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しおりを挟む崖から落ちた時、リーダー格の男が私を掴んで引き寄せた。
抱えるように二人で川に落ちた時、私は気を失ったらしく、何も覚えていない。
気付けば川ではなく岸に上がっていて、男がその横に倒れていたが、何故かリーダー格の男が大きく見えた。
とにかく逃げなきゃと思い、立ちあがろうとした。
「イタッ」
何処か怪我でもしたのかと足を見たら…
水に濡れて毛がぺったりとしたウサギの足が見えた。
どういうこと?
手を見てみると、手も濡れた毛がぺったりと張りついたウサギの前足だった?
ん?
とりあえず男から離れてから、川の水に映った自分の顔を見た。
ウサギ?誰?
水面に近付いてもう一度顔を見る。
ジーーーっと見ているピンクの瞳の白ウサギが私を見ていた。
あら、可愛らしいウサギ。
・・・・・ん?私…なのか?
ヤバい!もうウサギになったのか?
なんで?まだ数年猶予があったはずなのになんで?
一人でパニックを起こしている時、
「う・・・う…ん・・」
とリーダー格が目を覚ました。
「いてぇ・・・・クソッ!あれ?王女は?引き上げたのにいない!
ん?ドレス?
・・・・・ハア?裸で逃げたってか⁉︎何やってんだ、あの王女!
王女様ーーーー、裸はヤバいからーーーー」
なんて事大声で言ってるの、この人!
裸で逃げるわけないでしょうが!
と思わず叫んでしまった。
ヤバい!と思ったが、リーダー格は私をまだ探している。
あれ?聞こえなかった?
ちょっと!聞こえないの!
と立ち上がって言ってみた。
立ち上がったと言っても、前足を上げただけだけど。
あちこち私を探していたリーダー格は私と目が合った。
「ウサギ?本物のウサギじゃねえよ、ウサギの王女だよ!あっちいけ!食うぞ!」
やだ、食べられちゃう!逃げないと!
走り出した私は混乱している。
喋れるウサギになるんじゃないの?
走り続けて大分リーダー格から離れた所で休憩して考える。
なんでウサギになったんだろう…
なんで喋れないんだろう…
死にそうになったから?
落ちたショックで?
喋れないのはどうして?・・・・ウサギだから。
だってウサギは喋らないもの・・・。
悩んでてもしょうがない。
とにかく帰ろう。
ここにいては危険だ。
でもここが何処か分からない。
落ちた所は多分湖の近くだったんだと思う。
攫った時に馬車を停めていた場所の近くと言っていたから。
そこから森に入り、崖に出て落ちた。
どれくらい流されたのか分からない。
一旦さっきの場所まで戻ってリーダー格の様子を見よう。
またさっきの場所の近くまで走って戻り、様子を伺う。
リーダー格は必死にまだ私を探していた。
しばらくして私のドレスを持ち、下流に向かって歩き出した。
私も離れて後を追う。
黙々と歩くリーダー格は時々川の水を飲み、また歩き出す。
私も水を飲み後をつけた。
すると、
「お前、どこまでついてくんだよ!食いもんなんか持ってねえよ!」
と私に話しかけてきた。
“あんたが何処から崖を上がるのか知りたいだけよ!”
と立ち上がって鼻をピクピクさせた。
「ハア~ウサギに話しかけるなんてアホらし」
と言い、また歩き出した。
しばらく歩くと、リーダー格は立ち止まって崖を見上げている。
私も見上げてみると、いい具合に足場になる岩が所々ある。
ちょっとした休憩所になりそうな岩まである。
お!これ、上げれるんじゃない、リーダー!
リーダーに近寄り、フガフガする。
「お前も上がりたいのか?」
“そうなの!連れてってよ!”
「耳ピーンってなってんな、お前。俺の話し聞いてんの?」
“聞いてる聞いてる!”
「お、鼻ピクピクさせてんのか。そうか、上に行きたいのか。でもな…ポケットには入らねえし…。」
リーダーはしばらく考えて、手にしているドレスを見た。
「これ重いからいらねーけど、王女が川に落ちた証拠を持っていかねぇと俺がヤバいからなあ…。
分りゃいいんだから、破くか!」
そう言ってポケットから折りたたみナイフを出してドレスを切り始めた。
「おい、これでくるんでやるからこっち来い。」
とリーダーが私に声をかけてきた。
近付くと、破いたドレスの布で赤ちゃんのように包み、背中に背負った。
「これで一緒に上がれるぞ。んじゃ、行くか!」
リーダー・・・あんた、いい奴だ。
なんで悪事に手を染めちゃったの?
私を背負って、ドレスは腰に巻いて崖を登り始めた。
落ちた崖よりは低いので、案外すぐ上に行けそうだ。
人一人座れる岩に座ってリーダーは休憩した。
「ハアーーーー疲れた。ウサギは大丈夫か?」
“大丈夫!”という気持ちを込めて顔をリーダーにグリグリした。
「お!反応してんな。お前言葉分かんの?すげぇな。」
“まあね”、グリグリ。
「アハハハ、んなわけねえか。でも、お前がいるからしんどくないわ」
とリーダーが言う。
なんだか泣きそうになった。
ウサギが泣けるのか知らないが、切なくなってリーダーにグリグリする。
「そうか、お前も大丈夫そうだな。じゃあもう少しだから上行くぞ。」
リーダーはまた崖を登り始めた。
後で聞いて知ったが、ジャンが見つけた切れ端はここから少し先だった。
リーダーはなんとか無事に崖を登りきった。
ハアハアと息を切らし、私を背中から下ろした。
「大丈夫か、ウサギ?着いたぞ!でも何も食ってないからもう動けねー」
と言って倒れ込んだ。
“リーダー、あんたは頑張ったよ!よくやった!”の意味を込めて、リーダーの頭にグリグリした。
「お、褒めてくれてんの?ありがとな。少し休むわ…」
そう言うと、リーダーは眠ってしまった。
食べてないのに頑張ったな…リーダー。
辺りを見回すと、野いちごがあった。
良いもの見つけたよ~!
届く所を食べてみると、酸っぱいけどなかなか美味しい。
五粒ほど食べるとお腹がいっぱいになったので、リーダーに上げようと、立ち上がり、前足で揺するが、なかなか取れない。
なので、前足で思いっきり引っ掻くと何粒か枝ごと取れた。
それを咥えてリーダーの近くに運び、また取って、運んでを繰り返した。
疲れたので、リーダーにくっ付いて眠った。
そのうちリーダーがゴソゴソし始めたので、起きてみると、
「あれ?何これ?野いちご?」
“私が取ったのよ、凄いでしょ!”
とグリグリする。
「お前が取ったの?俺に?凄いじゃん!」
と言い、一気に口に入れた。
「なかなか美味い!あんがとな!」
と言い、キョロキョロすると、
「あ、あそこから取ったのか。まだあるな、お前も食べるか?」
と言って、私を抱き上げ野いちごの所まで連れてってくれた。
パクパクとリーダーは食べ始め、私にも何個か野いちごを取ってくれた。
二人で野いちごを食べた後、
「さて、とりあえず行くか。と言ってももう暗いから動くと危ねえな。でもなぁ…」
リーダーは考えながらも私を抱いて歩き出した。
「ま、どうにかなるだろ。お前は俺が守るから大丈夫だぞ。」
そう言ってぐんぐん歩き出した。時折、木の間から見える空を見上げ、
「方向がわかんねー時は星を見るんだ。あそこに見える星があの位置にあるって事は…」
と意外にもリーダーの博識に驚き、フガフガする。
「なんだ、感心したか?そうだろそうだろ~。俺の親父がな、教えてくれたんだ。
もういねえけど…。」
リーダーの顔を見る。
寂しそうな顔だ。
前足で胸をトンとすると、
「ん?慰めてんのか?優しいな、お前。
俺は大丈夫だ。お前もいるしな。」
とニカっと笑った。
リーダーは意外と男前だ。
なんで悪い事をするようになったんだろう…。
やっぱりお金なのかな…
リアムとアダムもお金の為だった。
私は、王宮で何不自由なく暮らしてた。
もちろんスラムの事は知ってるし、困っている人は助けたいと思っていた。
でも思っていただけだ。
何もしていない。
十六年生きてきて、何もしていない。
ごめんね、リーダー。
国は違うけど、もっとちゃんと勉強してリーダーやリアム達がこんな事しなくてすむように頑張るよ。
人間に戻れたら。
リーダーの胸にグリグリした。
「なんだ?眠いのか?寝てていいぞ。」
そう言って、また私を包み、背負って歩き出した。
リーダーの背中は温かくて、眠くなる。
いつの間にか寝てしまった。
なんだか物凄く揺れているので目が覚めた。
何何?何があったの?
意識がハッキリすると、リーダーの心臓の鼓動が早い。
リーダーは必死に走っていた。
どうしたの?何で走ってんの?
耳をすまして周りの音を聞く。
リーダーは何かから逃げている。
後ろから生き物の息遣いが聞こえる。
鼻をきかせて匂いを嗅いでみる。
獣の匂い。
なんだろう…
犬?
野犬か!
何頭いる?
息遣いからして、二頭か?
リーダー、大丈夫?
心配でグリグリする。
「大丈夫だ、お前の事は必ず守るから」
リーダー!頑張って!
走り続けたリーダーは馬車道に出た。
馬車道を横断し、あの森の中へ入った。
犬はまだ追いかけてくる。
私か。ウサギがいるから追いかけてくるんだ。
リーダーの背中でジタバタしてると、リーダーが、
「落ち着け。大丈夫だ。」
と言っている。
リーダーの体力も限界らしく、もう追いつかれそうだ。
リーダーは立ち止まり、折りたたみナイフを出して野犬と真っ向勝負に出るらしい。
見えないけど。
どうしよう、リーダーが怪我しちゃう。
誰か助けて。
応援ありがとうございます!
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