「ざまぁ・溺愛・大逆転」悪役令嬢は踊り明かしたい!

ちゅんりー

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「止まりなさい! 全員、動きが死んでますわよ!」

吹雪く練兵場に、私の声が響き渡った。

剣を振るっていた屈強な騎士たちが、一斉に動きを止めてこちらを見る。

彼らの顔には「なんだこの女は」という困惑と、少しの苛立ちが浮かんでいた。

「……タリー、寒いぞ。中に入ってろと言っただろう」

練兵場の中央で指導していたキースが、呆れたように歩み寄ってくる。

今日の私は、キースの外套をリメイクした特製の防寒ドレス(ファー増量)に身を包み、手には特注の「鉄扇(てっせん)」を持っている。普通の扇子では凍ってパリパリになってしまうからだ。

「見ていられませんのよ。貴方たちのその、お通夜みたいな訓練風景が!」

私は鉄扇で騎士たちを指し示した。

「まず、その格好! 白っぽい鎧に、灰色のマント。雪景色に同化して、どこに誰がいるのかさっぱり分かりませんわ!」

騎士の一人――副団長のガレが、ムッとして口を開いた。

「公爵令嬢、これは『迷彩』です。雪の中で敵に悟られないための戦術でして……」

「あら、コソコソ隠れるのがヴェルンシュタインの流儀ですの?」

「なっ……!」

「私の知る『氷の城壁』は、敵が何万いようと正面からねじ伏せる最強の軍団ですわ。だったら、堂々となさいな!」

私は懐から、昨日マーサたちに夜なべさせて作った布切れの束を取り出した。

鮮やかな真紅の布だ。

「はい、これ。全員、腕に巻きなさい」

「……これは?」

「ただの赤い布よ。でも、この白い世界では一番目立つ色だわ」

私はキースに向き直り、ニヤリと笑った。

「敵に見せつけておやりなさい。『俺たちはここにいるぞ、かかってこい』ってね。その方が、よほど恐ろしくてよ?」

キースは私の手から赤い布を受け取り、しばらくじっと見つめていた。

そして、不敵な笑みを浮かべた。

「……一理ある」

「閣下!?」

「我々は隠れる必要などない。赤は警告色だ。俺たちに近づけば血を見るぞという、敵へのメッセージになる」

キースは自らの左腕に、ギュッと赤い布を結びつけた。

黒い軍服に、赤が映える。

「……悪くない」

彼は私を見て、満足げに頷いた。

「それに、これなら乱戦になっても味方の位置が一目で分かる。……タリー、あんたは軍師の才能もあるのか?」

「いいえ。ただの『目立ちたがり屋』の知恵ですわ」

私は副団長ガレにも布を押し付けた。

「さあ、巻いた、巻いた! 文句があるなら、私より目立ってからおっしゃい!」

騎士たちは顔を見合わせ、やがて一人、また一人と腕に布を巻き始めた。

「……なんか、燃えてくるな」

「地味な鎧が、ちょっと強そうに見えるぜ」

「閣下とお揃いだぞ」

雪原に、赤い色が点々と広がる。

それだけで、沈んでいた騎士たちの士気が、目に見えて上がっていくのが分かった。

「よし、訓練再開だ! その赤に恥じない動きを見せろ!」

キースの号令に、騎士たちが「おおっ!」と野太い声を上げる。

剣と剣がぶつかり合う音が、先ほどよりも鋭く、熱を帯びていた。

「ふふ、単純な殿方たち」

私は満足して頷いた。

しかし、私の「差し入れ」はこれだけではない。

「マーサ! 第二陣、持ってきて!」

「はいはい、人使いの荒いお方だ」

城の方から、マーサとメイドたちが大きな鍋をワゴンに乗せて運んできた。

蓋を開けると、湯気と共に強烈なスパイスの香りが漂う。

「な、なんだこの匂いは……?」

訓練を終えた騎士たちが鼻をヒクつかせる。

「特製、『地獄のマグマスープ』ですわ!」

私が命名したそのスープは、トマトベースに唐辛子とニンニクを大量にぶち込んだ、真っ赤な劇薬だ。

「寒いところでは、中から燃やすのが一番よ。さあ、飲みなさい!」

「い、いただきます……!」

恐る恐る口にした騎士たちが、次々に目を剥いた。

「辛っ!? ……でも、うめぇ!」

「体がカッカしてくる!」

「これなら吹雪でも戦えるぞ!」

騎士たちは汗だくになりながらスープを貪り食う。

その光景は、もはやお通夜ではない。野蛮で、騒がしくて、活気に満ちた「宴」だった。

「……あんたのおかげで、城の空気が変わった」

いつの間にか隣に来ていたキースが、スープのカップを片手に呟いた。

「当然ですわ。私は太陽ですもの」

「ああ。眩しすぎて、氷が全部溶けそうだ」

彼は私の肩に手を回し、こっそりと耳打ちした。

「……だが、あのスープに入れたニンニクの量は、少し手加減してもよかったんじゃないか?」

「あら、スタミナがつきますわよ? ……夜も元気でいてもらわないと困りますし」

私が意味深に微笑むと、キースは盛大にむせ返った。

「ごほっ! ……あんた、そういうところだぞ」

「何がですの?」

「……いや。覚悟しておこう」

キースは耳まで赤くして、残りのスープを一気に飲み干した。

こうして、辺境騎士団「レッド・ベアーズ(仮称)」は、私のプロデュースによって、派手で暑苦しい最強軍団へと生まれ変わりつつあった。

だが、そんな穏やか(?)な日々も束の間。

王都からの「追っ手」という名の火種が、すぐそこまで迫っていた。
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