覚えのない罪で婚約破棄、なぜか隣国の王太子に気に入られた

ちゅんりー

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ノイシュタット帝国の昼下がり。私は、ラインハルト様と一緒に、お庭のガゼボで午後のティータイムを過ごしていました。


「マリーナ、今日は一段と顔色が艶やかだ。やはり休息は大切だね」


「ええ。仕事が溜まっていないという状況が、これほどまでに美容に良いとは思いませんでしたわ」


そんな風に微笑み合っている私たちの元へ、ルークがまたしても「汚いもの」を摘まむような仕草で一通の封書を持ってきました。


「……マリーナ様。ベルセルク王国のエドワード殿下より、また手紙です。今回は、正規の外交ルートではなく、民間の特急便を使ってまで届けてきました」


「あら。よほどお急ぎのようですわね。……今度は何を仰っているのかしら」


私は、ラインハルト様と一緒にその手紙を覗き込みました。


そこには、震える文字で、相変わらずの「俺様」な文章が綴られていました。


『マリーナへ。
お前のいない執務室は、多少の不便はあるが、概ね順調だ。
だが、リリアンが君の嫌がらせ(九九の勉強)のせいで体調を崩し、寝込んでしまった。
非常に可哀想だとは思わないか?
そこで、私は寛大にもお前にチャンスを与えることにした。
今すぐ戻ってきて、リリアンの看病をし、滞っている書類の整理をしろ。
そうすれば、お前のこれまでの不敬をすべて許し、再び私の婚約者(予備)の座に戻してやってもいい。
感謝して、三日以内に返事をしろ』


「…………」


読み終えた瞬間、ガゼボに氷点下の沈黙が流れました。


ラインハルト様が、静かに額に手を当てました。


「……マリーナ。世界には、これほどまでに救いようのない絶望的な知性が存在するのだな」


「私も驚きましたわ。……これ、もはや手紙ではなく『怪文書』の類ですわね」


私は、ルークに「赤ペン」を持ってくるように命じました。


「マリーナ? 返事を書くのかい?」


「いいえ。……あまりに文章が稚拙で、論理破綻(ロジカルエラー)が多すぎますもの。……元・教育係として、正しく添削して差し上げなければなりませんわ」


私は、エドワード様の書いた手紙の上に、容赦なく赤ペンを走らせました。


まず、『多少の不便はあるが、概ね順調だ』という部分にバツをつけます。


「不便どころか、国家破綻寸前であることを隠蔽しようとする虚飾が見られますわ。……はい、ここは『実態は火の車である』と書き直しです」


次に、『リリアンが君の嫌がらせのせいで体調を崩した』という一文。


「嫌がらせではありません。義務教育です。……『自身の無能を棚に上げ、他者に責任を転嫁する精神的未熟さが露呈している』と注釈を入れましょう」


ラインハルト様も、面白そうに横からペンを差し出しました。


「マリーナ、ここもひどいぞ。『許してやる』だと? 許しを乞うべきは、国家を私物化し、有能な人材を不当に放逐した彼の方だろう」


「流石ラインハルト様。では、そこに『主客転倒。現状把握能力の欠如。まずは鏡を見ることを推奨する』と書き足しておきますわね」


最後に、『婚約者(予備)に戻してやる』という部分。


私は、その一文を力強く二重線で消しました。


「……『既に帝国王太子妃としての契約が内定しており、お前の提示する条件は市場価値の百分の一にも満たないゴミである』。……これで完璧ですわ」


真っ赤になった手紙の余白に、私は最後にデカデカと「採点:零点(再試験不可)」と書き込みました。


「ルーク。これを、特急便の『着払い』で送り返してください」


「畏まりました! ……あ、マリーナ様。王国の使者が、手紙の返事を待たずに帝国の国境で騒いでいるそうです。『マリーナはラインハルトに洗脳されているに違いない!』と」


私は、深い溜息をつきました。


「洗脳……? 失礼ね。私はただ、正当な報酬と、人間らしい生活という『正しい価値観』に目覚めただけですわ」


「ハハッ。……いい機会だ、マリーナ。その使者への返事の代わりに、君の『お父様』からの発表をぶつけてあげたらどうだい?」


「ええ。……準備は整いましたわ」


私は、ルークに別の書類を渡しました。


「本日をもって、アデレード公爵家はベルセルク王国からの『離脱』を正式に宣言いたします。……領地内の全資産、全住民、そして全機能を、ノイシュタット帝国へと移籍させる手続きを完了させなさい」


「……公爵領ごと、帝国へ!? マリーナ様、それはつまり……」


「ベルセルク王国の国土の約三割が、明日から『ノイシュタット帝国・アデレード州』に変わるということですわ」


私は、冷徹なまでの笑みを浮かべました。


「エドワード様には、その真っ赤に添削された手紙を読みながら、縮小していく自分の領土を眺めていただきましょう。……これぞ、最高の『スカッと』するお返しですわね」


ラインハルト様が、満足そうに私の腰を引き寄せました。


「……君を敵に回さなくて、本当に良かったよ、マリーナ」


「あら、ラインハルト様。私、味方にはとっても『ホワイト』ですのよ?」


私たちは、真っ赤な添削済みの手紙が運ばれていくのを見送りながら、新しい領土の予算編成案について、楽しく語り合うのでした。
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