帰らなければ良かった

jun

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キレる団長

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騎士団に付き、ナタリアを挟んで護衛が取調室まで連れて行く間、ナタリアは一言も話さず、大人しかった。
兄さんも黙って歩いている。
それが逆に不気味で、気を緩めず取調室まで歩いた。

移動中、部下を見つけ、団長かミッシェルを第一取調室まで来て欲しい事と、取調室に二人ほど来て、侯爵家の護衛と交代してほしい旨を伝えた。
兄さんは隣りの取調室で待ってもらってうことにした。

ナタリアを取調室に入れて椅子に座らせた後、護衛を外に出し、俺は部屋の隅に行き、団長を待った。

「ねえ」

「ねえってば!」

「聞こえないの?」

「ブライアン!聞こえないの?ちょっと、何か言いなさいよ!」

「何か喋ってよ、ねえ!」

「いつもいつも私を毛嫌いして近寄りもしないし、顔も合わせようとしない。
貴方は最初から私を嫌っていた。
何もしてないのに!
なんなのよ、どうしてよ!
少しでも優しくしてくれたら、こんな事しなかったのに。
ブライアンが悪いのよ!ニールと結婚すれば少しは義理の姉として敬ってくれるかと思いきや、結婚する前より会えないし、話せないし。挙句にあんな貧乏男爵の女剣士なんかと結婚するっていうし、ニールと結婚した意味なんかなかった!
お義母様にも嫌われてるし、ニールは私を放っておくけど、ずっと監視しているし!
だから貴方一人が幸せになるなんて許せなかったのよ!私の方が何年も何年も前からブライアンが好きだったのに、ちょっと綺麗だからって、二、三年しかブライアンを知らない女に渡したくないって思って何が悪いのよ!
だからフランシスや他の令嬢に、貴方とシシリーが如何に仲が良いか事細かに教えてあげたのよ!
家に二人で泊まる時は夜うるさくて眠れないとか、中庭でイチャイチャしてたとか他愛のない事を教えてあげたの!
そしたら勝手にあの子達がシシリーに嫌がらせをしただけよ!
弟から副リーダーがシシリーの事が好きらしいって聞いたから、じゃあくっつけてあげたらって言ったのよ!
どうしたらいいのか聞くからエドワード様とくっつけて仕舞えば良いじゃないって教えてあげただけ。
後は勝手にやっただけよ!
私はなーんにもやってないの!」

ハアハアと肩で息をしながら一気に捲し立てたナタリアに、

「団長、聞いていましたか?」
と言った後、ドアを開けて団長とミッシェルが入ってきた。

「ああ、全部聞いていた。録音もしている。」

「え…」
絶句しているナタリア。

まさか、誰かに聞かれているとは思わなかったのだろう。

「まさか俺も狙われてたとはね。舐めてんのかこいつ。」

「舐めてるというより何も考えてないですよ、自分の事しか頭にないので。」

「しかし何十年も執着してるなんて、気持ち悪いな。好きな相手の兄ちゃんと結婚してまで近くにいたいなんて、頭おかしいんじゃないですか、ハワード小侯爵夫人。」

「エドワード様、失礼ではありませんか!
私は何も犯罪などおかしていないのに、そんな言い方はないのではないですか!」

「なにもしてないって言えるところが頭おかしいって言ってんだよ!」

部屋に響き渡る団長の怒鳴り声に震えるナタリアに団長は追い討ちをかける。

「あんたに唆されたイザリス公爵令嬢とカールは使用を禁止されている媚薬を他人に飲ませた時点で暴行罪または傷害罪の正犯、あんたの弟のヤコブは騎士団の情報を漏らしたことによる情報漏洩罪、姉の犯罪に協力した事であんたの共犯。
そしてあんたは暴行障害の教唆犯だ。」

「待って!カールはシシリーに薬を飲ませたんでしょ?あの女は誰に抱かれたのよ!」

「なんでテメェに教えなきゃならねえんだよ!テメェは知ってる事、やった事、全部話すだけだ。質問は一切却下だ。
あんたの尋問は俺がやる。

ブライアンとミッシェルはヤコブ捕まえろ。ドアにいる一人を中に入れてくれ、この女と二人きりになんてなったら俺が何するか分からんから。」

「ヒッ…」

真っ青になったナタリアはブルブル震えている。
団長がこんなにも激昂するのも珍しい。
さすがのナタリアも話すしかないだろう。

俺とミッシェルはヤコブがいるであろう一番隊の執務室に行くとヤコブは溜まった書類仕事をしていた。

「あれ?副団長とミッシェル、どうしたんですか?」

「ヤコブ…残念だわ…。あんたは真面目で将来は幹部にもなれただろうに。」

「何言ってんの、ミッシェル。副団長、なんですか?」

「お前の姉が今、団長に尋問されている。俺達はお前を捕まえにきた。」

「は?姉がどうかしたんですか?そして俺を捕まえるってどういうことですか?」

「お前、俺とシシリーが別れればいいと思ってたのか?」

「あ…。いや、それは…」

「見損なったよ、ヤコブ。
あの最低な姉に良いように使われて…。
もうあんたの将来は終わったわ。」

「待ってくださいよ!俺は別になにもしていません!ただ、カール副リーダーが気の毒だなって思っただけで…。
副団長とリーダーが別れればいいなんて思ってません!」

「でもシシリーが団長の執務室に行く度にナタリアに報告してたんだろ?そして団長とシシリーが出来てるってナタリアに言ってたんだろ!」

「そんな事言ってません!姉さんにリーダーはよく団長の執務室に行くのか聞かれたから、報告書を渡しに行くと答えただけです!
それの何が悪かったのでしょうか…?言ってはいけなかったのですか?」

「本当にそれしか言ってないのか?」

「はい。姉さんが何を聞き出したいのかよく分かりませんでしたが、リーダーが団長の執務室へ行く事は当たり前なのに何度も聞いてきました。」

「後は何を聞かれた?」

「後は・・・あ!リーダーは美人だからモテるだろうって聞いてきたので、モテモテだけど副団長が相手じゃ勝ち目なんかないけど、副リーダーはまだ諦めてないかもねとは言った事があります。」

「他には?」

「後はないですね。俺が休みの日に家に来て聞くだけなので。」

「そうか。」

「一体姉は何をしたんですか?ニール兄さんと何かあったんですか?」

「ヤコブ、私が説明するわ。」

ミッシェルが今までナタリアがやってきた事、それによって起こった事、そして俺の事を簡潔に説明した。

「そんな…姉さんのせいでリーダーと副団長が媚薬を飲まされ・・・副リーダーは媚薬を盗んだ…俺が姉さんに話したから…」

「最初はお前も共犯かと思っていたが、どうやら違うようだ。
ヤコブは当たり前の事を言っただけだ。
だからお前が気に病む必要はない。」

「でも俺の言葉がなきゃ姉が副リーダーを唆さなかったし、リーダーも狙われなかっただろうし、副団長も…。
俺のせいだ・・」

「ヤコブ、気にするなって言われても気にするだろうが、俺とシシリーはもう大丈夫だから。ただナタリアが逮捕されたら、お前の実家も俺の所もバタバタするだろう。
元はと言えば俺がナタリアから逃げずにハッキリ言ってやれば良かったんだ。悪いのは俺だ。
だからお前が気にする必要はないんだ。」

「ブライアン兄さんは何も悪くない。悪いのは執着してた姉さんだ。
子供の頃からブライアン兄さんを追いかけ回して迷惑かけてた。
ニール兄さんがそれをいつも止めてた…、ニール兄さんにも迷惑かけてしまって…俺、どうしたらいいんだろ…」

「お前は俺と兄さんの可愛い弟分だった。
お前を憎んだりなんかしてないから。
後は家同士の問題だ。父さん達に任せよう。」

「ごめん、本当にごめんなさい、ブライアン兄さん…」

ヤコブは動揺して昔の呼び方に戻ってしまっていた。
ミッシェルも複雑な顔をしているが、ヤコブを捕まえる必要がなくなってホッとしているようだ。

とりあえずヤコブを連れて兄さんがいる取調室に三人で向かった。














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