番なんていません、本当です!

jun

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「私はここにいます。」

馬に乗った男達が三人、馬車の前にいる。
馬かぁ、どうしようか…

「ほう、可愛いウサちゃんだ。
あんたには一緒に来てもらう。大人しく着いてきたら何もしない。」

「貴方達に私を連れて来るように言ったのは誰?」

「それをここで言ったらそこの馬車の中の人間も御者もみんな殺すしかないけど、いいの?」

「分かったわよ、聞かないわ。」

「じゃあゆっくりこっちに歩いてこい。
変な事したら全員殺す。」

この男は本気だ。
ポケットからかつお節をコッソリ出した。

ゆっくり男達に近付いていく。

リーダー格の男だけが馬から降りた。

リーダーを挟んで馬に乗っている左右の覆面をした男達は何も話さない。

リーダーの男が私を捕まえようと手綱から手を離して手を伸ばしたその時、右側の馬目掛けてジャンプし、思いっきり蹴った後、リーダーの馬に飛び乗って、左側の馬にかつお節を投げつけた。

一気に王女が動いた事に面食らった男達は咄嗟の事に動けなかった。
馬は蹴られた事とかつお節をぶつけられて前足をあげたあと、急に走り出した。
私は森の中へと馬を走らせた。

馬車が動き出した音がしているので、後は上手く逃げ切ってくれたら良いんだけど。

後ろで男達が騒いでいる。
離れ過ぎない程度の速さで馬を走らせ、男達を惹きつけた。

乗馬は得意だが、森の中を走らせるのは難しい。
まあ、後ろの人達も大変そうだ。
とにかく馬車が逃げ切れる距離を稼ぎたい。

後ろを振り返るとリーダーを乗せた馬ともう一頭に男二人が乗って追ってきていた。

よし、引きつけた。


じゃあこれからは本気で、と思ったらいきなり開けた場所に出たので急停止した。

目の前は崖だった。
それも下は川。

とりあえず馬を降りた。

追いついた男達は、かなりご立腹のようだ。

「おいおい王女様、やるね~まさか王女様があんなに動けるとは思わなかったよ~」

「一応、王女なんで一通りはなんでも出来るんで、あしからず。」

「でももう逃げ場所ないね。こっちも怪我はさせたくないんで大人しく捕まってもらえませんか。またやられると怖いから、今度はこっちから行きますから。」

と言った後、三人は馬から降り私に近付いてきた。
後ろをチラッと見る。

うーん、落ちたら死んじゃうかなぁ…骨でも折ったら泳げないだろうし…

ジリジリ後ろに下がった。

「ちょっと、こっちに来ないで!」

「王女様、落ちちゃうからもっとこっちに来て下さいよ。」

「いやよ、だったらここから落ちた方がマシ。」

「そんな事言わないで。」

すると近くに馬の蹄の音が聞こえた。
助けが来たのかも!

「誰かーーーーー!」

と叫んだ時、

「姫様ーーーーーー!」
とジャンの声が聞こえた。

「ジャーーーーーーン」
と叫んだ時、リーダーが飛び交ってきた。

思わず後ろに下がったら、地面がなかった。

リーダーと私は崖から落ちた。







*ジャン視点

夕方、姫様の所へ行くと、侍女長のクロエが、
「姫様とケイトはジャン様と一緒ではないのですか?」
と聞いてきた。

「今日は会ってないけど。だから今来た。
どうしたの?」

「1時間前ほどにナタリー様付きの侍女の方が来られ、ジャン様がお呼びになっていると姫様の所へいらっしゃった後、案内すると言って、姫様とケイトを連れて行ったのです。楽しくて時間も忘れているのだろうと思っていた所へジャン様がいらっしゃったのです…ジャン様、姫様はどちらにおられるのですか!一緒ではないのなら姫様は誰と一緒なのですか!」

「落ち着いてクロエ!一時間前にナタリー様の侍女がここに来たんだな?」

「はい…」

「一緒にナタリー様の所に来て!」

姫様が消えた。
いくら無防備で無鉄砲な姫様でも勝手に居なくなったりはしない。
小さなウサギの女の子…捕まえるのなんて造作もないだろう。

ヤバイヤバイ、早く探してあげないと。

直接は行けないので、王太子のランバート様の所へ向かった。

ランバート様の執務室へ行き、入室の許可を貰いランバート様に姫様が消えた事を報告した。

「メアリーが消えた?お前の名前を騙り連れ出した?ナタリーの侍女が?」

「そうです。クロエが確認しています。すぐナタリー様に確認して下さい!」

「分かった。付いてこい!」

ランバート様がナタリー様の私室へと俺達を伴い急いで向かった。

ドアを叩きながら、
「ナタリー、そこにメアリーはいるのか?
メアリーが消えた!開けろ!」
と叫んでいる。

すぐにドアが開き、
「お兄様、メアリーがいないってどういう事ですか?」
ナタリー様の所にもいない。

説明すると、

「私付きの侍女が?」

クロエが特徴を伝えると、

「ナンシー!ナンシーはどこ?誰か呼んできて!急いで!」

他の侍女達が探すがどこにも居ない。

「とにかくメアリーを探せ!空き部屋も隅々まで探せ。怪しい者、目撃した者、分かり次第私に報告しろ!」
とランバート様が怒鳴る。

俺も捜索に加わり、姫様とケイトを探した。

どこを探しても二人はいない。
二人とも攫われたのか…

その時、クロエが走り寄ってきた。

「ジャン様、申し訳ございません。思い出した事がございます。ハッキリ聞こえたわけではないのですが、四阿と聞こえたような気がします。」

俺は近くにいる同僚に、
「森の中の湖の四阿だ。みんなに伝えてくれ。ランバート様にも。」

言いながら湖へと走った。
何回も行った場所だ。
姫様に初めて会ったのもあの場所だ。

何にこんなにイライラしているのか分からない。
ただあのドヤ顔の時に耳がピーンとなる姿が可愛かったなとか、しょんぼりすると耳がヘニョリと垂れ下がり、目を伏せると睫毛が長いって事に気付いてジッと見ていると、照れて真っ赤になった顔を思い出して、胸が苦しくなった。

ようやく四阿に着くと、ケイトが倒れているのを発見した。
すぐにケイトの所へ行き、声をかけた。
「ケイト、姫様は?何があった!」

すると、目を開けたケイトは数秒固まった後、

「ジャン様!ここに着いてすぐ後ろから薬を含ませた布で口と鼻を抑えられました。その後は意識をなくしてしまいました…意識が途切れる前に、姫様が私の名前を呼んでいたのは薄っすら覚えております…ジャン様!姫様をお助けください!早く見つけて下さい!お願いします!お願いします!」

「分かったから落ち着け!必ず見つけ出すからお前は休め。」

「お願い致します、ジャン様…姫様をお願い致します…」

泣きじゃくるケイトを後から追いついた同僚に頼み、ランバート様への報告も頼んだ。

犯人の移動経路を考えた。

姫様とケイトを同時に抑えつけるのは女では無理だ。
少なくとも男二人。
侍女はどこへ消えたのか…。

とにかく探さないと。

何度も森へは入っているし見回ってもいた。

とにかく道に出られる方向へ走って森をひたすら走っている途中に誰かが倒れていた。

近付くと女で、おそらく姫様を連れ出した侍女だろう。

逃げ出す途中で姫様と同じ薬を嗅がされたのか?

女を抱え、来た道を戻った。

誰か連れてきていれば良かった。

ちっとも頭が働いていない。

とにかく女を誰かに預かってもらわねば探しにいけない。

さっきの四阿へ着いた時、グレンがいた。

「ジャン!姫様は?」

「いない。この女が森で倒れていた。おそらく姫様を連れ出した侍女だ。時間がない。拘束してここに置いていく。グレン、一緒に来い!」

俺と一緒に走り出したグレンが、
「どこに倒れてた?」

「森を抜けて市街地に抜ける道の途中でだ。おそらくその道から馬車で攫われた。」

「なんでメアリー様が?」

「分からん!俺の名前で呼び出されたらしい。クソッ!」

「落ち着け、ジャン。焦ればそれだけ頭が働かない。冷静になれ!」

「分かってる!俺は冷静だ!」

「ハア~ま、いい。」

「なんだよ!」

「分かったから急ぐぞ。」

それから二人で道に出るまで走り続けた。

ようやく馬車道に出ると、新しい馬車の轍があった。方向的に街へ出たのだろう。

「くそ、馬でくれば良かった!」


その時、物凄い勢いでこっちに向かって走ってくる馬車が見えた。


「誰か助けて!王女様が殺されちゃう!」


と御者の若い男が馬車を止めながら叫んでいた。













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