「ざまぁ・溺愛・大逆転」悪役令嬢は踊り明かしたい!

ちゅんりー

文字の大きさ
27 / 28

27

しおりを挟む
「さあ、ゲートオープンよ! 夢と魔法と、私の欲望が詰まった『スノー・ファンタジー・ランド』へようこそ!」

私の号令と共に、巨大な氷のゲートが開かれた。

ドオオオオッ!

地響きのような歓声と共に、雪崩のように人々が押し寄せてくる。

領民だけではない。噂を聞きつけた王都の貴族、近隣諸国の富豪、さらには皇帝レオナルドまでもが(また仕事をサボって)遊びに来ている。

「すげぇ! 氷のジェットコースターだ!」
「見て! あそこでドラゴンがポップコーンを焼いてるわ!」
「温泉プールのスライダー、最高!」

完成した遊園地は、私の想像以上のカオスと熱気に包まれていた。

雪原を駆け抜ける氷の滑り台。
魔獣(スノーモンキー)と一緒に浸かれる足湯カフェ。
そしてメインアトラクション、ドラゴン騎士団協力による『空中散歩ツアー』。

かつて「死の土地」と呼ばれた場所が、今や大陸一のエンターテインメント・スポットに変貌していたのだ。

「……やりすぎだ」

隣でパレードを見守るキースが、呆れ半分、感心半分で呟く。

「安全対策は万全だろうな? 興奮した客が、猿の湯に飛び込んだりしないか」

「平気よ。猿たちには『マナーの悪い客には雪玉を投げつけてよし』と教育してありますから」

「(……客に雪玉を?)」

キースは頭を抱えたが、その口元は緩んでいる。

「まあいい。みんな楽しそうだ」

「ええ。大成功ですわ」

私は扇子を開き、満足げに景色を眺めた。

灰色だった世界が、カラフルな笑顔で埋め尽くされている。これぞ、私が求めていた「絶景」だ。

「……うっ」

その時、急に視界がぐらりと揺れた。

「タリー?」

「……なんでもないわ。少し、立ちくらみが……」

私は気丈に振る舞おうとしたが、足に力が入らず、その場に崩れ落ちそうになった。

「おい、しっかりしろ!」

キースが慌てて私を抱き止める。

「顔色が悪いぞ。働きすぎだ、今すぐ医務室へ……」

「大げさよ。ただの寝不足……うぷっ」

今度は強烈な吐き気が込み上げてきた。

よりによって、あの愛する『地獄のマグマスープ』の屋台から漂ってくるニンニクの匂いが、鼻についてたまらないのだ。

「……キース。あのスープ、今すぐ撤去させて」

「は? あんたの大好物だろう?」

「今は見たくもないの。……早く!」

「わ、わかった! 総員、スープ屋台を風下へ移動させろ! 緊急事態だ!」

キースが青ざめて叫ぶ。

最強の騎士が、妻のつわり(?)一つで大パニックだ。



「……おめでとうございます」

城の医務室で、老医師が満面の笑みで告げた。

「ご懐妊です。三ヶ月目に入ったところですね」

「……は?」

ベッドに横たわっていた私は、キョトンとして医師を見た。

隣で心配そうに手を握っていたキースが、石像のように固まる。

「……懐妊? つまり、その……」

「赤ちゃんができたということです、閣下」

医師の言葉が、ゆっくりと脳に染み込んでいく。

赤ちゃん。

私と、キースの子供。

「……嘘でしょう?」

私は思わず自分のお腹に手を当てた。まだ平らで、実感なんて湧かない。

でも、そういえば最近、やたらと眠かったり、味覚が変わったりしていたような……。

「……俺の子か」

キースが震える声で呟いた。

「俺と、タリーの……新しい命……」

彼は私の手に顔を埋め、肩を震わせ始めた。

「キース? 泣いてますの?」

「……悪いか。……嬉しくて、言葉が出ない」

彼が顔を上げると、その青い瞳は涙で潤んでいた。

「ありがとう、タリー。……ありがとう」

「お礼を言うのは早くてよ。産むのも育てるのも、これからが大変なんですから」

私は照れ隠しに彼の鼻をつまんだ。

でも、胸の奥から温かいものが溢れてくるのを止められなかった。

家族が増える。

この騒がしくて、愛おしい場所に、新しい主役(キャスト)が加わるのだ。



その夜。

妊娠のニュースは、マーサの口から光の速さで城中に、そして街中に広まった。

「「「バンザーイ! バンザーイ!」」」

外からは、遊園地のパレード以上の大歓声が聞こえてくる。

「気が早いですわね、皆……」

私はベッドの上で苦笑した。

キースはというと、すでに「過保護モード」全開になっていた。

「タリー、水は欲しくないか? 寒くないか? クッションをもう一つ増やそうか?」

「キース、私は病人じゃなくてよ。妊婦なだけ」

「同じだ! 大事な体なんだぞ。……明日から執務は禁止だ。遊園地の視察もダメだ。ベッドから一歩も出るな」

「はあ? 退屈で死んでしまいますわ!」

「ダメだと言ったらダメだ。……もしあんたや子供に何かあったら、俺は生きていけない」

真剣な顔で言われ、私はため息をついた。

「……分かったわよ。少しは大人しくしています」

私は彼の手を握り、お腹の上に誘導した。

「でも、これだけは約束して」

「約束?」

「この子を、貴方みたいに『地味で不器用な子』には育てないこと」

私はニヤリと笑った。

「私に似て、派手で、強気で、世界中を振り回すような大物に育てますわよ。……覚悟はよろしくて?」

キースは私の手とお腹を交互に見て、それから優しく笑った。

「ああ。……あんたに似た娘なら、俺は一生頭が上がらないだろうな」

「あら、男の子かもしれませんわよ?」

「男なら、俺より強くしてやる。……あんたを守れるようにな」

彼は愛おしそうにお腹を撫でた。

その手つきは、世界一優しくて、頼もしい父親の手だった。

「ねえ、キース」

「ん?」

「私、今、最高に幸せよ」

「……奇遇だな。俺もだ」

窓の外では、祝福の花火が上がっている。

真紅と青、二つの色が夜空で混ざり合い、紫色の美しい光となって降り注ぐ。

それはまるで、私たちの未来を祝福しているようだった。

悪役令嬢として国を追われ、辺境に流れ着いた私。

でも、ここで見つけたものは、王妃の座よりもずっと価値のある「宝物」ばかりだった。

最高の夫。
温かい居場所。
そして、新しい命。

(さあ、忙しくなりますわよ!)

私はお腹の中の小さな命に話しかけた。

(早く出てらっしゃい。貴方のために、世界一煌びやかなゆりかごを用意して待っているから!)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

処理中です...