3 / 36
3
しおりを挟むプルーム家専用の離れに戻り、部屋で考えていた。
何故婚約者がいない人だけが信じないのか…。
呪いではないだろうけど、何か理由があるはず…。
なんでよりにもよって私なんだろう…。
今までずっとそんな人いなかったのに…。
でも文献が残ってるって事は昔はいたんだなぁ…その人は何になったんだろう…。
お兄様に調べて貰おう!
何の動物になって、それからどうなったのか?
あの前歯が伸びた時、私は伸びた歯を元の大きさに戻すまで、ひたすら固いものを齧った。
お兄様が探しに探して、遠い異国にあるお魚をカチンコチンにした“かつおぶし”なるものを取り寄せてくれた。
これが意外と美味しい!
ガリガリ齧ると、いい具合に出汁が出て美味しいのだ。
そんな事をしていて、昔の事を調べるのを忘れていた。
歯が元に戻ったが、またいつ伸びるか分からないのでカツオブシは持参している。
そしてすぐマスリート王国に来て、学校に通い出したが、婚約者どころか男友達すら出来ない…。
「ハアーーーーーー」
「姫様!なんですか、そのため息は!はしたないですよ!」
「だってクレア、ため息も出るわよ!
どうして男の子の友達が出来ないの?私、そんなに人気ないのーーー?」
「姫様、そんな事はありませんよ。姫様は小さい時から愛らしく、皆から愛されておりますよ。」
「でも婚約者も出来ないのよ、ウサギだからかしら…ヒョウとかチーターだったらスタイルも良いし、例え完全体になったとしても襲われる事もなさそうだし…。」
「種別に関係はありません。こういった事はタイミングです。私の予想ではもうすぐ出会えますよ。」
「何そのいい加減な予想!でもありがとう、クレア。元気出たよ。ちょっと散歩してくるね。」
「あまり遠くへは行かないで下さいよ!」
「は~~い。」
「姫様!返事は伸ばさない!」
「ハイハイ」
「姫様!」
クレアを放っておいて、庭に出た。
ここは私達プルーム王国から獣人が来た時に使う離れだ。
国交が樹立された時に、マスリート王国の方々が色々な動物が来ても大丈夫なようにと特別に建ててくれた広ーい敷地に池や野原や森がある。
初めて来た時は広くてすごーいと思ったけど、今は申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
だって、何かしらの動物を想像しながら作ったであろうこの景観…。
走り回ろうか…と家族で気を使ってしまった事は内緒だ。
でも、こんなに良くしてもらって本当に有り難いと思う。
なので侍女のケイトと散歩という名のピクニックを楽しむ為、森の中を歩いている。
森の中に綺麗な湖があって、四阿がある。
そこでのんびりするのが最近のお気に入りだ。
「姫様、お茶の準備をしますね。今日は何にしますか?」
「今日はね、定番で!」
「紅茶とクッキーですね。ちょっと待ってくださいね。」
「うん、ケイトも一緒に飲もうよ。」
「こんなに歩かせて何も飲ませなかったら怒りますよ。」
「だよね、ごめん。でも、ここは綺麗だよね、長い距離歩く価値があるよ。」
「そうですね、空気も違いますね。」
「空気が澄んでる感じだよね~ああ~生き返る~」
「はしたないですよ、姫様。」
「クレアみたいな事言わないで。」
その時、
「うひゃーーーめちゃめちゃ綺麗じゃん!」
と声が聞こえたかと思って振り返れば、
今最後の1枚を脱ぎ、湖に裸で走っていく男性がいた。
全くこちらに気付いておらず、真っ直ぐボート乗り場から湖に飛び込んだその男性は、そのまま気持ち良さそうに泳ぎだした。
少しして、別の男性が、
「おーーい、ジャン、お前、走るの早すぎーー!」
と言いながら服を脱ぎ出した時、こちらの気配に気付いた。
「あ!・・・ウサギ?」
「・・・・・・あの…ここはプルーム王国専用の敷地だと思っていたのですが、違ったでしょうか?」
「貴方達!この方はプルーム王国の王女、メアリー様と分かってここに来たのでしたら、これは由々しき事態ですよ!」
「え?王女?」
「おーーい、グレン、泳がないのかー?
あれ?誰かいるの?」
「ジャン、上がってこい、早く!王女様がいる!」
「は?王女…様⁉︎」
「早く!」
「だって、俺、裸だけどーーー」
「待て待て、持っていくから、待て!」
「見ないようにしますからごゆっくりどうぞ。」
「ありがとうございます、少しお待ちください!」
そう言って、裸の彼の服を持って走って行った。
「姫様、これは抗議すべきです!ここはプルーム王族のみが入れる場所です!
マスリートの王族の方でも許可がないと入れません!」
「まあまあ、だってこの湖を独り占めは勿体無いもの。でも、男の人の裸を初めて見たわ。あ、でも大事な所は見なかったわよ!」
「姫様!当たり前です!」
「フフ、ケイトは見たのね。」
「見てません!」
「ほら、服を着てくれたわよ。」
二人が走ってこちらへ来て、跪いた。
「申し訳ございません、滅多にここは使われないので、見回りの時に湖に来ていました。まさか、王女様がいらっしゃっていたとは存じ上げませんでした。
私が誘いましたので、こちらのグレンは許して頂けないでしょうか。
私の事は如何様に処分されても構いませんので。」
「いえ、付いてきたのは自分の意思です。
処分されるのであれば、私も同罪です。」
「まあまあ、そんな所に跪いてないで、こちらに座ってお話ししましょう。」
「いえ、滅相もございません!」
「姫様!」
「ケイト、少し黙ってて!これはとても好都合なのよ!私の人生がかかった事よ、ケイト!
これがきっかけで男の方とお友達になれるかもしれないでしょ!」
「ですが、姫様「何か事情がお有りなのですか?」」
「そうなんです…聞いてもらえますか?」
「ジャン、お前、やめろよ!」
「まあまあ、グレン、王女様が困ってるのを助けるのも俺達騎士の役目だと思うよ!」
「そうかもしれないけど…」
「貴方の名前はジャンっていうのね。そちらの方はグレンね。」
「そうです。」
「じゃあ、ジャンとグレン、ここに座ってちょうだい。」
「姫様…よろしいのですか?」
「良いのいいの、こっちだって切羽詰まってるんだから。」
初めての男友達になってくれるかしらと期待しながら、ジャンとグレンとのお茶会が始まった。
24
あなたにおすすめの小説
どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話
下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。
御都合主義のハッピーエンド。
小説家になろう様でも投稿しています。
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
番ではなくなった私たち
拝詩ルルー
恋愛
アンは薬屋の一人娘だ。ハスキー犬の獣人のラルフとは幼馴染で、彼がアンのことを番だと言って猛烈なアプローチをした結果、二人は晴れて恋人同士になった。
ラルフは恵まれた体躯と素晴らしい剣の腕前から、勇者パーティーにスカウトされ、魔王討伐の旅について行くことに。
──それから二年後。魔王は倒されたが、番の絆を失ってしまったラルフが街に戻って来た。
アンとラルフの恋の行方は……?
※全5話の短編です。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
『番』という存在
彗
恋愛
義母とその娘に虐げられているリアリーと狼獣人のカインが番として結ばれる物語。
*基本的に1日1話ずつの投稿です。
(カイン視点だけ2話投稿となります。)
書き終えているお話なのでブクマやしおりなどつけていただければ幸いです。
***2022.7.9 HOTランキング11位!!はじめての投稿でこんなにたくさんの方に読んでいただけてとても嬉しいです!ありがとうございます!
王子の婚約者は逃げた
ましろ
恋愛
王太子殿下の婚約者が逃亡した。
13歳で婚約し、順調に王太子妃教育も進み、あと半年で結婚するという時期になってのことだった。
「内密に頼む。少し不安になっただけだろう」
マクシミリアン王子は周囲をそう説得し、秘密裏にジュリエットの捜索を命じた。
彼女はなぜ逃げたのか?
それは───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
婚約破棄を言い渡したら、なぜか飴くれたんだが
来住野つかさ
恋愛
結婚準備に向けて新居を整えていた俺(アルフォンソ)のところへ、頼んでもいないキャンディが届いた。送り主は一月ほど前に婚約破棄を言い渡したイレーネからだという。受け取りたくなかったが、新婚約者のカミラが興味を示し、渋々了承することに。不思議な雰囲気を漂わす配達人は、手渡すときにおかしなことを言った。「これはイレーネ様の『思い』の一部が入っています」と――。
※こちらは他サイト様にも掲載いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる