帰らなければ良かった

jun

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副団長として

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ブライアン視点

シシリーが妊娠していた事を先生から聞いた後、何も考えられず、団長やラルス団長、ミッシェルが何か話していたが、耳に入ってこなかった。

この数日にあった、忘れてしまいたいあの日の事、
カールの事、ナタリアの事、キャシーの事、フランシスの事、全て俺が原因で起きた事だ。
俺への歪んだ想いが、シシリーへの嫉妬となり、全部シシリーがターゲットになってしまった。
そして、俺とシシリーの子供を死なせる事になってしまった…

俺とシシリーの子供…。

シシリーに貰った懐中時計…。
子供の写真を入れてと言っていたシシリー。
あの時、シシリーは自分のお腹に子供がいるなんて思っていなかっただろう…。

こんな事がなければ、俺とシシリーの初めての子供は来年には生まれていた。

どんなに可愛かっただろう…

そして死んでしまった事を知ったシシリーはどんなに悲しむだろう…

もうどうしていいのか分からない…

シシリー…会いたい…

シシリー…

気付けば、俺の隣りに座ったラルス団長が、
静かに、俺に話しかけていた。

ボォーっと話しを聞いていた。

ラルス団長は、奥さんの話しをしていた。
最初は何も感じず聞いていた。

そのうちラルス団長の子供の話しになり、亡くなった経緯を話してくれた。

辛く、悲しい話だった。

ラルス団長は、自分の子供を殺したと、とても辛そうに話し、親に抱かれる事もなく死なせてしまった自分なら、俺も頼れるだろと言ってくれた。

“親に抱かれる事もなく”

そうなのだ…抱いてやる事も出来ず、死なせてしまった…。

ラルス団長の優しさに、俺は泣くのを止められなかった。
泣いて泣いて、泣きまくった。

気付けば眠ってしまっていたらしく、もう暗くなっていた。

ラルス団長はずっと付いていてくれたらしく、

「起きたか」
と優しい笑顔で声をかけてくれた。

「はい。すみません、眠ってしまいました。」

「良い良い。眠れる時に寝とけ。ミッシェルがシシリーに付いてるから大丈夫だ。」

「はい…。ラルス団長、辛い話をさせてしまって、申し訳ありません。
立ち直った訳ではありませんが、冷静にはなれました。ありがとうございました。」

「そうか、それなら良かった。何か困った時、辛い時はいつでも頼れ。分かったな。
もし、シシリーが動揺してどうしようもない時は、うちの奥さんと話すのも良いと思う。」

「ありがとうございます。その時はよろしくお願いします。」

そんな話しをしている時、医務室のスタッフの人がお茶を持ってきてくれた。

喉がカラカラだったので、ラルス団長と一気に飲んだ。

しばらく話していると、急激に眠くなり、気付けば眠っていた。

次に目覚めた時は、医務室のベッドで寝ていて、横にはラルス団長が寝ていた。

え?と思って、周りを見れば、何かバタバタしている。

横のラルス団長も目が覚めたらしく、状況を整理しているようだ。

「何かあったのか?何故俺とラルス団長はここで寝ている?」

見れば、近衛の制服だ。

「ラルス団長とブライアン副団長は睡眠薬を飲まされて、眠らされたようです。
今、先生を呼んできます。」

そう言い、近衛隊員は先生を呼びに行った。

「近衛が何故ここにいる?ファルコンとイーグルはどうした?」

ラルス団長が険しい顔で考え込んだ時、先生が来た。

「起きたか!身体はどうだ?大丈夫か?」

「身体は大丈夫です。一体何が?」

「ブライアン、落ち着いて聞け。」

「まさか、シシリーですか?シシリーに何かあったんですか?」

「落ち着かねば話せん。」

「ブライアン、とにかく話しを聞こう。だから落ち着け。
ブライアン、良い話ではないのだろう。
でも、お前はファルコン副団長だ。
副団長として話しを聞け。
分かったな。」

「…はい。」

「じゃあ、話すぞ。
先ず、エドワードがお前達の所へ行った。
眠っていたので、夜食を差し入れようと食堂へ行って帰ってきても寝ていたので、一旦帰ろうとしたらしい。
でも、お前らは普通、気配を感じ、すぐ起きるだろ?なのに起きなかった事を不審に思い、急いで戻った。
何度起こしても二人は起きず、すぐ医務室のシシリーの所へ向かった。
入ると、ミッシェルが倒れ、シシリーは毒を注射され、心臓が止まりかけていた。
エドワードがすぐ心臓マッサージをして、わしを呼んだ。
王宮医師に応援要請、近衛にも捜査支援を要請し、お茶を運んだスーザンを探しにエドワードはここを出て行った。
スーザンは備品保管室に倒れていて、目撃した不審者の特徴をエドワードに話していた。
ワシは聞いていないが、その後、エドワードが飛び出していった。
ファルコンにいるのかもしれん。
ミッシェルはまだ眠っているが、問題はない。
シシリーは、すぐ解毒薬を飲ませたので、解毒はされた。
だが、どれくらいあの状態でいたのか分からん…目が覚めてくれたら一安心だが、目が覚めなかったら…覚悟していてくれ。」

「何ですか、それ!何でシシリーに毒を?
背中を刺されてるんですよ!
子供を亡くしてるんですよ!
そのうえ毒?
なんなんですか!ここは王宮内ですよ!
最も安心出来る所なのに刺されるわ、毒は飲まされるわ、警備どうなってんですか!」

「ブライアン、落ち着け…って言っても落ち着かんわな。
でも、落ち着け。今はこの事態を収集しないとダメだろ!
近衛まで来てるって事は今騎士団が機能してないって言ってるようなもんだろ!
お前はファルコン騎士団副団長だ。
副団長の仕事をしろ!」

「クッ…申し訳ありません…取り乱しました。俺は一度ファルコンに戻ります。」

「俺も一度イーグルに戻った後、エドと合流する。」

シシリーの事は心配だが、今はファルコンの副団長としてやるべき事をやらねば。

ラルス団長と別れ、ファルコン騎士団の詰所に行くと、皆が駆け寄り、俺の事、シシリーの事を心配し、俺の事も大丈夫なのかと声をかけてきた。
今まで他人を寄せ付けず、愛想もなく、親睦などとってないにも関わらず、団員達は俺の心配をしてくれている。

「ありがとう、俺は大丈夫だ。シシリーはまだ分からない。
だが、今まで団長もいないなか、皆よくやってくれた。今から俺が指揮をとる。
誰か今の状況を説明してくれ。」

そういうとヤコブが、「俺が説明します」と言い、俺とラルス団長にお茶を持っていった先生の助手が備品保管室で倒れていた事、その助手が茶髪で薄い緑の瞳の女が目撃された事、団長がフランシスを怪しみ所在の確認をしてから、ヤコブに後を頼み、その後は戻ってきていない事を話してくれた。
今の所不審な人間はみつかっていないようだ。

「そんな女は俺達の所に来ていない。あの助手だけだ。もう一度、話しを聞いてくる。」

医務室に戻り、先生に助手の所在を聞く。

「さっき、エドワードも同じ事を聞いてきた。ついさっきだ、会わなかったか?それに、スーザンが怪しいのか?」

「まだ分かりません。しかし団長がその女性を探していたのなら、何か分かったのかも知れません。団長はどこへ行くと?」

「帰ったと言ったらその後を追っていったから、自宅だと思う。自宅に母親と住んでいる。」
そう言い、自宅の住所を教えてくれた。

詰所に戻り行き先を伝えた後、その女の自宅へ行こうと急いでいる途中、ラルス団長が後を追ってきた。

「俺もファルコンに行く。一度エドに話しを聞きたい。」

ラルス団長を一人行かせるわけにもいかないので、二人で詰所に行くと、

「副団長、団長がさっき戻りました。
団長は助手の女を追った後、女を確保後、尋問を行い、脅迫されて自分がやったと自供したそうです。
脅迫してきたのはイザリス公爵夫人。母親を拉致し、殺すと脅したようです。
団長は陛下に家宅捜査の許可取りの為、陛下と謁見している所です。
許可がおり次第公爵邸へ向かうそうです。」

「誰もその助手の自宅には行って、母親の確認をしていないんだな?」

「はい、まだです。」



そこへ険しい顔をした団長がやってきた。













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