帰らなければ良かった

jun

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義妹

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ラルス視点

俺の目の前にいるフランシス・イザリスは俺の奥さんの妹、つまり義妹だ。

奥さんの名前は、クララ・リルマグ。
十五歳の時に婚約し、十八歳で結婚した。
本当はもっと遅くに結婚しても良かったが、父親が病気になり、長男の俺が結婚して侯爵家を継いで欲しいと言われてしまえば結婚するしかなかった。
我儘を言えば、結婚はしたくなかったが。
まあ、クララとは上手くいっていたので、結婚しても問題なかった。
嫌だったのは、この女だ。

先ず、リルマグ家とイザリス家との結婚は我が家所有の山から良質なエメラルドが採れる事が分かり、その採掘、加工、流通、のうち、一番重要な流通を一手に引き受けているのがイザリス家だ。
イザリス家が所有するナポリ商会は王都一を誇るほどだ。
その繋がりを失くさない為の結婚。
俺は騎士団に入る事になっていたので、最初は弟とフランシスが婚約し、リルマグ家を継ぐ予定だった。
俺は騎士といういつ何があるか分からない立場になるので、家は弟が継ぎ、年齢の合うフランシスと婚約という話しだった。

なのにフランシスは、絶対婚約なんかしないと駄々を捏ねまくった。
そこまで言うなら、もう別の商会に頼めばいいのではと父に言ってみた。
父もそんなに嫌がってる相手と息子を結婚させても幸せにはならないと思い、婚約の話しは無かった事にしたいとイザリス家に伝えると、何故かイザリス家は頷かない。
家の良質なエメラルドは他国からも人気があり、商会はどうしてもその宝石を自分の所で売りたいらしい。
だったら娘を説得しろよと思っても、娘の事は諦めているのか全く娘を説得しない。
だったら、長女も婚約者はいないから俺と婚約しては?と言ってきやがった。
いやいや、家を継ぐのは弟だから。
俺はすでに騎士科を選択して学園に通っている。
弟は家を継ぐ為の勉強をし、学園は経営科に進む予定なのにだ。
弟は、
「俺は文官になっても良いから、兄さんが家を継げばいいよ。父さんが持ってる子爵位貰うから。」
と呑気に言ってる始末だ。
俺は断固反対した。
そんな我儘女も、そんな娘を怒る事もせず、こちらに向こうの都合を押し付ける公爵家が嫌いだったから。
ちなみにこの時点で、クララには会ったこともないし、存在も忘れていた。
そんな時、父が倒れた。
俺が学園に入学して二カ月経った頃だった。
イザリス家との婚約はこうして俺とクララの婚約でまとまった。

クララと交流するうちに、公爵家でのクララの生活が酷いものだと分かった。

先ず、クララはイザリス公爵の前妻の娘だ。
クララの母親はクララを産んですぐに儚くなったそうだ。
そして乳母としてクララの面倒を見ていたナーニャが後妻となった。
最初は可愛がってくれたらしい。
でも、テリーズ、フランシスが生まれるとクララを全くいない者として扱ったらしい。
自分の子供には遠い親戚とクララの事は言っていたのだとか。
使用人が隠れて面倒を見てくれていたが、ドレスなどの高額なものはさすがに使用人では準備出来ない。
アクセサリーなんて買ってくれるわけがない。

俺との顔合わせもサイズも色も合ってない、型の古いドレスを着て、震えている姿は痛々しかった。

でも、清楚で物静かなクララは雑で乱暴な言葉使いも気にする事なく、いつも笑っていた。
だから、俺がクララを守ろうと思った。
結婚式に出席して、初めてクララは姉だった事が分かって、流石に驚いていたようだが。
テリーズは俺の所に来て、謝っていた。
何も気付かず、何もしなかった事を謝っていた。
何も知らなかったとはいえ、何かおかしいとは思わなかったのだろうかと思ってしまう。
クララが許していたので、それ以上何も言わなかったが。

問題はフランシス。
何も変わらない、ブライアンを追いかけるだけの生活。

そしてとうとう罪を犯した。
本当に救いようのないバカだ。

そして今回の事で心底コイツが嫌いになった。




「それでは尋問を始めます。ここでの会話はすべて録音されます。
後で言ってないとは言えません。
分かりましたか?」

「お義兄様!これは一体どういう事ですか?」

「では質問に入ります。」

「お義兄様!」

「あなたのお名前は?」

「知っているでしょう!」

「あなたのお名前は?」

「だから「?」」

「・・フランシス・イザリス」

「年齢は?」

「25」

「両親の名前は?」

「知ってるではありませんか!」

「ハァ~両親の名前は?」

「リッキー・イザリスとアンナ・イザリスです」

「ご結婚は?」

「していません!」

「婚約者は?」

「いません!」

「何故ここにいるのかは分かっていますか?」

「知りません!」

「何も?」

「はい!」

「なんて言われてここに連れて来られましたか?」

「媚薬購入、使用の容疑と言っていました。」

「あれ?今、ビクっとしましたね?どうしました?」

「怖かったので思い出してビクッとしただけです。」

「媚薬を見た事はありますか?」

「ありません!」

「今、目が揺れましたね。動揺してるのかな?」

「こんな所に連れて来られたら誰だって動揺します!」

「それではもう一度聞きます。
貴方には媚薬使用の容疑がかかっています。媚薬を購入、または使用した事がありますか?」

「ありません」

「嘘ではありませんね?」

「…はい」

「では、これを聞いてください。」

そして、ナタリアとの会話を聞かせた。
顔は真っ青だ。

「これはナタリア・ハワード元侯爵夫人と貴女の会話ですが、覚えていますか?」

「これは…こんなの…覚えていません。」

「ほう。ではこれをご覧ください。
これはパブロフ商会に残っていた購入記録です。貴方の名前が書かれています。
そして購入した商品は媚薬と書かれています。
こういった禁止薬物を扱っている店はね、保険をかけているんですよ。
自分だけが捕まらないように。
売った相手と共倒れ覚悟で売ってるんです。
そして、いざとなれば脅迫するんです。
みんなにバラしますよ、バラされたくなかったら、お金を下さいってね。
大切に育ててもらったお嬢様は知らないでしょ?」

「そ、そんなお店に行った事なんかないわ。私の名前を使って誰かが買ったのよ!
そうよ、使用人が私の名前を使ったのよ!」

「でしょうね、貴方のような人が直接お店には行かないでしょう。
使用人に頼むでしょうね。」

「ほら、使用人が買ったんじゃない!」

「じゃあ次はこれを聞いてください。」

“ナタリア様、私…買いました。これをどうすれば良いのですか?どうやって飲ませたら良いのですか?”

“そうね~じゃあ、私がそれを混ぜた甘~いお菓子をヤコブに差し入れるわ。ヤコブは甘い物好きじゃないから、絶対カール副リーダーかシシリーにあげると思うわ。そしたらどっちも食べるか、どっちかが食べるかするわ。”

“でもヤコブ様が疑われてしまいます。ヤコブ様がナタリア様から貰ったと言えばナタリア様にご迷惑をお掛けしてしまいます。”

“それもそうね~じゃあ止める?”

“私、なんとかやってみます。”

“頑張って。ブライアンを助けてあげて”

“はい、私がブライアン様をお助けします。”


「では、お聞きします。お菓子に何を混ぜるつもりだったのですか?
そして、ファルコン一番隊リーダーと副リーダーがどうなればいいと思ったのですか?
どうなると思ったんですか?」

「あの、それは…」

「一つずつ聞きますね。
お菓子に何を混ぜようとしたのですか?」

「あの…栄養剤です…」

「どちらで購入されたのですか?」

「覚えていません…」

「どうしてそれを混ぜた物を食べさせようと思ったのですか?」

「それは…身体に良いと思ったので…」

「身体に良いものを食べさせる事がどうしてヤコブが疑われ、ナタリア元夫人に迷惑をかけると思ったのですか?」

「あの…勝手に薬を入れてしまったので…」

「薬は元夫人が入れると言っていましたよ。なら迷惑はかからないのでは?」

「それは…私が買った薬なので、何かあればナタリア様に迷惑がかかると思っただけです。」

「どうして親しくもない一番隊リーダーや副リーダーにその薬が入ったお菓子を食べて欲しかったんですか?」

「お詫びに…」

「なんの?」

「以前間違えて水をかけてしまったので…」

「間違えて…。何の水をかけてしまったのですか?」

「バケツの水を…」

「えええ⁉︎ご令嬢の貴方がどうしてバケツなどお持ちになったのですか⁉︎
驚きました、公爵家のご令嬢がどうしてバケツの水をかけたのですか?
結構重いですよ。それを咄嗟にかけられるほど力持ちなのですね、驚きました!」

「あ、いえ、コップだったかもしれません…」

「コップ⁉︎コップを持ち歩いてるのですか?それも歩きながら飲むのですか?」

「いえ、たまたま…」

「申し訳ございません、私は剣一筋で、淑女の方の事が分かっていません。
ひょっとしてコップをお持ちになるのは普通の事なのですか?」

「そう…です…」

「ええ⁉︎そうだったんですね、母は持ち歩いていなかったので、教えてあげないと。
他の夫人方もお見かけした事がなかったので教えて差し上げないと。
ありがとうございます、フランシス嬢に教えて頂いたと伝えておきますね。」

「いえ、あの、それは若い方だけなので…」

「そうなのですか?では王妃様ではなく王女様にお伝えしておきます。
王女様もなかなか若い方の流行りが分からないようなので。
助かりました。」

「あ、あの、それは王族の方ではなく、あの、ある集まりの中だけで…」

「そうなのですか?それはどういった集まりなのですか?今後の為に教えて頂けませんか?」

「女性だけの集まりなので…」

「さすがに私は参加しませんよ。騎士団はたくさんの女性とお会いする機会が意外とあるんです。話しのきっかけにもなるので、教えて頂けませんか?」

「あの、私の一存では…」

「あ~主催者的な方がいるんですね?どちらのなんて方ですか?直接お話しを聞きますので。」

「あのそれも確認しませんと…」

「秘密の集まりという事ですか?」

「そう…です。」

「そこで、購入した薬を使用したりするんですね?」

「違います!」

「じゃあ、どういった集まりなのですか?」

「普通の集まりです。」

「じゃあ、お教えいただけますね?」

「それは…」

「もういい加減に諦めたら?」

「・・・・・」

「そんな集まりないでしょ?
シシリーにバケツで水をかけた事は本当なんだな。目が泳がなかった。
で、何に媚薬を入れたの?
もういろんな事バレてるよ。ここでどんどん話していくけどいい?
ずっと下向いてるから気付いてないと思うけど、ほらそこに貴方が愛してやまないブライアン副団長がさっきから殺しそうな目で見てるよ。
そのブライアン副団長の前で貴方が何をしたか私が話しますが、良いですか?」




フランシスは、初めて顔を上げてブライアンの存在を確認した。












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