貴方だったと分かっても

jun

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目が離せなかった

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レイチェル視点


私は今日、兄である王太子ロルフ・ナースカスと共に、アティリア王国の王太子ダニエレ・アティリア様とサンドラ・ベッケン侯爵令嬢の婚約発表のパーティーに列席している。

私はレイチェル・ナースカス、ナースカス国の第一王女だ。
お父様はしつこい風邪を拗らせ床に伏せているために、二人での出席になった。

お兄様は外交の為、近隣国へ行けるが、私は初めての外国だ。
それも大国アティリア王国。
少しはしゃぎたくなるが、

「レイ、あんまりはしゃぐなよ。今日はテレスもいないんだ、俺から離れて迷子になっても知らないぞ。」

「もうお兄様、私は子供ではありません!
迷子になどなりません!」

「いつもテレスがいてくれるから行きたい所に行けるんだよ!お前一人だとすぐ逆方向に行く。」

「お兄様だっていつもフラフラ何処かに行ってしまうくせに!」

「今日はお前のお守りだから行かない。
さあ、挨拶に行くぞ。」

お兄様に連れられ、国王様、王妃様に挨拶し、次に今日の主役、王太子ダニエレ様とサンドラ様への挨拶となった。

「私、ナースカス国、王太子ロルフ・ナースカスでございます。
父ドミニクに代わり、ご挨拶させて頂きます。この度は御婚約おめでとうございます。」

「同じく、ナースカス国第一王女、レイチェル・ナースカスでございます。
御婚約おめでとうございます。」

二人で頭を下げた後、

「ありがとうございます、ロルフ王太子、レイチェル第一王女。顔を上げてくれ。」

二人で顔を上げると、ダニエレ様と目が合った。

その瞬間、ビリビリっとした感覚が全身を走った。
固まってしまい、兄に小突かれ、視線を逸らした。

「申し訳ございません、お二人の美しさに妹は見惚れてしまったようです。
流れを止めてしまい、申し訳ございませんでした。御前、失礼致します。」

「失礼いたしました。」

兄にエスコートされ、王太子から離れた。

「お前、何してんだよ、ビックリしたわ!直立不動になるなよ!
でも男前だったな、俺には負けるけど。」

「ごめんなさい…なんか動けなくなった…何だったんだろう…」

「一目惚れか⁉︎やめとけよ、テレスが怒るぞ。」

「そんなんじゃないわ、ただ目が離せなかったのよ!」

「はいはい、挨拶も終わったし、ダンス踊ったら食べて飲んで楽しもう!」

あれは何だったんだろう……

もう一度、チラッと王太子を見た。
すると、王太子も私を見ていた。

でも挨拶の列は終わらない為、すぐ視線は外したが、私を見ていた。
私もチラチラ見てしまう。

何なの…

「ほら、飲み物。今日どうした?具合悪いのか?」

「そうかも…。なんか変。」

「大丈夫か?もう部屋に戻るか?部屋で飲んでも良いし。」

「お兄様とダンスしたいからそれが終わったら戻ろう。」

「お、可愛い事言うな~いつもテレスとばっかりだもんな。たまにはお兄様と踊ろう!」

オーケストラがワルツを奏で始めた。

国王夫妻が踊り、王太子とサンドラ様のファーストダンスが始まった。

なんだろう…この切なさは。
見ていたくないけど、目が離せない。

ずっと見ていた。すると、また目が合った。
私を一瞬見た顔は目を見開き驚いていた。

どうしたんだろう…。

「おい、レイ、どうした、泣いてるぞ。」

「え⁉︎」

ハンカチを当てると濡れている…
泣いてる?
なんで?

「目に…ゴミでも入ったのかもしれません…。」

「そうか、なら良いが、ダンスを踊ったらすぐ戻ろう。」

お兄様とダンスを踊っていると、気になる視線を感じる。

踊りながら見回すと、やはり王太子が見ていた。サンドラ様と一緒に他の来賓客と雑談でもしているのか、和やかだが、たまに私を見てはすぐ視線を外す、そしてまた私に視線を戻すを繰り返していた。

そう言う私もジッと見ないように、しているが気付けば視線は王太子にいっていた。

ダメだ、頭がおかしくなりそう…。

「お兄様…私、もう部屋に戻りたい…」

「大丈夫か?人に酔ったのかもしれない。」

お兄様はダンスをやめ、私を支え、会場を出ようとした時、

「ロルフ殿、レイチェル姫は具合が悪いのだろうか?休憩場所もありますから、ご案内致しましょうか?」

「ダニエレ様、お気遣いありがとうございます、今日の主役にそのような事をさせるわけには参りません。
用意して頂いた部屋にて休ませて頂きます。どうぞ、サンドラ様の所へお戻り下さい。」

「そうか・・・レイチェル姫、ご無理をなさらず、大事にして下さい。」

「ありがとう、ございます…失礼致します…」

ダニエレ様は近くにいた警備をしていた騎士に護衛を頼んでくれていた。


兄に肩を抱かれたまま、後ろを振り返ると、
ダニエレ様は、まだ私達を見ていた。

その顔を見て、また泣きそうになり、俯いたままその場を後にした。














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