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しおりを挟む私が川で転んだ日から、ジャンがちょくちょく遊びに来るようになった。
マカロンもまた持ってきてくれて、クレア、ケイトと私、そしてジャンの四人でワイワイお茶をしながら一緒に食べたり、一緒に散歩をしたりと二人でいる時間が増えた。
グレンも一緒の時もあるが、グレンはあれから時間があったらフェリスの元へ行き、フェリスの相手は自分であって、ジャンではないと周知させる事を優先させているようだ。
前に言っていた護衛代わりのマルコは良い仕事をしている。
威圧するのではなく嫌がらせしそうな令嬢の注意をさりげなくフェリスから他に持っていかせるのが上手く、フェリスは今の所嫌がらせは受けていない。
フェリスの相手がジャンではなくグレンだったのが大きいのだろう。
クラスでフェリスに嫌がらせをしていたのはジャンの熱狂的ファンだ。
これでフェリスへの嫌がらせは止まるだろう。
「マルコは意外と出来る男だったのね、ちょっと見直したわ。」
「本当だよね、見た目も良いし、なんで今まで目立たなかったんだろう?」
「目立ちたくなかったんじゃない?変に目立つと面倒でしょ。」
「確かに。私も極力目立ちたくないもの。」
そんな会話をした日の昼休み、いつものメンバーにマルコも加わって食堂で昼食を食べていた時、
「メアリー様、少し宜しいでしょうか?」
とローズマリー様が声をかけてきた。
「構いませんが、食事が終わってからで宜しいですか?」
「すぐ終わりますので、今が良いのですが。」
何なんだろ…この人。
普通、食事中に話しかけてくる?
ハア・・・
「では、何でしょう?」
「メアリー様はジャン様とはどういうご関係なのでしょうか?」
「ハア?」
思わず食べていたサンドイッチを吹き出すところだった。
「ですからジャン様とはどういう関係なのかと聞いてるんです。」
「何故そんな事を聞くのですか?」
「言えないのですか!」
「ジャンは私がいるプルーム家用の離れを警備してくれているだけです!何か文句あります?」
「メアリー様はジャン様を呼び捨てされているのですか?」
「私これでも王女なので、逆に敬称呼びする方がおかしいと思いますけど、ローズマリー様の許可がないと名前を呼べなかったのですね。
私の国ではいちいち誰かの許可を取らなくても名前は呼べるのですが、こちらではローズマリー様の許可が必要だったとは勉強不足でした。
ローズマリー様、ジャン・ラテリア公爵令息様をなんとお呼びしたら宜しいのでしょうか?」
耳ピーーーン!
「ウッ・・・私の許可は必要ありません・・・」
「ではジャンとお呼びして構いませんか?」
「・・・・はい。」
「それでなんでしたか?」
「もう結構です!」
バタバタバタ…
「なんだったの、あれ?」
「メアリーが最近ジャンとよくいるって噂になってるから気に入らないんじゃないのかしら。」
「めんどくさ…」
「でもグレン様も“最近のジャンはメアリー様にべったりだ”って言ってましたよ。」
「べったりって…たまに散歩してるだけだよ、ジャンは危なっかしい私を心配してるだけよ。父親目線ね、あれは。
ん?母親目線かも…小言が多いから。」
「それでも噂が流れるって事は周りにはそう見えてるって事よ。気をつけないと婚約者出来ないわよ。」
「ハッ!そうだった…婚約者かぁ~もう見つからない気がするよ…」
ヘニョリ…
「メアリーの好みはどんな人なんだい?」
とシリウス様。
「うーーーん・・・・・・あれ?どんなだろ?」
「メアリー様って今まで好きな人とかいなかったの?」
とマルコが聞いてきた。
「そういえば、誰かを好きになった事ないかも…」
「アララ、そこからですか~こりゃ前途多難だなぁ~」
「だって王宮にいたら年頃の男の子なんていなかったもの…。でも庭師のおじいちゃんとか厨房の料理長とか騎士団長のおじ様には人気あったのよ!」
「それ孫とか娘を可愛がる感じだと思うよ…」
「でもローズマリー様って余程ジャンの事好きなんだね、なんか怖い…」
「気をつけなさいよ、ああいう人は何するか分からないから。」
「うん、そうだね。」
それからはローズマリー様が何かを言ってくる事もなかった。
なんだったんだろ…と思ったが、時間が過ぎると共に忘れてしまっていた。
ジャンは相変わらず口煩く小言を言いながらも毎回お菓子を持ってきては一緒にお茶を飲んだり、散歩したり、たまに市街地に連れて行ってくれたりした。
ジャンは男前だ。性格も。
口うるさいけどそれは私を心配しての事と分かっている。
気負いなく話してくれるのも好きだ。
一緒にいるのはとても楽しい。
だから徐々にジャンの事を好きになってしまったのは仕方なかったというか、許してほしいというか…。
でも一度フラれているので諦めてはいる。
だから距離をおこうと思っているのに出来ないでいる。
そんな時、ジャンがあの湖で待っているとナタリー付きの侍女が教えてくれた。
珍しいとは思ったが、何度もあの湖の四阿でお茶をしていたので、何の疑いもせずケイトを連れて行ってしまった。
四阿についてケイトがお茶の準備をしている時、急に後ろから口に布を押し付けられた。
ケイトも同じように襲われている。
ケイトを助けなきゃと暴れたが、そのうち意識を無くした。
どれくらい時間が経ったのか分からないが、
起きようと身体を起こそうとしたが、手も足も縛られているようだ。
叫ぼうにも口には猿轡がされている。
あ、ケイト!ケイトはどこ?
周りを見ても誰かいる気配はない。
そしてさっきからガタガタ動いているここは馬車の中なのだろう。
神経を耳に集中し、周りの音を聞く。
御者は男二人。
ボソボソ小声で話しているのだろうが、私はウサギだ。
会話を聞くなんて造作もない。
「お嬢様、これからこのウサギのお嬢さんをどうする気なんだろう」
「さあな、俺達は頼まれた事だけやればいいんだよ!お嬢様の所に連れて行ったら金を貰ってすぐに王都から離れるぞ!」
「でもこのウサギのお嬢さん、こんなに小さいのに大丈夫だろうか…酷い事されたら可哀想だよ…」
「仕方ないだろ、俺達は金がいるんだ!母さんの薬も買ってあげれるし、妹達にも腹いっぱい飯を食べさせてやれるだろ!」
「そうだけど…妹と変わらないくらいの子を何をされるか分からない所に連れて行くのはやっぱり嫌だよ…兄さん…。」
聞いていたら、なんだか気の毒になってきてしまった。
病気のお母さんがいて、まだ幼い弟妹がいるのだろう。
お金に困り、こんな事をしてしまったのだろう…。
助けてあげたいけど、この状態では話しも出来ない。
どうせこの後酷い目にあわされるのなら、この気の毒な兄弟にかけてみよう!
馬車の中をゴロっと転がり、御者の二人に聞こえるように、縛られた足でガンガンドアを蹴った。
ウサギの蹴りを舐めんな。
やばい、ドア壊れそう…
だったらこっち側を。
またゴロゴロ転がり、ドアの反対側を蹴った。
ガンガンガンガン
あ、穴開いちゃった。
じゃあやっぱりドアをと思って転がったら馬車が止まった。
今まさにドアを蹴ろうとした時に、ドアが開いて思いっきり目の前の男を蹴ってしまった。
あ、これ…私…死んだな。
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