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古代兵器マジン・ガーディアンが星になった夜。
国境の森には、奇妙な静寂と、むせ返るような土の匂いが漂っていた。
置き去りにされたアルカディア王国の兵士たちは、空を見上げたままポカンと口を開けていた。
「……殿下は?」
「飛んでいったな」
「キラッとしてたぞ」
指揮官不在。
しかも、その指揮官は「空の彼方」へ消えたのだ。
撤退すべきか、捜索すべきか。
混乱する軍の前に、一人の少女が仁王立ちした。
「全軍、注目しなさい!」
可愛らしくも、ドスの利いた声。
ミーナである。
彼女は泥だらけのドレスの裾を自ら引き裂き、動きやすい格好(ミニスカート状態)になっていた。
「ミ、ミーナ様!?」
アルカディア軍の将軍が慌てて駆け寄る。
「ご無事でしたか! クラーク殿下は一体どこへ……我々はどうすれば……」
「殿下のことは忘れなさい。あの人はもう、宇宙の塵(スペースデブリ)になったのよ」
「は、はい?」
「それより、あなたたちにはやることがあるでしょう!」
ミーナはビシッと指差した。
その指の先には、ダンキアによって更地にされた森と、ひっくり返された大地が広がっている。
「原状回復よ! 来た時よりも美しく! 植林活動の開始です!」
「しょ、植林!? 我々は軍隊ですよ!? そんな土木作業など……」
将軍が抗議しようとした時。
ズシン。
ミーナの背後に、鬼神のような影が立った。
ダンキアである。
彼女は手に、引っこ抜いた大木(直径一メートル)をバットのように持っていた。
「何か不満でも?」
ダンキアがニッコリと微笑む。
「い、いいえぇぇぇ!!」
将軍は悲鳴を上げた。
「やります! やらせてください! 我々はガーデニングが趣味なんです!」
「よろしい。では、朝までにこの一帯を緑豊かな森に戻しておきなさい。一本でも植え忘れがあったら……」
ダンキアは大木を片手でへし折った。
バキィッ!
「あなたたちが肥料になります」
「ヒィィィッ! 総員、スコップを持てぇぇ! 剣を鍬(くわ)に持ち替えろぉぉぉ!」
こうして、アルカディア王国自慢の精鋭部隊は、一夜にして『森林再生ボランティア団体』へと変貌を遂げた。
***
その様子を、ルーファスは少し離れた場所から眺めていた。
「……たくましいね、女性陣は」
「ええ。頼もしい限りです」
隣に立つシルヴィアが、腕組みをして頷く。
「ですが、あの新入り……ミーナと言いましたか。本当に信用できるのですか?」
シルヴィアの目は鋭い。
彼女は武人だ。
昨日まで敵だった女が、いきなり寝返ったことを怪しんでいた。
「あのような軟弱な娘に、姉御の厳しい修行が耐えられるとは思えません。スパイかもしれませんわ」
「スパイにしては、元の上司(クラーク)を罵倒しすぎだと思うけど……」
ルーファスは苦笑した。
そこへ、ダンキアとミーナが戻ってきた。
「ルーファス様、現場監督は彼らに任せて、私たちは城に戻りましょう。ミーナの入団手続きもしなければなりませんし」
「入団って……騎士団に?」
「いいえ、『ダンキア・マッスル・クラブ(仮)』への入会です」
ダンキアはミーナの背中をバンと叩いた。
「彼女、見込みがありますよ。先ほど、逃げようとした兵士の足を引っ掛けて転ばせた時の動き……体幹がしっかりしていました」
「い、痛っ……ありがとうございます、お姉様!」
ミーナはよろけながらも、目を輝かせてお礼を言った。
シルヴィアが前に出た。
「待ちたまえ」
彼女はミーナを睨みつけた。
「私は認めんぞ。貴様のような、フリフリのドレスを着て男に媚びていた女が、我らが崇高な筋肉の道に入ろうなどと!」
「……なによ」
ミーナも負けじと睨み返す。
「人は変われるのよ。私はもう、守られるだけの女じゃないわ」
「口だけなら何とでも言える。覚悟があるなら、それを行動で示してみせろ!」
シルヴィアは自身の背中に背負っていた巨大な戦斧を下ろし、地面に突き立てた。
ズドン!
「この斧を持ち上げられたら、認めてやる」
それは、重量二百キロはある鋼鉄の塊だ。
普通の成人男性でも持ち上がらない。
「無理だよ、シルヴィア。彼女は一般人だ」
ルーファスが止めようとする。
だが、ミーナは一歩前に出た。
「やってやるわよ」
彼女は斧の柄を握った。
細い腕。
折れそうな指。
「ふんっ……! ぬぬぬ……!」
顔を真っ赤にして力を込める。
しかし、斧はピクリとも動かない。
当然だ。物理的に無理がある。
「くっ……うぅ……!」
ミーナの爪が割れ、血が滲む。
それでも彼女は手を離さない。
「動け……動けぇぇぇ!」
その目には、涙と共に強烈な執念が宿っていた。
かつての自分への決別。
クラークに見捨てられ、ただ泣いていた自分への怒り。
(変わりたい……変わりたいのよ!)
「はあああああっ!」
気合一閃。
ガリッ。
斧が、わずかに……一ミリほど、地面を擦った。
「……!」
シルヴィアが目を見開く。
持ち上がってはいない。
だが、確かに動いた。
「はぁ、はぁ……ど、どうよ……!」
ミーナはその場にへたり込んだ。
手は震え、呼吸は乱れている。
シルヴィアはしばらく沈黙し、ふいと顔を背けた。
「……フォームがなっていない」
「え?」
「腰が高い。脇が甘い。それでは腰を痛めるだけだ」
シルヴィアはミーナに手を差し出した。
「立て。基礎から叩き直してやる」
「……!」
ミーナはその手を取った。
「あ、ありがとうございます……先輩!」
「ふん、先輩と呼ぶな。シルヴィア様と呼べ」
「はい、シルヴィア様!」
不器用な友情(師弟関係?)が成立した瞬間だった。
ダンキアはそれを見て、うんうんと頷いた。
「良い光景ですね。青春です」
「君が言うと、なんだかお母さんみたいだよ」
ルーファスがツッコむ。
「さあ、人数も増えましたし、城に戻って歓迎会(プロテインパーティー)を開きましょう!」
「またプロテインか……」
一行は城への帰路についた。
後ろには、涙目で植林作業に励むアルカディア軍を残して。
***
翌日。
オルティス王国の王城、中庭。
そこは完全に『野外ジム』と化していた。
「イチ! ニ! サン! シ!」
掛け声が響く。
先頭でスクワットをするのはダンキア。
その横で、必死に食らいつくシルヴィア。
そして最後尾で、生まれたての小鹿のようにプルプル震えながらスクワットをするミーナの姿があった。
「ミーナ! 膝がつま先より前に出ていますよ!」
「は、はいぃぃ! もう足の感覚がありませぇぇん!」
「限界だと思ってからが本番です! 筋肉との対話を楽しむのです!」
「筋肉が『もう無理』って叫んでますぅぅぅ!」
「それは『もっといける』という歓喜の声です! ポジティブに変換しなさい!」
「鬼ぃぃぃ! 悪魔ぁぁぁ! お姉様ぁぁぁ!」
ミーナの悲鳴が城にこだまする。
テラスでその様子を見ていたルーファスは、優雅に紅茶を啜った。
「……平和だ」
「平和でしょうか、殿下?」
執事が困惑気味に尋ねる。
「元・敵国の令嬢と、隣国の王女が、殿下の婚約者の下で軍隊式トレーニングをしています。外交的に見て、非常にカオスな状況ですが」
「いいんだよ。彼女たちが笑っているなら(ミーナは泣いているが)」
ルーファスは微笑んだ。
アルカディア王国軍は、植林作業を終えた後、正式に捕虜として受け入れた。
彼らは「もう帰りたくない」「ここで農作業をしたい」と嘆願し、今では王国の開拓事業に従事している。
クラークの失脚により、アルカディア本国からは「一切の敵対行動を停止する」との書状も届いた。
実質的な勝利だ。
「あとは……あの男が戻ってこなければ、大団円なんだがね」
ルーファスは空を見上げた。
雲一つない青空。
そこに、クラーク王子の姿はない。
「まあ、大気圏で燃え尽きていることを祈ろうか」
だが、運命の神様はイタズラ好きだ。
クラーク王子は生きていた。
それどころか、とんでもない場所に着地し、最後の悪あがきを画策していたのである。
***
遥か彼方の空。
というより、成層圏に近い高高度。
マジン・ガーディアン(頭部のみ)にしがみついたクラークは、極寒と酸素欠乏の中で震えていた。
「さ、さむい……しぬ……」
眼下には雲海が広がっている。
ダンキアに投げ飛ばされて数時間。
彼は奇跡的に、ある『浮遊大陸』に不時着しようとしていた。
ドガァァァン!!
激しい衝撃と共に、巨人の頭部が地面にめり込む。
「ぐふっ……!」
クラークは投げ出された。
そこは、雲の上に浮かぶ伝説の島『天空の神殿』だった。
「こ、ここは……?」
クラークが顔を上げると、目の前に白い髭を蓄えた老人が立っていた。
背中には天使のような翼が生えている。
「おや、珍しい。下界の人間か?」
「き、貴様は……?」
「わしは空の神。……お主、面白い顔をしておるな。その捻じ曲がった執念、気に入った」
神(?)がニヤリと笑う。
「どうじゃ? 復讐したいか? あの筋肉女に」
「ふ、復讐……!」
クラークの目に光が戻る。
「したい! したいぞ! あいつに一泡吹かせてやりたい!」
「ならば授けよう。神の力を」
老人が手をかざすと、クラークの全身が黄金色に輝き始めた。
「さあ、蘇れ。そして、最高の結婚式(披露宴)をぶち壊してくるがよい!」
「はーっはッは! 力が! 力がみなぎってくるぞぉぉぉ!」
クラークが高笑いする。
「待っていろダンキア! 私は帰るぞ! 今度こそ、お前をひれ伏させてやる!」
懲りない男、クラーク。
彼が再び地上に舞い降りるのは、ダンキアとルーファスの結婚式当日。
それは、物語のクライマックスに相応しい、ハチャメチャな一日の幕開けとなるのだった。
国境の森には、奇妙な静寂と、むせ返るような土の匂いが漂っていた。
置き去りにされたアルカディア王国の兵士たちは、空を見上げたままポカンと口を開けていた。
「……殿下は?」
「飛んでいったな」
「キラッとしてたぞ」
指揮官不在。
しかも、その指揮官は「空の彼方」へ消えたのだ。
撤退すべきか、捜索すべきか。
混乱する軍の前に、一人の少女が仁王立ちした。
「全軍、注目しなさい!」
可愛らしくも、ドスの利いた声。
ミーナである。
彼女は泥だらけのドレスの裾を自ら引き裂き、動きやすい格好(ミニスカート状態)になっていた。
「ミ、ミーナ様!?」
アルカディア軍の将軍が慌てて駆け寄る。
「ご無事でしたか! クラーク殿下は一体どこへ……我々はどうすれば……」
「殿下のことは忘れなさい。あの人はもう、宇宙の塵(スペースデブリ)になったのよ」
「は、はい?」
「それより、あなたたちにはやることがあるでしょう!」
ミーナはビシッと指差した。
その指の先には、ダンキアによって更地にされた森と、ひっくり返された大地が広がっている。
「原状回復よ! 来た時よりも美しく! 植林活動の開始です!」
「しょ、植林!? 我々は軍隊ですよ!? そんな土木作業など……」
将軍が抗議しようとした時。
ズシン。
ミーナの背後に、鬼神のような影が立った。
ダンキアである。
彼女は手に、引っこ抜いた大木(直径一メートル)をバットのように持っていた。
「何か不満でも?」
ダンキアがニッコリと微笑む。
「い、いいえぇぇぇ!!」
将軍は悲鳴を上げた。
「やります! やらせてください! 我々はガーデニングが趣味なんです!」
「よろしい。では、朝までにこの一帯を緑豊かな森に戻しておきなさい。一本でも植え忘れがあったら……」
ダンキアは大木を片手でへし折った。
バキィッ!
「あなたたちが肥料になります」
「ヒィィィッ! 総員、スコップを持てぇぇ! 剣を鍬(くわ)に持ち替えろぉぉぉ!」
こうして、アルカディア王国自慢の精鋭部隊は、一夜にして『森林再生ボランティア団体』へと変貌を遂げた。
***
その様子を、ルーファスは少し離れた場所から眺めていた。
「……たくましいね、女性陣は」
「ええ。頼もしい限りです」
隣に立つシルヴィアが、腕組みをして頷く。
「ですが、あの新入り……ミーナと言いましたか。本当に信用できるのですか?」
シルヴィアの目は鋭い。
彼女は武人だ。
昨日まで敵だった女が、いきなり寝返ったことを怪しんでいた。
「あのような軟弱な娘に、姉御の厳しい修行が耐えられるとは思えません。スパイかもしれませんわ」
「スパイにしては、元の上司(クラーク)を罵倒しすぎだと思うけど……」
ルーファスは苦笑した。
そこへ、ダンキアとミーナが戻ってきた。
「ルーファス様、現場監督は彼らに任せて、私たちは城に戻りましょう。ミーナの入団手続きもしなければなりませんし」
「入団って……騎士団に?」
「いいえ、『ダンキア・マッスル・クラブ(仮)』への入会です」
ダンキアはミーナの背中をバンと叩いた。
「彼女、見込みがありますよ。先ほど、逃げようとした兵士の足を引っ掛けて転ばせた時の動き……体幹がしっかりしていました」
「い、痛っ……ありがとうございます、お姉様!」
ミーナはよろけながらも、目を輝かせてお礼を言った。
シルヴィアが前に出た。
「待ちたまえ」
彼女はミーナを睨みつけた。
「私は認めんぞ。貴様のような、フリフリのドレスを着て男に媚びていた女が、我らが崇高な筋肉の道に入ろうなどと!」
「……なによ」
ミーナも負けじと睨み返す。
「人は変われるのよ。私はもう、守られるだけの女じゃないわ」
「口だけなら何とでも言える。覚悟があるなら、それを行動で示してみせろ!」
シルヴィアは自身の背中に背負っていた巨大な戦斧を下ろし、地面に突き立てた。
ズドン!
「この斧を持ち上げられたら、認めてやる」
それは、重量二百キロはある鋼鉄の塊だ。
普通の成人男性でも持ち上がらない。
「無理だよ、シルヴィア。彼女は一般人だ」
ルーファスが止めようとする。
だが、ミーナは一歩前に出た。
「やってやるわよ」
彼女は斧の柄を握った。
細い腕。
折れそうな指。
「ふんっ……! ぬぬぬ……!」
顔を真っ赤にして力を込める。
しかし、斧はピクリとも動かない。
当然だ。物理的に無理がある。
「くっ……うぅ……!」
ミーナの爪が割れ、血が滲む。
それでも彼女は手を離さない。
「動け……動けぇぇぇ!」
その目には、涙と共に強烈な執念が宿っていた。
かつての自分への決別。
クラークに見捨てられ、ただ泣いていた自分への怒り。
(変わりたい……変わりたいのよ!)
「はあああああっ!」
気合一閃。
ガリッ。
斧が、わずかに……一ミリほど、地面を擦った。
「……!」
シルヴィアが目を見開く。
持ち上がってはいない。
だが、確かに動いた。
「はぁ、はぁ……ど、どうよ……!」
ミーナはその場にへたり込んだ。
手は震え、呼吸は乱れている。
シルヴィアはしばらく沈黙し、ふいと顔を背けた。
「……フォームがなっていない」
「え?」
「腰が高い。脇が甘い。それでは腰を痛めるだけだ」
シルヴィアはミーナに手を差し出した。
「立て。基礎から叩き直してやる」
「……!」
ミーナはその手を取った。
「あ、ありがとうございます……先輩!」
「ふん、先輩と呼ぶな。シルヴィア様と呼べ」
「はい、シルヴィア様!」
不器用な友情(師弟関係?)が成立した瞬間だった。
ダンキアはそれを見て、うんうんと頷いた。
「良い光景ですね。青春です」
「君が言うと、なんだかお母さんみたいだよ」
ルーファスがツッコむ。
「さあ、人数も増えましたし、城に戻って歓迎会(プロテインパーティー)を開きましょう!」
「またプロテインか……」
一行は城への帰路についた。
後ろには、涙目で植林作業に励むアルカディア軍を残して。
***
翌日。
オルティス王国の王城、中庭。
そこは完全に『野外ジム』と化していた。
「イチ! ニ! サン! シ!」
掛け声が響く。
先頭でスクワットをするのはダンキア。
その横で、必死に食らいつくシルヴィア。
そして最後尾で、生まれたての小鹿のようにプルプル震えながらスクワットをするミーナの姿があった。
「ミーナ! 膝がつま先より前に出ていますよ!」
「は、はいぃぃ! もう足の感覚がありませぇぇん!」
「限界だと思ってからが本番です! 筋肉との対話を楽しむのです!」
「筋肉が『もう無理』って叫んでますぅぅぅ!」
「それは『もっといける』という歓喜の声です! ポジティブに変換しなさい!」
「鬼ぃぃぃ! 悪魔ぁぁぁ! お姉様ぁぁぁ!」
ミーナの悲鳴が城にこだまする。
テラスでその様子を見ていたルーファスは、優雅に紅茶を啜った。
「……平和だ」
「平和でしょうか、殿下?」
執事が困惑気味に尋ねる。
「元・敵国の令嬢と、隣国の王女が、殿下の婚約者の下で軍隊式トレーニングをしています。外交的に見て、非常にカオスな状況ですが」
「いいんだよ。彼女たちが笑っているなら(ミーナは泣いているが)」
ルーファスは微笑んだ。
アルカディア王国軍は、植林作業を終えた後、正式に捕虜として受け入れた。
彼らは「もう帰りたくない」「ここで農作業をしたい」と嘆願し、今では王国の開拓事業に従事している。
クラークの失脚により、アルカディア本国からは「一切の敵対行動を停止する」との書状も届いた。
実質的な勝利だ。
「あとは……あの男が戻ってこなければ、大団円なんだがね」
ルーファスは空を見上げた。
雲一つない青空。
そこに、クラーク王子の姿はない。
「まあ、大気圏で燃え尽きていることを祈ろうか」
だが、運命の神様はイタズラ好きだ。
クラーク王子は生きていた。
それどころか、とんでもない場所に着地し、最後の悪あがきを画策していたのである。
***
遥か彼方の空。
というより、成層圏に近い高高度。
マジン・ガーディアン(頭部のみ)にしがみついたクラークは、極寒と酸素欠乏の中で震えていた。
「さ、さむい……しぬ……」
眼下には雲海が広がっている。
ダンキアに投げ飛ばされて数時間。
彼は奇跡的に、ある『浮遊大陸』に不時着しようとしていた。
ドガァァァン!!
激しい衝撃と共に、巨人の頭部が地面にめり込む。
「ぐふっ……!」
クラークは投げ出された。
そこは、雲の上に浮かぶ伝説の島『天空の神殿』だった。
「こ、ここは……?」
クラークが顔を上げると、目の前に白い髭を蓄えた老人が立っていた。
背中には天使のような翼が生えている。
「おや、珍しい。下界の人間か?」
「き、貴様は……?」
「わしは空の神。……お主、面白い顔をしておるな。その捻じ曲がった執念、気に入った」
神(?)がニヤリと笑う。
「どうじゃ? 復讐したいか? あの筋肉女に」
「ふ、復讐……!」
クラークの目に光が戻る。
「したい! したいぞ! あいつに一泡吹かせてやりたい!」
「ならば授けよう。神の力を」
老人が手をかざすと、クラークの全身が黄金色に輝き始めた。
「さあ、蘇れ。そして、最高の結婚式(披露宴)をぶち壊してくるがよい!」
「はーっはッは! 力が! 力がみなぎってくるぞぉぉぉ!」
クラークが高笑いする。
「待っていろダンキア! 私は帰るぞ! 今度こそ、お前をひれ伏させてやる!」
懲りない男、クラーク。
彼が再び地上に舞い降りるのは、ダンキアとルーファスの結婚式当日。
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