断罪された悪役令嬢、「地獄へ落ちろ」と言われました。

ちゅんりー

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馬車が到着したのは、切り立った崖の上にそびえ立つ、黒い石造りの城だった。


「……お嬢様。これ、本当にお城ですか? 巨大な墓石の間違いではなくて?」


アンナが震えながら、重厚な城門を見上げる。


確かに、王都の煌びやかな宮殿とは正反対の、実用性と威圧感の塊のような建物だ。


「いいじゃない、アンナ。黒い石は熱を吸収しやすいから、冬は意外と暖かいかもしれないわよ。それに……この冷え込み、地下室は最高の熟成庫になっているに違いないわ!」


私はワクワクしながら馬車を降り、出迎えに現れた一団の前に立った。


そこに並んでいたのは、執事や侍女……ではなく、全身を黒い鎧で固めた、熊のような大男たちだった。


「……貴様が、王都から追放されてきたという、ド・ラ・パン公爵家の令嬢か」


列が割れ、奥から一人の男がゆっくりと歩み寄ってきた。


その瞬間、周囲の空気が凍りついたような錯覚に陥る。


漆黒の毛皮を肩にかけ、鋭いナイフのような眼光を放つ男。


頬には薄い傷跡があり、その圧倒的な存在感はまさに「死神」の名に相応しい。


(……うわぁ。すごい)


私は思わず、じっと彼を見つめた。


(なんて……なんて素晴らしい「食材ハンター」のような体格かしら!)


「俺がこの領地を治める、ヴォルグ・ザッハ・トルテだ」


ヴォルグ辺境伯は、地を這うような低い声で名乗った。


「……。怯えて声も出んか。無理もない、王都の温室育ちには、この地も、俺という男も、毒が強すぎるだろう」


彼はフンと鼻を鳴らし、私を見下ろした。


その目は「さっさと泣き言を言って帰れ」と語っている。


アンナは私の背中に隠れて、歯をガチガチと鳴らしている。


だが、私は彼の一歩前へと踏み出した。


「……ヴォルグ様」


「なんだ。命乞いなら聞かんぞ」


私は、彼の大きな手を両手で握りしめた。


「ヴォルグ様! あなた、その体格……さては、毎日いいお肉を食べていらっしゃいますね!?」


「…………は?」


ヴォルグの顔が、見たこともないような困惑に染まる。


「見てください、この分厚い胸板! そして鋼のような腕の筋肉! これは相当、質の高いタンパク質と運動量がなければ完成しませんわ。素晴らしい……! 北の地の豊かさが、あなたの体そのものに現れています!」


「き、貴様……何を言って……」


「あと、その眼光! 獲物を一瞬で仕留める、一流の猟師の目ですわ! これから私と一緒に、美味しい魔物を狩りに行ってくださるんでしょう? そうですよね!?」


私は目を輝かせ、ぐいぐいと顔を近づけた。


ヴォルグは驚愕のあまり、たじたじと数歩後ろに下がった。


「おい……こいつ、本当にあの『傲慢な悪役令嬢』なのか? 頭のネジが数本、極寒で破断したのではないか?」


ヴォルグが側に控える騎士に尋ねるが、騎士たちも困惑して首を振るばかりだ。


「ヴォルグ様、立ち話も何ですから、早く中へ案内してくださいな。私、お腹が空いて死にそうなんです! まずはキッチンを見せていただけますか? それとも、先に地下の貯蔵庫を確認したほうがよろしいかしら?」


「……待て。貴様、俺が怖くないのか? 王都では子供が泣き出すと言われているのだが」


ヴォルグが、威嚇するように目を細めて私を睨む。


「怖い? まさか! 私、自分と似たような『鋭い目つき』の人には親近感が湧くんです。それに、こんなに強そうな方が味方にいれば、美味しい獲物を逃さずに済みますもの!」


私は満面の笑みで、彼の強面を真正面から肯定した。


ヴォルグは呆気に取られたように数秒間固まっていたが、やがて、わずかに耳の裏を赤くして視線を逸らした。


「……勝手にしろ。ただし、この城に贅沢なもてなしはないと思え。出されるものは、硬い干し肉と黒パンだけだ」


「あら、素材が良ければ、調理次第でどうにでもなりますわ。お任せください、ヴォルグ様。明日の朝食には、あなたを驚かせて差し上げますから!」


私は意気揚々と城の玄関をくぐった。


背後で、ヴォルグが「……なんだ、あの女は」と小さく呟くのが聞こえた。


ふふん。死神だろうと何だろうと、お腹が空くのは人間共通。


私の「美食開拓」の最初のターゲットは、この強面の辺境伯様に決まりね!


「アンナ! 行くわよ! まずはキッチンの衛生状態のチェックからだわ!」


「は、はい……! お嬢様、もうどこへでも勝手に行ってください……」


暗く冷たいはずの城内に、私の軽やかな足音が響き渡った。
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