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ベルの噂
しおりを挟む結婚式まで、後一カ月となった頃、夕飯の買い物をしていた時、
「そういえば、定食屋のベルって襲われて修道院に入ったらしいぞ!」
と話している若い男の子達の会話が耳に入った。
「マジか⁉︎俺、結構あの子好みだったんだけど。」
「修道院から戻ってきたら声かけてみたらいいじゃん!」
「そんな事されて男と付き合えないだろ、普通。」
「まあな、若いのに可哀想にな」
話しながら行ってしまった男の子達。
不愉快だ。
何故か被害者になっている。
箝口令が出ているのであの事件を知っているのはほんの数人だ。
仕方ないのかもしれないが、一番許せないベルが被害者と噂され、真面目になったら修道院から出るんだろうか?
そんな事許されるんだろうか。
被害にあった人間は一生忘れられない記憶を植え付けられ、加害者は更生したら許されるんだろうか?
第一、あの子は反省したんだろうか?
調書は読んだが、録音は聞いていない。
例え、殊勝な事を言っていたとしても、本心なのかは分からない。
そして今、どんな姿になっているんだろう。
ようやく自分のした事が酷い事だと思ったんだろうか?
ボォーっと立ち尽くして考え事をしていた。
「シシリー、何してんの?」
振り返ると、チャーリーとイーグルの二番隊リーダーのダニエル先輩がいた。
「チャーリーとダニエル先輩こそここでなにを?」
「俺らは飲みに行くんだよ、シシリーも行く?」
「お邪魔だからいいよ。」
「なんで邪魔なんだよ、カップルでもあるまいし!」
「シシリー、久しく一緒に飲んでいない。たまにはどうだ?副団長に怒られるか?」
「怒りはしないけど、何も言って来なかったから…」
「仲良いな、相変わらず。」
「でも、少し話し聞いてほしい事がある。」
「じゃあ少しだけ行こうぜ!」
店には入らず、露店の肉串をツマミに、同じく露店で売ってるビールを買って、広場のベンチに座った。
「チャーリーと先輩は私達の事件は、どこまで知ってるんですか?」
「俺達は知ってる。イーグルの副リーダーは知らない。」
「じゃあブライアンの事も知ってるって事だね?」
「まあな…」
「相手の事は?」
「尋問も調書も団長二人くらいしかやってないからな、何を言ったのかとかは知らない。顔もチラッとしか見てない。」
「さっきボォーとしてたのはね、町の若い子達がその子の噂をしてたの。
その子は加害者ではなく被害者として噂になってた。
可哀想にだって…。
なんかそれを聞いてたら、腹が立ってきて…。
私はあの子が憎くて堪らないの。
ブライアンとヤったのも、もちろん嫌だけど、それよりブライアンにトラウマを植え付けた事が何より憎いの。
なのに、可哀想って…。
もし更生したら修道院から出てくるの?
私達になんの謝罪もしてないのに?
反省してるかも分からない。
反省してるフリをしてるかもしれない。
慰謝料の支払いがあるから酷い仕事に就くのかもしれないけど、私はそれでも許せない。
大好きなブライアンに抱かれた事を思い出にしていたらと思ったら、我慢出来ない。
今の今まで、誰にも言ってなかったけど、自分でもこんなに真っ黒な気持ちがある事に気付かなかったけど、私はあの子が死ぬまで許さないし、死んでも許さない。」
一気に喋ってからビールを流し込んだ。
「もし俺に彼女や奥さんがいて、シシリーと同じ立場になったら、俺も同じだと思うぞ。殺してやりたいって思う。
シシリーは、今までこんなドロドロした感情、初めてなんだろうな。
人ってこういう気持ち、みんな持ってんだよ。
特に、あの数日の逮捕劇で逮捕された女達はその感情だけになった奴らだ。
シシリーは初めての感情にどうしていいか分からんのだろ?
だから誰でも良いから話し聞いて欲しかったんだ。
基本、お前は優しい。
怒り方が足んねえんだよ。
ブチギレたことねえだろ?
多分、ブライアン先輩もだ。
お前ら二人、溜め込み過ぎだと思う、俺は。だから、一回言いたいこと、言えば良いんじゃねえの?喧嘩じゃなくて、山の頂上で叫ぶ感じで、吐き出せばいいんだよ!
口に出したら意外と自分が何に怒って、何にモヤモヤしてんのか、ちゃんと分かるぞ。」
「チャーリー・・・・初めて感心した。」
「シシリー、チャーリーはこれでも一番隊のリーダーだ。俺はコイツのこういうとこが好きだ。」
「はい、チャーリーもですけど、ダニエル先輩も話し聞いてくれてありがとうございます。」
「これくらいいつでも聞くぞ。お前はそのうちこっち来るんだろ?」
「一番隊のリーダーが決まらない…。
とにかく、なんか話したらスッキリした。
行くわ、またね!」
二人に挨拶して買い物をすませ、急いで帰った。
家に帰るとブライアンがすでに帰っていた。
「シシリー、遅い!」
「ごめん、チャーリーとダニエル先輩と一杯だけお酒飲んで喋ってた。」
「チャーリーとダニエル?意外な組み合わせだな。」
「偶然会った。ちょっと愚痴ってた。
そして、ライと山に登れってチャーリーに言われた。」
「は?何で山?」
「私とライは、怒りたりないんだって。山の頂上で言いたい事叫べって言われた。」
「なにそれ?意味分かんない。」
「だから、一緒に山登ろう!」
「ヤダよ!」
後日、二人で山に登って叫びまくってスッキリして帰った。
チャーリー、意外とやるな…。
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