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突然
しおりを挟むミッシェルが作成した調書を読み、問題ない事を確認した後、団長の執務室に戻った。
団長とブライアンが雑談しながら私を待っていてくれた。
「すみません、お待たせしました。」
「いや、俺達もさっき終わったところだ。
シシリーは問題なかったか?」
「はい。ミッシェルの調書に問題はありませんでした。
でも、ヤコブが今回の事で副リーダーを辞退したいと言ってきました。
なんとか納得させましたが、団長からも少しヤコブと話してもらってもいいですか?」
「分かった。後でヤコブと話してみよう。
ヤコブが今回の件に関わってなくて良かった。多少ナタリアに話してしまった事もあるが、問題ない程度だったようだし、副リーダーにしても問題はないだろう。」
「私もヤコブには問題ないと思います。
ですが、やっぱり気にしていて…。
カールの事も気にしていました…。」
「カールか・・・・。
カールの話しも聞きたいんだがな…。」
「カールはまだ意識は戻らないんですか?」
「まだだ。血を流しすぎた。体力があったからなんとか持っているが、いつ容体が急変してもおかしくないらしい。」
「そう…ですか…」
あの日、ブライアンと一緒に手を繋いで帰る途中、カールに会った。
カールを見たのはあの時が最後だ。
あの時、カールの態度は変だった。
カールがどんな顔をして話していたのか覚えていない。
どんな顔で私達を見ていたのだろう。
最近カールを飲みに誘っても断られることの方が多かった。
忙しいからという理由に、疑問も思わず、鵜呑みにしていた。
カールが忙しいなら私も忙しいはずなのに。
浮かれていた私を、カールはどんな顔で見ていたのだろう。
毎日カールは私と一緒に仕事をして、他愛のない会話をして笑っていた。
ランチや飲み会をどんな気持ちで断っていたんだろう…
なのに私はしつこく誘っていた…。
大事な友達を苦しめていたのは自分だった。
「シシー、大丈夫か?」
ブライアンが心配そうな顔で聞いてきた。
気を取り直し、
「大丈夫。それよりブライアンは大丈夫だった?気分悪くならなかった?」
「シシーも団長と同じ事を言うんだな、俺は大丈夫だよ。」
とブライアンは微笑んだ。
顔色も悪くない。
良かった。
改めて文章にされて今回の事を一から確認するのは正直辛かった。
でも、ミッシェルが言葉を選んでくれたおかげで、生々しい行為を想像する事はなかった。
きっと団長もそうしてくれたのだろう。
二人の優しさに感謝した。
「じゃあラルスの所に行こうか。」
「団長、俺も行って良いですか、挨拶しておきたいです。今回の事で俺が一番迷惑かけているので。」
「そうだな、ラルスもお前の事を気にしていた。
顔を見せておいた方がいいだろう。シシリーはそれでいいか?」
「私はブライアンが良いのであれば大丈夫です。」
「じゃあ三人で行こう」
三人が連なりイーグル騎士団へ向かった。
途中、団長やブライアンを見てコソコソ話している女性職員達。
ブライアンは美形なので分かるが、団長もブライアンとは違うタイプの美形なので、女性人気はブライアンの次にある。
独身なのも人気の理由だろう。
だから二人が並んで歩く姿は、一見の価値がある。
私ですら拝みたくなるほどだ。
後ろから二人を眺めていたら、急に背中に何かが当たった。
何?と思ったら、背中に痛みが広がった。
「キャーーーーーーー」
と悲鳴が聞こえた。
あまりの痛みに膝をついた。
「シシリー!」
ブライアンが駆け寄り、私を横向きに寝かせ、団長は私の横を走り抜けて行った。
「シシリー、シシリー、大丈夫か、今止血する!誰か、誰か医務室の先生を連れてきてくれ!シシリーが刺された!」
「ブライアン…誰が…」
「喋るな!刺したのは何処かの令嬢のようだが分からない。団長が取り押さえた!
早く、誰か、クソッ、シシリー、痛いだろうが我慢してくれ、俺が運ぶ!」
誰も足が動かないのか、医師を呼びに行かないので、ブライアンは私を抱き上げ走り出した。
「シシリー、シシリー、ごめん、痛いよな、もう少しだから我慢して!」
ブライアンが泣きそうな顔で話しかけていた。
「シシリー、シシリー、ダメだ、目を開けて!シシリー、お願い、目を開けてくれ!」
遠くでブライアンの声が聞こえていたが、何を言ってるのか分からなくなり、私は意識を失くした。
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