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しおりを挟む「誰か助けて!王女様が殺されちゃう」
と叫んだ御者が乗る馬車が止まると、
「お願い、王女様が俺達を助ける為に囮になったんだ。
森の中に馬に乗って逃げたけど、馬に乗った奴らが王女様を追いかけてるんだ。早く助けて!」
「聞きたい事は山ほどあるが、とにかく君だけ俺を連れて行ってくれ。馬車の馬を一頭借りる!グレンはここで中にいる者達を守ってくれ。」
「分かった。気をつけろ。」
俺は後ろに若い御者を乗せて馬を走らせた。
「あそこから王女様は森に入ったんだ。」
教えられた場所から森に入る。
急ぎたいが、木が生い茂り馬では走れない。
“よくこんな中走ったな、姫様”
逸る気持ちを抑え、そんな事を思っていると、
「誰かーーーー」
と助けを求める姫様の声が聞こえた。
「姫様ーーーーー!」
と呼びかけると、
「ジャーーーーーーン!」
と姫様が答えた。
馬を飛び降り、声のした方へ走った。
開けた場所に出ると、馬が二頭と男が三人。
一人が姫様に飛びかかろうとしていたその時、姫様が消えた。
飛びかかった男も消えた。
「姫様ーーーーーーー!」
よく見れば姫様がいた場所の先は崖だった。
残った男達は突然の事に唖然としており、その隙に二人を制圧し、拘束具をつけた後、崖を見下ろした。
下は川らしく姿は見えない。
流された!
道案内した御者に、
「済まないが、さっきの道まで行って誰かを呼んできてほしい。俺は姫様を探す。」
と言い、上着を脱ぎ三階ほどの高さから川へ飛び込んだ。
ドボンと沈んだ後、水面へと泳ぎ、水面から顔を出し辺りを見たが、何も見えない。
しばらく泳いでも姫様も男もいない。
しかし水面から飛び出ている岩に何かが引っ掛かっている。
必死に泳ぎ、その岩まで行くとドレスの切れ端と思われる布だった。
ドクンと心臓がなった。
ドレスが破れるほどあちこちに引っかかったのだろう。
怪我をしているだろう…まさか、気を失って沈んでしまったのか?
頼む、生きていてくれ…。
これ以上は一人での捜索は危険と判断し、川岸へと泳ぎ、川から出た。
姫様を助けられなかった…。
目の前にいたのに…。
ドレスの切れ端を握りしめたまま動く事が出来なかった。
上から俺を呼ぶ声がしたが、顔を上げれなかった。
動かない俺に痺れを切らしたのか、誰かが降りてきた。
「ジャン!ジャン!返事しろ!ジャン!」
「・・・グレン…」
「ジャン…」
「俺の目の前で姫様は崖から落ちた。姫様を追ってた男の一人も落ちた。
残った二人を制圧してから俺も飛び込んだけど、見つけられなかった…。」
「とにかく一旦戻ってランバート様に報告しよう。
お前が姫様を追って行った後、馬車の中にいた御者の弟に話しを聞いた。
その話も報告しないと。
そして姫様を攫った黒幕はローズマリー・チルベル侯爵令嬢だ。」
「令嬢?なんで?」
「お前の熱狂的ファンだ。以前はフェリスが嫌がらせをされていた。それを助けていたのがメアリー様だ。それに最近はお前とメアリー様が一緒にいるって噂になってる。」
「俺の・・せいなのか…」
「お前のせいじゃない。ほら帰るぞ、風邪ひいたらメアリー様を探せないだろ。」
「・・・分かった」
上に上がれる所を探し、崖を登った。
捕まえた男達と御者は王宮に連れていかれたらしい。
その後は城へ戻ってランバート様の所へと行き、見た事を報告した。
「メアリーは見つからなかったか…。」
ランバート様は俺が見つけたドレスの切れ端を見つめて唇を噛んだ。
その時、バンと扉が開きナタリー様が飛び込んできた。
「メアリーは?お兄様、メアリーは見つかったの!ジャン!メアリーは見つかったの?
どうなの…お願い…見つかったって・・・言って…」
俺にしがみつき、泣き崩れたナタリー様をランバート様が抱え、ソファに座らせた。
「ナタリー、まだメアリーは見つかっていない。追い詰められて崖から落ちたらしい…。でも俺はまだ諦めてはいない。
あのメアリーだぞ、必ず生きている。
だからお前も信じろ。」
「お…兄・・様・・・」
「必ず見つける。だから部屋で待ってなさい。」
「はい…ごめんなさい、お兄様…」
お付きの侍女に抱えられるようにナタリー様は執務室を出て行った。
「済まなかったな。ナタリーとメアリーは幼い時からの付き合いだからな…俺もだが…。
さて、グレン。その御者の弟から聞いた話しを聞かせてくれ。」
グレンは御者の弟が話した事をランバート様と俺に簡潔に報告した。
ここから攫ったのは御者と弟の二人。
昨日、マントのフードを深く被った知らない男に、金貨二枚出すからウサギ獣人の貴族の娘を攫って欲しいと声をかけられた。
詳しい潜入方法と姫様の特徴を説明され、眠らせる為の強力な睡眠薬を渡された。
今日の昼間に見張り役が馬車に乗りやってきた。その馬車に乗り、あの馬車道に馬車を止め、言われた通りに攫った。
兄弟の母親は病気で、薬代と幼い弟妹を育てる為に金が欲しくて引き受けた事。
薬を嗅がせて二人で馬車まで運んで、指定された場所へ向かっている途中で、メアリー様が暴れた為馬車を止め、中を確認しようとした時に、御者をしていた兄を姫様が蹴って気絶させてしまった。
姫様は馬車の中で、二人の会話を聞き、助けてあげるから縄を解けと交渉してきた。
姫様を指定の場所まで連れて行かないと家を見張っている男に家族が殺されると言ったら、スラムにある家に自分を連れて行って家の近くまで来たら、大声で助けを呼べと指示された。
もし見張りが襲ってきたら自分を置いて逃げろと言われた。
助けを大声で叫んだら仲間が助けてくれて見張りをやっつけた。
家に行き、家族全員を姫様の離れまで連れて行く途中で追手に先回りされていた。
御者の家族を助けるために姫様は男達の前まで行った時、大立ち回りをして馬を一頭奪い、馬が暴れた隙に馬に乗り森へと逃げた。
御者にとにかく騎士を捕まえて助けを求めろ、詳しい事は知らないといい姫様のアクセサリーを見せろと、言われた通りに俺達に助けを求めた。
御者の兄弟は、捕まってもいいから姫様を助けてと泣きながらグレンに訴えたそうだ。
ちなみに侍女に薬を嗅がせたのは自分達ではないそうだ。
小さなウサギの女の子が平民の、それもスラムに住んでる家族を守る為に必死に考え、戦ったのかと思うと泣きそうになる。
後少しで助けられたのに…
俺の名前を呼んだのに…
「ジャン、大丈夫か?」
ランバート様に声をかけられて、ハッとする。
「はい、大丈夫です。」
「大丈夫には見えないぞ。」
とハンカチを俺に渡してきた。
え?と思えば、グレンも、
「泣いてるぞ、お前。」
「嘘⁉︎」
手で拭えば濡れている。
泣いてる?なんで?
「ジャン、まだメアリーが死んだと決まったわけではない。
メアリーは意外と剣も乗馬も体術も優秀なんだ。それにお転婆だしな。
だから絶対メアリーは何処かにいる。
俺はそう信じている。
だから諦めるな。」
「はい、申し訳ございません。私も諦めません!」
「ジャン…こんな時くらい昔のようにランと呼んでくれよ。グレンも。」
「一回呼んだら普段も呼びそうで怖いんだよ」
「そうそう。でも正直今はそうさせてもらおうかな、疲れた…」
とグレン。
「ジャンはメアリーが好きなのか?」
「ハア⁉︎なんでそうなる⁉︎」
「だって最近二人でいたんだろ?」
「まあ、たまに…」
「たまにね~」
「姫様はそういうんじゃ・・ない」
「あれ?その間は何?」
「うるさい!着替えたらもう一度探しに行く!行くぞ、グレン!」
「ハイハイ」
「ジャン、グレン、メアリーを必ず見つけてくれ、頼む。」
「必ず見つける。」
執務室を出て、白騎士団の自室に戻り、軽くシャワーを浴び、着替えた後、グレンと共に夜の森へと向かった。
姫様が川に落ちてから大分時間が経った。
グレンと川の下流まで流されたとしたらどの辺に流れ着くかを森の中を歩きながら話していたら、ウサ耳が見えた気がした。
立ち止まり、見回すと汚れたウサギがこちらを見ていた。
ランタンの灯りではハッキリと見えないが、ジッとこちらを見たまま動かないウサギに近付いた。
思わず、
「お前と同じ耳の女の子見なかったか?探してるんだ。怪我をしてるかもしれない。
泣いてるかもしれない。寒くて震えてるかもしれない。早く助けにいかないといけないんだ。知ってたら教えてくれ、頼む。」
と話しかけていた。
人懐っこいウサギは俺の靴にちょこんと前足を乗せて俺を見つめている。
何やってんだ、俺。
恥ずかしくなり、ウサギを退かし、グレンと先へ急いだ。
「ジャン、お前大丈夫?ウサギに話しかけるほど落ち込んでんの?」
「うるさい!あのウサギが姫様に似てたんだ!」
「ふぅ~ん、そうかな~?」
「行くぞ、早く見つけないと!」
この時、よくウサギを見れば良かったんだ。
姫様と同じ綺麗なピンクの瞳だったのに…。
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