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『スノー・クリスタル・ドーム』は、光の洪水に包まれていた。
バージンロードには、私が特注した『ダイヤモンド・パウダー入りの白絨毯』が敷かれ、歩くたびに星屑の上を歩いているかのように輝く。
参列席には、ハンカチで顔を覆って号泣している父様、満足げに頷く国王陛下、そして最前列でなぜか誰よりも目立つ金色のタキシードを着て座っているレオナルド皇帝。
「……派手だな」
祭壇の前で待つキースが、私を見てポツリと漏らした。
今日の私は、純白のドレスに、無数の極小ダイヤモンドを縫い付けた『発光ドレス』。動くたびにキラキラというより、ギラギラと輝く仕様だ。
「当たり前ですわ。主役が照明に負けてどうしますの」
私は父様のエスコートから離れ、キースの手を取った。
「眩しすぎて、直視できん」
「サングラスを用意しなかった貴方のミスね」
軽口を叩き合いながらも、私の心臓は早鐘を打っていた。
キースの手が、微かに汗ばんでいる。
あの「氷の城壁」が、緊張しているのだ。それが愛おしくて、私は彼の手をギュッと握り返した。
「新郎、キース・ヴェルンシュタイン。……誓いますか?」
神父様の問いかけに、キースが私に向き直る。
その青い瞳が、真っ直ぐに私を射抜く。
「……誓う。俺の剣、俺の命、俺の魂のすべてをかけて、生涯この女性を守り抜き、愛することを」
騎士らしい、実直で重い誓い。会場から「ほう……」とため息が漏れる。
「新婦、タリー・ローズブレイド。……誓いますか?」
私は深呼吸をして、扇子(今日は純白のレース製)を胸元に当てた。
「ええ、誓いますわ。健やかなる時も、病める時も。……たとえ世界が敵に回ろうとも、私が貴方の『最強の盾』となり、そして貴方の人生を極彩色に彩り続けることを」
「盾に守られる夫か……悪くない」
キースが苦笑し、ベールを上げた。
「……綺麗だ、タリー」
「知っていますわ」
二人の顔が近づく。
これが合図だ。
私たちの唇が触れ合った瞬間。
「今だ! 全騎、ファイアァァァッ!!」
レオナルド皇帝の号令が響いた。
ドームの外、ガラス越しに見える雪景色の中に待機していた十数頭のドラゴンたちが、一斉に口を開いた。
カッッッ!!
灼熱のブレスが放たれる。
しかし、それは破壊の炎ではない。
計算され尽くした角度で放たれた炎は、ドームの周囲に設置された『巨大キャンドルタワー(高さ10メートル)』の芯を、寸分違わず正確に射抜いた。
ボッ! ボボボボボッ!
一瞬にして、ドームを取り囲む数千本のキャンドルに火が灯る。
外は吹雪。中は炎の揺らめき。
氷と炎のコントラストが、ドーム内を幻想的なオレンジ色に染め上げた。
「おおおおっ!!」
「すげぇぇぇ!」
「ドラゴンキャンドル・サービスだ!」
参列者たちが総立ちになって拍手を送る。
「……やったわね」
キースと唇を離した私は、ガラス越しに揺れる炎を見てニヤリとした。
「熱い演出だ。……文字通りな」
キースが私を抱き寄せる。
「だが、一番熱いのはここだ」
彼は私の左胸に手を当てた。鼓動が伝わってくる。
「あんたへの想いが、どんなドラゴンの炎よりも燃えている」
「……っ! キース、貴方そんな恥ずかしい台詞、どこで覚えましたの!?」
「レオナルド皇帝に教わった。『女はこういうのが好きだ』と」
「あいつ……! 余計な入れ知恵を!」
私が顔を赤くして皇帝の方を見ると、彼は「どうだ!」と言わんばかりにサムズアップしていた。
「……まあ、悪くなくてよ」
私はキースの首に腕を回し、もう一度、今度は私からキスをした。
「愛しているわ、キース。……覚悟なさい、これからは毎日がこのくらい騒がしくてよ?」
「望むところだ。……俺の世界を、あんた色に染め尽くしてくれ」
盛大な拍手と、ドラゴンの咆哮。
そして舞い散るダイヤモンドダスト。
私たちの結婚式は、ヴェルンシュタインの歴史に刻まれる、最高に派手で、最高に温かい伝説の一日となった。
◇
「ふぅ……。顔の筋肉が引きつりそうですわ」
式の後、披露宴会場(もちろんドーム内)の高砂席で、私はこっそりとため息をついた。
「よく頑張ったな。少し食べるか?」
キースが一口サイズに切ったステーキを差し出してくる。
「あーん」
私がパクつくと、会場から「ヒューヒュー!」と冷やかしの声が飛ぶ。
「あら、羨ましいなら貴方たちもなさいな!」
私が扇子で煽ると、招待客たちは笑いに包まれた。
そこへ、一人の老人がよろよろと近づいてきた。
父様だ。
「タリー……」
「お父様。泣きすぎて目が腫れてますわよ」
「ううっ……こんなに立派になって……! 父さんは嬉しいぞ……!」
父様は私の手を握りしめ、また涙を流した。
「王都でのことは、すまなかった。私が不甲斐ないばかりに……」
「もう終わったことですわ。それに、見て」
私は会場を見渡した。
キースの部下たち、辺境の領民代表、王都からの貴族、そして他国の皇帝。
身分も国籍も違う人々が、同じテーブルで笑い合い、飲み交わしている。
「あの騒動があったからこそ、この景色がありますの。……怪我の功名、いえ、私のプロデュース力の賜物ですわね」
「強いな、お前は。……お母さんに似て」
父様が優しく微笑んだ。
「キース殿。娘を……じゃじゃ馬ですが、よろしく頼みます」
「はい。私の宝です」
キースが即答する。
その言葉を聞いて、私は胸がいっぱいになった。
「さあ、湿っぽいのはナシよ! 音楽! ダンスタイムの始まりですわ!」
私が手を叩くと、楽団が軽快なリズムを奏で始めた。
「踊ろう、タリー」
キースが立ち上がり、私をエスコートする。
「ええ。朝までコースよ、ついて来られて?」
「当然だ」
私たちはフロアの中央へ飛び出した。
もう、誰も私たちを止める者はいない。
ここは私の城。私の国。そして、私の愛する人がいる場所。
ドレスの裾を翻し、私は高らかに笑った。
バージンロードには、私が特注した『ダイヤモンド・パウダー入りの白絨毯』が敷かれ、歩くたびに星屑の上を歩いているかのように輝く。
参列席には、ハンカチで顔を覆って号泣している父様、満足げに頷く国王陛下、そして最前列でなぜか誰よりも目立つ金色のタキシードを着て座っているレオナルド皇帝。
「……派手だな」
祭壇の前で待つキースが、私を見てポツリと漏らした。
今日の私は、純白のドレスに、無数の極小ダイヤモンドを縫い付けた『発光ドレス』。動くたびにキラキラというより、ギラギラと輝く仕様だ。
「当たり前ですわ。主役が照明に負けてどうしますの」
私は父様のエスコートから離れ、キースの手を取った。
「眩しすぎて、直視できん」
「サングラスを用意しなかった貴方のミスね」
軽口を叩き合いながらも、私の心臓は早鐘を打っていた。
キースの手が、微かに汗ばんでいる。
あの「氷の城壁」が、緊張しているのだ。それが愛おしくて、私は彼の手をギュッと握り返した。
「新郎、キース・ヴェルンシュタイン。……誓いますか?」
神父様の問いかけに、キースが私に向き直る。
その青い瞳が、真っ直ぐに私を射抜く。
「……誓う。俺の剣、俺の命、俺の魂のすべてをかけて、生涯この女性を守り抜き、愛することを」
騎士らしい、実直で重い誓い。会場から「ほう……」とため息が漏れる。
「新婦、タリー・ローズブレイド。……誓いますか?」
私は深呼吸をして、扇子(今日は純白のレース製)を胸元に当てた。
「ええ、誓いますわ。健やかなる時も、病める時も。……たとえ世界が敵に回ろうとも、私が貴方の『最強の盾』となり、そして貴方の人生を極彩色に彩り続けることを」
「盾に守られる夫か……悪くない」
キースが苦笑し、ベールを上げた。
「……綺麗だ、タリー」
「知っていますわ」
二人の顔が近づく。
これが合図だ。
私たちの唇が触れ合った瞬間。
「今だ! 全騎、ファイアァァァッ!!」
レオナルド皇帝の号令が響いた。
ドームの外、ガラス越しに見える雪景色の中に待機していた十数頭のドラゴンたちが、一斉に口を開いた。
カッッッ!!
灼熱のブレスが放たれる。
しかし、それは破壊の炎ではない。
計算され尽くした角度で放たれた炎は、ドームの周囲に設置された『巨大キャンドルタワー(高さ10メートル)』の芯を、寸分違わず正確に射抜いた。
ボッ! ボボボボボッ!
一瞬にして、ドームを取り囲む数千本のキャンドルに火が灯る。
外は吹雪。中は炎の揺らめき。
氷と炎のコントラストが、ドーム内を幻想的なオレンジ色に染め上げた。
「おおおおっ!!」
「すげぇぇぇ!」
「ドラゴンキャンドル・サービスだ!」
参列者たちが総立ちになって拍手を送る。
「……やったわね」
キースと唇を離した私は、ガラス越しに揺れる炎を見てニヤリとした。
「熱い演出だ。……文字通りな」
キースが私を抱き寄せる。
「だが、一番熱いのはここだ」
彼は私の左胸に手を当てた。鼓動が伝わってくる。
「あんたへの想いが、どんなドラゴンの炎よりも燃えている」
「……っ! キース、貴方そんな恥ずかしい台詞、どこで覚えましたの!?」
「レオナルド皇帝に教わった。『女はこういうのが好きだ』と」
「あいつ……! 余計な入れ知恵を!」
私が顔を赤くして皇帝の方を見ると、彼は「どうだ!」と言わんばかりにサムズアップしていた。
「……まあ、悪くなくてよ」
私はキースの首に腕を回し、もう一度、今度は私からキスをした。
「愛しているわ、キース。……覚悟なさい、これからは毎日がこのくらい騒がしくてよ?」
「望むところだ。……俺の世界を、あんた色に染め尽くしてくれ」
盛大な拍手と、ドラゴンの咆哮。
そして舞い散るダイヤモンドダスト。
私たちの結婚式は、ヴェルンシュタインの歴史に刻まれる、最高に派手で、最高に温かい伝説の一日となった。
◇
「ふぅ……。顔の筋肉が引きつりそうですわ」
式の後、披露宴会場(もちろんドーム内)の高砂席で、私はこっそりとため息をついた。
「よく頑張ったな。少し食べるか?」
キースが一口サイズに切ったステーキを差し出してくる。
「あーん」
私がパクつくと、会場から「ヒューヒュー!」と冷やかしの声が飛ぶ。
「あら、羨ましいなら貴方たちもなさいな!」
私が扇子で煽ると、招待客たちは笑いに包まれた。
そこへ、一人の老人がよろよろと近づいてきた。
父様だ。
「タリー……」
「お父様。泣きすぎて目が腫れてますわよ」
「ううっ……こんなに立派になって……! 父さんは嬉しいぞ……!」
父様は私の手を握りしめ、また涙を流した。
「王都でのことは、すまなかった。私が不甲斐ないばかりに……」
「もう終わったことですわ。それに、見て」
私は会場を見渡した。
キースの部下たち、辺境の領民代表、王都からの貴族、そして他国の皇帝。
身分も国籍も違う人々が、同じテーブルで笑い合い、飲み交わしている。
「あの騒動があったからこそ、この景色がありますの。……怪我の功名、いえ、私のプロデュース力の賜物ですわね」
「強いな、お前は。……お母さんに似て」
父様が優しく微笑んだ。
「キース殿。娘を……じゃじゃ馬ですが、よろしく頼みます」
「はい。私の宝です」
キースが即答する。
その言葉を聞いて、私は胸がいっぱいになった。
「さあ、湿っぽいのはナシよ! 音楽! ダンスタイムの始まりですわ!」
私が手を叩くと、楽団が軽快なリズムを奏で始めた。
「踊ろう、タリー」
キースが立ち上がり、私をエスコートする。
「ええ。朝までコースよ、ついて来られて?」
「当然だ」
私たちはフロアの中央へ飛び出した。
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