33 / 102
副団長として
しおりを挟むブライアン視点
シシリーが妊娠していた事を先生から聞いた後、何も考えられず、団長やラルス団長、ミッシェルが何か話していたが、耳に入ってこなかった。
この数日にあった、忘れてしまいたいあの日の事、
カールの事、ナタリアの事、キャシーの事、フランシスの事、全て俺が原因で起きた事だ。
俺への歪んだ想いが、シシリーへの嫉妬となり、全部シシリーがターゲットになってしまった。
そして、俺とシシリーの子供を死なせる事になってしまった…
俺とシシリーの子供…。
シシリーに貰った懐中時計…。
子供の写真を入れてと言っていたシシリー。
あの時、シシリーは自分のお腹に子供がいるなんて思っていなかっただろう…。
こんな事がなければ、俺とシシリーの初めての子供は来年には生まれていた。
どんなに可愛かっただろう…
そして死んでしまった事を知ったシシリーはどんなに悲しむだろう…
もうどうしていいのか分からない…
シシリー…会いたい…
シシリー…
気付けば、俺の隣りに座ったラルス団長が、
静かに、俺に話しかけていた。
ボォーっと話しを聞いていた。
ラルス団長は、奥さんの話しをしていた。
最初は何も感じず聞いていた。
そのうちラルス団長の子供の話しになり、亡くなった経緯を話してくれた。
辛く、悲しい話だった。
ラルス団長は、自分の子供を殺したと、とても辛そうに話し、親に抱かれる事もなく死なせてしまった自分なら、俺も頼れるだろと言ってくれた。
“親に抱かれる事もなく”
そうなのだ…抱いてやる事も出来ず、死なせてしまった…。
ラルス団長の優しさに、俺は泣くのを止められなかった。
泣いて泣いて、泣きまくった。
気付けば眠ってしまっていたらしく、もう暗くなっていた。
ラルス団長はずっと付いていてくれたらしく、
「起きたか」
と優しい笑顔で声をかけてくれた。
「はい。すみません、眠ってしまいました。」
「良い良い。眠れる時に寝とけ。ミッシェルがシシリーに付いてるから大丈夫だ。」
「はい…。ラルス団長、辛い話をさせてしまって、申し訳ありません。
立ち直った訳ではありませんが、冷静にはなれました。ありがとうございました。」
「そうか、それなら良かった。何か困った時、辛い時はいつでも頼れ。分かったな。
もし、シシリーが動揺してどうしようもない時は、うちの奥さんと話すのも良いと思う。」
「ありがとうございます。その時はよろしくお願いします。」
そんな話しをしている時、医務室のスタッフの人がお茶を持ってきてくれた。
喉がカラカラだったので、ラルス団長と一気に飲んだ。
しばらく話していると、急激に眠くなり、気付けば眠っていた。
次に目覚めた時は、医務室のベッドで寝ていて、横にはラルス団長が寝ていた。
え?と思って、周りを見れば、何かバタバタしている。
横のラルス団長も目が覚めたらしく、状況を整理しているようだ。
「何かあったのか?何故俺とラルス団長はここで寝ている?」
見れば、近衛の制服だ。
「ラルス団長とブライアン副団長は睡眠薬を飲まされて、眠らされたようです。
今、先生を呼んできます。」
そう言い、近衛隊員は先生を呼びに行った。
「近衛が何故ここにいる?ファルコンとイーグルはどうした?」
ラルス団長が険しい顔で考え込んだ時、先生が来た。
「起きたか!身体はどうだ?大丈夫か?」
「身体は大丈夫です。一体何が?」
「ブライアン、落ち着いて聞け。」
「まさか、シシリーですか?シシリーに何かあったんですか?」
「落ち着かねば話せん。」
「ブライアン、とにかく話しを聞こう。だから落ち着け。
ブライアン、良い話ではないのだろう。
でも、お前はファルコン副団長だ。
副団長として話しを聞け。
分かったな。」
「…はい。」
「じゃあ、話すぞ。
先ず、エドワードがお前達の所へ行った。
眠っていたので、夜食を差し入れようと食堂へ行って帰ってきても寝ていたので、一旦帰ろうとしたらしい。
でも、お前らは普通、気配を感じ、すぐ起きるだろ?なのに起きなかった事を不審に思い、急いで戻った。
何度起こしても二人は起きず、すぐ医務室のシシリーの所へ向かった。
入ると、ミッシェルが倒れ、シシリーは毒を注射され、心臓が止まりかけていた。
エドワードがすぐ心臓マッサージをして、わしを呼んだ。
王宮医師に応援要請、近衛にも捜査支援を要請し、お茶を運んだスーザンを探しにエドワードはここを出て行った。
スーザンは備品保管室に倒れていて、目撃した不審者の特徴をエドワードに話していた。
ワシは聞いていないが、その後、エドワードが飛び出していった。
ファルコンにいるのかもしれん。
ミッシェルはまだ眠っているが、問題はない。
シシリーは、すぐ解毒薬を飲ませたので、解毒はされた。
だが、どれくらいあの状態でいたのか分からん…目が覚めてくれたら一安心だが、目が覚めなかったら…覚悟していてくれ。」
「何ですか、それ!何でシシリーに毒を?
背中を刺されてるんですよ!
子供を亡くしてるんですよ!
そのうえ毒?
なんなんですか!ここは王宮内ですよ!
最も安心出来る所なのに刺されるわ、毒は飲まされるわ、警備どうなってんですか!」
「ブライアン、落ち着け…って言っても落ち着かんわな。
でも、落ち着け。今はこの事態を収集しないとダメだろ!
近衛まで来てるって事は今騎士団が機能してないって言ってるようなもんだろ!
お前はファルコン騎士団副団長だ。
副団長の仕事をしろ!」
「クッ…申し訳ありません…取り乱しました。俺は一度ファルコンに戻ります。」
「俺も一度イーグルに戻った後、エドと合流する。」
シシリーの事は心配だが、今はファルコンの副団長としてやるべき事をやらねば。
ラルス団長と別れ、ファルコン騎士団の詰所に行くと、皆が駆け寄り、俺の事、シシリーの事を心配し、俺の事も大丈夫なのかと声をかけてきた。
今まで他人を寄せ付けず、愛想もなく、親睦などとってないにも関わらず、団員達は俺の心配をしてくれている。
「ありがとう、俺は大丈夫だ。シシリーはまだ分からない。
だが、今まで団長もいないなか、皆よくやってくれた。今から俺が指揮をとる。
誰か今の状況を説明してくれ。」
そういうとヤコブが、「俺が説明します」と言い、俺とラルス団長にお茶を持っていった先生の助手が備品保管室で倒れていた事、その助手が茶髪で薄い緑の瞳の女が目撃された事、団長がフランシスを怪しみ所在の確認をしてから、ヤコブに後を頼み、その後は戻ってきていない事を話してくれた。
今の所不審な人間はみつかっていないようだ。
「そんな女は俺達の所に来ていない。あの助手だけだ。もう一度、話しを聞いてくる。」
医務室に戻り、先生に助手の所在を聞く。
「さっき、エドワードも同じ事を聞いてきた。ついさっきだ、会わなかったか?それに、スーザンが怪しいのか?」
「まだ分かりません。しかし団長がその女性を探していたのなら、何か分かったのかも知れません。団長はどこへ行くと?」
「帰ったと言ったらその後を追っていったから、自宅だと思う。自宅に母親と住んでいる。」
そう言い、自宅の住所を教えてくれた。
詰所に戻り行き先を伝えた後、その女の自宅へ行こうと急いでいる途中、ラルス団長が後を追ってきた。
「俺もファルコンに行く。一度エドに話しを聞きたい。」
ラルス団長を一人行かせるわけにもいかないので、二人で詰所に行くと、
「副団長、団長がさっき戻りました。
団長は助手の女を追った後、女を確保後、尋問を行い、脅迫されて自分がやったと自供したそうです。
脅迫してきたのはイザリス公爵夫人。母親を拉致し、殺すと脅したようです。
団長は陛下に家宅捜査の許可取りの為、陛下と謁見している所です。
許可がおり次第公爵邸へ向かうそうです。」
「誰もその助手の自宅には行って、母親の確認をしていないんだな?」
「はい、まだです。」
そこへ険しい顔をした団長がやってきた。
124
あなたにおすすめの小説
【完結】最愛から2番目の恋
Mimi
恋愛
カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。
彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。
以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。
そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。
王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……
彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。
その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……
※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります
ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、本人は登場しておりません
ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
月夜に散る白百合は、君を想う
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。
彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。
しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。
一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。
家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。
しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。
偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる