帰らなければ良かった

jun

文字の大きさ
18 / 102

親友

しおりを挟む


私はミッシェル・リーガル。一応子爵令嬢で、今はファルコン騎士団二番隊副リーダーだ。
私とシシリーは同期入隊だ。
入隊試験の時、シシリーは試験を受けに来てた男ほとんどがシシリーを見ていたのに、それには気付かず、キョロキョロした後、私を見た。
女子がいないか探していたんだろう。
私に駆け寄り、
「良かった、女子がいなくて心細かったの。」
と綺麗な微笑みでそう声をかけてきた。

それから一緒に試験を受けた。
実技試験のシシリーは圧巻だった。

他に受けていた女子達は
「あんな見た目だけの人に負けるはずがない」と嫌味を言っていた。

シシリーは、
「ヤダ、ミッシェル、負けないで!私も頑張るよ!」
と自分が言われてるのに私が言われてると思ったのか、そう言って怒っていた。

あまりの天然発言に笑ってしまった。

そして実技をみた女子達は何も言えなくなり、男子はさらにシシリーへ熱い視線を送っていた。

その時の試験官がエドワード団長だった。

私の憧れの人だ。
子供の頃から騎士になりたかった私は、よく文官だった父親に我儘を言って騎士団の姿を見たくて王宮へ連れて行ってもらった。
遠くからでも騎士団の訓練を見れるのが嬉しかった。

十六歳の時に初めて団長を見た私は、凛々しくて逞しい姿に一目惚れした。

だからどうしてもファルコン騎士団に入りたかった。
がむしゃらに鍛錬し、ようやく騎士団の入隊試験を受ける事が出来た。

シシリーの天然さで、緊張する事もなく実技もいつも以上の力を出せた。

そして私とシシリーは無事入隊試験に合格した。
嫌味を言ってた女子達は誰も残らなかった。
後で聞いたら、ブライアン副団長が目当てだったらしい。

そして私とシシリーは毎日訓練と任務を繰り返し、気付けばシシリーは一番隊リーダー、私は二番隊副リーダーになっていた。

入隊して私達の指導官がカールだった。
私達の二年先輩で、面倒見が良く、明るくて優しい先輩だった。

いつの間にかいつも三人で行動するようになったが、カールがシシリーを好きな事はすぐ分かった。
隠しているつもりなのが面白くて、二人がくっ付いたら良いなと思っていたが、シシリーが全くカールを男性として見ていなかったから、少し気の毒だった。

私はこっそり団長を眺めては悦に入っていたがカールにはバレていた。
シシリーはな~んにも気付いてなかった。

私もカールも報われない想いを抱えて毎日を送っていたある日、シシリーが、

「ブライアン副団長って面白い人だったんだね」
と楽しそうに私とカールに話してきた。

その時のカールの顔は、ヤバいって顔だったのを覚えてる。
ブライアン副団長の人気は凄まじかったのに、シシリーは存在は知っていても興味がないのか今まで一度もブライアン副団長の事を口にした事はなかった。

カールはそんなシシリーが好きだったんだろう、でもシシリーはブライアン副団長を明確に記憶してしまった。
カールはそれからはあからさまにシシリーに好意を示していったが、遅かった。

ブライアン副団長もシシリーを意識し始めていた。
視線はいつもシシリーだった。
そして、カールでも副団長でもない人もシシリーを見ていた。

エドワード団長だ。

カールや副団長と熱量は違ったが、団長は執務室の窓からシシリーを見ていた。

“あ~やっぱり”と思った。

だって私も男だったらシシリーを好きになる。
見た目じゃない。
シシリーの性格や仕事への姿勢、仲間や部下への態度、そして剣の腕。

少しだけ、ほんの一瞬だけ“シシリーばっかり”と思ったが、シシリーが率先して誘惑したわけではないのだ、シシリーが誰と付き合おうと私達は親友だと思った。

シシリーは副団長を好きになった。
だけど身分違いではないかと悩んでいた。
副団長を好きな令嬢達に嫌味を言われていた事を気にしていた。
落ち込むシシリーを見ていられず、複雑な心境のカールと、私で背中を押した。
そして二人は付き合うようになったが、段々カールはシシリーから距離を取るようになった。
でも副リーダーのカールは中途半端なその距離とシシリーの今までと変わらないカールへの態度に、諦めきれない気持ちで辛そうだった。
私の団長への気持ちは、もうただの憧れだけになっていたし、仕事の忙しさでシシリーが嫌がらせをされていた事など全く気付かなかった。
確かに短い期間で制服を新しい物に変える事が度々あった。
「訓練でダメにしてしまった。」
「犯人確保の時に切られた」
と言っていたが、その時制服を切られていたのだろう。

ある日、仕事が終わりシシリーを誘って飲みに行こうと誘いに行ったらカールが執務室の前に立っていた事があった。

「何してんの?シシリーは中?」

「シシリー、具合悪くて仮眠室で横になってるんだ」
と少し怒ったように言うカールに、

「え、大丈夫なの?」
と言って中に入ろうとしたら、カールに腕を掴まれた。

「何?」

「今は寝てる。少し眠らせてやれ」
と珍しく強い口調で言われた。

「カールはここで何してんのよ、中に入ればいいじゃない!」

「シシリーは一応女性だ。男の俺がいるのは悪いだろ。副団長にも悪いし。」

「あ、そう。飲みに行こうって誘いに来たけど今日は帰るわ、じゃあね」

と言って帰った。

この時シシリーは媚薬を盛られ、苦しんでいたんだろう。
どうしてもっと追求しなかったんだろう。
あの時のカールは変だったのに。
気付いてたらカールは今もシシリーの片腕としてここにいたはずだ。

何度も違和感はあったのに…どうして気付かなかったんだろう…。
カールが日に日に暗い顔になっていたのに。
私達と飲みに行かなくなったのに。



カールの意識はまだ戻らない。

意識が戻ってももうここに戻ってくる事はない。

シシリーは親友だが、カールだって大事な友達だったのに助けてあげられなかった…。

した事は許せないが、近くにいた私ならこうなる前に助けてあげられたのに…。


気分が沈みそうになった時、ドアがノックされた。


「ミッシェル、シシリーよ。」

と親友の声がした。

「待ってた。入って。」


シシリーの調書は大体出来ている。
後はシシリーに確認してもらうだけだ。



これが終わったら、新しい飲み屋を探しに行こう。

もうあの店には行かないから。













しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】最愛から2番目の恋

Mimi
恋愛
 カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。  彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。  以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。  そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。  王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……  彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。  その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……  ※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります  ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、本人は登場しておりません  ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります  

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

月夜に散る白百合は、君を想う

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。 彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。 しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。 一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。 家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。 しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。 偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

処理中です...