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親友
しおりを挟む私はミッシェル・リーガル。一応子爵令嬢で、今はファルコン騎士団二番隊副リーダーだ。
私とシシリーは同期入隊だ。
入隊試験の時、シシリーは試験を受けに来てた男ほとんどがシシリーを見ていたのに、それには気付かず、キョロキョロした後、私を見た。
女子がいないか探していたんだろう。
私に駆け寄り、
「良かった、女子がいなくて心細かったの。」
と綺麗な微笑みでそう声をかけてきた。
それから一緒に試験を受けた。
実技試験のシシリーは圧巻だった。
他に受けていた女子達は
「あんな見た目だけの人に負けるはずがない」と嫌味を言っていた。
シシリーは、
「ヤダ、ミッシェル、負けないで!私も頑張るよ!」
と自分が言われてるのに私が言われてると思ったのか、そう言って怒っていた。
あまりの天然発言に笑ってしまった。
そして実技をみた女子達は何も言えなくなり、男子はさらにシシリーへ熱い視線を送っていた。
その時の試験官がエドワード団長だった。
私の憧れの人だ。
子供の頃から騎士になりたかった私は、よく文官だった父親に我儘を言って騎士団の姿を見たくて王宮へ連れて行ってもらった。
遠くからでも騎士団の訓練を見れるのが嬉しかった。
十六歳の時に初めて団長を見た私は、凛々しくて逞しい姿に一目惚れした。
だからどうしてもファルコン騎士団に入りたかった。
がむしゃらに鍛錬し、ようやく騎士団の入隊試験を受ける事が出来た。
シシリーの天然さで、緊張する事もなく実技もいつも以上の力を出せた。
そして私とシシリーは無事入隊試験に合格した。
嫌味を言ってた女子達は誰も残らなかった。
後で聞いたら、ブライアン副団長が目当てだったらしい。
そして私とシシリーは毎日訓練と任務を繰り返し、気付けばシシリーは一番隊リーダー、私は二番隊副リーダーになっていた。
入隊して私達の指導官がカールだった。
私達の二年先輩で、面倒見が良く、明るくて優しい先輩だった。
いつの間にかいつも三人で行動するようになったが、カールがシシリーを好きな事はすぐ分かった。
隠しているつもりなのが面白くて、二人がくっ付いたら良いなと思っていたが、シシリーが全くカールを男性として見ていなかったから、少し気の毒だった。
私はこっそり団長を眺めては悦に入っていたがカールにはバレていた。
シシリーはな~んにも気付いてなかった。
私もカールも報われない想いを抱えて毎日を送っていたある日、シシリーが、
「ブライアン副団長って面白い人だったんだね」
と楽しそうに私とカールに話してきた。
その時のカールの顔は、ヤバいって顔だったのを覚えてる。
ブライアン副団長の人気は凄まじかったのに、シシリーは存在は知っていても興味がないのか今まで一度もブライアン副団長の事を口にした事はなかった。
カールはそんなシシリーが好きだったんだろう、でもシシリーはブライアン副団長を明確に記憶してしまった。
カールはそれからはあからさまにシシリーに好意を示していったが、遅かった。
ブライアン副団長もシシリーを意識し始めていた。
視線はいつもシシリーだった。
そして、カールでも副団長でもない人もシシリーを見ていた。
エドワード団長だ。
カールや副団長と熱量は違ったが、団長は執務室の窓からシシリーを見ていた。
“あ~やっぱり”と思った。
だって私も男だったらシシリーを好きになる。
見た目じゃない。
シシリーの性格や仕事への姿勢、仲間や部下への態度、そして剣の腕。
少しだけ、ほんの一瞬だけ“シシリーばっかり”と思ったが、シシリーが率先して誘惑したわけではないのだ、シシリーが誰と付き合おうと私達は親友だと思った。
シシリーは副団長を好きになった。
だけど身分違いではないかと悩んでいた。
副団長を好きな令嬢達に嫌味を言われていた事を気にしていた。
落ち込むシシリーを見ていられず、複雑な心境のカールと、私で背中を押した。
そして二人は付き合うようになったが、段々カールはシシリーから距離を取るようになった。
でも副リーダーのカールは中途半端なその距離とシシリーの今までと変わらないカールへの態度に、諦めきれない気持ちで辛そうだった。
私の団長への気持ちは、もうただの憧れだけになっていたし、仕事の忙しさでシシリーが嫌がらせをされていた事など全く気付かなかった。
確かに短い期間で制服を新しい物に変える事が度々あった。
「訓練でダメにしてしまった。」
「犯人確保の時に切られた」
と言っていたが、その時制服を切られていたのだろう。
ある日、仕事が終わりシシリーを誘って飲みに行こうと誘いに行ったらカールが執務室の前に立っていた事があった。
「何してんの?シシリーは中?」
「シシリー、具合悪くて仮眠室で横になってるんだ」
と少し怒ったように言うカールに、
「え、大丈夫なの?」
と言って中に入ろうとしたら、カールに腕を掴まれた。
「何?」
「今は寝てる。少し眠らせてやれ」
と珍しく強い口調で言われた。
「カールはここで何してんのよ、中に入ればいいじゃない!」
「シシリーは一応女性だ。男の俺がいるのは悪いだろ。副団長にも悪いし。」
「あ、そう。飲みに行こうって誘いに来たけど今日は帰るわ、じゃあね」
と言って帰った。
この時シシリーは媚薬を盛られ、苦しんでいたんだろう。
どうしてもっと追求しなかったんだろう。
あの時のカールは変だったのに。
気付いてたらカールは今もシシリーの片腕としてここにいたはずだ。
何度も違和感はあったのに…どうして気付かなかったんだろう…。
カールが日に日に暗い顔になっていたのに。
私達と飲みに行かなくなったのに。
カールの意識はまだ戻らない。
意識が戻ってももうここに戻ってくる事はない。
シシリーは親友だが、カールだって大事な友達だったのに助けてあげられなかった…。
した事は許せないが、近くにいた私ならこうなる前に助けてあげられたのに…。
気分が沈みそうになった時、ドアがノックされた。
「ミッシェル、シシリーよ。」
と親友の声がした。
「待ってた。入って。」
シシリーの調書は大体出来ている。
後はシシリーに確認してもらうだけだ。
これが終わったら、新しい飲み屋を探しに行こう。
もうあの店には行かないから。
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