帰らなければ良かった

jun

文字の大きさ
34 / 102

しおりを挟む


ブライアン視点


「団長!」

「ブライアン、ラルスも。お前ら、大丈夫なのか?」

「大丈夫です。団長一人に任せっきりですみません。」

「無理はするな。でも戻ってくれるなら助かる。ラルスは大丈夫なのか?」

「ああ、俺も大丈夫だ。イーグルに顔を出した後、こっちに来た。エドに話しを聞いてから動こうと思ってな。
で、女を捕まえて自供させたと聞いた。」

「ああ、お前達にもあの時の事を聞きたい。」

執務室までの移動の時間も惜しいのと、団員にも情報を共用するにも丁度いいだろうと詰所での聴き取りとなった。

俺とラルス団長がお茶を持ってきた時の話しをした。

「じゃあお茶を持ってきたのは、あの助手のスーザンで間違いがないんだな?」

「ああ、間違いない。喉が渇いていたので二人で一気に飲んだんだ。その後すぐ眠気に襲われた。」

「あの女は最初、茶髪で緑色の目の若い女が俺に頼まれて差し入れを持ってきて、お前らに差し入れを渡したと言っていた。
だから、俺はフランシスが逃げたと思ってすぐ、貴族牢に行ったんだ。だが、フランシスはいた。出た形跡もない。何かおかしいと思い、もう一度聞こうと医務室に戻る途中に気付いた。殴られて気絶したのではないなら、薬を嗅がされたのだと思い込んでしまった。だが、ミッシェルは薬品の匂いがしていたが、あの女は薬品の匂いがしていなかった事に気付いて、後追った。」

そして女が乗った馬車を追うとイザリス公爵家に着いた。
馬車は体調不良の夫人を往診する医師が乗っていたと言われ、屋敷を後にしたが、何か不自然だった。
ひょっとすると女は乗っていなかったのかと思い至り、脇道を探すと女が小屋の中に隠れていたので連行したと団長が説明した。

「で、女が母親を盾に脅迫されて、あんな事したと?」

「そういうことらしい。助けてくれと懇願された。とにかく今から公爵邸に行く。
何も見つからなかったら、俺は不名誉除隊だ。」

「そんな、団長!」

聞こえていた団員達が騒ぐ。

「見つからなければだ!見つければいい!」

「エド、母親は公爵邸にはいないぞ、おそらく。どうする?」

「俺がその女の自宅に行きます。何か手がかりがあるかもしれません。」

「シックスも行かせる。シックスが怒っていてな、何かさせないと納得しそうにない。

済まないが、誰かイーグルに行って、シックス副団長を呼んできてもらえるか?」

「俺、行きます!」
と近くにいた団員が言い、走って行った。

「助かる。じゃあその二人で自宅は頼む。後は公爵夫人か…。公爵は何も知らないのか、知っているのか…。そもそもなんでこんな事をする?」

「フランシスの恨み、あたりじゃねえの。あの母親ならやりそうだ。何にも考えてない。公爵もあの女の裏の顔を知らないで、溺愛している…もうあの人も世代交代して田舎に引っ込まないとな。」

「しかし、逆に証拠がないのではありませんか?夫人の頭の中にしか犯罪計画の証拠がなさそうです。母親を誘拐した実行犯と公爵家との関係を証明しなければ、家宅捜査しても意味がありません。」

「そうだな、行っても何も出ない可能性が高い。お前を除隊にする訳にはいかない。
もう一度捜査方針を練り直す。」

「済まない…一人で突っ走ってしまった。
無駄足を踏むところだった。」

「落ち込んでる暇はないぞ。だが、お前は少し休め。ずっと休んでないだろ?
俺とブライアンはぐっすり眠った。
俺達に今度はやらせてくれ、お前一人でここまでよくやった。お前が気付かなきゃ、シシリーは死んでいた。
だから、少しだけでも休め。」

「しかし、団長の俺が休む訳には…」

「団長、俺とラルス団長がいます。
どうか、少し休んで下さい。団長が倒れたら、シシリーが自分のせいだと起きた時泣きますよ。」

「そうか…なら少しだけ休ませてもらう。でも、何かあったらすぐ起こしてくれ、必ずだ。」

「分かった分かった。早く行け」

団長は渋々自分の執務室へ行った。

「さて、では始めよう。
シックスが来たら、ブライアン、後数名スーザン・ボタニアの自宅へ向かわせよう。

証拠が出次第、公爵邸へ家宅捜査する。
ブライアン達が男爵邸に行ってる間、俺はスーザンをもう一度尋問するが、その前に、

最近、イザリス公爵、夫人に対しての噂でもなんでも良い、知ってる者はいるか?
俺は親戚だが全く付き合いがない。
夫人が最近行きつけている店、会ってる人物、なんでも良い、知らないか?」

「あ!俺、姉と夫人が会ってるの見た事があります!」
とヤコブ。

「ナタリアとイザリス夫人が?」

「はい。偶然見かけました。声はかけませんでしたが、カフェのテラス席にいました。
何か小さな箱を渡していました。」

「箱…。しかし、あの女はどこまで関係してるんだ…。あ、ヤコブ、済まない。」

「いえ、もう姉とも思っていません。あの人がした事は絶対許せませんから。」

「ナタリアかぁ…今、地下だな?後で話し聞くしかないな。何か喋るかもな、ポロッと。」

「俺、やります。」

「ダメだ。ブライアンに会えたと喜ばすだけだ。あの女も俺がやる。お前は証拠を探せ。」

「ラルス団長、俺、公爵の噂を聞いた事があります。」

「公爵?なんだ?」

「ここ数年の公爵は時折、支離滅裂な時があって、何か薬でもやってるんじゃないかって噂になってます。公爵家の分家筋の下位貴族達が必死に隠しているそうです。最近見かけないのは薬を抜いてるんじゃないかって。」

「知らなかった。そんな噂あったのか?」

「公爵が参加した夜会でちょっとした騒ぎがあったらしいんです。何かは知らないですが、その時の公爵の様子が普通ではなかったらしくて、その夜会に参加していた人達が、そういえばって感じで広がったらしいです。」

「薬…」

「ラルス団長、ひょっとするとナタリアがイザリス公爵夫人に何か薬を渡しているのでは?」

「あり得る話しだな。ナタリアから崩すか。」

「ラルス団長、ナタリアの尋問は任せます。ですが同席させてはもらえませんか?
あの女は俺に執着しています。
俺がいれば何かしら話すと思います。」

「ブライアンは大丈夫なのか?あの女、俺でも気持ち悪いと思うぞ。」

「気持ち悪いですが、何かされるわけではないので、大丈夫ですよ。
なんか、ラルス団長、ウチの団長に似てきましたよ。」

「やめろ!俺はあんな筋肉バカじゃないぞ!」

「アハハ、後で団長に言っときます。」

「あ、それはやめて。

と、そういうわけで、ブライアン、シックス、後二、三名で男爵邸の捜索。
ブライアンが誰を連れて行くか選んでくれ。

さっきの公爵、夫人の事で思い出した事があったら、俺に言ってくれ。

俺はスーザンにもう一度話しを聞く。

ブライアン達が戻り次第、俺とブライアンでナタリアの尋問をする。

残りは家宅捜査まで待機。

以上だ。」


シックス副団長が到着した。

「団長、先程エドワード団長からスーザンに手紙を渡したのが誰か探して欲しいと要請があり、イーグルの数名に調べさせた所、ボタニア男爵の家の者だが、至急この手紙をスーザンに渡してほしいと、王宮の門番に手紙を託した男がいたそうです。
若くはなく執事っぽかったと門番は言っていたそうです。」

「執事…。分かった。じゃあ、シックスはブライアンとボタニア男爵の家に行ってくれ。」

「了解しました。」

そしてシックス副団長と合流した後、一番隊と二番隊から立候補した二名を引き連れ、男爵邸へ向かった。












しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】最愛から2番目の恋

Mimi
恋愛
 カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。  彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。  以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。  そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。  王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……  彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。  その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……  ※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります  ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、本人は登場しておりません  ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります  

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

月夜に散る白百合は、君を想う

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。 彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。 しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。 一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。 家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。 しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。 偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

処理中です...