帰らなければ良かった

jun

文字の大きさ
43 / 102

離婚

しおりを挟む


ラルス視点


ジュリアーナの一度目の尋問の後、男爵夫人の聞き取りをした。
何か決定打になるものがないかと。
攫われてから救出されるまでの話しを聞いた。
男爵邸から馬車に乗せられ、納屋に入れられるまでの間にジュリアーナとの接触はなかった。

だが、どうやってスーザンの存在を知った?
医務室は利用するが、スーザンの名前など今回の事が無ければ知らなかった。
いる事すら知らなかったというのに、ジュリアーナは知っていた。
誰かが教えた。

誰が?

医務室は皆使う。
頻繁に使うのは騎士団だ。

しかし騎士団の人間が言うだろうか…
言わない。
でも、流れで話す事はあるかもしれない。
教えようと思ってなくても、無意識で言ってしまう事はある。
でもここ数日はナタリアやキャシー、フランシスと立て続けて取調べをしていて騎士団はバタバタしている。
ほとんど騎士団内から出てはいない。
休みも返上している。

騎士からではないなら誰だ?

スーザンの存在をジュリアーナに教えた人物。

ダメだ、行き詰まった。

じゃあ、先に公爵から行こう。
息子のテリーズには連絡したのでもうすぐこちらに来るだろう。
なら今のうちに公爵の様子を見に行こう。

そんな事を考えながら歩いていると、腕を掴まれた。

「ラルス、どうした?柱にぶつかるぞ。」

「あ、エド、ありがとう、考え事をしてた。なあ、エド、ジュリアーナはどうやってスーザンの事を知ったんだろう。」

「そういえばそうだな。俺は申し訳ないが、今回の事がなけれはスーザンの名前も知らなかった。」

「俺もだ。なんとなく覚えてる程度だ。
全員がそうではないだろうが、そんなスーザンをどこで聞きつけたのかと思ってたんだ。
行き詰まったから公爵の所に行こうかと。」

「公爵とは会話が出来んぞ。」

「でもたまに正気に戻る事があるらしい。その時にサインしてもらう。」

「何に?」

「離婚申請書。お前は証人になれ。」

「なんで、急に?」

「あの女に公爵夫人って地位がある限り、いくらでも逃げおおせると思っている。
先ずそこを崩す。
そこがなくなれば、使用人も恐れる事なく証言するだろう。
あの女が夫人でいる限り、重要な証言は取れない。公爵が正気にならないのなら、テリーズに当主代理としてサインさせる。」

「しかし、テリーズは実の母親だ。サインなんかするわけないだろう!」

「だから来る前に行く。」

「ラルス、お前、大丈夫か?」

「俺は至って大丈夫だ。今があの女を追い詰める最大の好機だ。
この好機を逃せば次いつ来るか分からない。だからここであの女を潰す。」

「ジュリアーナを堕とせる事はいいが、お前があまりにもいつもと違うのが、心配なんだ。本当に大丈夫なんだな?」

「ああ、アイツがクララにしてきた事、そっくりアイツに返せると思ったら、すこぶる気分が良い。」

「そうか、分かった、行こう。」

それから二人で治療院に行く事を伝え、公爵の元へ向かった。


病室に入り、腕に薬を注入されて眠る公爵がいた。

「寝てるな。」

「ああ、少し待つか。それとも叩き起こすか?」

「お前な…」

「冗談だよ。でも俺はこの人も許せない。」

「分かったから、少し冷静になれ。」

「俺、そんなにいつもと違う?」

「違う。いつもはもっと時間をかけてどうやったら甚振れるのかを考えるのに、今回はその余裕がない。」

「ちょっと、俺そんな意地悪じゃないんだけど!」

「ハイハイ、お前は優しいよ。」

「酷いな~エド~。」



「誰だ?」

「イザリス公爵!」

「ここは何処だ?」

「ここは治療院です。私はイーグル騎士団の団長、ラルス・リルマグです。
あなたの身体は今長年の多種多様の薬物によりボロボロの状態です。
ですので家宅捜査の際、貴方を治療院に入院させました。」

「家宅捜査…?」

「はい、ジュリアーナ夫人のボタニア男爵夫人誘拐容疑による家宅捜査です。」

「誘拐…?」

「はい。何故誘拐したのかを説明する時間はありません、また後日にでもさせて頂きます。
公爵は結婚当初から薬を与えられていましたね?」

「ああ、少しずつ飲まされていたらしい。
気付いた時には薬がないと眠れない、不安になる、そして夜はあの女を抱く生活を強いられた。
もう嫌だ…あの家には帰りたくない…」

「公爵、このままでは一生あの女に薬漬けにされます。今離れる為には離婚するしかありません。ここにサインして頂けますか、公爵!」

「サイン?」

「離婚申請書です。」

「離婚…」

「したくはないのですか?」

「アイツがサインをしない。」

「あの女は貴方に薬を盛り、今まで貴方を操ってきたのです。命に関わる事象を起こした相手の籍は、貴方だけのサインで抜く事が出来るんです。後は私達騎士団にお任せ下さい。
死ぬまで、あの女は貴方に寄生しますよ!」

「嫌だ、もう嫌だ…ペンを…」


震える手にペンを握らせ、横になったまま公爵はサインした。
ハッキリと離婚理由も書いていた。
そして陛下に直接提出してやる!

「ありがとうございます、これで貴方は安心して息子夫婦をあの家に呼べますよ。」

「息子…テリーズ…もうしばらく会っていない…」

「もうすぐ来ますよ。」

「そうか…」

「では、少しお休み下さい。俺達はこれで。」

「あ、ラルス殿…」

「はい、何でしょう。」

「娘をよろしく…頼む…そして、済まなかった…と。」

「・・・・それでは、失礼します。」


病室から出て、

「ハァーーーーー」

「大丈夫か?
でも公爵が意外と普通で驚いた。公爵邸にいた時は、もうダメだろうと思ったのに。」

「ちゃんと治療してたら良かったんだよ。
そして嫌ならさっさと離婚すれば良かったんだ!グズグズしてたのは自分だ、自業自得だ!」

「まあ、そうだな。」



その時、

「エドワード様、ラルス様、父は?」

とテリーズが走ってきた。

「部屋はここだ。今、離婚届にサインしてもらった。」

「離婚届?」

「もう嫌だとさ、あの家には帰りたくないそうだ。」

「そう…ですか…」

「中入ったら?じゃあ俺達は行くから。
後で騎士団に来てくれる?
説明するし、君から話し聞きたいしね。
妹の事も母親の事も。」

「はい…分かりました…」


項垂れて中へ入った義理の弟が少し可哀想に思ったが、今はイザリス家の人間全員、許す気はない。


「行こう、エド。陛下に謁見を申し込む。」


次こそ、ジュリアーナを堕とす。





********************
「煮詰まった」→「行き詰まった」に訂正しました。

御指摘ありがとうございます!

この場を借りてお礼申し上げます。

これからもよろしくお願いします!!







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】最愛から2番目の恋

Mimi
恋愛
 カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。  彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。  以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。  そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。  王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……  彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。  その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……  ※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります  ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、本人は登場しておりません  ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります  

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

月夜に散る白百合は、君を想う

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。 彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。 しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。 一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。 家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。 しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。 偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。

はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」 「……あぁ、君がアグリア、か」 「それで……、離縁はいつになさいます?」  領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。  両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。  帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。  形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。 ★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます! ※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

処理中です...