帰らなければ良かった

jun

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スーザンの死

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ブライアン視点


ラルス団長とエドワード団長とヤコブが取調室で、今頃元イザリス公爵夫人を追い込んでいるだろう。

俺は聞き取りを行なった使用人達の調書の作成、報告書の作成、帰宅させる使用人の選別、証拠品の整理等やるべき事を淡々としていた。

そこへ、慌てて俺の所に来た団員が、
「副団長、牢の中でスーザン・ボタニアが死んでいます。毒を飲んだようです!」
と報告してきた。
俺も急いでスーザンがいる牢へ行くと、
簡易ベッドの上で毛布を噛んだまま絶命しているスーザンがいた。
苦悶の表情を浮かべ、泡を吹きながらも毛布を噛んで離さない姿は、声が漏れないようにと、自分の意思で噛んだのだろう。
よく見れば、涙の跡がある。
近くに、毒が入っていたであろう包み紙が落ちていた。

それをそっと取り、ハンカチに包んだ。
後で調べてもらうために。

このスーザンという女は、シシリーに毒を注射した女だ。
母親を殺すと脅され、やるしかなかったんだろうとは思う。
だが、刺された上に流産までしているシシリーに、母を助けるためとはいえ、俺達を眠らせ、毒を注射した。
シシリーの心臓は一時止まったのだ。
団長が気付かなければ、シシリーは死んでいたのだ。

だから、俺は可哀想とも思わない。

「検死するから運び出してくれ。俺は団長に報告後、両親に報告に行く。
スーザンの身体検査をした者、ここの見張りの者、後で俺の所に来るように伝えてくれ。
後、自殺で間違いないだろうが、念の為、牢の中を調べてくれ。人員を送る。
後は頼んだ。」

「はい!」


地下牢を出て、仕事を続けようとした時、
「ブライアン、何かあったの?」

「スーザンが自害した。」

「え⁉︎」

「死んだ。毒を隠し持っていたようだ。」

「身体検査は?」

「あの時は、俺もお前もシシリーもいなかった。団長だけが、状況を把握していて後はよく分からない状態だった。団長がスーザンを連れてきても、何がなんだか分からなかったんだ、身体検査の漏れも仕方ない。」

「珍しい。いつもなら職務怠慢で処罰くらわしてるのに、今回は甘いわね。」

「さっきも言った。あの状況で職務怠慢と言うのは酷だ。」

「ふぅ~ん、それだけかしら?」

「何が言いたい。」

「スーザンはシシリーを殺そうとした。だから自業自得だと思ってない?」

「思ってる。俺が殺したかったくらいだ。でも、そんな事はしない。
可哀想だとは思わないだけだ。」

「そうね、脅されていたなら私達がすぐ近くにいたんだもの、相談出来た。なのにしなかった。
でも、死ぬ事はなかったわ。」

「犯罪者として生きるより、死んで楽になりたかったんだろ、俺は…シシリーに謝りもせず死んだ事を許せないだけだ。」

「まあね。」

そう言ってミッシェルは戻って行った。


尋問が終わったらしい団長とラルス団長が俺の所に来た。

「お疲れ様でした。ジュリアーナは認めたのですか?」

「認めてはいないが、認めなくても罪状は明らかだ。覆る事はない。
それよりスーザンが死んだと聞いた。」

「はい。先程確認しました。毒を隠し持っていたようです。
毛布を噛み、声が漏れないようにし、発見を遅らせようとしたかと。」

「ブライアン、お前、怒ってる?」
とラルス団長が俺に聞いた。

「はい。かなり怒っています。謝る事もせず、死んで楽になるなんて俺は許せない。」

「まあね、一番やらせちゃダメな事だよね。」

「身体検査をした者、見回りの者を呼び出しましたが、あの状況では仕方なかったかと思われます。」

「ブライアン、どんな状況でも仕方ないで済まされる事なんかない。」

「・・・・・・」

「スーザンを殺したいほど憎んでいたのか?」

「分かりません。でも、シシリーの状態を知った上で、毒を注射したあの女を俺は、脅されたから仕方ないなんて思えません…。


シシリーは死ぬとこだったんだ!」

俺の大声で近くにいた団員達が一斉に俺を見た。

「分かった分かった、ブライアン、落ち着け。
副団長としての態度を取らねばならないのと、シシリーの婚約者として怒鳴り散らしたい気持ちでイライラしてるんだよな。
そんな時は、お前が落ち着く場所に行ってこい。
副団長でなければ、お前は休まなきゃならない状況の人間なんだ。
だから、行ってこい、シシリーの所へ。」

「しかし、男爵にスーザンの事を「ブライアン、俺が話す。シシリーの事も心配だ。
ちょっと様子を見てきてくれ。先生にもスーザンの事、報告してきてくれたら助かる。」」

「…ありがとうございます。先生にも報告してきます。
様子を見たら戻ります。」

「良いから良いから、行ってきな。」

団長達に見送られ、医務室へ向かった。



医務室へ入り、シシリーの病室へ入る。

「シシリー、入るよ。」

ノックをしてドアを開けると、シシリーは眠っていた。


「シシリー、寝てるの?」

起きて欲しいけど、寝かせてあげたい…
そっと頬に触れるとシシリーが目を開けた。

「ライ…」

「ごめん、起こしちゃった。」

「良いの、起こしてくれてありがとう…」

「具合はどう?」

「まだ痛みはね…しばらくは仕方ないね。」

「そっか…。もう眠って。顔見に来ただけだから。」

「何かあったの?」

「ん?あった…かな…。」

「言いにくいこと?」

「あのね、シシリーに毒を注射した子が、牢の中で毒を飲んで死んだ。」

「え⁉︎」

「さっき確認した。」

「どうして?」

「シシリー…人が死んだという事態には残念だとは思っているんだ…でも俺は…可哀想なんて思えないんだ…。
あの女はどんな事情があろうと、
重症のシシリーを、
抵抗も出来ないシシリーを、
俺の大事なシシリーを、殺そうとした。
その事実がある限り、俺はあの女をどうしても可哀想とは思えないんだ…。
でも、副団長としてあの女の両親に、死なせてしまった事を謝らなくてはならない。
申し訳なかったと。
あの女は謝りもせず死んだのに!
その怒りをどこにもぶつけられなくて…。
団長達にその思いを見抜かれて、シシリーに会って落ち着けと、ここに来た。」

「ライ…」

「ごめん、シシリー…俺は…人が死んだのに…。後悔して死を選んだ彼女の死を、悼むことも出来ないほど…謝りもせず死んだ彼女を・・・心の底から憎んでいる…」

「ライ、ブライアン、私が眠っている間の事は分からないけど、ブライアンの事は分かるよ。
ブライアン、
私が刺されてとっても心配したよね、心配してくれてありがとう。
流産した事、悲しかったよね、でもきっと私が知ったらってことの方が心配だったでしょ?先生はそれが分かったから私が一人の時に言ってくれて、二人で赤ちゃんの為に泣けたんだよね。
私が毒で死にそうになって、心配なのに捜査はしなくちゃだし、捕まえた犯人の取調べもしなくちゃならない、動機を聞いて憤っても、表に出せなくてしんどかったね。
たくさん私の為に怒ってくれてありがとう。
副団長として、ちゃんと仕事をしたブライアンはとても偉いと思うよ。
今だって、悼んでやれないことを気にしてるんでしょ?
ライ…優しくて責任感の強いブライアンが好きよ。
意外と泣き虫なのも、表情に出さないだけで、本当は友達思いで、甘えん坊なブライアンが好きよ。

私も、私を殺そうとした人を死んだから可哀想とは思わない。
逆にブライアンが、可哀想だなんて言ったら、私、ブライアンとは口きかないよ!
だから、ブライアン、二人で怒ろう!
勝手に死にやがってって。
ね?ほら、ブライアンだけが怒ってるんじゃないよ、私も物凄く怒ってる。
分かった?」

俺はシシリーを抱きしめた。

俺が何にモヤモヤしていたのか俺自身よく分からなかったものを、シシリーが言葉にしてくれた。
そうなんだ、俺はずっと怒っていた。
でも、怒りを出す暇もなかった。
尋問は全て団長達がしていた。
本当は俺も容疑者相手に怒鳴り散らしたかった。
怒りは溜まる一方で、発散出来なかった。
そこへスーザンの自害の報告。
怒りが憎しみに変わりかけていた。

シシリーの優しい語りで、俺の気持ちの代弁をしてくれて、それがハッキリ形になった。
形になったら飲み込めた。

「シシリー、ありがとう。落ち着いた。」

「うん、捜査、手伝えなくてごめんね、最後まで頑張れ。」

「うん、頑張るよ。シシリーも無理しないで!」


戻ったら、団長達に謝ろう。
ミッシェルにも。

怒りはあるけど、今は飲み込める。
全てが片付いたら、団長やミッシェル、シシリーと酒でも飲んで、飲み込んだ怒りを吐き出そう。

だからもう大丈夫。




あ、先生にスーザンの事言うの忘れてた…。

急いで医務室に戻って、先生に報告した。
先生は、
「そうか…バカな事を…」
と言って黙ってしまった。

もう一度シシリーの顔を見に行って、忘れた事を言ったら、小さく吹き出していた。


よし、今度こそ戻ろう。











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