悪役令嬢ダンキア、婚約破棄に「御意」と即答する。

ちゅんりー

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オルティス王国の王都にある大聖堂。

ステンドグラスから七色の光が降り注ぐ中、世紀の結婚式が執り行われていた。

参列者は豪華な顔ぶれだ。

最前列には、涙を流してハンカチを噛むオルティス国王。

「うぅ……ルーファスが……あの猛獣使いになるとは……」

その隣には、バルト公爵夫妻(ダンキアの両親)。

「あの子が……まさか本当に嫁に行くとは……実家を破壊して出ていった時はどうなることかと……」

さらに、シルヴィア王女とミーナが、お揃いのドレス(筋肉を強調するデザイン)を着て並んでいる。

「姉御、綺麗です! 上腕二頭筋のカットが素晴らしい!」

「お姉様、最高です! 私もいつかあの背中を追いかけます!」

そして、リングボーイを務めるのは、蝶ネクタイをつけたケルベロスのポチだ。

『ワン!(指輪落としたら殺されるから慎重に運ぶワン!)』

厳かなパイプオルガンの音色が響く。

祭壇の前で待つルーファスのもとへ、ダンキアがゆっくりと歩み寄る。

彼女が身に纏うのは、マダム・ガランテ渾身の作『戦乙女のウェディングドレス』。

ミスリル糸を織り込んだシルクは、歩くたびに流れるようなドレープを描く。

スカートには深いスリットが入っており、チラリと覗く脚は健康的かつ強靭だ。

一見すると優雅なドレスだが、その強度はドラゴンブレスすら弾く性能を秘めている。

「ダンキア……」

ルーファスが手を差し出す。

「綺麗だよ。女神のようだ」

「ありがとうございます、ルーファス様。通気性も抜群で、いつでもスクワットができそうです」

ダンキアはルーファスの手を取り、祭壇へ上がった。

神父が咳払いをする。

「えー、では。汝、ルーファス・ド・オルティスは、この者を妻とし、健やかなる時も、病める時も、妻が城を破壊した時も、これを愛し、修繕費を払うことを誓いますか?」

「誓います」

ルーファスは即答した。

「汝、ダンキア・フォン・バルトは、この者を夫とし、富める時も、貧しき時も、筋肉痛の時も、これを愛し、握りつぶさないことを誓いますか?」

「誓います。力加減には最新の注意を払います」

会場から温かい(苦笑混じりの)拍手が起きた。

「では、誓いのキスを……」

二人が顔を近づける。

その時だった。

ズゴォォォォォォォォォン!!

大聖堂の天井が、轟音と共に崩落した。

「きゃあぁぁぁぁ!」

「敵襲か!?」

参列者が悲鳴を上げ、瓦礫が降り注ぐ。

土煙の中から現れたのは、黄金色の光を放つ人影だった。

「待ったァァァァァァ!!」

金色のオーラを纏い、背中には光の翼(魔力製)。

そして顔は、以前よりもさらに暑苦しく歪んでいる。

クラーク・ド・アルカディアだ。

彼は空の神から授かった力で、スーパーサイヤ人のように発光していた。

「その結婚、異議ありィィィ!」

クラークが祭壇に降り立つ。

床石が砕け、衝撃波が走る。

「くっ……!」

ルーファスがダンキアを庇おうとするが、ダンキアは一歩前に出た。

彼女は、天井に開いた大穴を見上げ、そしてクラークを睨みつけた。

「……あなた」

「ふふふ、思い出したかダンキア! 私だ、生まれ変わったクラークだ!」

「修理費、高いですよ?」

「そこ!?」

クラークがズッコケそうになる。

「金の心配をしている場合か! 私は神の力を手に入れたのだ! 今こそお前を奪い返し、私の国へ連れ帰ってやる!」

クラークは手を広げた。

「さあ来い、ダンキア! この圧倒的な『ゴールド・クラーク』の腕の中に!」

「嫌です」

ダンキアは即答した。

「ま、眩しいです。成金趣味の仏像みたいで、目がチカチカします」

「ぶ、仏像だと……!?」

「それに、神聖な式を邪魔するなんてマナー違反です。退場してください」

「黙れ黙れぇ! 力ずくでも連れて行くぞ!」

クラークが襲いかかった。

神の力により、そのスピードは以前とは比べ物にならない。

「『ゴッド・ハンド・キャッチ』!」

クラークの手が、ダンキアの腰を掴もうと迫る。

しかし。

シュッ。

ダンキアの姿が消えた。

「なっ!?」

次の瞬間、クラークの目の前にあったのは、純白のシルクに包まれたダンキアの足裏だった。

「ドレスの性能テストです。ハイキック!」

ドガァッ!!

「ぐえっ!?」

ダンキアの蹴りが、クラークの顎を捉えた。

マダム・ガランテ特製のドレスは、彼女の可動域を一切邪魔せず、むしろミスリル繊維がバネとなって威力を増幅させていた。

クラークは宙を舞い、壁に激突した。

「ば、馬鹿な……神の力を得た私が、蹴り一発で……!?」

「神の力? 基礎体力がなっていないのに、ドーピングに頼るから軸がブレるのです」

ダンキアはドレスの裾を直し、冷ややかに言った。

「ルーファス様、式の続きをしましょう。こんな金色の虫は放っておいて」

「おのれぇぇぇ! 無視するなぁぁぁ!」

クラークが壁から這い出し、再び突進してきた。

「こうなれば、会場ごと吹き飛ばしてやる! 『ゴールデン・エクスプロージョン』!」

彼の手のひらに、膨大なエネルギーが収束していく。

会場がパニックになる。

「まずい! あれは広範囲殲滅魔法だ!」

ルーファスが剣を抜こうとする。

だが、ダンキアが早かった。

「しつこいですね。……そうだ」

彼女は祭壇に置かれていたブーケを手に取った。

それは、ただの花束ではない。

ダンキアの強すぎる投擲力に耐えるため、茎の部分に鉄芯を入れ、花びらは特殊加工された『鉄薔薇(アイアン・ローズ)』のブーケだ。

総重量、三十キロ。

「幸せのお裾分けです!」

ダンキアは大きく振りかぶった。

背中の広背筋がドレス越しに盛り上がり、ミスリル繊維が悲鳴を上げる。

「受け取りなさい! 『ハッピー・ウェディング・ストライク』!!」

ビュンッ!!

ブーケが放たれた。

その速度はマッハを超えた。

衝撃波(ソニックブーム)が発生し、祭壇のロウソクが一瞬で消える。

「え?」

魔法を放とうとしていたクラークの顔面に、鉄の塊と化した花束が迫る。

ドゴォォォォォォォォン!!

「あべしぃぃぃぃぃ!!」

ブーケはクラークの顔面に直撃し、そのまま彼を後方へと弾き飛ばした。

クラークの体は砲弾のように飛び、大聖堂の入り口の扉を突き破り、さらにその向こうの広場の噴水を破壊し、空の彼方へと消えていった。

キラーン。

二度目の星になった元婚約者。

シーン……。

静まり返る大聖堂。

壁には、ブーケが深々と突き刺さっていた。

「あら、少し強すぎましたか」

ダンキアは肩を回した。

「ブーケトス、誰も受け取れませんでしたね。残念です」

「いや……あれを受け取ったら死ぬから……」

ルーファスが呟く。

シルヴィアとミーナが立ち上がり、拍手喝采を送った。

「ナイスピッチングです、姉御!」

「すごいですお姉様! あのフォーム、目に焼き付けました!」

参列者たちも、恐る恐る拍手を始めた。

パチ……パチパチ……ワァァァァ!

「す、すごい! 魔人を一撃で!」

「これぞ最強の王妃だ!」

「我が国は安泰だ!」

歓声に包まれる中、ダンキアはルーファスに向き直った。

「お待たせしました、ルーファス様。邪魔者は消えました」

「……ありがとう、ダンキア。君のおかげで、記憶に残る式になったよ」

「では、続きを」

二人は再び顔を近づけた。

崩れた天井から差し込む陽光が、スポットライトのように二人を照らす。

そして、誓いのキス。

美しい、絵画のような光景だった。

……ただし、壁に鉄のブーケが突き刺さり、入り口の扉が粉砕されていることを除けば。

「愛しているよ、僕の最強の奥さん」

「私もです、私の最愛のトレーナーさん」

こうして、二人は晴れて夫婦となった。

だが、物語はまだ終わらない。

結婚式といえば初夜。

そして、ダンキアの力加減が最も試される最大の難関が、今夜待ち受けているのである。
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