22 / 102
あの時の
しおりを挟むミッシェル視点
シシリーに調書に間違いがないか確認してもらってる最中、シシリーの顔を見ていた。
途中辛そうな顔になったが、すぐに続きを読み始め、捜査時のリーダーの顔になった。
調書をまとめるのには時間がかかった。
いつもならスラスラ書けるのに、これをシシリーが読むのかと思ったら、なるべく傷付かない言葉を選んでは書き直した。
書き直したものの、やはり心配だ。
シシリーをジッと観察していても落ち着いているようなので安心した。
「うん、問題ないよ。
ミッシェル、ありがとうね、ミッシェルの優しさが読んでて分かったよ。
忙しいのに大変だったでしょ?」
「いや、それほどでもないから気にしないで。」
「ミッシェルがいてくれて良かった。
私一人では立ち上がれなかったよ。
本当にありがとう。」
「だったら今度飲みに行こう!新しい飲み屋見つけたんだ!」
「うん、久しぶりに行こう!
じゃあ団長んとこ行くね。」
とシシリーが出て行くと、ヤコブが、
「ホント、仲良いっすね、お二人は。」
と言ってきた。
「そうだね~入隊試験から一緒だし、同期の女性騎士は私達しかいないしね。」
「リーダー達の試験、未だに語り継がれてますからね~。」
「何それ?知らないんだけど。」
「美女二人が入隊試験に来たうえ、実技試験でほぼ満点だったのは先輩達だけだって。
ちゃんとした人もいるけど、その頃試験受けにくるのって、ブライアン副団長目当ての女性が多かったから、余計目立ってたんですよ。副団長には目もくれず試験受けにきたから。」
「そうなの?知らなかった。そういえば一緒に受けてた女の子達は何しに来たんだろうって感じだったわ。私とシシリー、というかシシリーをやたらと敵視してた。
美人は大変だなって思ったもの。」
「実はそれ、後日談があるんです。」
「後日談?」
「副団長が入隊してから、副団長目当ての女子が多過ぎて、書類審査を厳しくしたり、控室は以前は男女一緒だったんですけど、男女別々にして、女子の控室には監視が付いてたんです。あ、覗きとかじゃなくて録音装置を置いたんですよ。
試験概要の書類をよーく読めばちゃんと書いてあるので、騎士になりたい人は気付きます。
でも副団長目当ての女子は試験概要なんかちゃんと読まない子がほとんどらしいんです。」
「あ!思い出した!そういえばそんな事書いてあった!なんだこれ?って思ったけど、そうなんだとしか思わなかったから気にしなかった。あれってそういう事だったんだ!」
「でしょ?だから気付かず結構やばい事言っちゃう子がいるんですよ、例えば、美人の女子にはお昼に出される食事に薬を盛って落としてやろうとか…。
そうです、お二人は狙われてたらしいですよ。お昼前に一度休憩ありますよね?
その時に女子二人が下剤を入れて実技試験で恥かかせてやるって会話がバッチリ録音されてたんです。
その後の筆記試験を受験生が受けてる時に録音を確認したらそんな会話が録音されていたから、すぐ誰と誰の会話で誰を狙っているのか特定に動いたそうです。
すると会話の女子の一人は、陛下の専属近衛のファンハイド卿の娘さんだったんです。
すぐ陛下に報告して、ファンハイド卿にその会話を聞いてもらって娘さんの声だと確認出来たんです。
試験を受けてる娘さんはバレてる事を知らないので、筆記試験が終わって昼食が配布され始めた時に、その下剤をポケットから出したんです。」
「それで?」
「隠れて見ていたファンハイド卿が娘さんをとっ捕まえて裏に連れてって説教した後、受験資格剥奪されて速攻帰宅させられたって話です。」
「知らなかった・・・そんな事があったなんて…。」
「裏では大騒ぎだったそうですよ、ファンハイド卿はブチ切れてるし、娘さんは泣き叫んでるし、そう言った意味でも先輩達の入隊試験は伝説級なんですよ。」
「言われてみればいたわ、キャシー・ファンハイド!気付けばいなかったから忘れてた。父親が近衛だから剣の腕はなかなかだったような気がする。よく知らないけど。」
「騎士には本気でなりたかったみたいですよ、カール先輩が言ってました。」
「よくそんな事知ってると思ったら、ネタ元はカールだったのか~。でも私達にはそんな話した事ないよ。」
「こんな話、ミッシェル先輩達には言えないでしょ。」
「ま、そうだけど。だけど、その子その後どうしたんだろ、騎士になりたかったんでしょ?」
「そこまでは知らないんですけど、何処の騎士団にもいないなら、もう諦めたんじゃないですか。」
「そう、勿体無いわね」
そんな話しをヤコブとした後、二人で執務室を出た時、ドレス姿の女性が廊下を歩いて行く姿が見えた。
たまに団員の家族が差し入れや忘れ物を届けにくる事もあるので、珍しいことではないが、なんとなく見覚えがある女性だったので、誰の奥さんだったかなと考えたけど思い出せなかった。
「今の誰の奥さん?」
とヤコブに聞いたら、
「さあ、分かりません。」
「そっか。じゃあ私、第二に戻るね。」
と言って第二番隊の執務室へ戻った。
書類仕事を第二リーダーのガースとしていた時、
「シシリーが刺された!」
と先輩団員が飛び込んできた。
リーダーと私はガタンと椅子を倒して立ち上がった。
「シシリーは?シシリーは無事なの?」
「副団長が医務室に運んで今は処置してる最中だ。刺した犯人は団長がすぐ捕まえて今、取調室にいる。ミッシェルはシシリーの所に早く行け!」
「犯人は誰なの!」
「女だ。まだ身元は分かってない。」
「女?」
さっきのドレスの女をふと思い出した。
「ドレス着てる女?」
「ああ、暴れたのかドレスは乱れて髪も乱れてたけど、どっかの令嬢っぽかったな。
赤い髪の女だ。」
「赤い髪…。さっき一番隊の執務室から出た時、すれ違った。てっきり誰かの奥さんなのかと思った…。」
「とにかくミッシェルは医務室に行け!」
とリーダーが言い、
「はい」
と答えながら医務室へ走った。
あの女・・・どこで会った…
走るのをやめてさっき見た女をどこで見たのか考えた。
どこかで会った…見覚えがある…赤い髪…。
あ、あの時見たんだ。
赤い髪の女…
ついさっき話してたのに思い出せなかった…。
キャシー・ファンハイド。
私は医務室には行かず、取調室に走った。
取調室の前に二人監視が付いていた。
「少し中に入らせて!中の女を知ってる。」
「ミッシェル、団長を待て。団長が自分で取調べをするそうだ。」
「あの女、ずっとシシリーを恨んでたのよ!許せない、今になってこんな事しやがって!」
「落ち着け、ミッシェル!中の女は誰だ!」
「キャシー・ファンハイドよ!ファンハイド卿の娘よ!」
「それは本当か、ミッシェル。」
振り返ると団長とラルス団長が立っていた。
団長は髪の毛が逆立ちそうな程の殺気を放っていた。
後ろのラルス団長も。
そして私も。
137
あなたにおすすめの小説
【完結】最愛から2番目の恋
Mimi
恋愛
カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。
彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。
以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。
そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。
王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……
彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。
その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……
※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります
ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、本人は登場しておりません
ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
月夜に散る白百合は、君を想う
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。
彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。
しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。
一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。
家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。
しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。
偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる