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しおりを挟むゴフッと呻いて倒れた御者の一人をもう一人が、
「兄ちゃん!」
と言って駆け寄った。
おそらく
私を可哀想と言ってくれていた人だろう。
良かった、なんとかなりそう。
なんだか悪い事をしたような気がして、猿轡をしたまま、
“ごめんなさい”と頭を下げた。
なんとなく私が謝ったのが分かったのか、
「いや、こっちも悪いし…」
と言った。
“これ取ってくれる?”
とフガフガ言えば、
「それはダメだよ、大声出されたら困るから」
“出さないから取って”
「でもなあ…」
“お願い、絶対大声出さないから”
「うーーーーん、兄ちゃん気絶しちゃったし…少しだけね」
と言って、猿轡を撮ってくれた。
「プハーーーー、苦しかったーーーー!
しかし、よく私の言ってる事が分かったね。」
「なんとなくね。
ごめんね、こんな事したくなかったんだけど…」
「ありがとう、でもごめんね、お兄さんの事思いっきり蹴っちゃった…」
「急に開けたこっちも悪いし…。でもどうして蹴ったの?」
「貴方達の話しが聞こえて、私、力になってあげたいなって思ったの。」
「話し?」
「そう、お母さんの薬代とか妹さん達の話しを聞いちゃったの。」
「ああ、聞こえてたんだ…」
「あのね、こんな事して貰ったお金で薬買ったらお母さん悲しいと思うの。
もし良かったらね、私で良かったら力になれると思うの。だから話しを聞いてもらいたくてドア蹴ったの。まさか、お兄さんに当たるとは思わなかったけど。」
「力になるってどういう事?君は貴族でしょ?僕達は平民で、それもスラムに住む底辺の人間だよ、どうせ口だけでしょ?」
「あのね、貴方は私の事をとても心配してくれてたでしょ?
お兄さんはお母さんや貴方達弟妹を助ける為にどうしようもなくこんな事したって事が分かったの。
私はこれでも獣人国の王女なの。
もし詳しい事情を話してくれるなら力になりたいなって思ったの。話してくれる?」
私はとにかく、この優しい弟にかけた。
「王女…だったんですか?」
「それはいいのよ、貴方達にこんな事を依頼したのは誰?話してくれたら貴方達家族をもれなく助けてあげる!」
「家族全員?」
「そう。貴方達、このままでは王族誘拐で処刑されてしまうわ。こんな事頼む人が貴方達を生きて逃す訳がないもの。捕まって処刑されるか、依頼主に殺されるかよ。
幼い弟妹と病気のお母さんがいるのに貴方達がいなくなったら家族を誰が支えていくの?」
「処刑…」
「そう。逃げても家族を人質に取られたら身動きとれなくなるわ。
だから話して、貴方達に誰が依頼したの?お嬢様って誰?」
「俺達に依頼したのは…」
「うっ…イテェ・・・」
「兄ちゃん!大丈夫か!」
「ああ、大丈夫だけど何があった?」
「それが…」
「ごめんなさいね、私が蹴っちゃったの。」
「え?あ!なんで猿轡取れてんだよ!ハイド、お前が取ったのか!」
「この人王族なんだって…」
「は?王族?」
「そう、私はプルーム王国第一王女のメアリー・プルームよ。
貴方達、このままでは犬死によ。貴方達が死んだらこれから誰がお母さんを助けるの?
お母さんも妹達も貴方達二人も助けてあげるから誰に依頼されたのか教えて!」
そう言って頭を下げた。
「でも時間がない。時間までに連れて行かないと妹が殺される。」
「マジで?」
「マジで。だから大人しく縛られててくれ。」
「妹さんは捕まってるの?」
「家を見張られてる。俺達が行かないと母さんも妹も弟も殺される…」
「見張りは何人いるの?」
「多分一人。」
「じゃあ急いで貴方達の家に行って。とにかくお母さんと弟妹を助けないと!」
「助けるってどうやって?」
「私が行けばいいんでしょ?だったら見張りに連れて行かせればいいじゃない。貴方達の家に着いたら、お母さんが殺されるでも妹が攫われるでも何でも良いから助けてくれそうな事を大声で言いなさい。
そしたら近所の人とか通行人とか誰かしらが気付くから知り合いがいたら、助けを求めなさい。誰か助けてくれそうな人が近所にいる?」
「俺達の住んでる所は汚いし貧乏人ばっかだけど、助け合って生きてる。だから誰かしら出てきてくれると思う。」
「じゃあ、私のイヤリングとネックレス外してくれる?」
「なんで?」
「今渡せるものそれだけなの。ま、手付金ってやつかな。ポケットに入れてね。
とにかく見張りをなんとかしたら、家族全員馬車に乗せなさい。そして私を捕まえた場所まで行って私の邸に行きましょう。急いで!あ、縄解いてくれたら助かるんだけど。
もし、見張りが襲ってきたら私を見捨ててそれ持って全員で邸に行きなさい。
私が目的なんだから私がいたら貴方達の事は後回しにするだろうから。分かった?」
「分かった。」
そう言って縄を解いてくれたので、イヤリングとネックレスを外してお兄ちゃんに渡した。
「なんであんたは俺達を助けるんだ?」
「なんとなく?ま、良いじゃない、早く行くよ!」
そう言った後兄弟は馬車を走らせて兄弟の家の近くで馬車を停めた後、私を連れて自分達の家の近くまで行き、
「ダニーーー、サーーーーム、ヨハーーーン、妹と母さんがーーー殺されるーーーー!」
とお兄ちゃんが叫んだ。
するとワラワラと人が出てきた。
「リアム、どうした?」
その中でリーダー格っぽい人がお兄ちゃんに近付いてきた。
「ダニー、助けてくれ、妹と母さんが殺される!」
すると、柄の悪い男が出てきて、
「てめぇー、裏切りやがったな!」
と掴みかかってきたところをダニー達が一斉にその男に襲いかかった。
ボコボコにされた男は気絶してしまった。
ロープでグルグル巻きにした後、ダニーが、
「リアム、何があった?そのウサギの女はなんだ?」
「あーー、話せば長いからとりあえず家にきてくれ。」
「あ、その人馬車に乗せておいてほしいの。後で青騎士団に引き渡すから。」
「ハア?」
「あのね、大通りに停まってるから。弟くん、連れて行ってあげて。」
「分かった!」
とにかくお兄ちゃんの家に行って家族を保護しないと!
ダニーは出てきてくれた人達に見張り役を馬車に運ばせる人を指示してから解散させた後リアムと私と一緒についてきた。
リアムの家に着いて、ダニーに今までの経緯を説明し、家族を私の邸に連れて行く事を話した。
「とりあえず分かった。母ちゃんとアン達の安全が大事だが、このウサギちゃんの言葉を信じて大丈夫なのか?いきなり捕まったりしないのか?」
「私が上手く話すから。とにかく早くここを離れないと追手が来ちゃう。」
「よくわかんねーけど、あぶねーなら離れた方がいいな、リアム、とにかく早く逃げろ。」
「ダニー、ありがと。じゃあ行くわ!」
リアムのお母さんをみんなで運んで馬車に乗せた。
気絶してる男は御者席に括り付けて、
リアムは御者で、妹のアンちゃん、弟のダンくん、お母さん、そして猿轡を外してくれたアダムと一緒に馬車に乗って、私を攫って馬車に乗せた所までもう少しという時、急に馬車が停まった。
小窓から御者席のリアムに声をかけようとした時、
「その馬車にメアリー王女が乗ってるな」
と言う声が聞こえた。
リアムは何も言わない。
外に何人いるのか分からない。
でもこのままでは、全員殺されるかもしれない。
ここまで来たのなら多分帰らない私を探して騎士団が動いてる筈だ。
だったら…。
「いい、よく聞いて。私が外に出て囮になるから、その間に馬車を走らせて青でも白でもなんでも良いから騎士団に、攫われた私が自力で逃げたところを助けてここまで送ったけど、また捕まったから助けてって伝えて!
さっき渡したアクセサリーを見せるのよ。
詳しい事は知らないって言うのよ!
リアム、分かったわね!」
「・・・分かった。捕まるなよ!」
「頑張る!行くわよ、私が森の中に走ったら馬車を走らせるのよ!」
そう言って、馬車から降りた。
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