帰らなければ良かった

jun

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独壇場

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エドワード視点



取調室に三人で入ると、

「あの女は死んだ?」

そう言った。

三人の殺気が部屋を満たす。

俺は全身の毛穴がブワっと開く感覚がするほどの殺気に我ながら驚いた。

「尋問を始める。質問は受け付けない。
名前は?」

「キャシー・ファンハイド。」

「年齢は?」

「25」

「両親の名前は?」

「フィリオ・ファンハイドとリリス・ファンハイド。」

「結婚は?」

「してないわ。」

「25なのに?」

「歳は関係ない!」

「婚約者は?」

「いない」

「お前、なんでそんなに態度デカいの?
人殺そうとしたのに、偉そうなのはどうして?」

「悪い事をしたと思っていないから。」

「へぇ、お前は人殺しが普通の事なんだ?」

「あの女は誠実なブライアン様を誑かし、誘惑した下劣な人間よ。罰を受けなきゃならない人間よ!」

「何?お前、神様かなんか?それとも王族?陛下の隠し子?」

「そんなわけないじゃない!」

「だから、!」

「何回も言ってるでしょ!生きてちゃいけない人間を消そうと思っただけよ!」

「なるほど、お前が大好きなブライアンがお前を好きになるまで、ブライアンの恋人を殺し続けるって事なんだな?」

「誰もそんな事言ってないわ!」

「だってそうだろ。シシリーが死んで、新たにブライアンに好きな人が出来たら、また誑かしたって言って殺すって事だろ?
て事は予告殺人だ。すげえなお前。こんなに堂々と殺人予告するのなんて、見た事ねえわ!」

「なんでそうなるのよ、私はあの女の事を言ってんのよ!」

「何回も何回もおんなじ事言ってんじゃねえよ!
だからなんでシシリー限定でそんな事言ってんだって聞いてんだよ!
どうせ自分は見向きもされなかったのに、あの子だけどうしてなの?
私の方が可愛いのに!
ハア?おまえのどこが可愛いの?
俺に教えてよ。シシリーより良いところを教えてくれよ!
そんで続きはこうだろ?
だって家柄はうちの方が良いし、お父様は陛下専属の近衛よ、私だって剣は負けないわ、って言いたいんだろ?
確かに家柄はお前の方が良いんだろうな、でもそれはお前の親の家柄だ。
兄貴がいるお前はあの家を継げない。
ちなみにブライアンは次男だ。
お前と結婚したら平民だな!
お父様が近衛?テメェじゃねえだろうが!
ファンハイド卿が偉えんだよ!
テメェが偉い所なんて一つもねえじゃねぇか!
剣の腕?お前シシリーと剣、交えた事あんの?
お前の父ちゃんとシシリーは訓練で対戦した事がある。勝ったぞ、シシリーは。
お前、父ちゃんに勝った事あんの?
次はこう言うんだろ?
やってみなきゃ分からないじゃない!
ってな。
やれる資格はテメェにはないんだよ!
だって入隊試験の資格剥奪されてるもんな!試験の時からお前はシシリーに目ぇつけてたもんな、俺は覚えてる。あの時の試験官だったからな!
あの時、何もせず真面目に試験受けてたら俺の部下になってたかもしれない。
ブライアンの部下になってたかもしれない。シシリーより強くなってたかもしれない。
全部だめにしたのはお前自身だ!
それを逆恨みで何年もシシリーを恨み続けた結果これだ!
お前はファルコン騎士団一番隊リーダー、シシリー・フォードを殺そうとした。
どう処罰されるのか知らんが、
もう二度とブライアンに会える事も、
大好きな父ちゃんにも会えない。
父ちゃんが陛下に頼んでくれるかもしれんな、“人を殺そうとしましたが、助けてください”ってな!
もしそうなったとしたら、ファルコン騎士団がお前をずっと見ている。
少しでもブライアンやシシリーに近付こうとしたら全員でお前を排除する。
これはファルコンの総意だ。
これだけの騎士達からの憎悪にお前は耐えられるかな?
シシリーを刺した時点で、ここにいる騎士達全員が、殺せるならお前を殺してやると思ってるだろうな。
ここに連れて来られる時だけでも震えてただろ?
あの殺気が一日中、それも毎日、誰からも浴びせられるのは拷問よりキツイぞ。

シシリーじゃなくても、ファルコン、イーグル騎士団の騎士を殺そうとした奴を俺達は許さない。


ではもう一度聞く。
どうしてそんなに態度がデカいんだ?
言ってみろ。」

「・・・・・・・・」

「何にも言えないか?そうだよな、ただの逆恨みだもんな?
ご大層な事言ってるけど、元を正せば騎士になれなかった事を全部シシリーのせいにしないとやってられないもんな?
多分、ブライアンの事は後付けだ。
そう言っとけば、そこらへんにいる奴らとおんなじだもんな?
でも違う。十八歳の時、入隊試験を受けられなかった恨み、それだけだ。」

「私は・・・・お父様と同じ…騎士になりたかった…。
あの時は…冗談で言っただけなのに…試験も受けさせてもらえなかった…。
家に帰らされて…次の年も受験出来なかった。
不正を働こうとしたから二度と試験は受けられないって…。」

「ふぅ~ん、じゃあなんで下剤を持ってた?お前便秘なの?野菜足りてないんじゃないの?」

「便秘なんかじゃない!」

!」

「それは・・・」

「分かるよ、お前は少しでもライバルを消したかったんだよな?もし落ちたらお父様に嫌われちゃうかもしれないからな?」

「・・・・・・・」

「さあ、どうした?さっきまでの勢いはどうした?」

「・・・・・・・・・」

「別に話さなくてもいいよ、俺はいつまでも待つし。
何時間でも何日でも何年でも。
その代わりお前が正直に全て話すまで終わらない。
俺が、“ああそうだったんだ”って納得出来るまで続ける。
自分が悪かったんだと分かるまで続ける。
飯も食べていいし、身体も拭いていいし、トイレも行っていい。
常に俺がいるか、ここにいるシシリーの親友のミッシェルがな。
覚えてるだろ?試験、一緒だったもんな!
コイツはシシリーやられて俺以上に怒ってる。ヤバいぞ…。
ブライアンは無言でお前みたいに後ろから刺すかもな、顔も見たくないから。」

「私は・・・どうしても…騎士になりたかったの…」

「だったら試験に落ちても何回も挑戦すれば良かったんだ。
汚い手を使って合格しても何れボロが出る。自分が不正をしてこの場にいるって事に耐えられなくなる。

ファンハイド卿はお前の事をよく褒めていた。
娘には剣のセンスがあるんだと嬉しそうに言っていた。
その期待を潰したのはお前自身だ。」

「ごめん・・・なさい…。私・・・私…シシリー…さんを・・恨む事・・・でしか…生きる…気力…がなかった・・・。
ごめんなさい…ごめんなさい…
お父様・・・・ごめんなさい・・・・・」


「今日の尋問はこれで終わりです。」


キャシー・ファンハイドを地下の貴族牢に入れるようにドアの外にいた監視の二人に伝え、キャシーを拘束して取調室を出る時、

キャシーが俺達に頭を下げた。


すっかり毒が抜けてしまったキャシーは、一回り小さくなったように見えた。


ドアが閉まり、ラルスが、

「凄かったな、一人芝居の舞台見てるみたいだったわ。
俺、絶対エドの事、怒らせないようにしようって思ったわ。」

「私も途中から震えそうになりましたよ。
あの人、凄くないですか?
あれだけの殺気浴びて倒れないなんて。」

「ある意味勿体なかったな、騎士団に入ってたらシシリーやミッシェルと仲良くやれてただろうし、出世もしてただろうな…」

「それでも、俺はシシリーとブライアンを傷つけた事を許す事はない。」



最初の尋問はこうして終了した。










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