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憤り
しおりを挟むエドワード視点
ブライアンが冷静になれていなかった。
感情がぐちゃぐちゃで、何が正しい事か分からなくなっていた。
シシリーの顔を見たら落ち着くと思って行かせたら、いつも以上に落ち着いて帰って来た。
もう何も悩んでいないと真っ直ぐ俺を見て、
「すみませんでした。もう大丈夫です。
先生にも報告してきました。」
と言った。
そんなブライアンの姿を見たラルスも、
「ブライアンは、もう大丈夫そうだね。
じゃあ俺は一旦イーグルに戻るよ。」
「ああ、ありがとう、助かった。」
「また顔出すよ。」
そう言って戻って行った。
「ブライアン、俺はボタニア男爵にスーザンの事を伝えに行ってくる。お前はここに残り、スーザンの身体検査をした者、見回りの団員に正しい処罰を与えろ。
そして報告書を作成していてくれ。」
「はい。団長は一人で行くんですか?誰か連れて行った方がいいんじゃないですか?」
「いや、一人で行ってくる。後は頼んだ。」
そして男爵達がいる控室に行き、スーザンの事を説明した。
「スーザンが毒を飲んで死んだ?」
「はい。自戒の念での行動かと思われます。」
「助けて下さると仰っていたのに、娘が毒を飲むのを黙って放っていたのですか?
娘は脅されて仕方なくやってしまったのです!なのに…毒を飲むなんて…どうして!
母親を助けたくて娘は…。」
「私が攫われたばかりに・・・娘を死なせてしまった…私を助けようとして・・・。
スーザン…ごめんなさい…貴方が死ぬ必要なんてなかったのに・・・」
「娘を返して下さい!連れ帰って葬儀の準備をしなければなりませんので。」
「お願いします!娘を返してください!
娘に会わせて下さい!」
ブライアン…誰か連れて来た方が良かったかもしれない…。
俺を止めてくれる人間が誰もいない…。
だが…
「娘さんの事はこちらに非があり、謝罪はきちんとさせて頂きます。
娘さんを逮捕した際、身体検査はしましたが、女性騎士がお宅の娘さんに殺されかけ、もう一人は眠らされていたので、誰もおりませんでした。隅々まで身体検査が出来なかった事、謝罪申し上げます。
その後も娘さんが脅迫されていた事を証明する為に、団員全員が捜査にあたっており、見回り時に毒を発見する事も出来ませんでした事、申し訳ございませんでした。
しかし、娘さんのご遺体はまだお渡しする事は出来ません。
何故なら、娘さんは我がファルコン騎士団一番隊リーダー、シシリー・フォードに毒を注射し殺害しようとした殺害未遂、
阻止されないようにと、イーグル騎士団団長ラルス・リルマグ、ファルコン騎士団副団長ブライアン・ハワード、ファルコン騎士団二番隊副リーダー、ミッシェル・リーガルを睡眠薬で眠らせた暴行の罪を犯しています。
あなた方の娘さんは、死んだから許される訳ではありません。
罪を償わず逃げた“犯罪者”なのだという事を忘れないで頂きたい。
脅されていたとはいえ、今回、娘さんが起こした事件に騎士団全員が憤っています。
あなた方の娘さんに毒を注射された一番隊リーダーは、その前に短剣で刺され手術が終わったばかりだった。
その時の怪我で子供まで亡くした。
あなた方の娘は、その手術にも立ち会っていた!子供が死んだ事も知っていた!
なのに、意識も戻っていない人間に毒を注射したんだ!
脅迫されたから許せと?
母親が誘拐されたから仕方なかった?
死んだから許せと?
貴方達が一度でもシシリーに対して謝罪していたら、何も言わず、こちらの非で死なせてしまった事を謝罪しようと思っていました。
ですが、謝る事も罪を償う事もせず死んだ娘の事しか考えなかった。
シシリーは心臓が止まったんだぞ!
死ぬところだったんだ!
そんな罪を犯した娘を棚に上げて、葬儀?
顔を見せろ?返せ?
その前に言う事があるだろう!」
あ・・・・やっちゃった…。
バタンとドアが開き、ヤコブが入って来た。
「団長。大丈夫ですか?」
「済まん…怒鳴ってしまった…。」
「後は俺、やりますんで。」
「頼んだ。
ボタニア男爵、夫人、大声を出してしまい、申し訳ありませんでした。
娘さんを死なせてしまったのは騎士団の失態です。
誠に申し訳ございませんでした。
ご遺体はお渡し出来ません。
犯罪者としてこちらで火葬致します。」
そう言った後、部屋を出ようとした時、
「「申し訳ございませんでした」」
と男爵夫妻が床に頭を付け、謝っていた。
「申し訳ございませんでした。
真っ先に謝罪せねばならなかったのに、娘が死んだと聞かされて、頭から抜けてしまっておりました。」
「私も誘拐され、娘が脅され、人を殺そうとしたと知らされ、動揺してしまいました。
本当に申し訳ございませんでした。
私達はどのような処罰となろうと受け入れます。
娘が大それた事をしてしまい、申し訳ございませんでした。」
「先程も申しましたが、大声を出した事、娘さんを死なせてしまった事、申し訳ございませんでした。
お二人に何か処罰が下される事はないかと思います。
ですが、娘さんと対面することは出来ません事、ご理解下さい。
お二人の謝罪は受け取りました。
調書も済んでおります。どうぞ、お帰りになって下さって構いません。」
頭を下げ続ける夫妻を残し、ヤコブと二人、部屋を出た。
「団長、大丈夫ですか?ドア前にいた護衛の一人が走ってきて、団長がヤバいって言うから急いで来たんですよ。そしたら、怒鳴り声聞こえてきて、急いで中入ったら、急に落ち着いちゃって…。」
「いや~怒鳴るつもりはなかったんだが、あまりにも自分達の事しか考えてなかったから、思わずな。
ヤコブが来たのは良いタイミングだった。
ありがとう。」
「俺、結局何にもしてないんで。でも、俺で正解ですね。副団長とかミッシェル副リーダーだったら、もっと怒鳴って大変でしたよ、きっと。」
「そうかもな。」
最近、俺、怒鳴ってばっかだな…と反省した。
「でも、全部は聞いてなかったけど、団長が男爵にハッキリ言ってくれてスッキリしました!ありがとうございます!」
ヤコブが明るい笑顔でお礼を言ってくれたおかげで、モヤモヤしたものがなくなった。
「だろ?俺もスッキリした!」
二人でワイワイと詰所に戻ると、
ブライアンが寄ってきて、
「だから一人で大丈夫かって聞いたのに…。でもご機嫌なようで良かった。」
「お前連れて行ったらもっと大変だったけどな!」
「俺は行きませんよ、やっと落ち着いたのに!ヤコブを最初から連れてけばよかったんですよ!」
「ヤコブは俺が怒鳴るより早くキレてると思うぞ。」
「待って下さいよ!俺、そんな、キレませんよ!」
周りの団員達が一斉に、
「「「「「嘘つけ!」」」」」
と言って、全員が笑った。
久しぶりに明るいみんなの笑顔が見れて良かった。
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