブライアンが本心から私と別れたいという時まで、決して離れない。
この傷付いた優しい人を私が守ると誓った。
お風呂を出てからは、ブライアンと私は朝まで愛し合った。
途中、ブライアンが泣き出した時もあったが、後半はひたすらお互いの快楽を求め合い、気を失うように眠った。
かなり、日が高くなった頃目覚めると、ブライアンは隣りで私を見つめていた。
「おはよう、シシー」
「早起きだね…おはよう、ライ…」
「寝顔を見てた。隣りにいるのがシシーなんだと何回も確認してた…」
「ライの隣りは私だよ。安心した?」
「うん、何回見てもシシーだったから安心出来た。」
「良かった。ライ、ごめん、いっぱいキスマーク付けちゃった…背中にも…」
「ありがとう…シシー、上書きしてくれたんだね。」
「上書きしようとは思ってたけど、そんな余裕はなかったよ…」
なんだか恥ずかしくなり、布団を被った。
「何してんの?急に恥ずかしくなったの?」
とブライアンが布団を捲る。
「もうー!朝から変な事言わせないで!」
「変な事ってどんなこと?ねえ、シシー、変な事ってなに?」
とブライアンが私に抱きついてきて、顔中にキスをしてきたので、私がブライアンの脇腹をくすぐってやった。
二人でワチャワチャしている時に、微かにノックの音が聞こえた。
私達はピタっと動きを止め、顔を見合わせた。
“誰?”
誰もここに泊まっている事を知らない。
「俺が見てくる。」
ブライアンがガウンを羽織り、枕元に置いていた短剣を持ってドアへ向かった。
「はい」
と呼びかけると、
「おやすみのところ申し訳ございません。フロントの者ですが、ミッシェル・リーガル様というお方がお見えになっております。」
「分かりました、カフェで待つよう伝えて下さい。」
「畏まりました。」
「シシー、ミッシェルが来てる。何かあったのかも。でも、よくここだと分かったな。」
「ここは騎士団から近いし、カップルは大概ここだからじゃないかな。」
「なるほど。じゃあ、着替えて行こうか」
「うん」
急いで着替えてミッシェルの待つカフェに向かった。
「ミッシェル、どうしたの?何かあったの?」
ミッシェルの真剣な面持ちと顔色の悪さに嫌な知らせなのだと分かる。
「シシリー、ブライアン…、薬の出所が分かったわ。出所は騎士団の証拠保管庫、そこから盗まれたものだった。
盗んだのは…カールだった。」
「「カール⁉︎」」
「え?カール?どうして?」
私は訳が分からなくて、ブライアンを見たら、
「・・・・・そっか…」
とだけ言った後、眉間に皺を寄せて黙ってしまった。
「そして…今カールは病院にいるの。昨日、自分で首を短剣で切ったの…」
「首を⁉︎」
「後はここでは言えない。休みなのに申し訳ないけど、二人で騎士団まできてくれるかな?」
私とブライアンは頷き、フロントに外出する事を告げた後、ミッシェルと三人で騎士団へ向かった。
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