帰らなければ良かった

jun

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番外編 新人達は楽しくて仕方ない〜結婚式の裏側

新人騎士サムエルは巻き込まれる

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俺はファルコン騎士団第三番隊のサムエル・ホルム、18歳、ホルム男爵家の三男だ。
三男なんて大概成績が悪かったら騎士科に行くしか選択肢はない。
嫌いではないが、選択肢がないのは少し悲しい。
でも、身体を動かす事は嫌いじゃない。

ファルコン騎士団には尋常じゃないほどの美形が何人もいる。
代表はブライアン副団長だ。
次が、ブライアン副団長の婚約者、シシリーリーダー。
そして、エドワード団長、
ミッシェルリーダー。
ヤコブ先輩もその仲間に入るだろう。

雲の上の存在と思いきや、意外とこの人達、気さくで視界に入った時には、距離を詰められ、
「サムエル!頭撫でていい?櫛で髪とかしていい?」とシシリーリーダーが構ってくる。
そうすると、必然的にブライアン副団長が、
「サムエル…本来なら怒るところだが、お前なら仕方ない。やらせてやってくれ。」
と言って、二人で俺の髪を梳かし始める。

ミッシェルリーダーは、
「サムエル!お菓子あげるよ!どれがいい?飴ちゃん?クッキー?チョコ?」
とポケットからドロドロになったチョコとボロボロになったクッキーもどきが出てくる。
「あちゃー飴ちゃんなら大丈夫そう。
はい、これね。」
と言って、飴を握らされる。

エドワード団長は、
「サムエル、今日は寒いぞ。夜寝る時はちゃんと肩まで布団をかけるように!風邪をひくぞ。」と労ってくれるが、幼児扱いが一番酷い。

俺はピンクの髪を肩まで伸ばし、ピンクの瞳な上、童顔なのだ。そして背も低い。
そのせいで、特に女性に、一つに括った髪を解けと言われ、髪を梳かしたいとお願いされる。そんなにピンクは珍しいのか⁉︎

物心ついた時からそんな扱いなので今では慣れで好きなようにさせている。

ある日、ヤコブ先輩に呼ばれた。
「サムエル、悪いんだけど、少し手伝ってもらえないか?」
と言われた。

今は極秘任務で皆、大忙しなのだ。
だが我ら三番隊の兄貴、ヤコブ先輩の頼みだ、いくらでもやってやろうじゃないか!

「ヤコブ先輩、なんでしょう?俺にできる事なら手伝いますよ。」

「おおーーさすがサムエル!お前はホントに可愛い奴だ!」

そして連れ込まれたのが、備品の在庫が置いてある備品庫。

さほど広くもない部屋に男二人。
それも美形の部類のヤコブ先輩と二人きり。
ちょっとドキドキしていると、
「サムエル、悪いんだけど、ちょっと制服脱いでくれるか?そしてこれを来てくれると有り難い。」

「何すか、これ?ドレス?」

「いやあ、結婚式で余興をやらなくちゃならなくなったんだけど、俺、何も芸事はできないからさ、得意な事でもやるしかないかなと思ってさ。」

「いやいや、何でドレスっすか⁉︎」

ヤコブ先輩の話しでは、短剣投げをやるつもりだが、ただ的に当てるのは地味だから美女に的をやってもらいたいけど、誰も引き受けてくれないので俺に頼んだ、ということらしい。

「は?俺男っすけど!嫌です、ドレスなんて絶対着ません!」

「頼む!サムエルだけなんだよ~。サムエル、絶対可愛いから誰も気付かないって!
ミッシェルぱいせんにだけは協力してもらうから言うけど。」

「余計嫌ですよ!」

「頼むよ~何でも奢ってやるから!食堂のランチ、一週間奢るから!」

「マジっすか⁉︎やります!」

「おおーー、良かった~。」

「でもこんな狭い所で練習するんですか?」

「大丈夫大丈夫、俺は外に出るから。」

「は?」

「そこの窓開けて、外から投げる。サムエルはここから出る必要はないから大丈夫だぞ!」

「だったらドレス着る意味ないじゃないですかーーー!」

「本番さながらの練習がしたいんだよ!」

「俺の型でも取ってやれば良いじゃないですか!」

「分かった、ドレスは本番直前で良いし、サムエルの型取りするから!
でも、何回かはやって!お願い!」

「ハアーーー分かりましたよ、ドレスは本番一週間前からですよ!」

「ありがとうー!」

そして、備品庫の壁に俺の人型を取り、頭の上、左右の脇の下、股の四ヶ所に的を作り、ヤコブ先輩は外に、俺は壁際に避難した。

本番は危なくないように、ペーパーナイフでやるが、今は本物の短剣でやってみるそうだ。

「絶対顔出すなよ!」と外から叫んでるヤコブ先輩。
隠す気ないんですか、先輩…

「行くぞ!」

そう言ってヤコブ先輩は短剣をテンポ良く投げた。

おお~見事に壁に刺さってる!

あ・・・

「先輩…俺…やめても良いですか…まだ死にたくはありません…」

「え⁉︎ダメだった?久しぶりだからなぁ~弓矢にする?」

「どっちもヤダ!見てみてくださいよ!」

ヤコブ先輩が戻ってきて的を見た。

「うわあ、頭と股はヤバいなぁ~サムエルが女の子になっちゃうから頑張るわ!」

「マジでそんな事になったら化けてでますから!」

そうして、ヤコブ先輩の練習は始まった。
その場にいなくてもいいと思うけど、俺は練習に付き合わされて、たまに立たされて、死ぬほど怖い思いをした。

本番一週間前に、ドレスをきてやることになり、ミッシェルリーダーが着替えと化粧をやってくれた。

「サムエル!なんて可愛いのーーー!こんな美少女見たことない!これは誰にも見せてはダメよ!むさ苦しい男達に襲われちゃうから!」

と興奮しながら備品庫を出て行った。

ヤコブ先輩と的を設置してる時、ドアの外から副団長の声が聞こえた。
ミッシェルリーダーが引き留めてくれているが、非常にヤバイ…。
ヤコブ先輩と冷や汗を流していると、ミッシェルリーダーがなんとか誤魔化し、備品が欲しい副団長の為に代わりにスッと入ってきて、ヌルッと出ていった。

どうやら副団長は何かおかしいと疑ってるらしい。
ここを開けられたら、今までの苦労が水の泡である。
頑張れ、リーダー!

副団長を撃退したミッシェルリーダーは、
「危なかったよ~でも死守したよ、頑張れ!」と言って帰って行った。

その後、ヤコブ先輩が定位置に行く為外に出てる時、同期のハリスが備品庫に入ってきた。

「「あ⁉︎」」

「あ、すみません!」と言ってハリスはバタバタと走って行ってしまった。
呆然としていたが、俺だとは思わなかったらしい。
しかし、不審な女が備品庫にいたのに捕まえなくていいのか、ハリス!

「サムエルーー、良い?」

「あ、良いでーーす」

ペーパーナイフを投げても綺麗に的に当たるようになったが、一つ問題が起きた…。
ドレスを着たら、股の的に当てられない。

「どうします?ドレスやめます?」

「ダメだ!それだけは譲れない!」

「頑なだな~じゃあ裾めくりますか?」

「何⁉︎スカートをめくると⁉︎」

「そうしないと出来ないでしょ?」

「いやいや、お前、それは、女性としてダメだよ!」

「俺、男っすけど、まあいいや。あ、ドレスの内側に的つけましょう!パンツ見えないギリギリまで捲りますから。」

「お前はそんな格好で可愛い顔で何を言ってるんだよ~」

「そこはもう仕方ないですから。一回やりましょう!」

そして、スカートの中に的を付けて、スカートをどこまで捲ったら的が見えるのか、外で確認していたヤコブ先輩は、

「サムエーーール、それは、それは、ヤバーーーい!」と叫んで鼻血を出していた。

そういえば、パンツも女性物を履いていた。

すね毛まで剃ってたから、妙にエロい。

そんなこんなで、本番前日、俺はハリスに声をかけられた。

「サムエル、お前、妹いる?」と聞かれた。

「いや、兄貴しかいないけど、何で?」

「この前さ、備品庫に超絶美少女がいたんだよ!お前と同じピンクの髪で、もうめちゃくちゃ可愛かったんだよ!
お前、知らない?」

「あーーーー、明日の余興の手伝いする子らしいよ。」

「マジか⁉︎ありがとう、サムエル!」
ハリスは詰所に走って行った。
これ、みんなに言ってんな。

あーー、これヤバいわ…

そして、本番当日。
結婚式の後のハワード家での披露宴。

女性陣におもちゃにされ、綺麗に着飾った俺。

しゃなりしゃなりとヤコブ先輩と会場に出ていった。

「「「「オオオオオオオオ」」」」

と地響きするほどの野郎どもの雄叫び。

同期の仲間が俺を熱い眼差しで見つめている。

主役の二人もホォ~って顔で見ている。
いやいや、貴方達には敵いませんから!

そんなこんなでヤコブ先輩のペーパーナイフ投げは大成功だったのだが、一番の盛り上がりはスカートを捲った時だった。

その後、団長に、はしたないと怒られ、仲間には泣きながらお前かよと怒られた。
泣くなよ!



なんだかんだで、成功して良かった!
副団長、リーダー、おめでとうございます!












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