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完全勝利
しおりを挟むエドワード視点
俺達はジュリアーナが既に待っている取調室に向かっている。
ラルスがジュリアーナの取調べをする。
部屋には俺とヤコブも入り、ラルスの後ろに控えた。
「あら、今日も貴方が私の相手なのね。てっきり後ろの方かと思ったわ。」
「元気そうでなによりです。今日も私が元イザリス公爵夫人のお相手を致します。
よろしくお願いします。」
「あら嫌だ、貴方、間違えていますわよ。
私はイザリス公爵夫人なの。
離婚も何もしていないもの、“元”なんて付けないで欲しいわ。」
「いえ、先日無事離婚が成立致しました。
あれ?言ってませんでした?」
「アハハハ、面白い冗談ね。私はサインなんかしてないし、絶対サインなんかしないわ。だから、離婚なんて出来ないのよ、分かった?ラルス。」
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ふぅ~ん、嘘なのね?私を怒らそうとこんな事を言ったのね。
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「元公爵夫人、貴方が「ラルス!元ではないって言ってるでしょ!」」
「えー、ボタニア男爵夫人誘拐、シシリー一番隊リーダー殺害未遂、禁止薬物の売買、使用、使用人等への虐待、イザリス公爵殺害未遂、そしてイザリス公爵元令嬢、クララに対する長年の虐待、これら多数の容疑がかかっております。その複数の「待って待って!何を言ってるの?何の誰の事を言ってるのか分からないわ。」」
「めんどくさい人ですね~、ではもう一度。
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全部使用人がやったって!」」
「お前さ、いちいち止めんなよ!元公爵夫人!先に進まねえから!
てめぇの顔なんかいつまでも見たくねぇんだよ!さっさと終わらせてぇなら、ちょっと黙ってろ!」
「あなたが一々間違うからでしょ!」
「分かった分かった、エド、アレちょうだい。」
そう言って手を出した。
離婚申請書の控えを渡すと、
「コレ。」
離婚申請書の控えをジュリアーナの前に出した。
「これが何よ!ただの申請書じゃない!
申請が通らなければ私は公爵夫人だし、今の段階ではまだ公爵夫人よ!」
「普通に出したらまだまだ申請が通るまで時間がかかっちゃうと思ったから、陛下に直々手渡したんだ。そしたら、すぐ認めてくれてね、その場で離婚が成立したんだ!」
「う、嘘よ!」
「いやいや、陛下って言葉を出した時点で嘘つかないから。俺が不敬罪で捕まっちゃう。」
「嘘・・・」
「そんな嘘ついても仕方ないし。
それとも俺と一緒に謁見する?でも、そんな理由で謁見の申し込みしたらその場で捕まっちゃうよ?」
「私は…離婚したの?」
「何回も言わせないで欲しいな!
あんたは離婚したの!もう公爵夫人でもなんでもない!ただの犯罪者なんだよ!」
「嘘よ…嘘…」
「ハア~、とりあえず聞いてね。
一つ一つ確認していくから。」
「嘘・・・・」
「ボタニア男爵夫人の誘拐は貴方が指示、これによって男爵夫人誘拐の主犯、
先ず一つ目ね。分かる?」
「主犯?」
「スーザン・ボタニアにシシリー・フォードを殺害するように指示した事による脅迫罪、シシリー・フォード殺害未遂の主犯、
これで二つ、三つ。」
「三つ…」
「ナタリア・ハワードへの禁止薬物を売却した事による違法薬物取締法に基づき、即刻逮捕。これで、四つ。そして、使用、所持で五つ、六つ。」
「な、な、」
「使用人達への暴行、虐待で、傷害罪で、七つ。」
「イザリス公爵の殺害未遂で八つ。」
「あ、あ、」
「あれ?喋れなくなっちゃった?まだ、終わらないよ。
そして、クララ・リルマグ、旧姓クララ・イザリス公爵元令嬢に対する虐待容疑で九つ。大丈夫?聞いてる?」
「嘘よ!私は何もやってない!薬物って言っても頭痛薬よ!禁止でもなんでもないわ!」
「あ、あの頭痛薬ね、普通の頭痛薬じゃないから。麻薬が入った頭痛薬。
アンタそれを何年飲んでんの?
立派な薬物中毒者だね、そしてその頭痛薬をナタリアに売ってたんだから、薬物売買してた事になる。分かる?」
「麻・・・薬・・?」
「そう麻薬。あの商会に良いように使われてたんだよ、貴方は。」
「私が…麻薬を…飲んでいた?」
「あの頭痛薬がないと生活出来ないでしょ?だって麻薬だから。」
「待って、いつから?いつから麻薬が入っていたの?」
「あの商会で書い始めてすぐらしいよ。」
「ダメダメダメ、フランシスにも飲ませたわ。何回か飲ませたわ。何回だったかしら?ダメよ、フランシスはダメよ!あの子は幸せにならないとだめなの!
私の代わりに幸せにならないといけないの!
嘘よね?麻薬なんかフランシスは飲んでないわよね?フランシス、フランシス、おいで、お母様が助けてあげるわ!
どこにいるの?隠れていないで出ておいで!お母様が貴方を守ってあげるわ!
さあ、何処にいるの?フランシス、フランシス!」
「ジュリアーナ・ワンサン!」
俺がジュリアーナを落ち着かせるために名を呼んだ、旧姓で。
「ワンサン…?」
ラルスが正気に戻ったジュリアーナに語りかけた。
「イザリス元公爵夫人、いや、ジュリアーナ、あんたは初手で間違えたんだ。
公爵がアンタとのことを無かった事にしようと言った時に、それを受け入れれば良かったんだ。
なのにあんたは公爵に縋りついた。
薬を使ってまで。
そんな始まりで上手くいくわけなんかない。そしてアンタの家は男爵だ。
高位貴族の教育もされていない。
あんたはその事にも気付かず、勉強もせず、ただ周りが自分を馬鹿にすると泣くばかり。何もせず、努力なんかもしない。
そんなアンタが公爵夫人だなんて、使用人だって認めないだろう。
使用人の方がアンタの家より位は高いんだから。
アンタは馬鹿にされたと思ったようだが、おそらく最初は使用人だって、ハッキリ言えなくても遠回しに教えていた筈だ、そうではないんだと。低位貴族はそれで良くても高位貴族はそうではないと教えていたはずだ。
なのにアンタは馬鹿にされたと受け取った。
そして薬に逃げたんだ。
段々周りを引き込み、中毒者を増やしていった。知らぬうちに、支離滅裂な行動を取るようになっても気付かない。
おそらく娘もアンタが飲ませなくても、ナタリア・ハワードが飲ませた可能性もある。
あんたが引き摺り込んだナタリアがな。
使用人達はほぼ全員証言してくれた。
全てお前の指示だったと。
押収品や全ての書類を見て証拠も見つけた。
もう逃げられない。
アンタが認めなくてもほぼ罪は確定されている。
ただ、執事だけはアンタの事を、優しい人だったんだと言っていた。」
「マイ…クが…」
「アンタは重度の薬物中毒だ。
長くは生きられないだろう。
治療もされない。娘にも会えず、処刑されるだろう。
アンタは優しく気弱な人間だったのかもしれない、でも知らないうちに、悪質で、非道で、残虐な、人とは思えないものになっていた。
牢屋ん中で昔の自分と今の自分を比べてみろ。
それから鏡で自分の顔見てみるんだな?
今の顔はとても四十代には見えないよ。
お化粧でだいぶ誤魔化してたんだな。
お前が認めなくても、全ての犯罪の主犯は貴方だ。
正式な処罰が決定するまで、牢の中で今までの事を振り返り、反省するんだな。
以上だ。もう貴方に会う事もないでしょう。
さようなら。」
ラルスがジュリアーナにそう言って、尋問とも言えない尋問が終わった。
ジュリアーナはもう一言も言葉を発せないようだった。
一気に歳を取り、老婆のようになった。
あの魔女のようだった女は、魔法が解けたように背中を丸め出て行った。
「呆気なかったな…」
とボソリとラルスが言った。
「もっと食い下がるかと思ったのに…もっと言ってやりたかったのに…途中から老人を虐めている気分になった…。
俺も意外と甘ちゃんだな。」
「お疲れ、ラルス。さあ、まだやる事は残ってる。」
主犯のジュリアーナの尋問は終わった。
我らの完全勝利だったが、なんだか後味が悪いものだった。
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