帰らなければ良かった

jun

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俺の弟は有名人だ。子供の頃からだ。
弟の名前は、ブライアン・ハワード。
母に似て、美形だ。
俺は父親似だが、ブライアンとはタイプの違う美形なんだそうだ。
顔なんかどうでもいい。

俺と弟は三歳違いで、弟が生まれた時の事はハッキリ覚えている。

小さな小さな手をギュッと握り、フニャフニャで赤い顔をして泣いていた。
見た事のない生き物だったので、恐る恐る手を出した。

ほっぺに触ろうとしたのに、ズレてしまい口元に手を出してしまった。
すると俺の指をチュウチュウ吸い出した。

その衝撃たるや!
俺の指を吸い続ける弟が、その日から可愛くて可愛くてたまらなくなった。
だから俺は兄として弟を守ってきた。

いつもメイド、侍女などの女性達、外に出れば寄ってくる女共から俺は弟を庇い続けた。

そしてあの日、あの女に会った。

母に連れられ、ユンゲン伯爵家のお茶会に参加した。ブライアンもだ。

そして、ナタリア・ユンゲルに出会った。
ナタリアはブライアンを見て固まった。

大概同じ位の歳の女の子はこうなるので、いつもの事だと思っていた。
でも、この時のナタリアはねっとりした目でブライアンを見つめ、ブライアンを捕まえて閉じ込めそうな勢いで近付いてきた。

ブライアンは母の後ろに隠れ、俺はブライアンの前に出た。

俺達が挨拶しても上の空でブライアンだけを見ていた。
ナタリアの弟は可愛らしく俺とブライアンと遊びたがったが、ナタリアが邪魔で遊べなかった。

この時、俺とナタリアが10歳、ブライアンは7歳、ヤコブが3歳になったばかりだった。

この日からナタリアは我が家に遊びに来るようになった。
ヤコブを俺に押し付け、ナタリアはブライアンを追いかけ回した。

俺はそれからブライアンをナタリアから守る為にはどうすればいいか考えた。

ブライアンが学園に入学するまで、九年もある。

入学してしまえば寮に入れるが、その前に俺がこの家からいなくなる。寮に入るから。
俺が学園に入学したらブライアンを守れない…。


どうする?


子供では限界がある。
なので母に相談した。
母もナタリアを好きではないようだったから。
母に、俺が寮に入ってしまったらブライアンをナタリアから守れない、どうしたらいいか聞いてみた。

ニールが入学したら、ブライアンはお祖父様の所へ預けようと母は言った。
祖父は、昔、騎士団に入っていたので、次男のブライアンを騎士にしてはどうだと言われていたみたいだ。

でも、祖父の所へも行きそうなナタリアを止まらせる為には・・・

「母さん、俺とナタリアを婚約させて下さい。俺と婚約したらブライアンには手を出せない。俺ならアイツを上手くいなせるから。」
とお願いした。

母は大反対だった。
そんな事許せない、俺を犠牲にするような事をしたらブライアンは悲しむ、
挙句に、
あんな嫁、いや!
と嫌がって話しを聞いてもらえなかった。

何度も何度も母にお願いしてる間にも、ナタリアはナタリアでブライアンと婚約しようと、ユンゲル伯爵にお願いしているようだ。

その頃のナタリアは本当に気持ち悪くて、ブライアンは心の底から嫌っていた。
ナタリアが家に来た時は鍵をかけて部屋から出なかった。

それでもドンドンとブライアンの部屋のドアを叩き、開けてと騒いで、とうとうブライアンは寝込んでしまった。

そんな姿を見て、母はようやく父に相談した。

父もナタリアを俺の婚約者にするのは反対だったが、俺と婚約しないとブライアンが狙われると力説し、やっとユンゲル家に婚約の話しを持っていった。

そこからがまた大変だった。
ナタリアがブライアンじゃなきゃ嫌だとゴネ始めた。
当たり前だ、ブライアンと婚約したくてここ数年は通い詰めたのだから。

ナタリアの両親も娘の執着に手を焼いていたので、俺との婚約はまたとないチャンスだった。

そうこうしてる間に俺とナタリアの入学が近付いてきたので、入学する前に婚約を、となり婚約した。

これでブライアンと婚約する事は出来なくなり、ナタリアは荒れた。
俺は何を言われても無視していたので痛くも痒くもなかった。
それがまたナタリアの怒りを買い、ブライアンへの執着に繋がってしまったが、先の事を考えて、これで良かったと思った。

ブライアンは祖父の家に行き、剣の腕を上げていった。

ナタリアは祖父の家まではさすがに行けず、癇癪を起こしていたが、好きに怒らせていた。

そして学園を卒業し、結婚した。


ブライアンは祖父の所から学園へと入学した。
結婚式には出席したが、俺達の所には来なかった。
手紙は何度も寄越してきた。
内容は、俺への謝罪でいつも終わっていた。

弟は何も悪くないのに毎回俺に謝っていた。
悪いのはナタリアだ。

俺はナタリアの事は嫌いだが、ブライアンほどではない。
だから普通に夜もナタリアと子作りをこなしていた。
だが、子供は出来なかった。

おそらく避妊薬を飲んでいたのだろう。

どっちでもいい。
出来なければブライアンの子供に継がせればいいのだから。

結婚してからのナタリアは帰ってこないブライアンに痺れをきらしていたが、どうしようもない。
そのストレスを発散する為か、お茶会やら夜会やらによく参加していた。
俺が行けない時はヤコブにお願いしていたようだ。

そしてある令嬢とよくいるようになった。

フランシス・イザリス公爵令嬢だ。

俺でも知ってるブライアンの熱烈な追っかけだ。

子供の頃、イザリス家のお茶会に行った事がある。
その時のフランシスはナタリアと同じく、ブライアンを見て固まっていた。

フランシスの兄は俺の友人だ。
テリーズはフランシスがブライアンへ執着している姿が、ナタリアに似ていて怖いと言い、俺の家には来るが決して自分の家に俺達を呼ぶ事はしなかった。

なのでナタリアほどではないが、要注意人物だったのに、ナタリアと連み始めたのだ。

悪い予感しかしない。


そしてフランシスはシシリーを狙い、ナタリアもシシリーに狙いを定めた。

だが、狙いは外れ、ブライアンに傷を付けた。
あんな女と結婚までして弟を守ろうとしたのに、ナタリアはブライアンの身体が震えるほどのトラウマを植え付けた。

ブライアンから聞いた話しは、普通の令嬢や夫人がやる事ではない。
悪質極まりない。

もうあの女には関わらない。
ハワード家の総意だ。

どんなに謝っても、縋っても、

許す気はない。

ブライアンは最愛のシシリーに自分の痴態を見られたのだ。

どんな女性にも見向きもしなかったブライアンが初めて好きになった、何よりも大切な女性。

両親にも俺にも気を遣い、優しく明るい美しいシシリーにも、ナタリアは傷を付けた。


ナタリアのした事を証明するのは難しいだろう。

でも、俺は証拠を持っている。

無意識の独り言。
日記。
買い物の領収書。
ナタリアの一日の行動記録。
フランシスとの会話。

結婚してからずっと記録できる事は全て記録、録音してきた。

中身を確認はしていない。

何かあった時に出そうと思っていた。

その為に結婚したのだから。



そう、俺は立派な“ブラコン”だ。

指を吸われた時から、俺の大事な弟なのだから。








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