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しおりを挟む野犬と対峙したリーダーはナイフを構えた。
多分。なんせ背中にいるから見えない。
野犬の唸り声が響く。
唸り声が近い。
リーダーがナイフをふった。
キャンと野犬が鳴いた。
きっとナイフを切りつけられたのだろう。
だが、まだ野犬はいる。
また唸り声が近くなった。
リーダーはナイフを振って一頭を躱したが、もう一頭が足に噛みついた、らしい。
「うわあ!」
リーダーが噛みついた野犬にナイフを刺す。
野犬はキャーーンと鳴いてリーダーから離れたが、最初に切られた野犬がまた襲ってきた。
足の痛みでよろけたリーダーの肩を噛んだ。
野犬の顔がすぐ近くにある。
怖くて震える。
リーダーはナイフで思いっきり野犬を刺した。
グフッと鳴いて野犬が離れて地面に落ちた。
野犬はグルーーっと鳴いているが、動けないようだ。
“リーダー、リーダー”と頭を擦り付ける。
「だ、大丈夫だ。でも少し痛え…」
と言いながら、歩き出した。
少し野犬から離れると、私を背中から下ろし、
「お前は逃げろ。この先に行ったら人がいる。そこまで逃げろ。分かったな。」
そう言ってリーダーは倒れた。
血がたくさん出ている。
“リーダー、リーダー、死なないで!リーダー!”
リーダーの周りを飛び跳ねるがリーダーは起きない。
助けを呼ばなきゃ!
私はひたすら走った。
すると湖のほとりに出た。
湖だ!あと少しで離れだ!
急ごうと思って走り出すと、人の気配がした。
咄嗟に隠れた。
コソッと覗くと、
ジャンだった。
“ジャン!”と呼んでも聞こえない。
でも、目が合った。
ジャンが近付いてくる。
良かった、気が付いてくれた。
するとジャンが、
「お前と同じ耳の女の子見なかったか?探してるんだ。怪我をしてるかもしれない。
泣いてるかもしれない。寒くて震えてるかもしれない。早く助けにいかないといけないんだ。知ってたら教えてくれ、頼む。」
と話しかけてきた。
“ジャン、私だよ!メアリーだよ!お願い分かって!”
と前足をジャンの靴に置いた。
でも、ジャンはグレンと共に行ってしまった。
あ!リーダー!
ジャン達が見つけてくれるかもしれない!
私も後から追いかけた。
追いつけないけど、とにかく走った。
ジャンがふいに後ろを振り返った。
私を見つけた!
こっち、リーダーはこっちにいるの!
私はリーダーがいる方へ走っては戻り、走っては戻りを繰り返した。
「そっちに何かあるのか?」
と聞いてきた。
耳をピーンと立てた後、リーダーの所へ走った。
ジャンとグレンが私の後について来た。
抜かさないように私を先頭に走っている。
リーダーが倒れてる場所に着いた。
“リーダー、リーダー!”
頭をグリグリする。
「グレン、人が倒れてる。野犬に襲われたみたいだ!」
ジャンとグレンは野犬が死んでいるのを確認し、リーダーをどうするか悩んでいる。
“お願い、ジャン、リーダーを助けて!”
リーダーの周りを走り回って最後リーダーの横に座った。
「このウサギの飼い主なんだろう。ウサギを野犬から守ってやられたのか…。
グレン、どうする?」
「怪我人を放っておけないだろう。こんなウサギが必死に飼い主守ってんだ、助けるしかないだろ。」
「グレン、頼んでいいか?俺は姫様を探しにいく!」
「ジャン、待て!一旦戻ろう。立て直そう。少し落ち着け、ジャン。無闇に探しても見つからないぞ!」
「姫様は落ちる間際、俺を呼んだんだ!なのに俺は・・・」
「分かったから。だから落ち着け、ジャン。」
ジャン…心配かけてごめん。
私、ここにいるんだよ…。
ジャンの靴に乗って、顔を見上げる。
泣きそうなジャンの顔…
ごめん、ジャン…
涙が出た…
ごめん、ごめんね、ジャン…。
ジャンの足にしがみ付き、泣いた。
「ジャン・・・このウサギ…泣いてるぞ…」
とグレンが言った。
「え⁉︎」
ジャンが私を抱き上げる。
「あれ、このウサギ…目の色がピンクだ…。
姫様もピンクの瞳だ…。
ひょっとして・・・・姫様?」
やっと気付いた!
コクコクと頷き、頭をジャンの胸にグリグリする。
「ホントに?ホントに姫様なの?」
コクコク。
「なんでウサギ?」
“分からん”
首を傾げる。
「話せないの?」
コクコク。
「マジか!さっきのウサギ、姫様?」
コクコク。
「うわ、はず!聞いてた?」
コクコク。
「嘘だろ…でもホントの本当に姫様なんだな?」
コクコク。
「グレン、姫様見つかった…」
「良かったな。先に行かなくて良かったな!姫様置いてくとこだった。」
「ホントだな。危なかった。でも、この男誰?って、喋れないか。とにかく姫様が助けようとしてたなら良い奴なんだろ。
早く姫様見つかったって報告しないと!」
「ジャンは姫様を頼む。俺はコイツをおぶっていく。」
グレンがリーダーを運び、ジャンは私を抱いてラン兄様の執務室へと向かった。
リーダーは騎士団の医務室に運ばれて治療するそうだ。
「ホントにメアリーなのか?」
とラン兄様。
コクコク。
「あ、頷いてる!可愛い!メアリー、痛いとこない?」
フリフリ。
「あ、横にふってる。痛いとこはないんだね、良かった!」
「メアリーと一緒にいた男は誰?」
兄様の机の上でジェスチャーをするウサギ。
「うわあ、踊ってるの?メアリー。」
足をダンダンする。
「あ、怒ってる。違うんだ。」
「ラン、会話にならないから何かそれらしい単語を書いて選んでもらえば?
その方が早い。」
とジャン。
その目はキラキラしている。
グレンもラン兄様もだ。
何をそんなに期待しているのだ?
ラン兄様が、色んな単語を書いた紙を何枚も机に置いた。
その中の「誘拐犯」「崖」「男」「落ちた」を選んだ。
「あの男は誘拐犯の仲間で、メアリーと一緒に落ちた男なんだね?」
コクコク。
「メアリー」「助けた」「男」の単語を選んだ。
「誘拐犯のあの男がメアリーを助けたの?」
コクコク。
「なんで?」
「ウサギ」「崖」「抱く」「助けた」の単語を指す。
「メアリーは川に落ちてウサギになったの?」
首を傾げる。
「アハハハ、可愛いメアリー!なあ、ジャン、グレン!」
「可愛いけど早く確認して下さいよ!」
「ごめんごめん。えーっと、川に落ちたショックでウサギになったメアリーをあの男が抱いて崖を登ったんだね。」
コクコク。
「あの男はウサギがメアリーって知ってるの?」
フルフル。
「知らないんだ。でも助けてくれたんだね?」
コクコク。
「それで森を抜ける途中で野犬に襲われたと?」
コクコク。
「それであの男を助けたくてジャンとグレンに助けを求めた?」
コクコク。
「あの男はメアリーを攫おうとしたんだよね?なんであんな男助けるの?」
「会話」「食事」「優しい」「守る」
「なるほど、メアリーとは思ってないから、色々面倒みてくれたんだね。
野犬からも身を挺して守ってくれたんだね」
コクコク。
「だから助けたいと。」
コクコク。
「でも彼は犯罪者だよ。罪は償わないと。」
耳ヘニョリ。
「でも怪我の手当はちゃんとするし、話しはちゃんと聞くから。」
コクコク。
その時、バン!とドアが開いてナタリーが入って来た。
「メアリーが見つかったって本当ですか、お兄様!」
「ああ、ここにいる。」
「え?ここ?どこ?」
「ここ。」
私を指さす。
「ウサギ?・・・・・メアリーなの…?」
コクコク。
「イヤーーーーーーメアリー、可愛い、なんなのーーーー!どうしてウサギなの?なんで?」
「ナタリー、落ち着け!」
そこからはナタリーに抱かれ、揉みくちゃにされた。
どうにも会話が出来ないので、とりあえずリーダーの所へジャンとグレンに連れて行ってもらった。
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