覚えのない罪で婚約破棄、なぜか隣国の王太子に気に入られた

ちゅんりー

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「……あ、暑苦しいですわね。冷房魔導具の出力をあと二段階上げてくださいな」


ノイシュタット帝国の会談室で、私は扇子をゆらゆらと動かしながら、ルークに指示を出しました。


「マリーナ様、これ以上上げると飲み物が凍りますが……」


「いいえ。これから来るお客様は、きっと顔を真っ赤にして怒鳴り散らすでしょうから。ちょうどいいくらいですわ」


私がそう言い終えた直後、会談室の重厚な扉が、品性も何もない音を立てて乱暴に開け放たれました。


「マリーナ! そこにいるんだろう! この私自らが迎えに来てやったぞ!」


入ってきたのは、ベルセルク王国の王太子、エドワード様でした。


数週間ぶりに見るその姿は、以前の輝きを失い、心なしか目の下に私のようなクマ(ただし不健康な方)が居座っています。


「……お久しぶりでございますわ、エドワード様。帝国の宮殿は、騒音を出す方には厳しいのですが、ご存知ありませんでしたか?」


「貴様……! その態度はなんだ! あんな手紙を送りつけて、私がどれだけ苦労したと思っている!」


エドワード様はテーブルを叩こうとしましたが、横に控えていたラインハルト様の視線に気づき、ピタリと動きを止めました。


「……エドワード殿下。我が国の会談室は、あなたの執務室のように書類を散らかしていい場所ではない。座りなさい」


ラインハルト様が冷徹な声で告げると、エドワード様は毒気を抜かれたようにソファに腰を下ろしました。


「マリーナ、君もだ。私の隣に座りなさい。君をそんな男に近づけたくない」


「まあ、ラインハルト様。お仕事中ですよ?」


私は微笑みながら、ラインハルト様の隣、つまりエドワード様の真正面に座りました。


「さて、エドワード様。本日は『我が国への融資の相談』でお越しいただいたと伺っておりますが……間違いありませんわね?」


「……っ。そうだ。一時的なものだ! 王国の金庫が少し、手違いで空になっているだけでな! マリーナ、お前がさっさと戻って整理すれば、すぐに解決する話なんだ!」


エドワード様は、いまだに私が「自分の所有物」であるかのような口調で叫びました。


「戻る? どなたが? 今の私は、帝国と正式な雇用契約……いえ、それ以上の『深い関係』にありますの。以前のような無償ボランティアとはわけが違いますわ」


私はわざとらしく、ラインハルト様に少し体を寄せました。


「それに、金庫が空になったのは『手違い』ではありません。あなたがリリアンさんと遊ぶための予算を、国家の運営費から無断で流用したからでしょう? 帳簿の整合性が取れなくなるのは当然ですわ」


「なぜそれを……!? ……ハッ、どうせお前の仕掛けた罠だろう! あんな複雑な帳簿、お前にしかわからないように作って……!」


「あら、心外ですわ。あれは小学校の算数レベルの知識があれば解けるよう、非常に簡略化してありましたのに」


私はルークから一通の書類を受け取り、エドワード様の前に滑らせました。


「こちらが、帝国が提示する『融資条件』です」


エドワード様は、ひったくるように書類を手に取りました。


「融資額、金貨一万枚……利息は……なっ、五パーセント!? 高すぎるだろう! 同盟国同士なら無利子が当然……」


「読み飛ばさないでくださいませ。……重要なのは、その下の『担保』の項目ですわ」


エドワード様の目が、一点で止まりました。


「……国境付近の『ベルン鉱山』の永久利権!? ふ、ふざけるな! あそこは我が国の主要な魔石産出地だぞ!」


「ええ。ですが、今のベルセルク王国には、あそこを運営する資材も人手も足りていないでしょう? ……放置して錆びつかせるより、我が国の高度な技術で採掘した方が、お互いのためですわ」


「お互いのためだと!? 貴様、完全に帝国側の人間になりおって……! 売国奴め!」


エドワード様の罵声が響きましたが、ラインハルト様が冷ややかに遮りました。


「言葉に気をつけろ、エドワード。……彼女は売国をしたのではない。君が彼女を『追放』したんだ。法的に彼女を保護し、その才能を評価しているのは、この私だ」


ラインハルト様は、私の手をテーブルの上で力強く握りしめました。


「融資を受けないのなら、今すぐ立ち去るがいい。明日には、君の国の役人たちが給料未払いでストライキを起こすという情報も入っているが?」


「…………っ!!」


エドワード様は、屈辱に顔を歪ませながら、ワナワナと震えていました。


「……わ、わかった。サインすればいいんだろう、サインすれば!」


「賢明なご判断ですわ。……あ、それから。サインの前に、こちらの『追加項目』もご確認ください」


「まだあるのか!?」


「ええ。……リリアンさんを、即刻『王立修道院の付属学校』へ入学させること。彼女にはまず、一桁の足し算から学び直していただく必要がありますわ」


私は、心からの「親切心」を込めた笑顔を向けました。


「彼女の無知が、この融資を二度手間、三度手間にさせているのです。ビジネスを円滑に進めるための、最低限のマナーですわね」


「リリアンを……勉強させるだと!? あ、あんなに勉強を嫌がっているリリアンを……!」


「愛があるなら、それくらい耐えられるはずですわ。……さあ、ここにサインを」


私はペンを差し出しました。


エドワード様は、まるで自分の魂を売り渡すかのような絶望的な表情で、契約書にサインを書き込みました。


「……これで満足か。……私はもう、帰るぞ」


「お疲れ様でした。……あ、エドワード様」


立ち去ろうとする彼の背中に、私は最後の一撃を加えました。


「今回の融資。……返済が一日でも遅れれば、次は『王都の商業権』をいただく予定ですので。……どうぞ、夜はしっかり寝て、お仕事に励んでくださいませね?」


エドワード様は振り返ることもできず、ふらふらとした足取りで会談室を去っていきました。


静寂が戻った室内で、ラインハルト様が小さく笑いました。


「……マリーナ。君は、本当に悪魔のような交渉人だ」


「あら。……褒め言葉として受け取っておきますわ、ラインハルト様」


私はラインハルト様に抱き寄せられ、その胸の中で深く息を吐きました。


「これで、王国の主要な利権はすべて帝国の管理下に入ります。……あとは、あの王太子様が自滅するのを待つだけですわね」


「……ああ。君を捨てた報いが、これほどまでに高くつくとはな。……私は、一生君を離さないよ」


ラインハルト様の唇が、私の額に優しく触れました。


前の国で感じていた重苦しい義務感は、もうどこにもありません。


私は有能なパートナーの隣で、最高に「スカッと」する未来を描き続けるのです。
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