帰らなければ良かった

jun

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それぞれの罰 定食屋の娘ベル

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ミッシェル視点


「『定食ニック』の店主ニックの娘、ベル。あなたの処罰が決定しました。
あなたは、ファルコン騎士団副団長ブライアン・ハワードに対し、禁止薬物の媚薬を使用し、性的暴行を行なった罪により、北の修道院で強制労働十年、ブライアン・ハワードに慰謝料として金貨三十枚の支払い命じる。
なお、支払いは本人が働いて稼いだもののみ、受け取るものとする。
受け取り窓口は騎士団。
ブライアン・ハワード、並びにシシリー・フォードへの接近を禁止する。
修道院へは今日出発とする。」

「え?待ってください、北の修道院?金貨三十枚?今日?」

「はい。この国で二番目に厳しいと言われる修道院です。ここを出た後、出発となります。」

「そんな…。せめて何か着替えや小物を。それに金貨三十枚なんて無理です!」

「無理な金額だから罰になるんです。
着替えは必要ありません。向こうで支給される物をお使い下さい。
最低限の生活必需品は修道院が用意しています。」

「せめて父や母に最後に挨拶でも…」

「面会は出来ません。」

「じゃあ、ブラ「名前を呼んではいけないのでは?」」

「すみません…副団長と一番隊リーダーに謝罪だけでもさせて頂きたいです!」

「出来ません。二人の姿が見える距離での接近は禁止となりますので。」

「そんな…どうしても謝罪したいのです!
どうか一目だけでも会わせて下さい!」

「あなた、謝罪したいんじゃなくて副団長に会いたいだけなのでは?」

「い、いえ、謝罪をしたいのです…。」

「副団長は二度とあなたと関わりたくはないそうです。」

「そう・・ですか…。では一番隊リーダーに謝罪するのは?」

「それも無理です、彼女は今怪我をして動けない状態ですから。」

「大丈夫なのですか?ブライアン様はお一人で大丈夫なんですか?」

「ハァ~、ベル、あんたさあ、反省してないよね?」

「反省してます!だから謝罪をと…」

「あんたさっき、一目だけでも会わせてっていったよね?謝罪したかったらそんな言い方しないよね?」

「・・・違います…。私は謝罪をしたいだけです…」

「ブライアンは関わりたくないって言ってるのに、被害者の気持ち考えないの?」

「そんなことは…ないです。」

「じゃあ、諦めなさい。」

「お願いします、お願いします、二度とブラ「名前を呼ぶなって何回いわせるの?やめる気ないよね?反省してないよね?してたら名前を呼ぶことなんかしない。
あんた、さっき名前ハッキリ言ったよね?“お一人で大丈夫なんですか?”ってどういう意味?恋人気取りなの?」」

「心配しただけです、それの何がいけないんですか!」

「あんたは一つも反省してない。
ブライアンをあんなに傷付けておいて、シシリーの事も傷付けて、団長に怒鳴られても反省もしない。
挙句に一目会いたいって。
それで、キレて口答え。
よく言えるね?どの立場で言ってんだか。」

「私、そんな口答えなんて…」

「あんた、ダメだわ。十年でも足りないかもしれない。
でも、あんたがどんな暮らしをしているかは報告が来るんで、真面目にしてないと延長になるからね。
十年たっても金貨三十枚にはならないから、いっぱい働かないと。
じゃあ、そういう事だから。

あ、後、貴方のご両親、騎士団に来て土下座していったわよ。
泣きながら、土下座したらしいわよ。
店は畳むって。何処に引っ越すかは知らない。
あんなに良い両親に土下座までさせて、娘は反省なしって…。」


そう言ってベルのいる牢から離れた。



良い子だと思っていた。
けど、ブライアンを追いかけ回している令嬢達となんら変わらなかった。
自分の気持ちだけを優先する自分勝手な愛情にはウンザリだ。

二度と会うことのないベルの泣き声が後ろから聞こえたが、振り返りはしなかった。






ベル視点


馬車に揺られ、修道院へ向かっている。

これから二日かけて移動することになる。
宿に泊まるわけでもなく、馬車で寝泊まりをする。
食事はパンと水のみ。
身体も拭けない。
着替えもない。

お父さん…お母さん…
ごめんなさい…
土下座までさせてごめんなさい…


もう何も考えられなくて、キツイもしんどいもなかった。

この時はまだ、本当の辛さを知らなかった。

修道院で生活して、初めて自分のした事が人として最低な事なんだと実感した。

この修道院には、暴漢に無理矢理暴行され、婚約を破棄された人、勝手に好きになられ、媚薬を飲まされ、暴行された人、そして妊娠してしまって家を出された人、つまり私と逆の立場の人だけしかいない所だった。
バレたら大変と思い、ずっと隠していたが、三か月経った頃に、何故かバレた。

今まで話しかけてくれていた人達は、誰も口を聞いてくれなくなった。
私の顔を見ると、された事を思い出し、叫ぶ人、泣き出す人、震え出す人が続出した。

私はどうしていいのか分からず、助けようと手を出すと、叫び声をあげて逃げ出す。

まるで、私が襲うのではないかというように。

そして、私を軽蔑した目で見た。

彼女達を襲った男と同じだと、
自分の欲のためには手段を選ばない人間なのだと、言われ続けた。

私は誰とも話さず、一人で作業をした。
慰謝料を払うため。
一カ月働いて、銅貨二枚、そのうち生活費として一枚支払いし、残り一枚を慰謝料に回す。
銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚、
どうやっても十年で金貨三十枚は無理だ。

私は加害者だから、この金額らしい。
他の人はもっともらっている。

私が来た時にいた人達は、少しずついなくなった。
精神的に落ち着けば、実家から迎えが来たり、ここで出会った人と一緒になったり、お金が貯まり出て行く人、気付けば一番の古株になっていた。

金貨は全然貯まらない。

それでも働き続けた。

あと数週間で、十年になるという時、私宛てに手紙が来た。
ここに来て初めてだった。

差出人はファルコン騎士団団長ブライアン・ハワード。

その手紙には、王都に足を踏み入れなければ、ここを出ていい事。
慰謝料は今まで貰った分だけでいい事。
そして、騎士団、ブライアン様、奥様となったシシリーさんには近付かない事。

それだけが書いてあった。

私は泣いた。
声をあげて泣いた。

手紙を抱きしめ、ブライアン様を想った。

やっぱり私はあの人が忘れられない。

たった一夜だったけれど、確かに私はあの人に抱かれた。



ここを出よう。


そして・・・・・



十年が経ったその日、私は修道院を出た。

少しの荷物とほんのちょっとのお金を持ち、
王都に一番近い街に向かった。


いつか、遠くからでも会えるようにと願いながら。


その街の食堂で働き始めて一カ月が経った時、

「いらっしゃいませ~」

振り返り、入って来たお客さんを見た時、
息が止まるほど驚いた。
そこに立っていたのは、
前ファルコン騎士団団長のエドワード様だった。

カタカタと身体が震える。


「話しがある。店主、この人を少しお借りしてよろしいか?」

とエドワード様は、断りを入れた後、返事も聞かずに、外に出た。

私は動く事も出来ず、立ち尽くしていると、

「ベルちゃん、早く行かないと。ここはいいから。」

店主のおじさんは、あの人が誰か分かったようだ。

「すみません…、すぐ戻ります…」

外に出ると、少し離れた所にエドワード様が立っていた。

「ここで何をしている?」

「働いております…」

「随分王都に近い場所で働いているんだな」

「たまたまです…」

「修道院から近い所にお前が働くのに丁度いい店もたくさんあったのに、何故ここに来た?」

「ですから、たまたまです。」

「騎士団から手紙が来ただろう。今も持っているのか?」

「持っています…」

「ブライアンから来た手紙だもんな?」

「そういう訳では…」

「お前はずっと監視されていた。最後の試験に合格したら、今のように好きな所で働き、残りの人生自由に過ごせた。
だが、不合格の場合は慰謝料の残りを娼館で働いて返してもらう。」

「な、どうして⁉︎」

「お前は十年経っても何も変わらなかった。
あの手紙を騎士団ではなく、ブライアンからのものと思っただろう?
そして、少しでも近くにと、ここへ来た。
会いたかったんだろ?
一目でもいいから会いたかったんだろ?
だから、このままお前をここに居させるわけにはいかない。
必ず前と同じ事をする。
今から俺が娼館まで送って行く。」

それから、私は馬車に乗せられ、娼館に入れられた。
馬車の中で、水筒を貰った。喉がカラカラだったので、すぐに飲んでしまった。

「俺が言った事覚えてるか?俺はブライアンとシシリーの名前を口にしたら喉を潰すと言った。
十年前、ミッシェルに刑を言い渡された時、ブライアンの名前を口に出したな。
約束通り、喉を潰した。
もし、ブライアンやシシリーを見たら次は目を潰す。」

喉が焼けるように熱い。

声を出そうにも、グッ、ウッとしか出ない。
喉を掻きむしっても、エドワード様は黙って私を見るだけで、何もしてくれなかった。

娼館に着いて、馬車を降りる時、

「あの手紙はブライアンが書いたものではない。俺が書いた手紙だ。大事にしろよ。」

と言った。


それからは、ただ沢山の男に抱かれた。
安い金で抱けるから、毎日客がついた。
慰謝料を払い終わっているのか、まだなのかも、もう分からない。

ただ、あの手紙は捨てられなかった。
捨てたら、今度は目を潰しに来ると思って捨てられない。

きっと何処かで私を見ているだろう。

だから私はここから出ない。

出たら目を潰されるから。














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