38 / 102
家宅捜査
しおりを挟むブライアン視点
ラルス団長の尋問はお見事としか言えなかった。
あの短時間で知りたかった事をナタリアから聞き出せた。
ナタリアの事は今でも許せないし、大嫌いだ。
でも、行動がエスカレートしたのは薬のせいだったんだろう。
攻撃的なのも自分の事しか考えないのも昔からだが、ここまでではなかったように思う。
ま、ほとんど関わらないようにしてたので、ハッキリした事は分からないが。
ナタリアは令嬢達を操っていたが、ナタリアを操っていたのはジュリアーナ・イザリス。
イザリス公爵の後妻で、クララ様の乳母だった女。
後妻に入り、自分の子供が出来たらクララ様を虐待し、クララ様の存在を公爵家から消した、継母。
公爵と結婚出来たのも、ひょっとしたら薬を飲ませていたのかも知れない。
そして公爵の思考も奪っていったのだろう。
さすがに自分の子供には手を出さなかったんだろうが。
自分の言う事を聞かない使用人にも使っていたのかもしれない。
だから、あの御者も怯えていたのだろう。
ジュリアーナの確か実家は子爵だったと思う。
子爵家の娘が公爵夫人になったのだ。
普通なら有り得ない。
公爵夫人に縋り付きたかったのか…
何故自分の旦那にそんな事をする?
常軌を逸する者の考えは分からない…
「ブライアン、大丈夫か?」
と団長。
「大丈夫です、考え事をしていました。
イザリス公爵夫人は、何故こんな事をしているのか分からなくて…。」
「俺にも分からない。ただソイツは極悪人って事だけだ。」
四人で、詰所に戻り、今の話しを皆に伝えた。
みんな麻薬という言葉にざわついた。
「ヤコブ、大丈夫か?」
ヤコブは険しい顔をしていた。
「姉は麻薬にまで手を出していたのですね…気づきませんでした…」
「嫁いだ姉の事だ。分かるわけないだろ。
それなら嫁ぎ先の我が家が気付かなければならなかった。元々の態度の悪さから誰もナタリアには近づかなかった。
済まなかった。」
「副団長やニール兄さんのせいではありません。姉の弱さのせいです。」
「行けるか?」
「姉の事は好きではありませんでしたが、それでもザマアミロとは思いません。
ですから、この胸糞悪い事件をさっさと終わらせたいので、逆にやる気がでました。」
「そうか、でも無理はするな。」
「はい!」
そろそろイザリス公爵家へ出動だ。
「準備は出来ているな。ではイザリス公爵邸に出動する!行くぞ!」
団長の出動の合図に全員が、
「オオオーーーー!」
と地響きするほどの団員達の掛け声に、士気が上がっている事が分かる。
「ヤコブ、シックス、頼んだぞ。陛下の許可も出ている。もし、しらばっくれるのであれば、ファルコン騎士団、イーグル騎士団として捜索しても構わない。」
「「はい!」」
二人を見送り、ファルコン騎士団の半数程を残し、イザリス公爵家へ向かった。
イザリス公爵家に到着し、門番に告げる。
「ファルコン騎士団である。ボタニア男爵夫人誘拐の容疑がかかっている。只今より家宅捜査に入る。この捜査は国王陛下の許可を得ている。証拠隠滅、逃走、抵抗が認められた場合は即刻逮捕、またはその場での処罰となる。」
屋敷中に響く団長の声に、玄関から執事が飛び出してくる。
「何事ですか?」
「門を開けなければこちらで勝手に開けるがよろしいか。」
それを聞いた門番が門を開ける。
団長を先頭に団員がなだれ込む。
「使用人の宿舎はどこだ。」
と俺が聞くと、
「あちらです。」
と執事が敷地内にある。別棟の建物を指す。
「行くぞ!手の甲に傷のある男を探せ!」
俺とラルス団長、残っていた団員で、使用人棟へ向かい、
「今よりここはファルコン騎士団下に入る。抵抗するものは容赦はしない。」
突然の事に、使用人棟に残っていた者達は驚き、ほとんどが動けずにいる。
「全員、部屋から出ろ。出ない者は押し入る。」
仁王立ちのラルス団長の前に使用人が集まる。
俺と団員が各部屋を周り、部屋に残っている者がいない事を確認する。
「御者はいるか?」
「は、はい」
と数名が手を挙げた。
ラルス団長が一人の男をじっと見つめ、その男の側に行き、手の甲を確認する。
「お前、男爵夫人を攫ったな」
「私は、何も知りません…」
「嘘をつくとどうなるか知りたいか?」
「わ、私は、お、奥様に、頼まれて…」
団員が男を拘束した。
「話しは後でじっくり聞く。他の使用人はその場を動くな。一歩でも動こうものなら抵抗とみなし、斬る。」
ラルス団長の言葉に使用人達は震え、その場で固まった。
各部屋を捜索するが、男爵夫人はいない。
拘束した男にラルス団長が、
「夫人をどこに運んだ?」と聞くと、
「な、納戸に運んでからは知りません!」
「納戸はどこにある?」
「こ、ここの裏です…」
ラルス団長が俺を見たので、納戸へ走った。
納戸の中を確認すると、いないだろうと思っていた男爵夫人が縛られ、目隠し、猿轡をされて倒れていた。
とっくに移動し、隠しているものと思っていたのに、こんなにも呆気なく見つかり驚いた。
拘束を解き、目隠し、猿轡を外すと、
「だ…れ?」と弱々しく夫人は言葉を発したので一先ず安心した。
「私はファルコン騎士団副団長ブライアン・ハワードです。助けに来ました。もう大丈夫です。」
「騎士団の…、ありが、とう、ございます…」
「抱き上げます。」
夫人を抱え、使用人棟へ戻ると、何も知らない使用人達は、知らない女性に驚いている。
だが、ラルス団長は見逃さなかった。
「おい、お前」と言い、一人の男の側に行き、
「お前今、顔色変わったな?あの男と一緒に男爵邸に行ったな?」
「あ、あ、俺は…」
拘束した後、
「まだいるなら出て来い。今なら何もしない。後で出てきたら、逃亡の意思ありでその場で斬る。」
すると後三名名乗り出た。
「これだけか?この件に関わってる者はもういないか?男だけなんだな?
もう一度言う。今なら何もしない。誘拐、またはファルコン一番隊リーダー、シシリー・フォードの殺害未遂に少しでも関わってる者はいるか?」
「あ、あ、あの…」
「なに?」
「わ、私は、お嬢様に頼まれて…あの、媚薬を入れた水差しを、い、一番隊リーダーの、執務室に、お、置きました…すみません…すみません…」
「分かった。後でもう一度聞く。君もこっちに来て。」
拘束具は多めに持ってはきたが、ここだけですでに六名を拘束した。
これからどんどん増えるだろう…
「何でもいい、知ってる事は全て話すように。今から順番に聴き取りをする。部屋も調べる。もし、嘘や証拠隠滅しようものなら…分かったな!」
聴き取りと部屋の捜索を団員達に任せ、俺とラルス団長が本邸に向かった。
すると外にまで聞こえる甲高い声で、
「貴方達、許さないわよ!私は公爵夫人よ!やめなさい!触らないで!」
と叫んでいる。
「あの女…相変わらずうるせぇな…」
とラルス団長がボソっと言った。
屋敷に入ると、耳障りな声が響く。
「リルマグ侯爵!あなたね、こんな事させるのは!早く辞めさせなさい!」
「お久しぶりです、イザリス夫人。
たった今、ボタニア男爵夫人が見つかりました、こちらの納戸で。
貴女に頼まれて誘拐したと使用人達が言っていますが、反論は?」
「そんなの知らないわよ!勝手にやったのよ!」
「何故?使用人がどうして男爵夫人を誘拐などするのです?
平民が貴族を誘拐するなどの大罪を自ら犯す馬鹿が何処にいるのです。
それもすぐ見つかる自分の職場に誘拐した本人を隠すなんて、誰かに指示されなければそんな所に隠しません。」
「だから知らないって言ってるでしょ?
本当にあなたは私の邪魔ばかりする!」
「誘拐された男爵夫人はあんたがいるここで見つかった。それは紛れもない事実だ。
そして、ファルコン騎士団一番隊リーダー、シシリー・フォードを殺害しようとした女は脅迫されていた。
母親を殺されたくなかったらリーダーを殺せって手紙をもらった、イザリス公爵家の家紋が入った便箋と封筒をな!」
「あの女燃やせって言ったのに!」
「今の録ったな!はい、自供がとれた。ありがとう!」
「ラルスーーー、あんたの事は絶対許さない!」
「ああ、俺もあんたの事は絶対許さない。クララにしてきた事、シシリーを殺そうとした事も、いろんな令嬢に薬を配ってたこともな!」
「ラルス、後は戻ってからにしろ。」
「済まん…顔見たら我慢出来なかった…」
「公爵を見つけた。かなり衰弱している。」
「薬か?」
「おそらく。こっちにいた使用人の中にも薬を使ってるやつが何人かいる。
とても公爵の屋敷とは思えん…。」
「団長、息子は、テリーズは?」
「息子は結婚して、領地にいるらしい。こっちにはほとんど寄り付いてない。」
「良かった…。」
「知り合いか?」
「兄の友人です。子供の頃は一緒に遊びました。フランシスから守ってくれていました。」
「そうか…。これから大変だな、両親、妹が逮捕されては。」
予想以上に公爵邸は酷かった。
ジュリアーナがこの家に来てから少しずつ変わっていってしまったのだろう。
子供の頃来た事があったが、あの頃はもっと明るくて綺麗な感じだったが、今は煌びやかだが、何か澱んでいる雰囲気が気持ち悪い。
家宅捜査はまだまだ終わらない。
128
あなたにおすすめの小説
【完結】最愛から2番目の恋
Mimi
恋愛
カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。
彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。
以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。
そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。
王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……
彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。
その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……
※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります
ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、本人は登場しておりません
ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
【完結】この胸が痛むのは
Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」
彼がそう言ったので。
私は縁組をお受けすることにしました。
そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。
亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。
殿下と出会ったのは私が先でしたのに。
幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです……
姉が亡くなって7年。
政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが
『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。
亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……
*****
サイドストーリー
『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。
こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。
読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです
* 他サイトで公開しています。
どうぞよろしくお願い致します。
月夜に散る白百合は、君を想う
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。
彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。
しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。
一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。
家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。
しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。
偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる