帰らなければ良かった

jun

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怒り エドワード視点

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イーグル騎士団に三人で向かっている途中、急に悲鳴が上がった。

振り返ると、真っ赤に染まったナイフを手に、逃げようとしている令嬢と、膝をついているシシリーが見えた。

ブライアンがシシリーに駆け寄るのと、俺が令嬢を取り押さえる為に走り出すのは同時だった。

ブライアンがシシリーの背中を止血しながら医師を呼べと叫んでいる横を通りすぎ、令嬢を捕まえた。
力加減なんか出来るはずもなく、力任せに床に押さえつけた。

「殺人未遂の現行犯で逮捕する。」
と大声で言った後、女の耳元で、
「もしシシリーが死んだら、ただじゃおかない」と小声で言った。

「私…私はブライアン様を誑かしたあの女が許せなかったのよ!」

「テメェの話しは後でじっくり聞いてやる。今はその口閉じないとお前を殺しそうだ」

「ヒィ…」
と小さく息を飲んだ後、口を閉じた。

バタバタと人が集まってきたので、

「犯人は捕まえた。目撃していたそこの女性達は話しを聞きたいのでファルコン騎士団まできて欲しい。そこのイーグルの団員、手を貸してくれ。俺はこの女を連れて行くから、そこの女性達を俺の執務室に連れて行ってくれ。ラルスにも報告頼む。」

駆けつけてくれたイーグルの団員数名に手を貸してもらい、その場の対応と目撃者の誘導を頼んだ。

シシリーの容体も気になるが、この女の取調べをしなくちゃならない。

なんでこうもあの二人ばかりが、こんな目にあうんだ。

怒りで血管が切れそうだ。

ファルコン騎士団が近付くと、俺の形相と髪やドレスを乱し、拘束されている女を見て、団員達が駆け寄ってくる。

「団長!何があったんですか!」

「シシリーがこの女に刺された。ブライアンが医務室に運んでる。
この女は俺が取り調べる。取調室に拘束して入れとけ。監視も忘れるな。
俺は目撃者の話しを聞いてからそっちに行く。後、ミッシェルにシシリーの事を報告してくれ。」

ミッシェルは泣くだろうな…

数日でこうも状況が悪くなるなんて想像もしていなかった。

きっかけは自分の事しか考えてない女の嫉妬だ。

ナタリアもフランシス嬢もこの女もベルも全員シシリーへの嫉妬からだ。

シシリーが何をした?
ブライアンが何をした?

さっきまでブライアンは笑っていた。
シシリーはカールを心配し、
ブライアンのトラウマを心配していた。

やっともう少しで落ち着くと思っていたのに。

「痛い!」

後ろ手で掴んでいた女が声を出した。

怒りで力が入り過ぎたのか女の腕が白くなるほど掴んでいた。

部下に渡し、

「連れて行ってくれ、本当に殺しそうだ…」

そこにいた団員達も殺気立っている。

仲間が刺されたのだ、それもシシリーがだ。

殺気立った男達に囲まれた女は顔を青くして震えている。

「ファルコンの騎士を殺そうとしたんだ、これくらいの殺気で倒れるなよ。
後で俺が行くまで震えながら待ってろ。」

後ろにいた目撃者の女性達も震えていた。

イーグルの団員も気付けば殺気を放っていた。

シシリーは来月からイーグルの騎士になる予定だったのだ。
少しずつ慣れるようにと週に一度、イーグルに行き、他の団員と交流してきていた。

ここにいる者達もシシリーと仲良くしてくれたのだろう。

「済まないな、忙しいのに付き合わせて。
俺の執務室はあそこだ。」

「いえ、シシリー一番隊リーダーは以前からイーグルの皆にも分け隔てなく接してくれていました。
これくらいの事はさせて下さい。」

「ありがとう。じゃあ彼女達をあの部屋へ連れて行ってくれ。」

俺の執務室に女性達を入れて、応接セットのソファに座らせた後、帰っていった。

俺が向かい側のソファに座った時、イーグルの団長、ラルス・リルマグがノックもせずに入ってきた。

「エド、シシリーは?」

「ラルス、落ち着け。シシリーは今医務室にいる。ブライアンが付いてるから後で報告しに来るだろう。
この人達はあの場にいた目撃者だ。
犯人は取調室に入れてある。」

「エド、取調べは誰が?」

「俺がやる」

「お前、少し休め。人を殺しそうな顔だ。俺がやっとくから少しだけ休め。」

「ダメだ、俺がやらないと。
あの女が何を言うのか聞かなきゃならない。

もうすぐ幸せになるはずだった二人をここまで傷付けた女達の汚い言葉を、醜い顔で吐く様を、この目で見て、頭に焼き付ける。
そしてその腐った考えを二度とさせない為に俺がとことん追い詰める。」

「待て待て、目の前に女性がいるんだから殺気を出すな。
とりあえず俺も同席するから、この方達の話しを聞こう。」

怯えている女性達をラルスが丁寧に質問し、話しやすいよう誘導していき、俺とブライアンの後ろを歩いていたシシリーに何があったのかが分かった。

ほんの一瞬の事だったらしい。

俺達の後ろを少し離れて歩いていたシシリーは、俺達の背中を微笑みながら見ていたそうだ。

目の前にいる女性の一人がシシリーのファンだったらしく、ずっとシシリーを見ていた。

シシリーは、何故か俺達を見ながら嬉しそうに微笑んでいて、見ているこっちも微笑んでしまったそうだ。

その時、視界の隅に俺達の方へ走ってくる女性が目に入った。
何をそんなに急いでるのだろうと思い、ずっと見ていたら、シシリーのすぐ近くに来た時、その女性がナイフを持っている事に気付いたが、あっ!っと思った時には、シシリーが刺されていたそうだ。

刺した女は、体当たりするように刺した後、刺したナイフを抜き、逃げようとした所を俺に捕まったという事だった。
その女性は、
「ずっと見ていたのに、シシリー様を助ける事が出来ませんでした…。
申し訳ございません・・・」
と泣きながら頭を下げた。

「いえ、貴女方に怪我がなくて良かったです。よく見ていてくれました。
ありがとうございます。」
と俺も頭を下げた。

また話しを聞くかもしれないので、名前と職場を聞いて、部下に送らせ、お引き取り頂いた。

「ラルス、ありがとう。お前がいてくれて助かった。俺では怯えて話してくれなかっただろう。」

「お前、さっきの顔酷かったぞ。あれでビビらない方が怖いわ。
それよりシシリーの様子見てこい。
ブライアンの事も心配だ。
俺はここにいて、何かあったら対応する。」

「済まん、頼む。」

ラルスに残ってもらい、医務室へ走った。


医務室に入ると、シシリーは奥の処置室にいて、まだ出てきていないらしい。
ブライアンは俯いたまま椅子に座っていた。

「ブライアン、大丈夫か?」

「団長・・・」

「あの女は取調室にいる。この後俺が取調べる。目撃者からは話しを聞いた。
お前はシシリーについててやれ。
ミッシェルは来なかったか?」

「ミッシェルはまだ来てません…。」

「ブライアン、しっかりしろ!シシリーは騎士だ。そこらへんの令嬢とは違う。
だから大丈夫だ。前からじゃなく後ろから、それにシシリーよりも小さい女だった。
心臓には届かなかっただろう。
力もない令嬢だ。
だからシシリーは死なない。
分かったな!」

「…はい。ありがとうございます、団長…。」

「次から次としんどいだろうが、踏ん張れよ!ラルスが手伝ってくれてるからお前はシシリーに付いててやれ。
シシリーの様子が分かったら、誰でもいいから俺に報告して欲しい。

ブライアン、こっちを見ろ。」

ブライアンは正気のない顔で俺を見た。

「ブライアン、俺はお前を弟のように思っている。
その弟をこんな姿にしやがった女は俺がキッチリ締めてやる。
必ずお前達を笑顔で結婚させてやる。
だからお前もシシリーの為に、しんどくても頑張って踏ん張れ!分かったな?
じゃあ、また後で顔を出すからな。」

「団長…ありがとう…ございます。
俺、踏ん張ります。」

ブライアンの目に力が戻ったのを確認して医務室を出た。


殺気は治っていたが、今からはあの女の所だ。存分に殺気を放ってから行こう。

ラルスも連れて行こう。
そして団長クラス二人の殺気を浴びせ続けよう。
泣こうが喚こうがチビろうが関係ない。

容赦なんかしない。














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