帰らなければ良かった

jun

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それぞれの罰 ナタリア元侯爵夫人

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ラルス視点


「ナタリアさん、お待たせ。」

「待っていたのよ、優しい人!なかなか来ないから、心配していたの、忘れてしまったのかと。」

「忘れてはいないよ。でも、俺からは渡せないんだ。でも、俺より優しい人が待ってるから、そこで貰ってね。
俺が今から言う事分かるかな?」

「何かしら?」

「ナタリア、アンタが今までしてきた事の罪を償ってもらうよ。
でも、少し薬を飲み過ぎた。
だから、身体を治してから罪を償ってもらう。分かる?」

「私、何かしたかしら?分からないわ。でも、そこに行かないと薬は貰えないのね?」

「ま、そういう事。」

「なら、そこへ行くわ!」

「そこで身体が治ったら、また行くから待ってて。」

「分かったわ。」


そして、ナタリアは薬物治療をする専門の施設に入った。


半年ほど経った時に、施設に行った。


「ナタリア、久しぶり。」

「お久しぶりです。ラルス団長。」

「あれ?もう優しい人って呼んでくれないんだね。」

「あの頃はとにかく薬の事しか頭になかったのよ。ブライアンの事もよく分からなかったもの…」

「今は自分のした事が分かるの?」

「大体はね。薬はジュリアーナ様から貰ったものに入っていたって事ね。そして、私はそれを配って回った。後はシシリーへの嫌がらせって事かしら?」

「まあ、大体そんな感じかな。
ちゃんと貴方の罪状を伝えます。
ナタリア元侯爵夫人、あなたはフランシス・イザリス元公爵令嬢を唆し、ハワード夫人に媚薬を飲ませ、辱めようと画策した、傷害幇助、名誉毀損、
カール・ケンネル元ファルコン騎士団一番隊副リーダーを唆し、ブライアン・ハワード、ファルコン騎士団副団長に媚薬を飲ませ、定食屋の娘と無理矢理情交を結ばせた事による、強姦罪主犯、名誉毀損、
禁止薬物の使用、売買など、多数の犯罪行為は悪質極まりない。よって、強制労働三年後、処刑となる。

以上です。」

「三年も生かしてくれるのね。」

「処刑だけでは足りないって事かな。」

「そう。もうどうでもいいわ。」

「反省はしないの?」

「反省ね~しないわね。」

「そうなんだ、薬が抜けたらマシになるかと思ったけど。」

「こういう生き方しかしてこなかったから、よく分からないわ。」

「反省したら、処刑されないかもって言ったら?」

「変わらないわね。どう反省するのかも分からないから、反省も出来ないわ。」

「そうか。じゃあ、これで。さよなら、ナタリア。」

「ええ、貴方も、優しい人。」


ナタリアは変わってないようで、変わったような気がする。

でも、自分でどう変わったのか気付かないし、どう変えていけばいいのかも分からないのだろう。




そして、ブライアンを苦しめ続けた女は、三年後、された。








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ナタリア視点


ラルス団長が帰ってから、数日後、強制労働者が集められている施設に連れて行かれた。

そこはいわゆる凶悪犯ばかりがいる施設だった。
私と同じで、処刑の前に労働を強いられてから処刑される人達だ。
男女は一応別だが、ちょっとした隙に襲われた。
それからは毎日、誰かに抱かれた。
そのうちここのリーダー格の男に気に入られ、その男だけを相手にすれば良かった。

「ナタリア、俺と逃げるか?」

「逃げられるわけないじゃない。見つかったら殺されるし。」

「仲間に手引きしてもらう手筈だ。ナタリアも連れて行く。」

「嫌よ、ここで適当にやっていくわ。どうせもう少しで処刑されるし。」

「ダメだ。ナタリアは俺のものだ。」

生まれて初めて言われた言葉だった。

あんなに恋焦がれたブライアンにも、
結婚したのに愛される事もなかったニールにも、
罵声は浴びせられる事はあっても、
私の事をこんな風に言ってくれる人は誰もいなかった。

「私はあなたのものなのね、だったら行くわ。」


そして、決行の日、私とそのリーダー格の男、ライルと手下の手引きで、その施設から逃げ出した。

手を掴み、私の手を離さないライルの手は温かかった。


馬を駆け、森を抜け、少しの休憩をしながら国境近くまで来た時、見覚えのある顔を見た。

ラルス。

イーグル騎士団団長をしていたラルス・リルマグ。
今は騎士団を引退したと噂で聞いていた。
なのに、騎士服を着て、部下を引き連れ私の目の前にいる。

「久しぶり、ナタリア。」

「ええ、久しぶりね。」

「少しは愛し愛される喜びを知れたかな。」

「そうね、ライルは私を初めて必要としてくれた男だわね。」

「でも愛してはいないの?」

「分からないわ。でも、この人の手は温かいから好きね。」

「ナタリア、アイツは知り合いなのか?」

「知り合い…かしら?ラルス。」

「知り合いではあるね。もう会わないとおもっていたんだけど、君の担当は俺だから、こうして会いに来たよ。」

「逃げる事を知ってたの?」

「まあね。」

「捕まえるの?」

「いや、ここで君達は死ぬ事になるね。」

「そうなのね…」

「ナタリア、俺の後ろにいろ。俺がアイツらを引きつける。だからお前は逃げろ。」

「嫌よ、だって私はあなたの物なんだもの、あなたといるわ。」

「ナタリア…お前は俺だけの物だ。」

ライルは、そう言うとナイフで私の胸を刺した。
そして、自分の胸を刺した。

「ライ・・・ル…」

「ナタ・・・・リ・・ア…」

ライルが私を抱きしめながら重なるように倒れた。



ああ、やっと私は私だけの物を手に入れた。








「ナタリア、君は死ぬまで“ナタリア”だったけど、死に顔はなかなか綺麗だよ。」

ラルスの声はもうナタリアには聞こえない。
















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