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「さあ、ゲートオープンよ! 夢と魔法と、私の欲望が詰まった『スノー・ファンタジー・ランド』へようこそ!」
私の号令と共に、巨大な氷のゲートが開かれた。
ドオオオオッ!
地響きのような歓声と共に、雪崩のように人々が押し寄せてくる。
領民だけではない。噂を聞きつけた王都の貴族、近隣諸国の富豪、さらには皇帝レオナルドまでもが(また仕事をサボって)遊びに来ている。
「すげぇ! 氷のジェットコースターだ!」
「見て! あそこでドラゴンがポップコーンを焼いてるわ!」
「温泉プールのスライダー、最高!」
完成した遊園地は、私の想像以上のカオスと熱気に包まれていた。
雪原を駆け抜ける氷の滑り台。
魔獣(スノーモンキー)と一緒に浸かれる足湯カフェ。
そしてメインアトラクション、ドラゴン騎士団協力による『空中散歩ツアー』。
かつて「死の土地」と呼ばれた場所が、今や大陸一のエンターテインメント・スポットに変貌していたのだ。
「……やりすぎだ」
隣でパレードを見守るキースが、呆れ半分、感心半分で呟く。
「安全対策は万全だろうな? 興奮した客が、猿の湯に飛び込んだりしないか」
「平気よ。猿たちには『マナーの悪い客には雪玉を投げつけてよし』と教育してありますから」
「(……客に雪玉を?)」
キースは頭を抱えたが、その口元は緩んでいる。
「まあいい。みんな楽しそうだ」
「ええ。大成功ですわ」
私は扇子を開き、満足げに景色を眺めた。
灰色だった世界が、カラフルな笑顔で埋め尽くされている。これぞ、私が求めていた「絶景」だ。
「……うっ」
その時、急に視界がぐらりと揺れた。
「タリー?」
「……なんでもないわ。少し、立ちくらみが……」
私は気丈に振る舞おうとしたが、足に力が入らず、その場に崩れ落ちそうになった。
「おい、しっかりしろ!」
キースが慌てて私を抱き止める。
「顔色が悪いぞ。働きすぎだ、今すぐ医務室へ……」
「大げさよ。ただの寝不足……うぷっ」
今度は強烈な吐き気が込み上げてきた。
よりによって、あの愛する『地獄のマグマスープ』の屋台から漂ってくるニンニクの匂いが、鼻についてたまらないのだ。
「……キース。あのスープ、今すぐ撤去させて」
「は? あんたの大好物だろう?」
「今は見たくもないの。……早く!」
「わ、わかった! 総員、スープ屋台を風下へ移動させろ! 緊急事態だ!」
キースが青ざめて叫ぶ。
最強の騎士が、妻のつわり(?)一つで大パニックだ。
◇
「……おめでとうございます」
城の医務室で、老医師が満面の笑みで告げた。
「ご懐妊です。三ヶ月目に入ったところですね」
「……は?」
ベッドに横たわっていた私は、キョトンとして医師を見た。
隣で心配そうに手を握っていたキースが、石像のように固まる。
「……懐妊? つまり、その……」
「赤ちゃんができたということです、閣下」
医師の言葉が、ゆっくりと脳に染み込んでいく。
赤ちゃん。
私と、キースの子供。
「……嘘でしょう?」
私は思わず自分のお腹に手を当てた。まだ平らで、実感なんて湧かない。
でも、そういえば最近、やたらと眠かったり、味覚が変わったりしていたような……。
「……俺の子か」
キースが震える声で呟いた。
「俺と、タリーの……新しい命……」
彼は私の手に顔を埋め、肩を震わせ始めた。
「キース? 泣いてますの?」
「……悪いか。……嬉しくて、言葉が出ない」
彼が顔を上げると、その青い瞳は涙で潤んでいた。
「ありがとう、タリー。……ありがとう」
「お礼を言うのは早くてよ。産むのも育てるのも、これからが大変なんですから」
私は照れ隠しに彼の鼻をつまんだ。
でも、胸の奥から温かいものが溢れてくるのを止められなかった。
家族が増える。
この騒がしくて、愛おしい場所に、新しい主役(キャスト)が加わるのだ。
◇
その夜。
妊娠のニュースは、マーサの口から光の速さで城中に、そして街中に広まった。
「「「バンザーイ! バンザーイ!」」」
外からは、遊園地のパレード以上の大歓声が聞こえてくる。
「気が早いですわね、皆……」
私はベッドの上で苦笑した。
キースはというと、すでに「過保護モード」全開になっていた。
「タリー、水は欲しくないか? 寒くないか? クッションをもう一つ増やそうか?」
「キース、私は病人じゃなくてよ。妊婦なだけ」
「同じだ! 大事な体なんだぞ。……明日から執務は禁止だ。遊園地の視察もダメだ。ベッドから一歩も出るな」
「はあ? 退屈で死んでしまいますわ!」
「ダメだと言ったらダメだ。……もしあんたや子供に何かあったら、俺は生きていけない」
真剣な顔で言われ、私はため息をついた。
「……分かったわよ。少しは大人しくしています」
私は彼の手を握り、お腹の上に誘導した。
「でも、これだけは約束して」
「約束?」
「この子を、貴方みたいに『地味で不器用な子』には育てないこと」
私はニヤリと笑った。
「私に似て、派手で、強気で、世界中を振り回すような大物に育てますわよ。……覚悟はよろしくて?」
キースは私の手とお腹を交互に見て、それから優しく笑った。
「ああ。……あんたに似た娘なら、俺は一生頭が上がらないだろうな」
「あら、男の子かもしれませんわよ?」
「男なら、俺より強くしてやる。……あんたを守れるようにな」
彼は愛おしそうにお腹を撫でた。
その手つきは、世界一優しくて、頼もしい父親の手だった。
「ねえ、キース」
「ん?」
「私、今、最高に幸せよ」
「……奇遇だな。俺もだ」
窓の外では、祝福の花火が上がっている。
真紅と青、二つの色が夜空で混ざり合い、紫色の美しい光となって降り注ぐ。
それはまるで、私たちの未来を祝福しているようだった。
悪役令嬢として国を追われ、辺境に流れ着いた私。
でも、ここで見つけたものは、王妃の座よりもずっと価値のある「宝物」ばかりだった。
最高の夫。
温かい居場所。
そして、新しい命。
(さあ、忙しくなりますわよ!)
私はお腹の中の小さな命に話しかけた。
(早く出てらっしゃい。貴方のために、世界一煌びやかなゆりかごを用意して待っているから!)
私の号令と共に、巨大な氷のゲートが開かれた。
ドオオオオッ!
地響きのような歓声と共に、雪崩のように人々が押し寄せてくる。
領民だけではない。噂を聞きつけた王都の貴族、近隣諸国の富豪、さらには皇帝レオナルドまでもが(また仕事をサボって)遊びに来ている。
「すげぇ! 氷のジェットコースターだ!」
「見て! あそこでドラゴンがポップコーンを焼いてるわ!」
「温泉プールのスライダー、最高!」
完成した遊園地は、私の想像以上のカオスと熱気に包まれていた。
雪原を駆け抜ける氷の滑り台。
魔獣(スノーモンキー)と一緒に浸かれる足湯カフェ。
そしてメインアトラクション、ドラゴン騎士団協力による『空中散歩ツアー』。
かつて「死の土地」と呼ばれた場所が、今や大陸一のエンターテインメント・スポットに変貌していたのだ。
「……やりすぎだ」
隣でパレードを見守るキースが、呆れ半分、感心半分で呟く。
「安全対策は万全だろうな? 興奮した客が、猿の湯に飛び込んだりしないか」
「平気よ。猿たちには『マナーの悪い客には雪玉を投げつけてよし』と教育してありますから」
「(……客に雪玉を?)」
キースは頭を抱えたが、その口元は緩んでいる。
「まあいい。みんな楽しそうだ」
「ええ。大成功ですわ」
私は扇子を開き、満足げに景色を眺めた。
灰色だった世界が、カラフルな笑顔で埋め尽くされている。これぞ、私が求めていた「絶景」だ。
「……うっ」
その時、急に視界がぐらりと揺れた。
「タリー?」
「……なんでもないわ。少し、立ちくらみが……」
私は気丈に振る舞おうとしたが、足に力が入らず、その場に崩れ落ちそうになった。
「おい、しっかりしろ!」
キースが慌てて私を抱き止める。
「顔色が悪いぞ。働きすぎだ、今すぐ医務室へ……」
「大げさよ。ただの寝不足……うぷっ」
今度は強烈な吐き気が込み上げてきた。
よりによって、あの愛する『地獄のマグマスープ』の屋台から漂ってくるニンニクの匂いが、鼻についてたまらないのだ。
「……キース。あのスープ、今すぐ撤去させて」
「は? あんたの大好物だろう?」
「今は見たくもないの。……早く!」
「わ、わかった! 総員、スープ屋台を風下へ移動させろ! 緊急事態だ!」
キースが青ざめて叫ぶ。
最強の騎士が、妻のつわり(?)一つで大パニックだ。
◇
「……おめでとうございます」
城の医務室で、老医師が満面の笑みで告げた。
「ご懐妊です。三ヶ月目に入ったところですね」
「……は?」
ベッドに横たわっていた私は、キョトンとして医師を見た。
隣で心配そうに手を握っていたキースが、石像のように固まる。
「……懐妊? つまり、その……」
「赤ちゃんができたということです、閣下」
医師の言葉が、ゆっくりと脳に染み込んでいく。
赤ちゃん。
私と、キースの子供。
「……嘘でしょう?」
私は思わず自分のお腹に手を当てた。まだ平らで、実感なんて湧かない。
でも、そういえば最近、やたらと眠かったり、味覚が変わったりしていたような……。
「……俺の子か」
キースが震える声で呟いた。
「俺と、タリーの……新しい命……」
彼は私の手に顔を埋め、肩を震わせ始めた。
「キース? 泣いてますの?」
「……悪いか。……嬉しくて、言葉が出ない」
彼が顔を上げると、その青い瞳は涙で潤んでいた。
「ありがとう、タリー。……ありがとう」
「お礼を言うのは早くてよ。産むのも育てるのも、これからが大変なんですから」
私は照れ隠しに彼の鼻をつまんだ。
でも、胸の奥から温かいものが溢れてくるのを止められなかった。
家族が増える。
この騒がしくて、愛おしい場所に、新しい主役(キャスト)が加わるのだ。
◇
その夜。
妊娠のニュースは、マーサの口から光の速さで城中に、そして街中に広まった。
「「「バンザーイ! バンザーイ!」」」
外からは、遊園地のパレード以上の大歓声が聞こえてくる。
「気が早いですわね、皆……」
私はベッドの上で苦笑した。
キースはというと、すでに「過保護モード」全開になっていた。
「タリー、水は欲しくないか? 寒くないか? クッションをもう一つ増やそうか?」
「キース、私は病人じゃなくてよ。妊婦なだけ」
「同じだ! 大事な体なんだぞ。……明日から執務は禁止だ。遊園地の視察もダメだ。ベッドから一歩も出るな」
「はあ? 退屈で死んでしまいますわ!」
「ダメだと言ったらダメだ。……もしあんたや子供に何かあったら、俺は生きていけない」
真剣な顔で言われ、私はため息をついた。
「……分かったわよ。少しは大人しくしています」
私は彼の手を握り、お腹の上に誘導した。
「でも、これだけは約束して」
「約束?」
「この子を、貴方みたいに『地味で不器用な子』には育てないこと」
私はニヤリと笑った。
「私に似て、派手で、強気で、世界中を振り回すような大物に育てますわよ。……覚悟はよろしくて?」
キースは私の手とお腹を交互に見て、それから優しく笑った。
「ああ。……あんたに似た娘なら、俺は一生頭が上がらないだろうな」
「あら、男の子かもしれませんわよ?」
「男なら、俺より強くしてやる。……あんたを守れるようにな」
彼は愛おしそうにお腹を撫でた。
その手つきは、世界一優しくて、頼もしい父親の手だった。
「ねえ、キース」
「ん?」
「私、今、最高に幸せよ」
「……奇遇だな。俺もだ」
窓の外では、祝福の花火が上がっている。
真紅と青、二つの色が夜空で混ざり合い、紫色の美しい光となって降り注ぐ。
それはまるで、私たちの未来を祝福しているようだった。
悪役令嬢として国を追われ、辺境に流れ着いた私。
でも、ここで見つけたものは、王妃の座よりもずっと価値のある「宝物」ばかりだった。
最高の夫。
温かい居場所。
そして、新しい命。
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