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あの時の
しおりを挟むミッシェル視点
シシリーに調書に間違いがないか確認してもらってる最中、シシリーの顔を見ていた。
途中辛そうな顔になったが、すぐに続きを読み始め、捜査時のリーダーの顔になった。
調書をまとめるのには時間がかかった。
いつもならスラスラ書けるのに、これをシシリーが読むのかと思ったら、なるべく傷付かない言葉を選んでは書き直した。
書き直したものの、やはり心配だ。
シシリーをジッと観察していても落ち着いているようなので安心した。
「うん、問題ないよ。
ミッシェル、ありがとうね、ミッシェルの優しさが読んでて分かったよ。
忙しいのに大変だったでしょ?」
「いや、それほどでもないから気にしないで。」
「ミッシェルがいてくれて良かった。
私一人では立ち上がれなかったよ。
本当にありがとう。」
「だったら今度飲みに行こう!新しい飲み屋見つけたんだ!」
「うん、久しぶりに行こう!
じゃあ団長んとこ行くね。」
とシシリーが出て行くと、ヤコブが、
「ホント、仲良いっすね、お二人は。」
と言ってきた。
「そうだね~入隊試験から一緒だし、同期の女性騎士は私達しかいないしね。」
「リーダー達の試験、未だに語り継がれてますからね~。」
「何それ?知らないんだけど。」
「美女二人が入隊試験に来たうえ、実技試験でほぼ満点だったのは先輩達だけだって。
ちゃんとした人もいるけど、その頃試験受けにくるのって、ブライアン副団長目当ての女性が多かったから、余計目立ってたんですよ。副団長には目もくれず試験受けにきたから。」
「そうなの?知らなかった。そういえば一緒に受けてた女の子達は何しに来たんだろうって感じだったわ。私とシシリー、というかシシリーをやたらと敵視してた。
美人は大変だなって思ったもの。」
「実はそれ、後日談があるんです。」
「後日談?」
「副団長が入隊してから、副団長目当ての女子が多過ぎて、書類審査を厳しくしたり、控室は以前は男女一緒だったんですけど、男女別々にして、女子の控室には監視が付いてたんです。あ、覗きとかじゃなくて録音装置を置いたんですよ。
試験概要の書類をよーく読めばちゃんと書いてあるので、騎士になりたい人は気付きます。
でも副団長目当ての女子は試験概要なんかちゃんと読まない子がほとんどらしいんです。」
「あ!思い出した!そういえばそんな事書いてあった!なんだこれ?って思ったけど、そうなんだとしか思わなかったから気にしなかった。あれってそういう事だったんだ!」
「でしょ?だから気付かず結構やばい事言っちゃう子がいるんですよ、例えば、美人の女子にはお昼に出される食事に薬を盛って落としてやろうとか…。
そうです、お二人は狙われてたらしいですよ。お昼前に一度休憩ありますよね?
その時に女子二人が下剤を入れて実技試験で恥かかせてやるって会話がバッチリ録音されてたんです。
その後の筆記試験を受験生が受けてる時に録音を確認したらそんな会話が録音されていたから、すぐ誰と誰の会話で誰を狙っているのか特定に動いたそうです。
すると会話の女子の一人は、陛下の専属近衛のファンハイド卿の娘さんだったんです。
すぐ陛下に報告して、ファンハイド卿にその会話を聞いてもらって娘さんの声だと確認出来たんです。
試験を受けてる娘さんはバレてる事を知らないので、筆記試験が終わって昼食が配布され始めた時に、その下剤をポケットから出したんです。」
「それで?」
「隠れて見ていたファンハイド卿が娘さんをとっ捕まえて裏に連れてって説教した後、受験資格剥奪されて速攻帰宅させられたって話です。」
「知らなかった・・・そんな事があったなんて…。」
「裏では大騒ぎだったそうですよ、ファンハイド卿はブチ切れてるし、娘さんは泣き叫んでるし、そう言った意味でも先輩達の入隊試験は伝説級なんですよ。」
「言われてみればいたわ、キャシー・ファンハイド!気付けばいなかったから忘れてた。父親が近衛だから剣の腕はなかなかだったような気がする。よく知らないけど。」
「騎士には本気でなりたかったみたいですよ、カール先輩が言ってました。」
「よくそんな事知ってると思ったら、ネタ元はカールだったのか~。でも私達にはそんな話した事ないよ。」
「こんな話、ミッシェル先輩達には言えないでしょ。」
「ま、そうだけど。だけど、その子その後どうしたんだろ、騎士になりたかったんでしょ?」
「そこまでは知らないんですけど、何処の騎士団にもいないなら、もう諦めたんじゃないですか。」
「そう、勿体無いわね」
そんな話しをヤコブとした後、二人で執務室を出た時、ドレス姿の女性が廊下を歩いて行く姿が見えた。
たまに団員の家族が差し入れや忘れ物を届けにくる事もあるので、珍しいことではないが、なんとなく見覚えがある女性だったので、誰の奥さんだったかなと考えたけど思い出せなかった。
「今の誰の奥さん?」
とヤコブに聞いたら、
「さあ、分かりません。」
「そっか。じゃあ私、第二に戻るね。」
と言って第二番隊の執務室へ戻った。
書類仕事を第二リーダーのガースとしていた時、
「シシリーが刺された!」
と先輩団員が飛び込んできた。
リーダーと私はガタンと椅子を倒して立ち上がった。
「シシリーは?シシリーは無事なの?」
「副団長が医務室に運んで今は処置してる最中だ。刺した犯人は団長がすぐ捕まえて今、取調室にいる。ミッシェルはシシリーの所に早く行け!」
「犯人は誰なの!」
「女だ。まだ身元は分かってない。」
「女?」
さっきのドレスの女をふと思い出した。
「ドレス着てる女?」
「ああ、暴れたのかドレスは乱れて髪も乱れてたけど、どっかの令嬢っぽかったな。
赤い髪の女だ。」
「赤い髪…。さっき一番隊の執務室から出た時、すれ違った。てっきり誰かの奥さんなのかと思った…。」
「とにかくミッシェルは医務室に行け!」
とリーダーが言い、
「はい」
と答えながら医務室へ走った。
あの女・・・どこで会った…
走るのをやめてさっき見た女をどこで見たのか考えた。
どこかで会った…見覚えがある…赤い髪…。
あ、あの時見たんだ。
赤い髪の女…
ついさっき話してたのに思い出せなかった…。
キャシー・ファンハイド。
私は医務室には行かず、取調室に走った。
取調室の前に二人監視が付いていた。
「少し中に入らせて!中の女を知ってる。」
「ミッシェル、団長を待て。団長が自分で取調べをするそうだ。」
「あの女、ずっとシシリーを恨んでたのよ!許せない、今になってこんな事しやがって!」
「落ち着け、ミッシェル!中の女は誰だ!」
「キャシー・ファンハイドよ!ファンハイド卿の娘よ!」
「それは本当か、ミッシェル。」
振り返ると団長とラルス団長が立っていた。
団長は髪の毛が逆立ちそうな程の殺気を放っていた。
後ろのラルス団長も。
そして私も。
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