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号泣
しおりを挟む流産の話しになります。
ご気分が優れなくなる場合は読むのを中止して下さい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ラルス視点
「シシリーは妊娠していた。
二ヶ月に入ったくらいだった。
済まない、助けられなかった…。」
全員が固まった。
動けなかった。
「妊・・娠…?」
「ああ、本人も気付いてなかったんだろう。」
「本当…に?」
「ああ…」
「ブライアン…」
エドが声をかけるが、ブライアンはそれっきり動かなくなってしまった。
「先生、それは刺された怪我によるものなんですか?」
「直接子宮を刺されたとかではない。ただ血を流し過ぎた事による流産、だな。」
「ブライアン、どうする?どこか別の部屋で休むか?シシリーの側にいるか?」
とエドがブライアンに声をかけるが、何も答えない。
「今は一人にしない方がいい。シシリーの側が良いだろうが、ブライアンと二人きりにも出来ない。ここに近い空き部屋があるだろ?そこにとりあえず行こう。
こんな状態のブライアンを放っては置けない。団長二人がいつまでも不在にしてるのもダメだ。ファルコンはブライアンがこの状態だから、エドはもう戻れ。
ミッシェル、悪いがシックス呼んできてくれ。シックスには説明しておく。
いいか、エド。」
「俺は良いが…」
「ブライアンは今何も聞こえてない。お前が判断しろ。」
「シックスなら良い。」
「分かった。ミッシェル、悪いがシックスをここに呼んできてくれ。俺はブライアンを見ている。」
「はい。」
「ラルス…済まない…。なんで…この二人ばっかり…」
「キレるなよ、エド。とにかく今やるべき事片付けてこい!
でないと、この胸糞悪い事件の関係者の顔をいつまでも見なきゃならんだろ、俺は本当ーーに、ウンザリだ!
行け、エド。ミッシェルもだ!」
エドは殺気ではなく怒りからか、身体から湯気のようなオーラのような何かを出しながら出て行った。
ミッシェルは走って出て行った。
ブライアンは、一点を見つめたまま動かない。
「ブライアン、聞こえてないかもしれないが、聞いてくれ。
俺の奥さん、イザリス家で虐待されてたんだ。使用人扱いされて飯もろくに食べさせてもらえなかったらしい。そんな生活を俺と婚約するまでしてたんだ、酷い話しだろ。
だから生理がきてなくてな、婚約してから俺が食事させるようになって、ようやく生理がきたんだ。結婚して一年経った時、妊娠したんだ。
二人で喜んだ。嬉しくて二人で名前を考えたり、お腹を撫でて、ホントに楽しみにしてたんだ。
でもな、お腹の赤ちゃんは育たなかったんだ…。まだ、クララは子供を育てるまでの身体にはなっていなかったんだ…。
クララは泣いて抵抗したんだ、殺さないでって。
でも、育たない子供をいつまでもお腹には置いておけない。
今度はクララが死んでしまう。
だから、クララを眠らせて処置をしてもらった。
俺は…自分の子供を殺したんだ…。」
「ラルス…団長…。」
「だからな、ブライアン…気持ちが分かるとは言わないが、親に抱かれる事なく子供を死なせてしまった俺になら、少しは頼れるだろ?泣きたきゃ泣け、俺は泣いたぞ。」
「ラルス…団長、俺…俺…」
「いいから、泣け。我慢すんな。」
それからブライアンは堰を切ったように泣いた。
途中、ミッシェルがシックスを連れて来ていたが、黙ってブライアンを泣かせていた。
しばらく泣いた後、大の大人が泣き疲れて寝てしまった。
そのまま、ソファに寝かせてやり、待っていたシックスに説明した。
シックスは、目が悪いせいで目付きは悪いが、子煩悩で優しい男なので、もらい泣きをしていた。
ミッシェルも泣いて、目は真っ赤、瞼も腫れ上がっていた。
俺も目が真っ赤だろう。
俺とクララには今は二人も子供がいる。
きっとブライアン達にもいつかは出来ると思う。
でも、今は辛いだろう…
シシリーはまだ知らない。
知らずに眠っている。
目が覚めた時の事を考えると、クララを思い出して、シシリーがどうなるのか想像出来て辛い。
ブライアンは、当時の俺を見ているような感覚になるだろう。
だからその時は側にいてやろう。
なんならクララを連れてこよう。
どうか、神様、この二人をこれ以上苦しめないでください。
これ以上、二人を辛い目に合わせるなら、もう神なんか信じない。
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